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『パンピーパンチ』男1女2

『パンピーパンチ』
2021/10/18最終稿

客電消え曲上がり暗。

雅:その夜、私は新宿のネットカフェの一室で
 今日という日に起こったことを思い出しながら、
 結論づけた。
「もう、立ち直ることなんて、できない」と。

<鈴木雅(すずきみやび)>

都会の音、外の雨の音。さああああああああああ

現代。
 東京。ネットカフェの一室。
 ネカフェで借りたバスタオルをかぶって、
 充電の終わったアイフォンの電源を入れる。
 コンビニ袋の中から、ビールを出して飲む
 一心不乱に、アイフォンの画面を見つめている。

雨の音。さああああああああああ

<開始のアラーム>

三つのアラームが鳴る。
 パソコンを立ち上げる。

SEジャーンmacの起動音。
 音楽。『山の魔王の宮殿』

茄子:よし
豪:よし
雅:、、よしと。

3人、ネトゲのキャラを出す。
 (自分で照らす)ログイン完了

豪:こんばんわ
茄子:こんばんわ
雅:、、あの、
 戦士さん、
茄子:ん?
雅:魔導師さん、
豪:ん?
雅:はなし聞いてもらっても、いいですか?

曲、上がる。

<最悪の日>
 
 新宿。
 
雅:昨日まで居心地が良かった
 都会の人混みの中で、今日の私は悲しくなった。
 こんなにたくさんの人が全員、
 私とは一生、まったく関係がないのだ。
 いつかここにいる全員に
 私の歌を届けようなんてバカなことを
 本気で思っていたのに。
 こういう日に人は絶望に至り、
 そして、死んでしまうのかもしれない

ゴロゴロゴロ、ピシャアァ!!!
 本降りになる。
 ざあああああああああああああああ

ピーポーピーポーピーポーピーポー
 遠くの救急車の音。
 そして、都会の音(東京)が聞こえる。

雅:まず。昨日までのわたし。

<昨日の朝>

さわやかぽい音楽

雅:私はボーカルの鈴木雅。いまんとこ名前負けのアラサーだ。
 ギターのポン太には「おまえのどこが雅なんだ。両親はなにを目指したんだ」と私がドジを踏むたびにバカにされる。
 まだ売れないバンドだが、
 「いずれ世間を跪かせてやる」と胸に誓い、
 花の都大東京でリーダーとして駆け回っている。

目覚ましの音。
 ジリリリリリリ!!!!

雅:カーテン!ジャ!
チョップ:なー
雅:お早うチョップ!!

雅:私のルーティン!うがいをして一杯の水を飲む!
 歯磨きをしながら軽い朝食の準備!
 ポイントはここでスマホを開かないこと!
 起きたての脳はクリエイティブな作業に当てる!
 ランニングシューズを履いて日の光を浴びに外へ!
 ジョギングの景色を楽しみながらの作詞タイム!
 アパートに戻ったらシャワーを浴びて朝食!
 トーストをよく噛み、さっき捕まえた言葉を書き留める!
 モーニングティーを飲みながら動画の再生回数をチェック!
 コメントにはお礼とイイネ、アンチは速攻削除!
 メールSNSのチェックと返信!
 メンバーにLINEでスタジオ練習の予定を確認!
 猫のチョップにご飯をあげて、鍵をかけ!
 お昼のバイトのために駅に走る!
 電車でニュースとアーティスト情報を入手!
 居酒屋ランチがないときはテレアポ!
 やっぱウーバーイーツもやろうかと計画中!
 休憩時間はtiktokを投稿してファンサービス!
 メンバーに動画の提供を促すためにリーダーのわたしが率先して更新!
 仕事が終わったら一人カラオケでボーカルの練習!
 もしくはスタバでマックブックと編集作業!
 曲がかけた日はエスプレッソアフォガードフラペチーノ!
 夜は練習!曲作りとライブの準備!みんなでファミレス会議!集まりがない日は居酒屋バイト!
 アパートに帰ったら猫と遊んでお風呂入ってyoutube見てねる!
 専門学校を出てからずっと、私はこのルーティンを続けて、バンドの夢を追っている!先日、とうとう事務所からメールが来た!そろそろだ!そろそろ熟すころなのだ!私たちはいま、事務所へ送るデモテープを誠意製作中なのである!
 最新作は作詞・鈴木雅、作曲・本田ポン太。
 サードタイムラッキー『飛べ一般ピーポー』です。

<飛べ!一般ピーポー>

題名『飛べ!一般ピーポー』
作詞:鈴木雅 作曲:本田ポン太

飛べ!飛べ飛べ!ハイハイハイハイ!
飛べ!飛べ飛べ!一般ピーポー♪
飛べ!飛べ飛べ!ハイハイハイハイ!
飛べ!飛べ飛べ!一般ピー!ふおう!

もうそろ大人にならなくちゃやっぱりしょっぱくなっちゃって困ります。
フォウ!なるはや普通に考えて空気を読んで私決めてます。
フォウ!ほぼほぼ理解しています言葉の意味はわかります
フォウ!このまま清く大人しくサスティナブルでGO

だけど!俺の悪魔が俺に聞く!
へい!Are You 一般ピーポー?

いつまでパンピーてんだ?
そろそろラブミーテンダー
くすぶっちゃてるんだ?
そのままコーヒールンバ?

たとえあいつにバカにされても
調子に乗って飛んでいけ!びゅーん!
世界中を敵に回すとしても
あの子のとこに飛んでけ!

【本番用】

A     D      Fm#              E
もうそろ大人にならなくちゃ やっぱりしょっぱくなっちゃって困ります
   D    Fm#   D         E
なるはや普通に考えて 空気を読んでワタシ決めてます
   A    D    Fm#     E
ほぼほぼ理解しています。言葉の意味はわかります
D     A     D    E   A
このまま清く大人しく サスティナブルでGO!!
   D    A
だけど俺の悪魔が俺に聞く
D       A
へい!Are You 一般ピーポー?
A        E  A
いつまでパンピーってんだ?
E       Fm# E
そろそろラブミーテンダー
A       E A
くすぶっちゃってるんだ
E     A E A
そのままコーヒールンバー
D         A    D         A E
例えあいつにバカにされても 調子にのって飛んでいけ びゅーん
D      A      D      E  A
世界中を敵にまわすとしても あの子のもとに飛んでけ

<MC>

雅:ありがとうーー!!
 最近コミックバンドに括られてるけど
 応援よろしくお願いします!
 サードタイムラッキーでした!
 さんきゅう東京!さんきゅう!

ライブハウスの歓声。
 わーーきゃーーわーー

<親>

母:サランラップだかアルミホイルだかしらんけどね
雅:デモテープ!
母:いつまでそぎゃんこつ言っとんね?子供のころからずーーーーっと、根拠のなぁい自信ギャンギャンあふれとったけども!
雅:田舎の母からの電話です
母:いつまでも東京おってもしかたがないさ?もう30も過ぎたら嫁の貰い手もなかろーもん?
雅:結婚願望がないわけよ
母:結婚なんて願望とかそういうことちゃうやろがい。勢いと勘違い、それがマジ結婚っしょ?
雅:おかーさんどこの訛り?
母:おとーさん!おとーさんからもなんか言うたって!おとーさん!
雅:いーいーいーいー
父:(母と同じ)雅か?
雅:父です
父:サランラップだかアルミホイルだかしらんがね、
雅:あれ?
父:いつまでそぎゃんこつ言っっとんね?子供のころからずーーーーっと、根拠のなぁい自信ギャンギャンあふれとったけども!
雅:言うこと同じなの?!
父母:親だもに!
雅:切りまーす。
姉:私にまかせて!
子供3人:おぎゃあ!敵か!おばちゃん!
雅:おねーちゃんと、子供。
姉:子供の写真見てる?!
雅:見てるよ。家族LINEで。
姉:なんでコメントないの?
雅:え、えーとお
姉:天使のようにかわいい写真になんでコメントないの?
雅:バリエーション切れちゃって、かわいいの。
姉:同じでいいの!コピペでいいの!
雅:コピペでいいの?
姉:「かわいい」「ビックリマーク」十分だから!報われるから!子育ての苦労が!
雅:へー
姉:だから怠らないで!?
子供3人:おぎりゃあ!うんこだ!うんこがはみでた!
姉:私からは以上!怠らないで!?ね?
雅:怠らない。

<クラス会>

雅:たまに田舎のクラス会に参加したりすると、
 みんなの変貌ぶりに唖然とする。

クラスメイト登場

クラスメイト:クラス会いええええ!(乾杯)
雅:変わらないねー
白髪:いや鶴田くんハゲた!はいつるん!
ハゲ:うるせえロマンスグレー
デブ:あたし痩せたんだー
演歌:やっぱぁ?!思ってたー!

デブ:ごめん誰だっけ?
白髪:いたっけこんな女子
演歌:きよっちよ
ハゲ:きよっちって
雅:、、氷川くん?
演歌:どん♪どんどん♪どんぞこ♪
白髪&ハゲ&雅:きよちぃ!
雅:綺麗になっちゃったねええええ
演歌:雅はまだ音楽続けてんでしょお?
雅:うん。こんど事務所やっと決まるんだ。
4人:うらやま〜〜〜
演歌:きらきらしてるわぁあ
ハゲ:俺、子作りし過ぎて30でハゲた
デブ:あたしお見合い結婚したけど外れでストレス太り
白髪:独身でヒマでアル中なって、入院させられたよ
雅:え?今は?
白髪:脱走中。ビール!
雅:きよっち、東京じゃなかったの?
演歌:実家つぐことなってね、あきらめちゃった。
雅:きよっちの実家って
ハゲ:土建屋?
演歌:これでメットかぶって現場しきるからもうカオスよ。
雅:みんな大変なんだなぁ〜
4人:たいへんだよおおおお〜〜
雅:わたしがんばるね。みんなの分も。
ブス:応援する!
雅:わたし、夢、諦めないからね。
演歌:がんばれ、雅!
雅:約束する!
ハゲ&白髪:おう!
雅:わたし、みんなみたいにどんどん老け込まない!
ハゲ:いやうっせえわ
白髪:日本酒ください!
演歌:病院帰れ!

<ファミレス>

東京、いつものファミレス

ポン太:へええええ
雅:そんな嫌だったらやめて、好きなことやればいいのにって思う。
ポン太:やりたいことある奴のほー珍しくねええ?
雅:酒飲んで文句言ってる暇あったら探せばいんだよ
ポン太:リーダーせいろん
雅:リードギターのポン太は専門学校の同級生だった。
 作詞はわたしで、作曲はポン太。いいパートナーだと思う。
 最近気付いたんだが、私は、ポン太のことが、好きだ。
 ずっと近くにいたのに、気づかなかったってやつだ。
 だから最近、ちょっと勝手にドキドキしている。
カン子:雅ちゃんおかえりー。
雅:ちょっと聞いてカン子
カン子:さっそく雅節?
ポン太:うんおつかうぃっす
カン子:うぃっすぅ
雅:コーラスとリズムギターのカン子は5つ下の酒豪。
 路上で歌っているとこを私が引き抜いた。
 我々「Third time lucky」略してサッキーは3人でギター二本という、
 少し変わったスリーピースバンドだ。
カン子:親になんか言われたの?
雅:30過ぎれば言ってくるよね
ポン太:カン子まだ言われんべーー
カン子:まだ25だからー。
雅:あ、ちょっちむかつく
カン子:いや事実だしょや
雅:わたし実家から戻ってくるといつもほんとに思う!
 わたしは結婚とかまだできないし、
 安定のために夢犠牲にできないし!
 こうやって音楽の夢あって本当よかったなって。ほんとオ思う!
 ドラムとベース抜けて変な3人組のまんまだけどさ!
 だから、二人、わたしと音楽やってくれて、ありがトゥ〜!
二人:どーいたしましティス
雅:ビール飲む人
二人:うぇ〜い(手をあげる)

<痴漢>

がたんごとんがたんごとん

雅、マスクをつける

雅:(酔っ払い)終電の満員電車さえなきゃ最高なんだがな。
 いや終電まで粘るなってな。でもやつらと飲むのは楽しいからな。
 ファミレスでな。ああ、カン子はかわいい。ポン太は、、すき。
 わたしは、いま浮いてる。乗車率200%で。

がたんごとんがたんごとん

がたんごとんがたんごとん
 次はー明大前ー明大前ー井の頭線はお乗り換えです

雅:あ。乗り換え。
女客:痴漢!この人痴漢です!
雅:え?
痴漢:なにをいっとるんだ!何を!
女客:新宿から私のおしりをずっと触っていました!
痴漢:濡れ衣だ濡れ衣!おまえみたいなブスをさわるかブス!
女客:ひどい!二回も!ひどい!
痴漢:証拠あんのか証拠!
女客:あります!動画撮ってました!
痴漢:すみません見逃してください!
女客:こい!おりろ!

プシュー

雅:おお、、、。
 終わったな、、、、あの人。
 でも、正直、わかんなくもない。
 痴漢してみるスリルも、
 痴漢を突き出す快感も。

がたんごとんがたんごとん

<ネトゲ>

雅:アパートについて猫とあそんでお風呂に入って、
 いつものルーティンが終わる前に、
 ハマってることがある。

時計をみる。アラームがなる。
 パソコンをひらく

猫:なー。えーまたやんのー
雅:にゃー。人生は、ゲームだぜ。

ジャーン(起動音)

M『山の魔王の宮殿にて』

雅:出たボスキャラ。ここはわたしが!
茄子:平民。まず装備を整えろ。
雅:平民ぱーんち!

SEやられる。ぐばぁあ!

雅:ぎゃあ!瀕死だ!
茄子:ほらみろ
雅:パルパチーノさん!
豪:回復魔法

SEしゅいーーーん

雅:ここはわたしが!
茄子:村人装備じゃ火力が足りんぞ
豪:補助魔法、(魔法、魔法)

SEびゅん、ばいーん

雅:はい攻撃力強化!
茄子:でもなぁ
雅:普通のパーンチ!!

SEどごお!

雅:効いた?
茄子:ちょっとな。
雅:パンピーパーーーーーーンチ!

SEどごおおお!

雅:最近ハマっているのは昔流行ったネットゲーム。
  私は丸腰で強くなるという遊びをしている。
  おかげで、リアルでは友達を増やせない私にもネトゲ仲間ができた。
  私のことを知らない人たちとの、うすっぺらな会話が逆に心地よい。

<絶対ウソ>

豪:怖い話していい?
雅:え?
豪:じーちゃんからの電話切ったあと、去年亡くなってたの思い出した。
雅:え、それってまさか
豪:電話、ばーちゃんからだったわ。こわい?
雅:魔導師のパルパチーノさん
茄子:戦闘中に余計な話をしない
雅:このエリアの最強戦士、秋茄子さん。
茄子:アクィナスです。
雅:ちなみにわたしのこの世界での名前は本名、鈴木雅だ!
豪:激辛カレーで汗とまんなくなって10キロ痩せた。
雅:わたしもやろう!
茄子:絶対ウソだ。騙されるな
雅:え?
豪:このまえ熱測ったら50度あった。
雅:大丈夫ですか!
茄子:絶対ウソだ。安心しろ。
豪:チャリで転びそうになって飛び降りた結果、
 60キロで走ってたさ
雅:早い!
茄子:戦うぞ

雅:でもたしかに。年をとって。
 今までとは違う、何かに突き動かされるような感覚がある。
 私たちは。いや、私は。なんのために生きて、なんのために死ぬのだろう。
 毎日、毎日。考えてしまう。
 私たちはそのぼんやりとした衝動に急かされ、
 今日食べるために働き、今日疲れて眠るために遊び、せめて明日に期待をして朝を待つ。
 忙しく生きようとしている。
 毎日、毎日、それに気づかないように。
 焦らないように。

雅:思い起こせば、
  今日という現実世界では、
  死亡フラグが点在していた。

<朝>

SEちゅんちゅん

雅:朝起きると、部屋の中が不気味なくらいに無音だった。
 トースターから、さっきと同じ状態のパンが飛び出した。
 あれ?壊れた?

猫のチョップ

猫:なぁ?
雅:猫のチョップがやたらと甘えてきた。
猫:なんかこう、あばらの裏んとこが差し込むように痛いんだわ
雅:いつもはあんまり擦寄らない猫なのに
猫:なぁ?これストレス?なぁ?
雅:にゃあ
猫:なぁ
雅:にゃあ、どしたのー?
猫:いや、そういうんじゃないんだわ
雅:やばいもうこんな時間
猫:あー、今日昼バイトか?
雅:チョップ、スペシャルランチ&ディナー
猫:いつもと同じだ
雅:ガスよーし水道よーし電気よーし
猫:鍵もかけてけよ?俺逃げ出すからな。
雅:かぎよーし。このキーホルダーも年季入ってきた
猫:付け根がグラグラ。あ、あとケータイな
雅:ぶち高かったアイフォーン!あれ?充電されてない。ぬけてた?
猫:抜けてなかったけど
雅:行ってきますー!
猫:あー、はらいてー

SEドア バタン

<バンド>

SEガタンごとん

雅:田舎の両親にはいろいろと言われるが、
 アルバイトで食いつないでいる。
 バイト先の店長に正社員の話もされたけど、 
 私にはやるべきことがある。
 夢はメジャーデビュー!
 7年目になる私らにもやっと事務所の話が持ち上がっているのだ

LINE

ポン:今日練習やめて会議にするわああ
 カン子がちょい具合悪いらしく
 先着いたら飲んでてー
雅:カン子大丈夫なの?
カン子:私のまないからー
雅:珍しい。相当具合悪いねカン子
ポンカン子:既読無視
雅:既読無視かい!

<バイト先>

SE雑踏

雅:バイト先はサブカルの街、吉祥寺の居酒屋。今日はランチ営業
女店長:鈴木ちゃんごめん!無理行って突然。
雅:いやぜんっぜんっす!嬉しいです!
女店長:忙しいでしょ?音楽活動?ね?
雅:いや最近ぜんぜんライブ入ってないですし。
女店長:んまたまたあ♪プロになる前にサインもらわなきゃっ!
雅:かざってくれるんですか?
女店長:いいなぁ夢あって。応援してるから!
雅:ありがとうございます!
女店長:こんなバイトいつでもやめて?正社員なんないんだしさ
雅:せっかく推してくれたのにすみません。でも、がんばります!
女店長:んーん、気にしないデェ〜

SEカランコローん

ヤクザ:やってんのんかワレェ?
二人:あ
ヤクザ:やってへんのんかボケェ?
雅:えーっとー。
ヤクザ:なんやあ?ええのんか悪いのんかハッキリせんかいごるぁあ
雅:心の声。こいつ、この前も来てたクレーマーだ。
店長:鈴木ちゃん。心の声聞こえてるっ。
ヤクザ:ぼけわれごるぁああ
雅:(小声)いんですか?
店長:こちらのお席どおぞおおおお
ヤクザ:もつ煮込み定食
店長:はい、しょうしょうお待ちくださいませえ

雅:いやな予感しかしなかった。そして、その予感は的中する。そればかりか、あらぬ方へ飛び火するのだ。

<バイトクビ>

東京の雑踏

ヤクザ:なんやなんやなんやなんやなんや!この店はGくわせんのかあ!
店長:申し訳ございません!すぐに代わりのお料理お持ちします!
雅:Gってなんですか?
店長:鈴木ちゃんはだまっといて
ヤクザ:ほれGやG!
雅:なんだゴキブリのことか!!!
店長:他のお客さまもいるから!
ヤクザ:ほれみい真っ黒いG!
雅:うちはクロゴキブリなんて出ません!チャバネはいます!
店長:静かに!鈴木ちゃん!
雅:この前も騒いでましたよこのヤクザ!
店長:鈴木ちゃん!
ヤクザ:二度もG食わす店や!
雅:店長けーさつ!けーさつ呼びましょう!
ヤクザ:よべーるもんならああ、呼んでみいいやああ
雅:ああん?
店長:はい二人ともだまって!
二人:はい?
店長:このタイミングでなんなんだけど、
 重大なことを発表します。
二人:はあ
店長:クビ。
雅&ヤクザ:え?
ヤクザ:クビ?
雅:ヤクザクビ?
ヤクザ:どういうこっちゃわれぇ!
店長:ちがう!鈴木ちゃんがクビ!
二人:は?!
雅:わたしがくび?
店長:ごめん!
ヤクザ:そりゃあんまりやでえええ!
雅:あの、店長、それって
ヤクザ:このねえちゃんが強気やからクビか?
雅:あ、すみません私、良かれと思って。
店長:違うの!
雅:え?
店長:それとこれとは別。
雅:別?
店長:無理。
雅:無理。
ヤクザ:おっとろしい店やで。
店長:だまれ。
ヤクザ:はい
雅:なんと4年続けた居酒屋バイトをクビになった。
 あまりにあっけなくてびっくりした。

雅:私は自分が結構気に入られていると思っていた。
 だから、なんかものすごいショックだった。
 一体わたしの、なにが無理だったんだろう。

<パルパチーノ>

雨の音

豪:なるほどーーバイトクビになった話だ?
雅:え?
豪:仕事なんてね。選ばなければいくらでもあるから、大丈夫だよ。
雅:いや、違うんです!このあとなんです!
豪:え、あ、そうなの。
雅:今日、1日、いろいろあって。
豪:、、重たい話?
雅:はい、わたしには。
豪:そこなんだよなー。
雅:え?
豪:あなたにとってヘビーなことが、
  みんなにとってヘビーとは限らないじゃない?
雅:はい。
豪:そして聞いた挙句どうなるの?こんなさ。ネトゲのつながりでさ。これがゲームの中での話ならさ、全回復ばんばんしてあげるんだけどさ
雅:すみません。
茄子:私は聞きたいです。話。
雅:いやあの無理しなくても。
茄子:私は聞く。

<バンド解散>

カランコローン

雅:いつものファミレスへ向かう。
ポン:おつかうぃっす!
雅:バイトクビになった。
ポン:まじでぴゅーーん!?
雅:なんか突然、無理って言われた。
ポン:ガチかー。きつー。いい感じだったやんか?
雅:そう思ってんの私だけだった。
ポン:まぁ飲め!今日は俺のおごりまんぼ
雅:やったー!ポン太のそういうとこ好き
ポン:生ビアーでええすか?
雅:こういうときに、わたしには仲間がいてよかった。
 打ち明けるだけで嫌なことが軽くなる。
 ポン太がいてくれて本当によかった。。
ポン:はい、2ビールぽちりました。
雅:ほんとに好きかも、ポン太
ポン:わーいすきすきー
雅:いや。ほんと。
ポン:そっかーやったー
雅:あの、ずっと言うか迷ってたんだけど。
ポン:あ!
雅:え?
ポン:俺もカン子くるまえに話しときたいんだけども。
雅:え、なに?
ポン:うん
雅:え?うそ。まさか。
ポン:あ、気づいてた?
雅:いや、でも、うちら、そういうのは、音楽やる上でちょっとあれじゃない?
ポン:な。
雅:でもポン太がいいなら私も。
ポン:あれなんの話?
雅:えなんの話?
ポン:サッキー、解散しよう。
雅:は?
カン:ごめんおそくなって。ふー。
ポン:お。だいじょうぶ?大丈夫かおまえ、なあ?おまえ?大丈夫?
カン:はなした?あたしたちのこと
雅:サードタイムラッキー解散って
ポン:いやそっちじゃなく。
カン:あたしたち二人のこと
雅:ふたり?
カン:ごめんうちらつきあってる
雅:ば!
二人:ば?
雅:ばかな。
ポン:わり!
雅:え?えーと、えーとえと、いや、あ、そうか、そかそか、あ!「やっぱなー」これだ!やっぱなー!いや最近の二人の様子を見てたらわかるよー。「おもってた!」あやしいなぁと思ってた!やっぱなぁ、そおいうことかぁあ。はいはい納得、で?いつからつきあっていたのだちみたち!
カン:12週目入ったの
雅:え?なにがなにが?持久走かなにか?
ポン:妊娠してんだ
雅:ば!
二人:ば?
雅:ばかな。
カン:結婚するの
雅:ご!
二人:ご?
雅:ごめでとう!!
二人:ごめでとう?
雅:ごっつおめでとうってこと!
カン:祝福してくれる!?
雅:祝福!死ぬほど祝福!!
ポン:騙してたみたいでごめんにー
雅:うひいいだーまされたあ!
カン:安定期入るまではってね
雅:ビール5杯くださいー!
カン:エコー写真みるー?
雅:みるー12週というと二ヶ月半
二人:いや四ヶ月
雅:ごめん妊娠に無知で♪これ足?
二人:いや頭
雅:かああわいいい

<パル2>

豪:あ、これは最悪だ。
茄子:うん
豪:なんかかわいそう過ぎて笑えないんだけど。
雅:笑わなくていいです
豪:「男なんて星の数ほどいるんだから」くらいしか言えない。ごめん
茄子:異議なし。
雅:違うんです
二人:え?
雅:ヘビーなのは、この後。
茄子:このあと?
豪:これ以上なんかある?
雅:続けます。
豪:逃げ出したくなってきた。

<それとこれとは別2>

雅:そのあと何を話したのかは全然覚えてない。
 けど、とにかく私はビールを10杯のみとばした。

カン:ふぃいいいんふぃいいいいいん
ポン:なぁくなぁ。なぁくなぁよぉカン子ぉ
カン:だってええ。わたしたちのせえで、
 事務所の話もながれちゃうしさああ
雅:大丈夫。あたしからあやまっとく
カン:ごびええええええん
ポン:なぁくなぁ。なぁくなぁよぉカン子ぉ
雅:カン子は気にしないで元気な赤ちゃん産んで!
カン:うん!そうする!もう気にしない!
雅:おうふ
ポン:では、これにてサッキー、解散てことでぇ!
カン:最後にあれやって!ライブ前の気合い入れ!
雅:え〜〜
カン:やろうよやろうよ雅ちゃん考えたやつ!
雅:うううん。
ポン:妻がこう言ってんで!お願いします!
雅:じ、じゃぁ、、

3人スクラムを組み

雅:行くぞ世界ぅい!!
二人:うぇーーい!
雅:見てろ世間んんぬ!
二人:うぇーーい!
雅:喰らえ一般ぴー
二人:ふぉおおおおおおう!
雅:サードタイムラッキー〜!!はい!
二人:ぽい!
雅:はい!
二人:ぽい!
雅:はい!
二人:はははい!!
カン:くーーーーー!!
二人:だっせぇーーーー
雅:え?
ポン:いやいい意味で!
雅:いい意味で?
カン:いい意味でだせぇ!
ポン:おし!!
3人:おつかぅいっす!
雅:よおおし!わたしもう納得した!
 結婚ね!それで、、解散!、、おっけい!
二人:いや。
雅:え
二人:それとこれとは別。
雅:、、、また?

<ちかん>

SEガタンごとんガタンごとん

雅:だめだ。全然頭がついてこない。
 私はリーダーとして、
 もう7年もこのバンドをやってきた。
 解散したら、私はどうすればいいんだろう。
 満員電車の乗客の顔を
 「わたしもこの人たちみたくなるのか」
 と、ぼんやり眺めていた
 
女客:すみませんやめてください
雅:うわ、ちかんか
女客:やめてください
雅:よーやるなぁ
女客:ちょっと!
雅:え?
女客:や・め・て・くだ・さい
雅:ええ?!もしかして私にいってます?
女客:言ってます。
雅:ば
女客:ば?
雅:ばかな!!!!!!
女客:しらじらしい!!
雅:ええええええ

SE、「つぎはー、千歳烏山ー千歳烏山ー」

女客:おりて!
雅:でもだぞ?
女客:おりなさい!
雅:うっぷ

SEぷしゅー

駅員:どっちが痴漢ですか?
女客:こいつです
雅:ちがいます!
駅員:とにかくこちらへ
雅:は!こういう時ついていくと負けだって聞いたことがある。
女客:みとめないんですか?
雅:証拠あるんですか!
女客:あります!私のこの体が!あなたがさわった熱い手のひらを感触をまだ忘れていません!
駅員:ごくり。具体的に言ってごらん
雅:帰ります!
女客:ちかん!ちかんが逃げる!
雅:ちかんじゃない!私も女です!
女客:女が女の大事なところを触りあうことも
駅員:ごくり。ぜんぜんアリです
雅:ないわ!!
女客:あああやめて!
駅員:あなたよってますね?どのくらいのんでますか?
雅:え
女客:こたえなさい!
雅:い、一杯
駅員:うそつけ!
雅:10杯
女客:あなた音楽とかやってるんでしょう?
雅:え
女客:じゃまなのよあんたたちの楽器!
 自分は特別とか思ってるんでしょう?!
 頼んでないから!だれも!今ある音楽だけで十分!

<夜道>

雅:さっきのが終電だったから、二駅歩く。
 いつもなら、まっさきに二人に痴漢に間違われた件を話して、今度歌にしようねとか言って爆笑するのに。

LINE

雅:あ、ポン太からだ
ポン太:荷物届いてるかも
雅:荷物?
ポン太:ちょっと読んでみてー。
雅:どしたの?
ポン太:おれらから。みやに。これから役立つかもって思って。いい感じだったから。
雅:うん、ありがとう。
ポン太:おやすミッチェル

雅:アパートについて、郵便受けを見ると、本が入っていた。部屋に入り、電気をつける

<停電>

雅:あれ?停電?え?でも、あれ。うちだけだ。
 チョップ?あれ。

電気:5日前に予告状行ってるはずですけどね
雅:よこくじょう?
電気:鈴木、えーと、、どうよみますか?
雅:みやびです。
電気:滞納されてますね三ヶ月。雅なのに。
雅:引き落としですよね?
電気:ちがいますね。
雅:ああ!
電気:はい?
雅:思い出した。

元彼:うん。いったんこっちもらっとこうかな
雅:四ヶ月前、一緒に住んでた元彼
元彼:うん。引き落としって危険だよ?お金の出入りが見えない分。
雅:まさか、ガスも水道も、、
元彼:うん。電気、ガス、水道。僕、色々きっちりしたいからさ。うん。
雅:きっちりしすぎてて、一ヶ月持たずに別れた。

電気:振込み確認できたらすぐに通りますんでね。明日。
雅:明日?
電気:じゃ、おねがいしますー
雅:三ヶ月分?
電気:当たり前じゃないですかー
雅:今手持ちなくて
電気:電気なかった時代もあるわけですから
雅:はあ?
電気:他にご質問なければ私も寝ますけどいいですかね
雅:催促状こなかったのって
電気:行くことになってますから連絡は
雅:なにか手違いがあったり
電気:無いことになってますから手違いは
雅:いやいやいやいや
電気:では失礼しまーす。

<ねこ>

雅:あ、チョップ。
猫:、、なー
雅:あ、どこ?チョップ
猫:なあ
雅:ごめん、怖かった?停電。
猫:げほ。
雅:え?なに?
猫:げほおおお
雅:なに?なに見えない。えっと。ライトライト。どうすんだっけ。あ、カメラのフラッシュ!

カメラのフラッシュで照らされる

猫:はら、はらがいたい
雅:え?!どしたの?なにこれ?血吐いてる?!
猫:やばい、おれ、意識がやばい。
雅:え。え。ちょっと、えと、病院。救急車!猫。え、猫って救急車できるのか?

救急:はいどうされました。
雅:血を吐きました!猫が!
救急:人間でお願いします。
雅:やっぱり!どうしましょう!?
救急:動物の救急病院に自力でお願いします
雅:ありがとうございます!チョップ!大丈夫?
猫:いや、もうほとんどダメだわ。なんか、お花畑が見えるわ

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たくさん台本を書いてきましたが、そろそろ色々と人生のあれこれに、それこれされていくのを感じています。サポートいただけると作家としての延命措置となる可能性もございます。 ご奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。