見出し画像

それって、『10ホールズハーモニカ』のことなんじゃないの?

 長いこと、『10ホールズハーモニカ』を吹いて来た。この楽器は、かなり不思議な『存在』だ。『不思議な楽器』、そう書けないのは10ホールズが、楽器という定義に収まりきらない特性を、山ほど持っているからだ。私がWEB放送しているhamonicafeという番組も、「よく楽器の話だけであそこまで引っ張れるよね〜」と感心されるが、それは10ホールズが楽器の範囲を超えた存在ゆえなのだ。

 突然だが、先日『スターウォーズ』を観てきた。
エピソード8にあたる『最後のジェダイ』という作品だ。
ネタバレにならないよう、あらすじをかなり大雑把に話せば、
『宇宙でいろいろあって、みんなが迷惑した話』、そんなところだ。

 私はこのスターウォーズを観ていて、いつも感じることがある。
これって、『10ホールズハーモニカの話』なんじゃないの?と。

 もっと細かく言えば、ライトセイバーという光る剣が10ホールズハーモニカで、
ジェダイの騎士が10ホールズのハーピスト(ハーモニカ奏者のこと)なんじゃないの、ということだ。発表こそされてはいないが、ジョージ・ルーカスは隠れハーピストで、内なる想いを、スターウォーズという作品に込めたのではないだろうかとすら、思えてしまうのだ。

 エピソード6にあたる『ジェダイの復讐』ではハンソロの借金相手ジャパザハットのお抱えバンドマンのひとりが、異世界フォルムの楽器を演奏しているが、その音色は紛れもなく10ホールズのアンプリファイドハーモニカサウンドである。
彼の、遠く離れた宇宙のかなたですら、10ホールズのサウンドは受け入れられるはずという熱い想いが伝わってくるワンシーンだ。当時、最終回とされていた第3作目でこのアイデアを用いたことから考えるに、ジョージ・ルーカスが、本作品を最後にメガホンを置き、ハーピストとしての活動を始めようとしていたのかもしれない。

 話を元に戻そう。なぜ10ホールズハーピストがジェダイなのか?、いや、そもそも、なぜ10ホールズがライトセイバーなのか?10ホールズは光りもしない、切れもしない、第一武器でもないし、小さい上に値段も安い。

 ひとことで言えば、スターウォーズはジョージ・ルーカスによるメタファー、つまり例え話なのだ。スターウォーズという宇宙戦争の物語は、実は音楽業界のそれを、あきらかに揶揄していたのである。

 良き考え、悪しき考え、いつの時代にも生まれる対立の構図であるが、そこには必ず、剣のようなシンプルな武器が登場する。やがて時代は進み、戦いは熾烈を極め、破壊力のある武器が次々に登場し、剣などではどうにも出来ない巨大なうねりへと発展していく。しかし、必ずといってよいほど、最後の決着は、剣に戻っていくのである。

 これはスターウォーズも全く同じで、惑星間の大規模な戦争、銀河系全体にまで飛び火していく戦乱、惑星自体を破壊する巨大兵器まで登場しながら、やはり必ず最後は、ライトセイバーという剣の決闘が勝敗を決めることになるのだ。その物語の要を、10ホールズに託したのではないだろうか。

 かつて、偉大なジェダイ・マスターがいた。『サニーボーイ・ウィリアムソン』である。彼は、当時、そのシンプルな武器10ホールズで、人々に希望の光をもたらした。時に『ジェイムス・コットン』を膝に乗せ、時に『ジュニア・ウェルズ』の楽器を踏みつけて、さまざまなジェダイを育てていった。そこに、機械化の波が押し寄せる。エレクトリックサウンドの台頭である。特にエレキギターの存在は衝撃的で、その真新しさと突き刺さるような刺激は、瞬く間に人々の心を掴み、かねてから心配されていた音量差までが後押しするように、10ホールズの本来のサウンドを、人々から遠ざけて行った。

 この頃、10ホールズを使うジェダイたちの中にも暗黒面が生まれ始めていく。
「このままだと、ハーモニカ、もういらなくならねぇ?もう楽器として古くねぇ?」という、深い心の闇である。そんな中、ロバート・ジョンソンが取引きをしたのとは別の悪魔のささやきに耳を貸してしまった若者たちが現れ始める。こともあろうに10ホールズに、禁断のエレクトリックエネルギーを注ぎ込んだのである。
これにより10ホールズは今まで持っていた力を増幅するにとどまらず、全く異なる力をも持ち始めてしまった。

 『リトル・ウォルター』もそのひとりであった。彼はどこからともなく手に入れたエレクトリックパワーにより、当時勢力を増していったエレキギターを跳ね退けた。それは単なる音量の増幅だけではなかった。彼自身の本来持っていたパンチの効いたジャンプビートも彼を登り詰めさせるのに一役買ったのである。彼に続けとばかりに、多くの若者たちがエレクトリックの洗礼を受け続けた。中には、10ホールズのサウンドを届けるための手段のひとつであるはずのアンプリファイドサウンド自体の魅力に取り憑かれ、マイクやアンプなどの防具ばかりをあさり続ける若者の姿もあり、それらを供給する武器商人達も台頭し始めていった。

 『ジェリー・ポートノイ』や『ポール・バターフィールド』のようにエレクトリック化の最前線に立つ者達もいれば、コットンやウェルズのように、ある程度のエレクトリック化までに範囲を絞った者達もいた。特にアンプ類は市場規模も大きく、人々の耳を狂わせ、10ホールズ自体は劣化させても良し、といった本末転倒な状況をも、同時に生み出していった。これはまさに異常な事態で、佐川急便の配達員がイケメンだからと通販にのめり込む婦人達の如しであった。

 レコード産業、コンサートホール産業が急成長していく中、当然のごとくさまざまなエレクトリック化が加速していく。時にエレキギターと、時に電子オルガンと、さまざまな楽器を相手にそんな音量戦争をしばらくは続けていたが、やがて演奏者達の全てが、予想もしなかった別のビッグバンを体験することとなる。

 エフェクト化である。リバーブやディレイなどの響き面の追加効果ではなく、ディストーション、オーバードライブ、フランジャー、オクターバー、トレモロ、コーラスなどの追加効果により、いきなりの未来が到来するのである。空を飛ぶタクシーも家事を全て引き受けてくれるロボットも現れないまま、音楽だけに未来が到来したのだ。演奏者達、聴衆達は共に湧き上がって行く。もはやエレクトリック化うんぬんではない、エフェクト化が、未来的の名の元に、至高とされ始めたのである。これにはほとんどのジェダイ達が惑わされ、中には、ありとあらゆるエフェクターをまとい、もはや10ホールズの役割は『吹き吸いスイッチ』のようなものとなっていった。

 この者達は完全に暗黒面に落ちていた。己れの10ホールズの力など全く信じることが出来ず、もはや自分はエフェクターの一部、完全な機械人間となっていたのだ。

 『ダースベイダー』の誕生。しかも、大量に誕生。もう、ベイダーばっか。いや、ほんとに。

 彼らはエレクトリック化、エフェクト化の中で、リズムのズレ、音のズレといった、デリケートで微妙な、本来の肉体の痛みすら忘れて行った。もはや恐れているのはハウリングと停電くらいなものであった。

 誰もが、かつての10ホールズ自体のサウンドを否定し、そして忘れていった。中には、寒空の下、10ホールズを首から下げ、道行く人々にかつての希望の光を思い出させようと奮闘する者たちもいた。また、イントロやエンディングのみで10ホールズを登場させ、「サンキュー」と謎のお礼を叫び、曲の終わりとともに客席に放り投げる一幕もあった。それはまさに、長く続く暗黒の時代であった。

 こうして10ホールズは、過去の存在となった。懐かしさの象徴となり、ノスタルジーとワンセットで、処理されていったのである。

 そして、満を持して、暗黒面がその口を開いた。音楽のメディア化、マネージメント化、インタラクティブ化などによって、すでに音を出す前から、全てが決まってしまう世界が来るのである。

 これこそ、『デス・スター』。もはや戦いはない。惑星単位で全てが消えうせるのである。

 ギターとの小競り合いなど遠い過去、音量うんぬんどころではない。何もかも消え失せていく予感の中を、かつての栄華を求め彷徨う大量のダースベイダー達。
しかし、とめられない。彼らは10ホールズ本来の力を忘れてしまった、ただの電化製品の説明員なのだから。この流れは続く。この世の全てを呑み尽くすまで。

 しかし、どれほど強大な力であっても、たったひとつのシンプルな存在によって崩れ去る事がある。ほとんどの人々の心を一時的に誘導出来たとしても、それは所詮まやかし、本物だけが持つ感動という経験の前には、全てはシロウトのテーブルマジック同様なのだ。

 ジェダイマスターは復活する。多くのレジスタンスに希望の光を与え、かつてのジェダイ達に、ダースベイダーのマスクを外させるために。まぁ、マスクを外せばしばらくは息苦しさてスー、ハー、コー、ホー、いうだろうが、呼吸楽器とは、本来疲れるものなのだ。やがてデス・スターは内部から爆破される。それを合図に各人が、それぞれの立ち位置で戦いを開始するだろう。

 その手に、長く忘れさられていた、かつてのシンプルな武器、10ホールズハーモニカが、輝いていることだろう。

とこしえに、フォースがともにあらんことを。。。

 まぁ、『スターウォーズ』と『10ホールズ』の違いは、『フォース』が『セカンド』だってこと。。。

2018.2.7