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会社を辞めたいのに子どもには大企業をすすめる矛盾──FIREより先に“体験”を積むライフデザイン戦略
「仕事に疲れて早くFIREしたい」「でも子どもには大企業へ行って安定してほしい」――そう考えていませんか? 私自身、研究職として働きながら同じ矛盾に悩み、30代後半で思い切って退職を決断しました。とはいえ、いざ辞めるとなると、自分が大好きだった仕事や評価を捨てる不安も大きく、退職前夜は眠れないほど葛藤したのを覚えています。
ところが、その後実際に会社を辞めてみて痛感したのは、「FIREはゴールじゃなくて手段にすぎない」ということ。 それより大事だったのは、親も子どもも「価値を生み出す仕事」を選び、自分で選択肢を広げられるだけの“体験”を先に積んでおくことでした。資産形成より先にこうした体験を重ねておくからこそ、いつでも働き方を変えたり、趣味や育児に集中したりできるのです。
本記事では、「やりたいことがない=問題ではない」という視点から、私が会社員時代に得た強みや、退職後に迎えた3か月の“何もしない期間”を通じて見えてきたライフデザイン戦略、そして地方移住やオンラインワークを活用した“仕事に活かせる体験”を紹介します。子どもに多様な体験を与えたいと考えている親御さんや、「自分も新しい挑戦をしたい」と思っている方にとって、何かヒントになれば嬉しいです。
1.辞める前夜の葛藤──好きな仕事を手放す不安
1-1.研究職としての誇りと評価
私はもともと、大企業の研究開発部門に勤めていました。大学院卒の専門家が多い中で学部卒だった私ですが、チームを俯瞰(ふかん)しながら優先順位をつけ、メンバーの力を引き出す働き方が評価され、結果を出せていたと思います。「子持ちの女性でもここまで成果を出せるんだね」と驚かれることもあり、仕事自体にやりがいを感じていました。
だからこそ、30代後半に差し掛かって「会社を辞めようか?」と考え始めたときは、自分でも意外でした。研究職は夢だったし、チームメンバーとの関係も良好。周囲からの理解もあり、育児との両立も一定の評価をもらっていました。辞めると決めた前夜は、「本当にこの決断でいいのか」と悩んで眠れなかったほどです。
1-2.どう生きたいかを問い直した瞬間
にもかかわらず退職を選んだのは、「今しかない」と直感したからでした。共働きで子どもとの時間がほとんど取れない現実に限界を感じていたのと、「10年後もこの会社にいるイメージが湧かない」という漠然とした不安が重なった結果です。私の趣味はスノーボードで、定年してからでは体力的に厳しい――ならば今、自分のやりたいことに時間を使おうと決心しました。
一方で、“会社員を続ければ安定した収入も得られるし、キャリアアップも見込める”という考えが頭から離れず、不安がゼロだったわけではありません。それでも、「どう生きたいか」を突き詰めたとき、子どもにもっと向き合い、かつ自分で価値を生み出す道を模索するほうが自分らしいと思えたのです。
2.FIREを考える私と、子どもには安定を求める私
2-1.親としての矛盾
「自分は会社を辞めたいのに、子どもには大企業に就職させたい」と思っていたのは事実です。女性として出産を経験し、定期収入や組織のサポートがどれほどありがたいかを痛感していたからこそ、「子どもには安全な道を…」と考えてしまう気持ちも理解できます。
ただ、いざ大企業で働いてみると、企業自体が揺らぐリスクや、常に学び続けなければならない現実に気づかされました。「大企業=一生安泰」という時代ではなくなりつつある。むしろ、変化に対応し“価値を生み出す仕事”を実践できる能力こそ大事だと強く感じるようになったのです。
2-2.“やりたいことがない”ならまず体験してみる
さらに、子どもや若い人には「好きなことで稼ぐ」といったアドバイスをする大人も多いものの、そもそも好きなことが明確に分からないケースは珍しくありません。私自身、退職してから少し時間ができたとき「本当にやりたいことって何だろう?」と改めて迷いました。でも、やりたいことがない=問題ではなかったんです。むしろ、いろいろ行動してみるうちに「これならできそう」「ここは合わない」と学んでいけると分かりました。
こうした体験は、親だからこそ子どもに提供しやすい部分でもあります。資産形成より先に小さな挑戦を重ねることで、自分に合った道が自然と見えてくるからです。
3.3か月何もしないセミリタイア風の日々
3-1.完全な休息で自分をリセット
退職後、私は無収入でも暮らしていけるだけの貯蓄を活用し、“何もしない”時期を設けました。毎日子どもの送り迎えをし、夕飯を一緒に作り、空いた時間は散歩や読書に費やす――そんな日々を3か月ほど続けたのです。開放感はあったものの、そのうち「このままじゃダメだ」という焦りも湧いてきた、不思議な期間でした。
このとき痛感したのが、「お金の自由はやっぱり助かる」ということ。ある程度の資金クッションがあると、こういう“立ち止まる時間”を作れるんです。心に余裕が生まれ、「次に何をしたいか」をじっくり考えることができました。
3-2.“本当にやりたいのは何?”と問い直す
実は私には、育休中に親子向けセミナーを開催したり、電子書籍を執筆したり、ラジオに出演したりといった経験がありました。ただ、退職後に改めて「今、自分はそれを続けたいのか?」と考えたとき、正直なところ疑問が湧いたんです。世の中の状況も変化し、自分の興味関心も移っていった結果、“過去にやっていたことをそのままの形で提供する必要はないかもしれない”と思うようになりました。
そこで3か月の休息期間中は、「一度やめてみる」「何もしない」を選択。すると逆に、「事業を回したい」「今の時代に役に立つことをしたい」という新たな想いが再燃したんです。具体的には、私の“論理的に物事を整理する力”や“チームを俯瞰する力”を活かして、困っている経営者を助けたい――そう思ったことがきっかけで、いつの間にかコンサルタントという肩書を得ていました。
一方で、育休中に親子向けセミナーをやってきた経験や「子どもをもつ親に役立つことをしたい」という想いは消えていません。これが、現在の「地方移住と体験型子育て」をテーマにした本の執筆や情報発信につながっているのだと思います。
4.ライフデザイン戦略としての地方移住&体験学習
4-1.地域のリアルを見て、子どもが学ぶ
退職後は地方に移住し、オンラインで事業サポートやコンサルをする働き方にシフトしました。地方だからこそ、商店街の人と顔見知りになったり、地域イベントを手伝ったりするうちに、子どもも「どうやってお金が回っているのか?」を肌で感じるように。コンビニの時給を見て「1時間働いて800円なんだ。家族で外食するには5時間くらい働かないと…」と驚く姿を見たときは、私も成長を実感しました。
もちろん、地域でのリアル体験は地方に限ったことではありません。都心でも行政の子育て支援や児童館のイベント、民間プログラムなどを活用すれば、子どもが“仕事に活かせる体験”を得る機会は作れます。大切なのは、子どもの周りに「働くとは?」「価値を生み出すとは?」を感じ取れる場をどれだけ提供できるか――という点です。
4-2.多様な家族や人生に触れて視野が広がる
地方移住して改めて感じたのは、さまざまな家庭環境に子どもが自然と触れる機会が多いということ。高卒で働く人、自営業で地域密着の商売をしている人、シングルファザー・シングルマザーなど、家族の形も多種多様です。都心部にいると「企業勤めの核家族」というパターンが圧倒的に多い場合もありますが、地方だと選択肢や暮らし方が多彩なんですよね。
こうした多様性に小さいうちから触れると、「大企業に行くか行かないか」だけが人生の選択肢ではないと分かります。私自身が大企業勤務から地方での事業家になったように、親の背中を見ながら子どもなりに「自分はどう生きたいんだろう?」と考えるきっかけを持ってもらえるのではないでしょうか。
5.オンラインワークと子どもの長期休みの両立
5-1.冬は滑り、空き時間に働く
今はオンラインを活用してコンサル業をメインに、冬は趣味のスノーボードを存分に楽しむという生活スタイルを実践中です。子どもの長期休み中は仕事を最小限に抑え、親子で全力で遊ぶ。合間にZoomで打ち合わせをして事業を進める――会社員時代には考えられなかった自由さに、日々感謝しています。
もちろん収入は会社勤めより下がった部分もありますが、そのぶん働く時間自体が少ないのだから当たり前でもあります。ただ、その結果“時給換算”は上がっているし、「生き方を自分で選んでいる」という感覚は何ものにも代えがたいです。価値を生み出す仕事を自分で組み立てることで、子どもにも「好きなことで稼ぐ」選択肢があるんだと示せるのではないでしょうか。
5-2.成功も失敗も、子どもの最高の教材
セミナー開催や本の執筆をしていると、うまくいかない場面も当然あります。けれど、親が挫折や失敗を隠さずにオープンにすることで、子どもは“挑戦”自体をポジティブに捉えやすくなります。親が「こういうところが難しくてね」と話していると、子どもも「どうすればいいかな?」と一緒に考えてくれたり。子ども自身がセミナーを聞いて感想をくれることもあり、私にとってはそれが何より励みになっています。
こうした“挑戦する姿”こそ、子どもが将来“仕事に活かせる体験”をイメージできる最大のポイントなのではないでしょうか。
6.効率化思考と子育て──解決を急がないコミュニケーション
6-1.“結論から言って”は通じない場面もある
研究職やコンサルの経験から、私自身はつい効率的に問題解決を図りがちです。ところが、子どもに対して「結論から話して」と急かすのは逆効果な場面が多いと痛感します。子どもは解決策よりも、まず感情を聞いてほしい場合が多いからです。
退職後は心の余裕も増え、子どもの話をじっくり聞く「傾聴モード」を意識できるようになりました。会社員時代に培った論理的思考はもちろん役立ちますが、場合によっては“寄り添うだけ”がベストだと学んでいます。
6-2.判断基準を明確にし、迷わない子育てへ
とはいえ、寄り添うだけでは解決しない問題も多いのが事実です。そんな時は親が何を大切にしているかをはっきりさせる――つまり“判断軸”を持つことで、子どもの相談に対して答えはぶれにくいです。
私の場合、「子どもが本当にやりたいと思っているか?」「そこにどんな成長があるのか?」を基準に考えるようにしています。これは研究職時代の“問題分解”スキルが育ててくれた大切な考え方です。家族との関わり方にも応用しながら、戦略的にライフデザインしていきたいと思っています。
7.AI時代に向けて“選択できる人生”を築く
7-1.大企業神話が崩れるからこそ体験が大事
今後、AIやテクノロジーの進化が加速し、従来の仕事が大きく変わる可能性があります。そうなれば、単に“大企業=安泰”という図式はますます通用しなくなるでしょう。むしろ、“常に学び、価値を生み出す仕事を自分で考えられる人材”が求められる時代になるかもしれません。
だからこそ、「やりたいことがない」と感じている人ほど、まずは何か体験してみるのがおすすめです。子どもにも多彩な体験を提供しながら、親自身も挑戦する姿を見せることで、家庭全体が「変化を受け止められる」強さを身につけられる――私はそう思います。
7-2.本当の豊かさは、資産形成+“価値を生む力”
資産形成やFIREを目指すことも、もちろん意味があります。お金の自由は心の余裕を作る有効な手段です。でも、“どう生きたいか”という軸を持ち、“価値を生み出す仕事”をどんな形でも作り出せる力を持つことが、AI時代の大きな武器になると私は感じています。会社を辞めて地方移住しながら仕事を続ける中で、その想いはますます強くなりました。
8.まとめ:あなたは子どもにどんな体験をさせたいですか?
FIREが話題になり、「会社を辞めたい」と思う人が増えるのは自然な流れかもしれません。でも、FIREそのものがゴールではなく、「自分で選べる人生を作る」ための手段にすぎないと、今でははっきり思います。私の場合、会社を辞めてしばらく“何もしない”期間を経たことで、「今やるべきこと」と「やっぱりやりたいこと」を再確認できました。
やりたいことが明確じゃなくても大丈夫。いろんな体験をしていくうちに、想像もしていなかった仕事や生き方が見えてくるかもしれません。子どもにも、「好きなことを見つけろ」ではなく、「好きかどうか分からなくても、まずは試してみよう」というスタンスが大切だと思います。そこから生まれる“仕事に活かせる体験”が、今後の人生を大きく変える可能性を秘めているのです。
もしよかったらコメントやシェアを通じて、あなたの考えを聞かせてください。AI時代に突入するこれからこそ、“体験”を通じた学びがますます重要になるはず。資産形成だけでなく、親子で「価値を生み出す仕事」を考えるきっかけにしてみてくださいね。
【あとがき】
この記事は、私自身が研究職として会社に勤めながら子育てし、最終的に退職という選択肢をとったリアルな経験をもとに執筆しました。FIREや資産形成を目指す一方で、「本当にどう生きたいのか?」を深く考えてこそ、真の自由とやりがいを手にできるのだと今では確信しています。
過去には育休中に親子向けセミナーや電子書籍の執筆、ラジオ出演などを通じて情報を発信してきましたが、退職後に改めて「何をしたいのか」を考え直し、現在はコンサル業や地方移住の体験型子育てなど、新たな挑戦に取り組んでいます。会社を辞めて丸3年が経った今、自分自身の体験型子育てをもとに、「地方移住とAI時代の教育改革:親ができる選択肢」という本を執筆中です。
もし似たような悩みを抱えているなら、ぜひ一歩立ち止まって“体験”を優先してみてください。きっと新しい選択肢が見えてくるはずです。