
『象に釘(2022大改訂版)』(男女二人芝居)
「象に釘」
あらすじ
狭い屋根裏部屋があり、そこに「ゾウ」と「ヒト」が居る。
ゾウは長い間この部屋に閉じ込められていて、
自分の存在意義を見つけようとして焦っている。
ここから抜け出して、次の段階に行きたいと思っているのだ。
しかし、ヒトは最近この部屋にきたので、まだ状況を飲み込めていない。
それがゾウをさらにイラつかせて、
ゾウはつい、ヒトを追い詰めてしまうことをする。
ヒトが絶望するとその存在が消え、また最初に戻る。
そしてゾウは、また次のヒトが部屋に来るのを待つことになる。
そういうことがずっと繰り返されている。
そのことに気づいたのは部屋にある「本」に、
繰り返しの痕跡があったからだ。
いままでにわかってきたことがその本に集約されている。
初めはメモ書きだった紙は、束ねられ、
受け継がれるうちに、書物となった。
つまりそれだけが手がかりなので、どの象もその分厚い本を大切に扱い、
本のルールに従っている。
どうやらゾウがヒトにクギを打ってしまうと、
立場が入れ替わって最初に戻ってしまうということがわかってきた。
今は「ゾウにクギを打てば、この繰り返しは止まるんじゃないか」
という仮説が立っており、
最近のゾウはヒトにクギを打ってもらうことに懸命である。
登場人物 (男女二人芝居)
ゾウ
ヒト
1
舞台は屋根裏部屋である。ランタンが吊ってある。
天窓があり、月明かりが差し込んでいる。
階下へ降りるための階段の手すりがある。
古い机と椅子。机の上にはペンとインクとろうそく台、
分厚くて、立派な装丁の本がある。
足元には何かが書かれた無数の紙が散らばっている。
男性のゾウがいる。彼は白い服を着て、ゾウの被り物をしている。
ゾウ:わかっているのとそうでないのがいる。
ゾウは部屋をウロウロしながら、独り言を言っている。
ゾウ:私は、わかった。つまりこういうことだ。
たぶんここは次の場所へ行く前の部屋だ。
まずヒトが来て、それがゾウになって、そのうちもう一人ヒトが来る。
私はゾウになった。だからいずれ、別のヒトが来るだろう。
それがどうやら、ずっと繰り返されている。
ゾウは紙の束を手にする。
ゾウ 早く、この世界から抜け出して、次の段階に行きたい。
もちろん、ルールは見えている。仮説も立っている。
この本は重要だ。他にてがかりがない。デタラメだとしても。
ゾウは火を取り出す。
ゾウ:間違いなく繰り返されている。そのことに私はようやく気がついた。
しかし。わかったからといって、現状を抜け出すことができるとは限らない。
ゾウの被り物をとり、燃やす。
ゾウ:みんなわかっていたことだ。
燃え盛る炎。それを眺めるゾウ。
暗。音楽
2
同じ場所にヒトが生まれている。
ヒトは女性である。白い服を着ている。
天窓からの明かりで、さっきとは別の紙の束を読んでいる。
まだ枚数も少なく、薄い。
机や椅子の配置が変わっている。
机の上のペン、インクもきちんと並んでおり
足元の無数の紙も消えている。
ヒト:「戦ゾウ(せんぞう)。戦うゾウ。紀元前三百三十一年の地中海、
ガウガメラ戦争において初めて戦争に投入された」
次の頁をめくる
ヒト:「戦場ではゾウは四〇キロで敵陣へ突撃した。
轟音や悪臭や火が苦手だったので、
ローマ軍は豚に火をくくりつけて放ち、ゾウを混乱させた」
次の頁をめくる
ヒト:「制御を失ったゾウは暴走し、味方へも被害を与えるため、
ゾウ使いはすぐにゾウを殺した。
戦ゾウの急所にはあらかじめ大きなクギが取り付けられており、
それをヒトが木槌で叩くことでゾウを殺した」
暗。
音楽。
3
同じ場所にゾウ(男性)とヒト(女性)がいる。
ゾウは大きなクギのネックレスをして、木槌を持っている。
ヒト:で、何でしたっけ?
ゾウは興奮している
ゾウ:だから!もう難しく考えるのはやめましょう!
スパッと決めちまいましょう!決断するんです!
ヒト:簡単に言わないでください。
ゾウ:簡単になんていってません!「難しく考えるのをやめましょう」
そう言ってるんです。
ヒト:どう違うんですかそれ。
ゾウ:つまり。
ヒト:ええ
ゾウ:いや。やめましょう。こうして、あらゆる話は横道に逸れ、
いつのまにか人生の目的を見失うんです。
ヒト:大げさ
ゾウ:それ読んだんだろう。
ヒト:読みました。
ゾウ:ならわかるだろう!目的がある!それは人生の目的である!
ヒト:読んだけど理解できたかどうか。
ゾウ:そこに書いてあることが全てだ。他に道しるべとなるものはない!
ヒト:あなたの言葉の中になにかあるかも
ゾウ:何が。
ヒト:あれを理解するためのヒントが。
ゾウ:そんな訳ないですから!
ヒト:どうして?
ゾウ:私もあなたと同じようにココに来ました。
あなたと同じように手がかりを求めました。
ヒト:誰に
ゾウ:私の前のゾウにです。
ヒト:あなたの前にゾウが居たんですね。
ゾウ:そうです。
ヒト:あなた
ゾウ:ゾウです
ヒト:ゾウが二匹
ゾウ:ちがいます
ヒト:でもだって
ゾウ:その時私はゾウじゃなかった。
ヒト:なんだったんですか
ゾウ:ヒトです
ヒト:ヒト
ゾウ:ただのヒトです。
ヒト:今は
ゾウ:ゾウです
ヒト:どうしちゃったんですか?
ゾウ:え?
ヒト:どうしてあなたはゾウになっちゃったんですか?
ゾウ:つまり。
ヒト:どうしてヒトがゾウになるんですか?
ゾウ:つまり
ヒト:あなたの前のゾウはどこに行ったんですか?
ゾウ:だからやめましょう。
ヒト:え?
ゾウ:こうしてあなたと二人、
もうかれこれ何度も何度も目的を見失い、事態は進展しません。
そうしていつのまにか、目的を見失うんです。
ヒト:なんの目的?
ゾウ:人生です!
ヒト:大げさ
ゾウ:それ読んだんだろう!ならわかるだろう!目的がある!
それは人生の目的である!
ヒト:あ、デジャヴュ
ゾウ:あなたは頭が悪いな!
ヒト、黙る。
ゾウ:……?
ヒト:……。
ゾウ:怒ったんですか
ヒト:(うなづく)
ゾウ:怒った。
ヒト:(うなづく)
ゾウ:そうか。参ったな。
ヒト:……。
ゾウ:まだ怒ってますか
ヒト:(うなづく)
ゾウ:どのくらいで機嫌が直りますか?時間で決めませんか。
一分、三分。え?五分も?!
ヒト:無茶言わないで下さい!
ゾウ:じゃあ一生そのまま怒り続けるんですか?違うでしょう?
いずれ機嫌が直るでしょう?だったら早いにこしたことはない!
一分!ヨーイドン
ヒト:そんなに簡単に言わないでください!
ゾウ:どうすればいいんです
ヒト:謝ってください
ゾウ:何を?!
ヒト:あなた、私に、頭が悪いって言いました。
ゾウ:そうです。そしたらあなた、怒りました。
ヒト:謝ってください
ゾウ:だから何を?
ヒト:私に頭が悪いって言った事をです。
ゾウ:どうして?!あなたの頭が悪いのに?!
ヒト:ひどい!
ヒト、黙る。
ゾウ:あれ?まさか。まさかと思いますけど、また怒ったんですか?
ヒト:(うなづく)
ゾウ:参ったな。こりゃ二分はかかるぞ。
ヒト:もっとかかります!
ゾウ:謝ればいいんですか?
ヒト:そうです。
ゾウ:わかりましたゴメンナサイ
ヒト:そんなのではだめです。ちゃんと。
ゾウ:、、、、あなたに「あなたは頭が悪い」と言ってごめんなさい。謝ります。
ヒト:はい。
ゾウ:これで良いんですね。機嫌直りました?
ヒト:ええ
ゾウ:まったく心がこもっていないのに簡単な人だ。
ヒト:どうして余計な事言うんですか!
ゾウ:だって誰がどう見てもそうだからバカバカしくて
ヒト:思ったことをなんでも口にするのやめてください!
ゾウ:そんな。難しいな。思ってないことを口にするなんて無理じゃないですか
ヒト:あなたとは話になりません。
ゾウ:よし。じゃあ百歩譲って、
あなたはそのまま一生ぷんぷん怒って居ても良いことにしましょう。
私はもう止めません。
ヒト:許可される筋合いありません。
ゾウ:とにかく話を進めます。どこまで進みました?
ヒト:知りませんよ
ゾウ:思い出した「決めよう。決断しよう」そういう話です。
ヒト:へー。
ゾウ:難しく考えるわけでもなく、簡単に言うわけでもなく。
だとすればどうでしょう?いっそのこと、何も考えずに決めてしまうんです。
ヒト:何も考えずに決める?
ゾウ:そう、何も考えずに決める。どうですか。
ヒト:、、新しい。
ゾウ:そうでしょう。では、さっそくやってみましょう。
ヒト:はい。
ヒト、「何も考えない」ということを表現してみる
ヒト:…………………………………………。
ゾウ:…………真面目にやってます?
ヒト:やってます。
ゾウ:なんだかすごく奇妙な顔でしたけど
ヒト:え!?
ゾウ:まあいいんです。何も考えないようにしたら、
あなたの場合はそうなるんです。あなたがバカなわけじゃない。
バカに見えただけです。
ヒト:よかった。
ゾウ:決まりましたか?
ヒト:全然。
ゾウ:バカか?!
ヒト:違うって言ったのに!
ゾウ:「何も決断しない!これこそ、バカなせる技である!」
ヒト:何ですかそれ。
ゾウ:五十四ページ中段!
ヒト:え?
ゾウ:読んだんだろう?あなたは頭が悪いうえに、バカだな!
ヒト:ひどい!
ゾウ:時間はいくらだってあります。
だけどいつまでもこうして二人、
このまま同じことを繰り返すってのはあまりにも芸がない。
そうは思いませんか?
ゾウ:繰り返す?
ゾウ:繰り返してます!さあ!決断するんです!
ヒト:どうしてそう、急かすんですか。
ゾウ:急かすだなんて!
ゾウ、突然、もんどりうつ
ヒト:どうしちゃったんですか?
ゾウ:あなたはココに来たばかりかもしませんが!
私はもうかれこれ、どのくらいいるのかわかりません!
ヒト:……
ゾウ:もう、うんざりなんです。
毎日毎日あてどなく、同じ事を、繰り返しています。
くる日もくる日もまるで、永遠に続くような気がします。
そりゃあたまにはそれなりに、
例えば七日に一ぺんくらいはいつもと違う日もあります。
でもそれも最初だけです。すぐに飽きる。
「どうしてここに私は居るのだろう」
あなたもすぐに私と同じことを思うようになります。
ヒト:「どうしてここに私は居るのだろう」
ゾウ:大丈夫です。全部それに書いてある。
ヒト:これ
ゾウ:百二十八ページ上段。
「今、私はここに確かに居て、このようなことをやることになっている」
これは、私があなたという存在を通すから確認できることであって、
もしも他者を失えば誰しも、その存在すら、怪しくなる。
でも大丈夫です。存在なんて、そんなもんです。
ヒト:大丈夫ですか
ゾウ:大丈夫です。
ヒト:あなたは大丈夫ですか
ゾウ:わたしは大丈夫です。
ヒト:酔っぱらいに大丈夫かって聞いたらかならず
ゾウ:大丈夫です
ヒト:っていいますよね
ゾウ:そうですか
ヒト:頭がおかしくなりそうです。
ゾウ:百二十九ページ中段「例えば頭がおかしいという言葉は、
頭がおかしくない人間が存在するという前提で存在します」。
わかりますか?
ヒト:わかりません。
ゾウ:納豆は腐敗していません発酵しています!これは、
人間が都合良く言葉を言い替えただけでバケ学的にはどっちも同じです。
別の生命体が食物を食い繁殖を始めた!そういうことです!
そんなことはどうでもいい!さぁ決断してください!
ゾウは大きなクギと木槌を突き出す。
ヒト:ひぃ!だからちょっと待ってくださいって!考えさせて!
ゾウ:あれやこれや考えているうちに人生は過ぎていきます。
決断し、行動をしましょう!
過去に自分で決断して行動をしたと思えたことがどれほどありましたか
ヒト:それを聞きますか私に?
ゾウ:誰にでも初めてというものがある!これはチャンスです!
ヒト:何をしろって言うんですか
ゾウ:お願いします!どうかこれで!どうかこのクギと木槌で!
私の急所を打ち抜いてください!
ヒト:嫌だーーーーー!!
ゾウ:私の決心は固いですよ!?私は次の段階に行きたいんです。
毎日毎日、ここでこうして、
ひたすら待ち続けるなんてもうまっぴらごめんなんです。
あなたは私を解放するために、私の後にここに来たんです。
ヒト:わけがわかりません
ゾウ:わからんでよろしい!やってみましょう何事も!
あなたの人生だって、やってみなけりゃわからない事だらけだったでしょう
ヒト:だから!私には記憶がないんです!
ゾウ:きっと取り戻せる!きっと!
私の急所を打ち抜けばきっと取り戻せる!たぶん!
ヒト:頭がおかしい!おかしくなる!
ゾウ:さあ!さあ!言う事を聞きなさい!ほら!ほうら!ほら!ウヘヘヘヘヘ
ヒト:助けてください誰か!
ゾウ:助けを求めているのは私だ!あなたじゃない!
ヒト:助けて!助けて!
ゾウ:言うことを聞けぇ!貴様!
ヒト:殺される!殺される!
ゾウ:だまれ!そんなつもりじゃない!黙れ!
ヒト:殺される!殺される!
ゾウ:静かに!
ゾウ、つい、ヒトにクギを打つ。
ゾウ:しまった!つい!間違った!
ゾウ、慌てて本を開く。
ゾウ:ルール1、ゾウがヒトにクギを刺すと、立場が入れ替わり、最初に戻る。
暗。音楽。
4
また時間が経つ。
ゾウは女性になる。ヒトは男性になる。
ゾウ、ろうそくに火をともし、
その火をランタンに移す。
天井の屋根に「天扉」がある。
ゾウ:かなり前に流行ったって書いてあります。三十三ページ下段に。
一見普通の本なんですけど、
たくさんのパラグラフ、ひとかたまりの文章に分かれていて、
番号がふってあります。
パラグラフの最後には必ず選択枝があるんです。やってみます?
ヒト:……
ゾウ:三十四ページ。例えば、あなたの目の前には怪物が二匹、
こん棒を構えて睨んでいます。
どうする?戦う?逃げる?仲良くする?
ヒト:……
ゾウ:どうします?
ヒト:…戦う。
ゾウ:パラグラフの二十四。…あー残念。
「右の怪物はあなたの右足を、左の怪物はあなたの左のほっぺたを、
ガリガリかじり始めた。夜明けまでには、
あなたの身体も消化されるだろう。残念な結末」
ヒト、自分の服に青い染みがついていることに気づく
ヒト:青い。、、、血?
ゾウ:あ、血かぁ、、なるほど。
ヒト:?
ゾウ:(ページをめくる)あ、あった。青い血の生き物。カブトガニ。
知ってます?カブトガニ。丸くてトゲあって虫っぽい。地球外生命体のような。
南の国の浜辺に甲羅がズラリと並んで。
食べられます。太古の生き物ですって。何万年も進化もせずに生き残ってる。
ヒト:ケガはしていないと思うんだが。
ゾウ:青いんですか?血。
ヒト:血って青、だっけね?
ゾウ:質問ですか?
ヒト:だれ?
ゾウ:ゾウ?
ヒト:ゾウ?
ゾウ:ゾウです。
ヒト:そんなだっけな。ゾウ。
ゾウ:最後にゾウを見たのは?
ヒト:いつだっけな。
ゾウ:忘れちゃったんですか
ヒト:ゾウ?
ゾウ:ええ
ヒト:覚えてないな。ゾウ。なんか、もっと、特徴無かったっけ。ゾウ。
ゾウ:…あいまいなんですね。やっぱり。
ヒト:やっぱり?
ゾウ:ええ、やっぱり。
ヒト:…ここどこ?
ゾウ:どこに見えますか
ヒト:屋根裏部屋
ゾウ:そう見えてるなら、そうなんですよきっと
ヒト:ここどこ?
ゾウ:それ二回目です。
ヒト:いや、どこの屋根裏だ?
ゾウ:わかんないんです。
ヒト:いつからここにいる?
ゾウ:さっき私と会話をはじめた頃から。ですかね
ヒト:時計、時計は?
ゾウ:あります。一応。でも。(時計のある方向を見る)
ヒト:あれが時計?!あんなもん時計じゃない。
時計っていうのはもっとこう、なんだ、えーと、ほら
……あれ?時計の針ってのは何本だったかな?三本?四本?
ゾウ:さあどうでしたっけ
ヒト:二本。二本だ。たぶん、おそらく。
ゾウ:あいまいなんですねえ
ヒト:寝て、起きたばかりで、頭がぼんやりしているのかと思ったけど、
どうもそうじゃない。寝てた?
ゾウ:さぁ
ヒト:私は恐ろしい事に気がつきました。
ゾウ:どうぞ。
ヒト:自分の名前というものがあったように思うんだけど、少しも思い出せない。
それどころか、もう、もともと無かったんじゃないかとすら思いはじめている。
あんた、名前を知らないか?
ゾウ:あんた
ヒト:うん、あんた。知らないか。
ゾウ:知らないんです。わたし。
ヒト:それは、ろうそく。あれは窓。外は月、、あんたは…
ゾウ:ゾウです。
ヒト:ゾウ
ゾウ:あんたって呼ぶのやめてください。
ヒト:ペン、インク、テーブル、イス、カベ。他の名前は全て思い出せる。
自分の事だけがわからない。そういう感じ。
ゾウ、嬉しそうにヒトを眺めている
ヒト:なんか嬉しそうだ。
ゾウ:久しぶりにヒトとしゃべってるから。ですかね。
ヒト:ヒト。ヒトか。私はゾウじゃない。合ってる?私はヒトだ。
ゾウじゃない。だろ?あんたはゾウ。
ゾウ:先輩。
ヒト:え?
ゾウ:いちお、ここでは先輩だから。
ヒト:チッ(舌打ち)
ゾウ:え?
ヒト:先輩。教えてください。先輩。ここはどこで。
私は誰で何がどうなってこんなことになってるんですか?
ゾウ:質問は一つずつにしてくれる?
ヒト:チッ(舌打ち)
ゾウ:舌打ち?
ヒト:いやなんかこう。変で。口が。
ゾウ:口が。
ヒト:気分が。
ゾウ:気分が。
ヒト:では先輩、ひとつめの質問から答えていただけますか
ゾウ:一つ目の質問は
ヒト:「ここはどこですか?」
ゾウ:違います。
ヒト:え
ゾウ:一番最初はこうです。あなたがボーーッとした顔で私の話を聞いていて、
「青い、、血?」って、ボーーッとした顔で言って、
その後に「ケガはしていないと思うんだが」ってボーーッとした顔で
ヒト:ボーーッとした顔でね。
ゾウ:そして私が「青いんですか?血?」って聞いたところ、あなたが
ヒト:あ、「血って青だっけね?」
ゾウ:それが一つ目の質問でした。
ヒト:ずいぶん戻ったな。
ゾウ:答えなくていいなら別に。
ヒト:いやいや先輩お願いします。質問。血って青ですか?
ゾウ:答え。人間なら血は赤です。カブトガニなら、血は青です。
ヒト:つまり
ゾウ:あなたがヒトではなくカブトガニである可能性が出てきました。
ヒト:……まさかだな!
ゾウ:しかし、あなたはケガをしていません
ヒト:となると
ゾウ:カブトガニの返り血かもしれません
ヒト:つまり
ゾウ:あなたはカブトガニと戦ったのではないですか!
ヒト:……
ゾウ:……
ヒト:…なんのために?
ゾウ:さあ
ヒト:食べたり?
ゾウ:食べたり?
ヒト:食べない!
ゾウ:ではあなたがカブトガニである可能性が高まってきました。
ヒト:いやいや、しかしケガをしていませんから
ゾウ:ふさがったんじゃない?
ヒト:ふさがったのか!
ゾウ:知らないけど
ヒト:……出鱈目なこと言いやがって!
ゾウ:せっかく答えを出しても、気に入ったものしか受け入れないなら
初めから真面目に答える必要なんてないもの
ヒト:……わるかった。おちつく。許してくれ。たのむ。
言うことを聞く。あなたは私の先輩だ。
ゾウ:わかりました。
ヒト:少し、時間をくれ。
ゾウ:(指をさす)
ヒト:あれが時計か?!あんなもの!時計じゃない!あんな!へんな!こんな!
……悪かった。落ち着く。許してくれ。頼む。言うことを聞く。
あなたは私の先輩だ。
でも混乱しているんだ。
ゾウ、本の中のカブトガニの絵を見せる
ゾウ:これです
ヒト:え
ゾウ:カブトガニ
ヒト:下手?
ゾウ:描いたの私じゃないです。
ヒト:…どう?
ゾウ、ヒトとカブトガニの絵をよく見比べる
ゾウ:似て
ヒト:………
ゾウ:ません
ヒト:よかった
ゾウ:体内では白いんですけど酸化すると青くなるんですって。外に流れ出たら。
ヒト:なに?
ゾウ:カブトガニの血
ヒト:……
ゾウ:神様を信じますか?
ヒト:信じない。
ゾウ:あ、即答。
ヒト:本当だ。これだけは自信がある。もう一度聞いてくれ。
ゾウ:神様を信じる?
ヒト:信じない!もう一度!
ゾウ:神様を
ヒト:信じない!もっかい!
ゾウ:神様
ヒト:信じない!自信がある!私は神を信じない!
気持ちいい!気持ちいい!
ゾウ:魂とか。
ヒト:信じない!気持ちいい!
ゾウ:死後の世界とかも
ヒト:信じない!信じないぞ!うおおおう!気持ちいい!
ゾウ:はぁ(タメイキ)
ヒト:……あれ?
ゾウ:お。
ヒト:死んだんじゃないか、私は。
ゾウ:…おおおおう
ヒト:……ここ、死後の世界か。…そうなのか。
ゾウ:信じないんじゃなかったですか?死後の世界
ヒト:信じないよ
ゾウ:じゃ、違うんじゃないですか。
ヒト:君が言ったんだ
ゾウ:そうでしたっけ?
ヒト:そして君、感心していた。私の…洞察力に。
ゾウ:洞察力。
ヒト:「…おおおおう」
ゾウ:あーーそれか。感心て。
ヒト:君の方がここに先にいるんだから。先輩なんだから、
君が持っている情報を、当てにするのは当たり前だ。
ゾウ:なるほど
ヒト:現に君は、その紙の束を当てにしている。
ゾウ:そうなんですよ。困ったことに。
ヒト:困ったことに?
ゾウ:困ったことに。
ヒト:どういう意味だ?なんだか君の言葉のはしばしに、
なにか重要なヒントがあるような気がしてきた。
ゾウ:いやいやいやいや
ヒト:わかったぞう!
ゾウ:わあびっくりした
ヒト:つまりあなた。天使ですね
ゾウ:え?天使?
ヒト:死んで最初に会うとすれば、天使じゃないですか
ゾウ:初めて言われました。
ヒト:女だし。天使ですね?
ゾウ:女?
ヒト:女です
ゾウ:みえますか?
ヒト:え?ちがう?
ゾウ:でも私、ゾウですけど。
ヒト:なるほど…
ゾウ:ええ
ヒト:メスのゾウの天使。
ゾウ:いる?
ヒト:あ!いる!ゾウの顔の神様!ちょっと色っぽくてピンクの!なんていったかな。
ゾウ:そういうことは覚えてるんですね
ヒト:あ、ほんとだ。
ゾウ:書いてあるかな。
ゾウ、本をめくる。
ゾウ:インドのゾウの神様、ガネーシャ。頭がゾウ。乗り物はネズミ。
ずる賢く、かんしゃく持ち、嫉妬深い、キバの片方が折れている。
ヒト:日本じゃ「聖天さん」と呼ばれていたんです。
大聖歓喜天(だいしょうかんぎてん)。えへん。
ゾウ:へー。
ゾウ、本に書き足す。
ゾウ:どういう字ですか?「大聖歓喜天」
ヒト:えっとー
ゾウ:書いてください
ヒト:はぁ
ゾウ、ヒトにペンを渡す。ヒト、書き足す。
ゾウ:ここに
ヒト:(書きながら)この紙の束は?
ゾウ:覚え書きです。
ヒト:ずいぶんある。
ゾウ:私が来る前からありますから。
ゾウ、本をしまう。
ヒト:で、つまりあなた。インドのゾウの神さま。メスの。先輩。天使。
ゾウ:もう何がなんだかですね
ヒト:それで。
ヒト、そわそわし始める。
ヒト:いいですか?暫定的に。
ゾウ:暫定的ってどういう意味ですか?
ヒト:とりあえずとか当面とか。とりま。
ゾウ:と、り、ま(書く)
ヒト:では、率直に伺います。私は天国行きですか?
ゾウ:は?
ヒト:私は極楽行きですか?
ゾウ:え?
ヒト:地獄行きなんてことはないでしょうね。
ゾウ:私が決めるんですか
ヒト:だってメスの象の神様の天使でしょう、先輩。暫定的に。
ゾウ:じゃあ、決めますよ。
ヒト:どうぞ
ゾウ:じごく
ヒト:貴様になんの権利がある!
ゾウ:自分で言い出したのに
ヒト:このやろう!
ゾウ:口が悪い
ヒト:口が悪いと地獄へ行くのか!
ゾウ:うるさい
ヒト:うるさかったら地獄へ行くのか!
ゾウ:とりま。
ヒト:だまれ!前言撤回!ハイ暫定終了!
ゾウ:勝手だなぁ
ヒト:俺は悪人じゃない!善人だ!
ゾウ:そーですか
ヒト:もういい!自分で決める!あ。そうだ、自分で決めるぞ!
ゾウ:自分で?
ヒト:天国行きか、地獄行きか、そのくらい自分で決めてやる!
ゾウ:スゴーイ。なんかスゴーイ
ヒト:黙れ!今決めているところだ!
ゾウ:(口チャックする)
ヒト、考えている
ヒト:困った。
ゾウ:……?
ヒト:記憶がない
ゾウ、嬉しそうにヒトを眺めている
ヒト:自分が善人だったのか悪人だったのかを知るための生前の記憶がない
ゾウ:あーー。困りましたね
ヒト:困った。どうしよう
ゾウ:どうしましょうね
ヒト:おい!人が困ってるのに嬉しそうに、なんだ!
ゾウ:あきらめますか
ヒト:あきらめない!私は、次の段階に行きたいんだ!
こんな屋根裏で死んでたまるか!
ゾウ:もう死んでるんじゃないですか?
ヒト:もう過去の話だ。前進あるのみ。死んだ私は天国で生きる。
ゾウ:言ってることがめちゃくちゃですね
ヒト:!わかったぞう!
ゾウ:わあびっくりした。
ヒト:試練なんじゃないか?これは。
ゾウ:……
ヒト:試されているんだ。神に。
ゾウ:…おおおおう
ヒト:感心しているな?私の推理力に。
ゾウ:ある意味、感心しています。
ヒト:そう言えば先輩。あんた最初に言っていたな選択肢がどうの!
ゾウ:あれは
ヒト:あれがヒントだったんだ!
ゾウ:あれただのひまつぶしです
ヒト:わかったぞう!これはゲームだ。
ゾウ、きょとんとしている
ヒト:この屋根裏からどう抜け出すかを神に試されているんだ。
どうだこの洞察力!
ゾウ:おおおおう(拍手パチパチパチパチ)
ヒト:感心の上に拍手までありがとう
ゾウ:もう「逆にポジティブですごいな」って尊敬し始めています。
ヒト:なぜ屋根裏なのか。これが全ての出発点となる。君、屋根裏の定義を。
ゾウ:屋根裏とは(本を開く)「屋根の裏側。天井板の上」
ヒト:なるほど、屋根の裏側、天井板の上。つまりこういうことだ。
我々は屋根の裏側におり。天井板の上に乗っている!
ゾウ:そのままですがそのとおりです
ヒト:屋根には天窓があり外には月。階段があり、下につながっている。
一見!この二つのどちらかが脱出口にも思える。
しかし神の試練はそのように簡単であるはずがない!
つまり!これらは全て幻だ。
照明が不思議な色に変わり、不思議な音がしてくる
ヒト:見たか今の不思議な光!聞いたか今の不思議な音!
ゾウ:見ました!聞きました!
ヒト:私が思うに、窓の外は異空間と化しておる。
まるで宇宙空間のような時空の歪みのような
まるでサルバドール・ダリや藤子F不二雄の描く世界のような
ゾウ:本当だ。本当によくある感じの異次元!
ヒト:階下には地獄が広がっているはずだ。
ゾウ:ヒッ!
ヒト:鬼どもが人を血の池に溺れさせ、針の山を歩かせていることだろう
ゾウ:本当だ。まるで絵に描いたような地獄!
なんというか紋切り型の地獄!
ヒト:紋切り型?
ゾウ:判で押したような地獄です!
ヒト:褒めてくれてありがとう!
ゾウ:褒めてません
ヒト:しかあし!出口はどちらでもない!
ゾウ:ほう!
ヒト:よく見ろ。
ゾウ:え
ヒト:こんなの、見たことあるか?
ゾウ、上を指差す。
ヒト:屋根に扉がある
ゾウ:…見たことない
小さな扉が屋根についている。
ヒト:これが所謂、天国への扉だ。
ゾウ:つまり
ヒト:ヘブンズドア。
ゾウ:……なるほどぉ(と、ヒトの顔を見る)
ヒト:なぜ私を見る。ドアは上だ。
ゾウ:いや。本当によく思いついたなぁと思って。
ヒト:どういう意味だ。
ゾウ:ルール2。
ヒト:え?
ゾウ:いや、続けてください
ヒト:?ルール?
ゾウ:続けてください。つまり?
ヒト:つまりこういうことに違いない!屋根裏の屋根の裏に扉がある。
ここから私に天国へ来いと、主は言っておられる。
ゾウ:これ、本当に天国へ続いてるんですか?
ヒト:当たり前じゃないか。私が地獄へ行く人間に見えるかね?
確かに君には暴言を浴びせかけたことも、過去にはあったかもしれない。
しかし私は本来はこのように清い人間なのだ。
さっきはちょっと混乱していたんだ。そういう日もあるさ。気にするな。
ゾウ:扉小さいですよ
ヒト:しかし、扉だ。
ゾウ:(本をめくる)イタリアのフィレンツェ、サンジョバンニ洗礼堂のは、
でかくて重厚でかっこいいですって。金色で。
ヒト:誰が作ったんだよ
ゾウ:初期ルネサンスの彫刻家・金細工師、
ロレンツォギベルティさんが27年かけて製作「天国への門」
ヒト:それは人間が作ったレプリカです。
しかもそっちは「門」!こっちは「扉」!
一緒にしないでいただきたい。
ゾウ:何かのワナじゃないですか?
ヒト:どうして神が私をワナにかける必要があるんだ?
ゾウ:これはえーとなんでしたっけ?
ヒト:ヘブンズドアです。神が作りたもうた。
ゾウ:神は?
ヒト:いない。
ゾウ:いないんですよね。
ヒト:いる!
ゾウ:ずるい。
ヒト:今日から信じました。誰にでも初めてというものがある。ずるくない。
ゾウ:バチが当たるんじゃないですか?
ヒト:バチ?どんな?
ゾウ:え?例えば
二人、想像する。
ヒト:いやいかん、そんなバカな
ゾウ:何を想像しましたか?
ヒト:別に何も。では私は天国へと旅立ちます。
ご婦人よ。短い間でしたが大変お世話になりました。
椅子を天扉の下に置いて乗り、ドアノブに手をかける。
ヒト:いざさらば。もう、お会いすることは無いでしょう。
こんなに安らかな気持ちになったのは、
生まれて初めてのことかもしれない。覚えてないけど。
ああ、死んでからこのような気持ちになるだなんて。
人間というものは、どうしてこう、おろかなのでしょうか。アーメン。
扉をあける。バラバラと落ちてくる大量の石コロ。
ヒト:わー!
ゾウ:わー!
ヒト、倒れる。そのまま、ぴくりともしない
ゾウ:(本を読む)ルール2。想像したことは、起こる。
ヒト:(寝たまま)どうせ「無神論者には天国なんて用意されていない」
そういうことだろ…
ゾウ:あ、生きてた。
ヒト:たぶん。おそらく。そうらしい
ゾウ:あいまいなんですね
ヒト:あいまいにしておきたかったらしい。たぶん。おそらく。
ゾウ:理屈は通ってたのに。
ヒト:へ理屈だ。どうせ何も覚えちゃいないんだ。思いつく事も平凡でつまらない。
どうせ誰かが考えたことだ。すがるものなんて何もない。
ゾウ:え?落ち込んだんですか?
ヒト:落ち込んだね。
ゾウ:え!まずい!落ち込まないで下さい!
ヒト:善人なのか悪人か。人間なのか、なんなのか。
ゾウ:落ち込むとまずいんです!
ヒト:オスなのかメスなのか。はたまたこれは夢まぼろしか。
ゾウ:落ち込むとほら!
ヒト:どうしてここに私はいるのだろう。いや待てよ?
ゾウ:ああまずい
ヒト:そもそもここに私は本当にいるのかしら。
ゾウ:またかー
ヒト:あれ?体が勝手に。あれ?これ体なのか?
ゾウ:そこ!壁!
ヒト:え?壁?どこに?ここ?これが壁?壁に見えるだけじゃなくて?
あれ?壁を私は通り抜けていくな。どうしてまた。
おや?あんたがどんどん遠ざかるぞ。先輩~~
ヒト、客席へいなくなる。
ゾウ:ああ。今度こそと思ったのに。一体いつまで、ここに私はいるのやら。
ゾウは、また次のヒトが来るのを待つ
暗。音楽。
5
ゾウは女性のまま。ヒトがいる。ヒトに青い血はついていない。
ゾウ:かなり前に流行ったって書いてあります。三十三ページ下段に。
一見普通の本なんですけど、
たくさんのパラグラフ、ひとかたまりの文章に分かれていて、
番号がふってあります。
パラグラフの最後には必ず選択枝があるんです。
三十四ページ。
あなたの目の前には怪物が2匹、こん棒を構えて睨んでいます。
どうする?戦う?逃げる?仲良くする?どうします?
ヒト:仲良くする。
ゾウ:パラグラフの二十六。「右の怪物と友達になった。左の怪物が嫉妬した。
左の怪物から痛恨の一撃。
あなたの肉は左の怪物の胃の中に、あなたの骨は親友のゴブリンの首飾りに」
残念な結末。
ヒト:おれ、死んだのかな。
ゾウ:おおおおう(パチパチパチ)
ヒト:え?
ゾウ:今度は、展開が早いかもしれない
ヒト:ここ、死後の世界
ゾウ:神様を信じますか?
ヒト:信じてなかったけど、ここまで何もわかんないとさすがに。
ゾウ:期待できそうかも!
ヒト:俺のこと知ってる?
ゾウ:もしかしてそれ!
ヒト:さっきから、なんていうの、デジャヴュ
ゾウ:(本を開いて)デジャヴュ!既視感!すでに見た感じ!よおし!
ヒト:前にここ、来たことがあるような気がするし、
あんたとも話したことがあるような気がする。
ゾウ:あんたとか言われると不愉快だけど、よおし!
ヒト:あんた、味方?あったことある?
ゾウ:あるある、たぶんある!
ヒト:屋根裏部屋?
ゾウ:そう見えてるならそうなんですきっと!
ヒト:いつからここに
ゾウ:さっき私と会話を始めた頃から!ですかね!♪
ヒト:あれが時計?!
ゾウ:どう思いますか
ヒト:変な時計だけどあれも時計なのだろう。
ゾウ:とうとう全てを受け入れるヒトが来た!
ヒト:なんのはなし?
ゾウ:時間はいくらだってあります。だけどいつまでもこうして
二人このまま同じことを繰り返すってのはあまりにも芸がない!
そう思いませんか?
ヒト:同じこと?繰り返す?
ゾウ:もう、うんざりなんです。
ゾウはクギと木槌を見せる。
ヒト:それ、なに?
ゾウ:ゾウ印です。
ヒト:ゾウジルシ?
ゾウ:私がゾウであるという印です。
ヒト:どっかで聞いた音だ。
ゾウ:間違いなくデジャヴですきっと!ウヘヘ!
ヒト:頭大丈夫ですか、あんた
ゾウ:私は大丈夫です!ウヘヘ!
ヒト:ぎょ
ゾウ:百二十九ページ中段「例えば頭がおかしいという言葉は、
頭がおかしくない人間が存在するという前提で存在します」!
わかりますか?
ヒト:わかりません
ゾウ:納豆は腐敗していません発酵しています!これは、
人間が都合良く言葉を言い替えただけでバケ学的にはどっちも同じです。
別の生命体が食物を食い繁殖を始めた!そういうことです!
むしゃむしゃむしゃむしゃあ!むしゃあ!そんなことはどうでもいい!
さあ!決断してください!
ゾウはクギと木槌をヒトに持たせようとする
ヒト:これで何をしろって言うんだ!
ゾウ:お願いします。どうかこれで、どうかこのクギと木槌で!
私の急所をつらぬいて!
ヒト:あなたの急所?どこですか?!
ゾウ:わかってるくせにーー!
ヒト:あなたのそこをつらぬくんですか?!
ゾウ:さあもうやっちゃいましょう!スコンと一発!
打ち抜いてしまいましょう!うらみっこなしです!
ヒト:わけがわからない!
ゾウ:わからんでよろしい!誰にでも初めてというものがある!
初めてはワタクシでお願いします!
ヒト:意味がわからない!
ゾウ:あなたの人生だってやってみなきゃわからない事だらけだったはずです!
思い出せるなら思い出してみやがれ!ウヘヘ!
ヒト:あれ?!記憶がない!
ゾウ:さあ!言う事を聞きなさい!ほうら!うへへうへへ
ヒト:助けてくれ!
ゾウ:助けを求めているのは私!私!私!!
ヒト:殺される殺されるー!
ゾウ:だまれ!貴様!このやろう!
ヒト:殺される殺されるー!
ゾウ:しずかに!
ゾウ、つい、ヒトにクギを打つ
ゾウ:しまった、、ルール1、ゾウがヒトにクギを刺すと、
立場が入れ替わり、最初に戻る。
たぶん、また間違った、、、ああ
落胆。暗。音楽。
6
新しいゾウがいる。ゾウは男性である。
製本前の状態の本を読みはじめる。
ゾウ:「戦ゾウ(せんぞう)……。戦うゾウ…。
紀元前三百三十一年の地中海、ガウガメラ戦争において……」
…ゾウ。
次の頁へ
ゾウ:「戦ゾウの急所にはあらかじめ大きなクギ、、
それをヒトが木槌で叩く」……ゾウ。
次の頁へ
ゾウ:「インドのゾウの神様、ガネーシャ」…またゾウ。
次の頁に行こうとすると、書き足したような一文をみつける。
ゾウ:?書き足し?「日本では、『聖天さん』と呼ばれた。大聖、歓喜天。」
さらにパラパラとめくる。
ゾウ:だれが書いたのかなあ。
ろうそくの火をランタンに移す。
明るくなる。他には誰もいない。
ゾウ:……一人。
ペン。インク。白い紙。
ゾウ:これ、僕のかなあ。
首にかかっているクギをさわる
ゾウ:クギ。これは僕のだな。あ。
本に戻る
ゾウ:「戦ゾウの急所には、あらかじめ大きなクギが取り付けられて、
それをヒトが木槌で叩くことでゾウを殺した」
…クギ、木槌(触る)…僕は…
ペンにもどる。インク
ゾウ:あ、青い。えーと、自分の名前。思い出せない。
他の名前は思い出せるのになぁ。あ、何か重要なヒントがあるかも。あれに。
本に戻る
ゾウ:うーん。…ゾウ。ゾウのことが多いな。
ペンで「ゾウ」と書く
ゾウ:うん。名前があった方が、いいかもしれない。
部屋を探索しはじめる。ゴミ箱を発見。
ゾウ:ゴミ箱。
中には、、まず石が入っている
ゾウ:石って……ゴミか?
さらに、紙ゴミ(「走り書きの紙」)がまるめてある。
ゾウ:あ。
一応周囲を伺い、そのゴミを開く。
不可思議な文字が書いてある。
ゾウ:?なんだこれ。クギ。じゃあこれは、木槌。
これは、ゾウ。
これは……あ、ヒトか。
またゴミを丸めて捨てる。
ゾウ:…誰か来るのかな
学習は続く。
時間が経つ。
7
壁を通り抜けてヒトが生まれてくる(客席側から現れる)
青い血がついている。
ゾウは男性のまま。ヒトは女性である。
ヒト:(ボーーーッとしている)
ゾウ:………。すごい。壁から生まれた。あれ?会ったことある気がする。
こんにちわ。もしもし。…生まれたばかりでぼんやりしているんだな。
ヒトの服に青い染みがある
ゾウ:あ。青い。
…ともあれ、これは事件だ。僕も書き足そう。アレに。
ゾウ、本に書き足しに行く
ゾウ:「壁から生まれる、青い血の、ヒト?ヒトだよな」
ヒト:わ!びっくりした
ゾウ:わあびっくりした。こんにちは
ヒト:……あれ?こんにちは
ゾウ:こんにちは
ヒト、あたりを見回す
ヒト:…………初めて会いました?
ゾウ:いや。なんだか、会ったことある気がするんだよ。
ヒト:そう。この部屋も、見覚えがあるような。
ゾウ:君も?
ヒト:ええ
ゾウ:そう
ヒト:あなたは?
ゾウ:ゾウ。
ヒト:そんなんでしたっけ。ゾウ。
ゾウ:あなたも忘れてますか。
ヒト:もっと特徴なかったでしたっけゾウ。
ゾウ:あいまいなんですよ
ヒト:あいまい
ゾウ:本当のゾウがどうだったかってことはあいまいなんです。
あの紙の束に書いてあること以外は。
ヒト:それ?
ゾウ:僕、一人でかなり長い時間ここにいたから、
ゾウじゃないよりはゾウの方がいいかなって。
ヒト:ゾウじゃないよりは
ゾウ:ゾウの方が。
ヒト:あー。ごめんなさい。ちょっと意味がわかってないです。
ゾウ:いんですいんです。とにかく自分で決めたんです。
ヒト:あー。決めていんですね。自分で。名前。
ゾウ:いいと思います。あなたどうします?名前。
ヒト:あれ?名前。
ゾウ:あ、そうか。
ヒト:私、名前、なかったでしたっけ。
ゾウ:覚えてないんですよ。
ヒト:ほんとだ。
ゾウ:これ、不思議なんでしょうね。
ヒト:たぶん、これは、普通じゃない感じするなあ。
ゾウ:はいー。
ヒト:あー。
ゾウ:(にこにこ)
ヒト:………
ゾウ:(にこにこ)
ヒト:…………
ゾウ:(ニコッ)
ヒト:……………
ヒト:あの
ゾウ:はい?
ヒト:こんな感じですか?
ゾウ:こんな感じ?え?どんな感じ?
ヒト:過ごし方、というか
ゾウ:過ごし方?
ヒト:ここでの
ゾウ:あー過ごし方。
ヒト:はい
ゾウ:いや、僕も正しい過ごし方とかわかんないです。全然。
ヒト:特に、やる事、ない感じですか?
ゾウ:!(ショック)…そう言えば、そうですね。
ヒト:今、思ったんですか?
ゾウ:いや、今までは、待ってたから。
ヒト:なにを?
ゾウ:なにかを
ヒト:なにか?
ゾウ:「だれか来るのかなぁ」とか。
ヒト:だれを?
ゾウ:ヒト。
ヒト:ヒト。
ゾウ:たぶん、あなたを。
ヒト:あー
ゾウ:なんか、やりますか。
ヒト:え
ゾウ:ああ!
ヒト:わあびっくりした
ゾウ:あー、なんか用意しとけば良かたっな!
あんなに一人で待っていたのに!何も用意してなかった!
用意しとくべきでした。ねえ?
ヒト:はい。
ゾウ:すみません。考えます。なんか(そわそわ)
ヒト:いや、お構い無く。すみませんなんか。余計なこと言って。
ゾウ:あ、そっか!わかったぞう!
本を持ってくる
ヒト:あ、本。
ゾウ:いやいや、そんな大層な物では無いです。
ヒト:でも綴じてるし。
ゾウ:いやこれ、最初にあって。紙の束だったんですけど、
なんかバラバラになるのもアレなんで。自分で。
ヒト:洋式の綴じ方ですね。これから横に糊つけて、
こう、厚紙や布や革の表紙で、こう、本にするんです。
ゾウ:くわしい
ヒト:好きなんです
ゾウ:僕も好きかも
ヒト:本当ですか?なんか嬉しい
ゾウ:デヘヘヘヘ
ヒト:えへへへへ
ゾウ:デヘヘヘヘ、ウヘヘヘヘ
ヒト:あ、すいません。それで。
ゾウ:あ。えーと。この、紙の束。
ヒト:ええ
ゾウ:たぶん、たくさんの人が書き足しているんです。
ヒト:あ、あー、なるほど。誰が書いたんですか?
ゾウ:たぶん、前に、ここにいたヒトたち。
ヒト:ヒト?
ゾウ:いや…ゾウたち
ヒト:ゾウたち
ゾウ:僕より前の。
ヒト:ゾウたち
ゾウ:色んな事書いてあって。
ヒト:はい
ゾウ:神様とか地獄とか輪廻とかゾウとか哲学とか。
ヒト:ゾウだけ異質ですね。
ゾウ:でしょ?
ヒト:え?
ゾウ:だから、僕のことだと思って。
ヒト:…あーー。……?えーとやっぱそこ、よくわかんないです
ゾウ:ま、僕のことはおいといて
ヒト:はいすみません、おいといて。
ゾウ:それで。前にもゾウがいて、そのゾウが書き足すうちに、
これはこうしてあるようなんです。
ヒト:あー。歴史ある本なんですね。
ゾウ:そうですね。ありますね。歴史。あ。そうか
ヒト:え
ゾウ:これ、目的なんじゃないのかなぁ。
ヒト:目的?
ゾウ:この本を完成させるのが目的なんじゃないかなぁって。今思いました。
ヒト:あー、そうなんですね。目的。
ゾウ:ええ、目的。これからの。
ヒト:これからの。なるほど。
ゾウ:どうですか
ヒト:あ、いいんじゃないですか
ゾウ:そうですか
ヒト:いいと思います
ゾウ:では。これから。頑張っていきましょう。
ヒト:えーと、はい。
ゾウ:はい。
ゾウ、上機嫌にうなづいている
ヒト:ごめんなさい
ゾウ:はい?
ヒト:今「はい」って言ったんですが
ゾウ:はい
ヒト:やっぱりわかってなくて全然。
ゾウ:あ、僕も。僕も全然。
ヒト:いやいや私よりはたぶんずっと
ゾウ:えー(嬉しい)そう?
ヒト:先に居たんですから、先輩。
ゾウ:なんかてれるなぁ、ウヘヘヘ
ヒト:先輩。
ゾウ:お。はい。あ。なんだい?
ヒト:「これから」ってどういう意味ですか?
ゾウ:え?これからの
ヒト:はい、これからの
ゾウ:ここでの。
ヒト:ここでの?
ゾウ:生活というか
ヒト:生活?
ゾウ:二人の。
ヒト:二人の?
ゾウ:人生というか。ええ
ヒト:二人の人生?
ゾウ:まぁ、ぼちぼち、やって行きましょう。
ヒト:先輩。ここでの生活、二人の人生って、なんですかそれ。
ゾウ:ままま、時間はありますから。いくらでも。
ヒト:は?いつまで?
ゾウ:え?
ヒト:いつまでここに先輩と二人ですか?
ゾウ:……わかんない
ヒト:わかんない?!
ゾウ:わかんない。
ヒト:わかんないんですか?!
ゾウ:あ、ちょっと待って!
ゾウ、焦って本をめくる。
ゾウ:えーと
「ルール1、ゾウがヒトにクギを刺すと、立場が入れ替わり、最初に戻る」
ヒト:なに物騒なこと言ってんですか
ゾウ:これじゃなくて。「ルール2、想像したことは起こる」
かっこ【不思議な光と音に包まれる】かっことじ。
ヒト:は?
ゾウ:これでもなくて「ルール3、絶望すると存在が消えて、また産まれてくる」
ヒト:なんですかルールって。
ゾウ:ここのルール。
ヒト:ここ?
ゾウ:この世界の。
ヒト:この世界?
ゾウ:あ、これか。困ったときの会話マニュアル
ヒト:そんなものあるんですか?
ゾウ:どっちにします?質問形式?ゲームブック?
ヒト:質問?
ゾウ:じゃ質問しますね。
ヒト:私が質問してるんですけど!
ゾウ:でも困っちゃってるから僕。
ヒト:いつまでここに二人なのかを知りたいだけです!
ゾウ:ほら、わかるかもしれないから!
ヒト:はぁ
ゾウ:では行きます。「神様を死んじますか?」
ヒト:え?。。いちお
ゾウ:「魂とかは?」
ヒト:たぶん。
ゾウ:「死後の世界は?」
ヒト:天国とか?
ゾウ:たぶん
ヒト:んー。天国は、ある!地獄はいらないけど天国はあってほしい。
ゾウ:願望なんですね。
ヒト:地獄はいらない。恐いから。鬼とか。血の池とか、針の山とか、
あとあとやっぱ鬼とか。
ゾウ:鬼が恐いと。
ヒト:恐い。
ゾウ:「天国は?」
ヒト:…いい所です。きっといい所です。たぶん。
ゾウ:あいまいですね。
ヒト:ですね。
ゾウ:あいまい、あいまいな場合。あ、これか。「ここはどこでしょう」
ヒト:屋根裏部屋
ゾウ:「どうしてこんなところに。いるでしょう」
ヒト:あああああ!
ゾウ:どうしました。
ヒト:どうしてこんなとこにいるんですか私!
ゾウ:はい。えー。次の質問で最後です。
ヒト:はい。
ゾウ:「もう一度聞きます。あなたは、神を、信じますか?」
ヒト:あーーーーー。わかりました。
ゾウ:よかったです。
ヒト:宗教の勧誘?
ゾウ:え?
ヒト:あらららららら
ゾウ:いや、違う。違います。
ヒト:ごめんなさい、間にあってます。
ゾウ:あれ、間違ったかな
ヒト:信じません。そういう意味では神さまとか仏さまとか信じません。
失礼します。
ゾウ:どこ行くんですか。
ヒト:家です。家。帰ります。あららら?
ゾウ:どうしました?
ヒト:家の場所覚えてませんボケたのかな。
ゾウ:それはここじゃ普通なんです。
ヒト:ギャア!血が出てる!青!血が青!
ゾウ:えーと落ち着かせるには(本をめくる)
ヒト:青い血の生き物ってなんだ!?
ゾウ:カブトガニです。しまった
ヒト:私は地球外生命体!?!
ゾウ:違う!「納豆は腐敗していません」!
ヒト:私なっとう!?
ゾウ:これも違う!
ヒト:ちょっと待て!貴様は何者だ!
ゾウ:ええとだから僕はゾウなんです
ヒト:あああ!!わかったぞう!
ゾウ:え?
ヒト、突然絶望する。
ヒト:わたし、死んだのね?
ゾウ:あの
照明が不思議な色に変わり、不思議な音がしてくる
ゾウ:あ。まさか。
ヒト:……
ヒト、階段へ向かう
SE燃え盛る炎の音。ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
階下は地獄になる。
ヒトが階下を眺めると炎の反射で顔が赤く染まる。
ゾウ:待った!待った待った待った(本をめくる)
ヒト:あ~~~鬼だらけだ
ゾウ:じゃあ行かないで!
ヒト:地獄行きかー
ゾウ:……もしかして
ヒト:(手をふる)
ゾウ:…絶望した?
ヒト:(うなづく)
ゾウ:待って~~~!!
ヒト、地獄に飲み込まれる
ゾウ:ああ。一体、いつまでここに、私はいるのやら。
暗。音楽。
8
音楽の中、別の時間と空間が額縁ショーで展開する。
ゾウ(女)が被り物をして火を持っている。
ゾウ(男)がヒト(女)をクギで打つ。
ゾウ(女)がヒト(男)に本を読む。
ヒト(男)が天の扉を開ける。
ゾウ(女)が、ヒト(男)をクギで打つ。
ゾウ(男)がゴミ箱から走り書きの紙を拾い、
観客に不可思議な文字を見せる。
ヒト(女)が炎の中に立ち、手をふる
再現のようにも繰り返しのようにも見える。
また長い時間が流れる
暗。音楽。
9
ゾウは男性で、ヒトは女性である
ゾウは自殺をはかる。
木槌でクギを打ち、自分の胸につきたてる。
しかし、何も起こらない。
ゾウ:……死ねない。
ヒト、尋常ではない厚さになった本をパラパラめくっている
ヒト:どうする?戦う。逃げる。仲良くする。よし…逃げる。
「あなたは道から外れ、森の中を一目散。
しばらく怪物は追ってきたが、明け方には諦めた」
ゾウ:きりがない
ヒト:「あなたは生きのびた」
ゾウ:残念な結末
ヒト:そんなこと書いてない
ゾウ:生きのびても森の中を当てもなくさまようさ。永遠に。
ヒト:じゃこうしよう。
ヒト、ペンをとり、書き足す
ヒト:森の中で、美しい女性に出会って、幸せに…
ゾウ:おい!
ヒト:なに?
ゾウ:余計な事書くなよ。確実なものはその「書物」しか無いんだ!
ゾウ、ヒトが書いたページを破り捨てる
ヒト、ゴミ箱から「走り書きの紙」を拾い
ヒト:これは?どういう意味?
ゾウ:「ゾウ」を、「ヒト」が、「クギ」で、打つのは、
ゾウ、ゴミ箱に紙を捨てる
ゾウ:「間違い」ってこと。
ヒト:やってみたの?
ゾウ:やらなくてもわかる。はっきりしているんだ
ヒト、本を乱暴に扱う。
ゾウ:乱暴に扱うな!
ヒト:大きい声出さないで
ゾウ:考えてるんだ。黙ってくれ。忙しいんだ。
ヒト:死に方?
ゾウ:この毎日から抜け出す方法だ。
ヒト:同じことでしょ
ゾウ:全然ちがう。
ヒト:あなたはどこに行きたいの
ゾウ:どこか、別のところ
ヒト:ここじゃないどこかのことを不機嫌に考えてるうちに
人生は終わっちゃうんじゃない?
ゾウ:だれの言葉だ
ヒト:私。書いとく?
ゾウ:やめろ!
ヒト:誰が書いたかもわかんない決まり事にしばられてるのって安心?
ゾウ:…………
ヒト:私は、あなたが少しこっちを見たり、眉間や口もとを緩めたり、
忙しいという言葉を2日にいっぺん使わなかったり、
それだけでましになるような気がするけど。
ゾウ:そんな時間はない。書物もこんなに分厚くなった。
あと少しで全てうまくいくんだ。
何かを考え始める、ゾウ
ヒト:ねえ…私達はどうしてお互い役割を変えてはここに一緒にいるのかしら。
それはどこか、運命を感じない?
ゾウ:(タメイキ)
ヒト:本当に死んだのかしら?次の場所なんてあるのかしら?
自分たちがどこから来て、どこへ行くなんてことより、
もしかしたらあたしたち…
ゾウ:いいかげんにしろ!俺は忙しいんだ!君と違って!
ヒト:へー。なんのために、そんなに忙しいの?
ゾウ:そんなこと知らない!当面の目的がある!まずはここを出る!
その後のことはその後考える!俺は二人のためを思って仕事をしているんだ!
ヒト:仕事
ゾウ:仕事だ!我々にとって、もっとも重要なことだ!
ヒト:ごくろうさまです
ゾウ:この屋根裏に永遠に居る気か!?
ヒト:でも。ここが世界の全部かもしれないじゃない
ゾウ:危険だ!想像をするな!また台無しになる!
ヒト:大げさ
ゾウ:君は決めないだろう?だから俺が決める!
少しだまってくれ!邪魔をするな!これからは俺がルールを決める!
俺のルールにしたがえ!これは君のためでもあるんだ!そうだろう?
ヒト:……まるで神様ね。
ゾウ:なに?
ヒト:あなた、ゾウのくせに賢くなりすぎたんだわ。
このちっぽけな屋根裏部屋の神様にでもなったつもりなんだわ。
ヒト、立ち上がる
ヒト:決めた。
ゾウ:おい。
ヒト:あなたが神だって言うなら、私だって神になってもいいでしょう?
ゾウ:おい、落ち着け。また、絶望されちゃかなわん。
ヒト:私は、落ち着いています。
SE地獄の音ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ゾウ:おい!この音は、、、まさか
ヒト:ルール4「あなたはこれから私のやることに手出しできない」
ゾウ:え?
階下に炎。
ゾウ:またか。まただ!
どうしてヒトは、愚かなんだ!
また、また同じことの繰り返しだ!
ヒト:ちがうの。
ゾウ:え?
ヒト、分厚い本を地獄の炎に燃やす。
ゾウ:ああああああああああああ!!
本、燃え尽きる。
ゾウ:…なんてことしたんだ……
ヒト:スッキリした。そう思わない?
ゾウ:頭がおかしくなったのか!?
あの本は。あの本があるからこの世界がわかるんじゃないか…
……おまえ、今までの全てを……灰にしたんだ。
ヒト:そうだね。
ゾウはしばらく呆然とし、突然笑い出す。
ゾウ:ウヘヘ、ゲヘヘ、ウヒャヒャヒャヒャヒャ!!!
そしてクギと木槌を、ヒトに突き出す。
ゾウ:ほら。
ヒト:……
ゾウ:このクギで、おれの急所を、打ち抜け。
あれが無ければもう俺は何をしていいのかわからない。
さあ、頼む。また最初からだ。
ヒト、クギを受け取る。
ヒト:……
ヒト、クギと木槌を地獄へ捨てる。
ゾウ:ああああああああああああああああ!
ゾウ、もんどりうつ
ゾウ:お前何をしたかわかってるのか!!!!
……これで、やり直すことすら、出来なくなったんだぞ
ヒト:では、はじめましょう。新しく。
ゾウ:え?
ヒト:あんなの、自分以外の誰かの書いた、思いつきでしょ。
ヒト、ゴミ箱の中の「走り書きの紙」も拾い、燃やす。
ゾウ:おおお!!何もない……何も…
ヒト:私がいるじゃない。
ゾウ:……
ヒト:今、私は、ここに、確かに居て
ゾウ:今、私は、ここに、確かに居て
二人 このようなことをやることになっている。
これは、私があなたという存在を通すから
確認できることであって。
優しい音楽が聞こえてくる
10
男女は白い紙の前に座り直す。
男、ペンをかまえる。
女:さ。はじめて。
男:なにも覚えてない。ワタシは…ヒト
女:男
男:女:
女:屋根裏部屋に男と女。何を想像する?
男:えーと。
女:恋人、同志。
男:あんたと?
女:あんたっていうのやめてくんない?
男:え。じゃ、キミ?
女:いいでしょう。
男:割と育ちがいいのかな、君。
女:かもね。
男:これはヒントになる。書き留める
男、ペンで書く。ペンは羽ペンである。
男:こんなペン中世の時代だな。
女:魔術とか
男:え?
女:魔術ではハトとかコウモリとか生き物の血をインクにしたって。
男:オカルト好き。それも書きとめる。
女:なんだか楽しそう
男:楽しまなきゃやってられん
女:本当は楽天主義なのかもね。どいて。書きとめたげる。
男:こういう男はどう?恋人にしたいと思うかな。
女:ちょっと考えさせてね
男:少しでも好意が残っていたら、
我々が恋人同士だったという可能性が出てくるんだ。
女:嫌いじゃない。
男:そう?じゃ書き留めるよ。
女:ちょっとまって。こういう女はどう。恋人にしたいと思う?
男:ちょっと考えさせて。(紙を見ながら)育ちが良い。
なかなかの博識。それと、わりと美人、かもしれない。
女:結論は?
男:嫌いじゃない。
女:書きとめますよ。
男:どうぞどうぞ。
女:…嫌い…じゃ…ない
男:何かを想像するのってこんなに楽しいことだったかな。
女:いまは何時?
男:あそこに時計がある。ただ、読み方を知らない。
女:人生に目的なんてあるのかしら
男:ここがどこで
女:あなたがだれで
男:どこから来て
女:どこに行くのか
男:わかった所で、なんだっていうんだ。
女:あなたは思慮深くて聡明…かもしれない。書きとめます。
男:ユーモアにあふれ、人を楽しい気持ちにさせるのが、好き
…かもしれない。書き留める。
女:考えるときに眉をあげる癖。なめらかな指。
男:たまに光るみたいな瞳、小さなホクロ。
女:それからそれから…
男:それからそれから………
優しい音楽につつまれ、溶暗。
11
暗の中、音楽が消え、
赤ん坊の泣き声が聞こえる。
オギャアオギャア
男:あれ?
女:べんべろべろばー。べんべろべろばー
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たくさん台本を書いてきましたが、そろそろ色々と人生のあれこれに、それこれされていくのを感じています。サポートいただけると作家としての延命措置となる可能性もございます。 ご奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。