元担任からビンタを食らった話。
『お前を叩いたこと、夢に見るほどずっと忘れられなかった』
今から3〜4年前の同窓会で高校の担任に言われた言葉だ。
息を吐くと白くなるほど気温は下がり、酒を飲む機会が増える、ちょうど今頃の季節にあった話。
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社会人になって数年が経ったある日、”ピコン”とスマホの音が鳴った。
高校生の時のグループラインに通知が入る。
≪ 今度先生を呼んで同窓会をします! ≫
同級生が同窓会を計画してくれていたようだった。
久しぶりにみんなに会いたいと思った私は参加することにした。
そして同窓会当日。
会場には、懐かしい面々が集まった。
ひとしきり注文を終えると、昔話に花を咲かせる。
それから少し経つと、閉じていたふすまが開き
『おー、お前ら元気だったか』
そう言いながら担任だった先生が登場した。
先生の登場で会場はますます盛り上がり、みんなで酒を酌み交わした。
酒やタバコを嗜める年齢になり、社会の話をする光景に大人になった実感を覚えた。
その雰囲気を楽しんでしばらくすると、先生が少し遠くのほうから私を呼んできた。
先生が座っている向かいに腰を下ろす。
すると、困ったような顔で口を開いた。
『お前をビンタしたこと、夢に見るほどずっと忘れられなかった』
『なんてことをしたんだと思っていた』
私は全然気にしてなかったので驚いた。
確かに在学してる時に1度、先生から頬に平手打ちを食らったことがある。
叩かれた理由は本当にしょうもないことで、私が悪かったことは重々承知だ。
少々荒れた学校だったこともあり、ただでさえ面倒ごとが多いのでプツンときたのだろう。
私も殴られないと分からない人間だった。
しかもあの時の私は、叩かれた事実よりも別の事に関心が向いていた。
「すげー!手形がついてる!漫画のやつは本当なんだ」 と。
漫画でよく見る、平手打ちされた後のハッキリと残る手形が存在したことに。
トイレの鏡に向かい、打たれた右頬を見ながらただ純粋にそう思い、笑い話として記憶していた。
そんな叩かれた私とは裏腹に、先生は叩いたことをずっと気にしていたそうだ。
『すまなかった』
申し訳なさそうに、先生は謝った。
そんな先生の小さくなった姿に動揺した。
普段は謝らないし、横暴だし、頑固で厳格な人だからだ。
(こんなに言ってる割にアレだが、平等に本気で生徒と向き合ってくれる良い先生である。)
その先生が、あの時のことを悪いと思ってずっと引きずっているとは思わなかった。
叩いた方もしっかり傷ついて生きていたのだ。
それから私は先生に何て返事をしたのか……実は何も覚えていない。
ただ、人見知りが災いして上手く話せなかった事だけは覚えている。
もうあの時のことが夢に出ないように、私は「気にしていないよ」と言えたのだろうか。
同窓会が行われたこの季節になるとそんな考えがグルグルと巡る。
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あれから気になり過ぎて、最近久しぶりに担任と連絡を取った。
もう高齢のはずなのに未だにバリバリ働いているらしい。さすがに元気すぎる。
コロナで今は会えないが、落ち着いたら友達と一緒に会いに行こうと思う。
今度は笑って酌み交わしてる姿で夢に出られるように上書きをしたい。
元気に話せる今のうちに。