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『アホロートルの叛逆』(閉鎖病棟、合唱もの)

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〜3月10日 02:00

『アホロートルの叛逆』

桑原ヒカリ:気分障害・鬱病。記憶障害。
内田ニコ:拒食、買い物依存、鬱→双極性障害I型
北島ミノル:双極性障害II型→I型
栗田タロウ:アル中、せん妄
幕間ケイジ:ADHD
権藤キヨシ:統合失調症
堀江マサフミ:若年性認知症
葛木アトム:医者院長
黒金サチ:看護師長
田中ジュリ:准看
春山サンペイ:ヘルパー
斉藤セイヤ:清掃員

 水槽に、ウーパールーパーらしきものがいる。
 客入れ曲はリラクゼーション音楽。
 客入れ最後の曲、合唱曲『春愁』(伴奏)が上がる。

01<開演>

 暗の中、セリフ

ヒカリ(声):私は、やけにはっきりした夢をみる。誰かが言う。
ミノル(声):「アホロートルはネオテニーなんだって。子供のまま大人になるの。でもたまに陸にあげると大人に変態するやつもでてくるの。」
ヒカリ(声):私はおかしいのかもしれない。

 桑原ヒカリが、水槽をのぞいている。
 救急車の音。ぴーぽーぴーぽーぴー
 その前をバタバタと行き来する人影
 足音がやみ、顔を上げる

ヒカリ:、、、、、、、、

 救急車の音が止む。

ヒカリ:私は救急車で運ばれたらしい。真夜中に目がさめると私は、保護室というトイレとベッドの他に何もない小さな部屋に居た。数日後、拘束を解かれ、今日の日付を聞いたら、看護長は笑顔でこう言った。
黒金黒金:メリークリスマスイブイブー♪
ヒカリ:え

 音楽『KANのChristmas Song/KAN』
 音楽にあわせ、指パッチンしながら、病院チームの入場。
 葛木アトム、田中ジュリ、春山サンペイ、斉藤セイヤがノってる。

ヒカリ:このとき、
病院の四人:(アカペラをきどる)
ヒカリ:私の中の何かが溢れ出た
デストルドン:はい溢れだせ〜〜!
手下四人:わぁ〜〜い!

 デストルドーズ(五人組)溢れ出る

ヒカリ:あれ?
デストルドン:桑原ヒカリに敬礼!
手下四人:んぁ!(敬礼!)
ヒカリ:は?
黒金:メリークリスマスイブイブー♪
デストルドン:攻撃しますか?
ヒカリ:攻撃?
デストルドン:こうげーーーき!
手下四人:ぬぁああああああ!!
ヒカリ:私は、点滴を引き抜き、
黒金:ちょっと桑原さん?
ヒカリ:スタンドをぶっ倒し
黒金:おちついてください!!
ヒカリ:シュークリームをぶっつぶした。
黒金:なによもおおおおお!!
ヒカリ:って後からジュリさんから聞いた。
黒金:拘束!拘束してー!!
ヒカリ:そのあたりの記憶がまるでない
葛木・田中・春山・斉藤:うおーーーーう
デストルドーズ:うぃいいいいい

 ジュリ、サチをひっぱる
 サチ、ヒカリの首をしめ、がっくんがっくんする
 斉藤、あたりを掃除する
 春山、ウケる。
 デストルドーズ、踊る
 葛木、水槽をみている。

 音楽あがる。

02<閉鎖病棟、談話室>

 音楽カットアウト。明転。
 そこかしこに患者がいて、各々好きにしている。
 パジャマの人、私服の人
 服装。ひもは禁止。私物の持ち込みは禁止。
 医者、看護師、准看護師、ヘルパーがパタパタと通り過ぎる。

03<大部屋へ移る>

ジュリ(声):こっちです。

 客席側から准看の田中ジュリの声がする。
 舞台上の患者たちが一斉に見る。

ジュリ:はい。どうぞ。

 後から桑原ヒカリがくる

ヒカリ:、、
ジュリ:保護室での拘束を終え、晴れて、みなさんの前に出てきました。えーと。
ヒカリ:桑原ヒカリです。

 皆、ヒカリを眺めている。

ヒカリ:、、、、
幕間タロウ:晴れて。
栗田ケイジ:晴れてね
ニコ:わー(拍手)ほら。

 ぱらぱらと拍手。口々になんか言う。
 北島ミノル、立ち上がる。

北島ミノル:、、うるっさ。

 ミノル、立ち上がる

ヒカリ:?
ミノル:、、、、

 ミノル退場。

権藤:うーあ
ニコ:うーあだねー
幕間:ウケる(笑)

 看護師長の黒金サチ、すいっと登場。

黒金:あれ?着替えは?(ジュリに)
ジュリ:これからで(す)
黒金:先にして。

 サチ退場。

幕間:サッチャー(笑)
患者:(笑)
栗田:鉄の女。
ニコ:わかる?
ヒカリ:え?

 全員、3秒ほど「あ、全然おぼえてねえのか」と思う、時間。

権藤:ぬああ
ヒカリ:(ビクッ)
栗田:あ、古いか
幕間:古いよ。
ヒカリ:、、、、
ジュリ:、、やっぱやめよーこの仕事。
ヒ:え?
ジュリ:えっと四人部屋
ヒカリ:聞いてないんですけど
ニコ・幕間:あー(笑)
ジュリ:え?あ、大丈夫ですよー(棒読み)
ヒカリ:?
栗田:はいはい
ヒカリ:、、あの、スマホ。
ジュリ:桑原さんはスマホ禁止です。幕間さん時間すぎてる(手を出す)
権藤キヨシ:ふふっ
幕間:キヨシに笑われた(渡さない)
栗田・ニコ:いーじゃねーか
ジュリ:あ。(あたふた)カルテ。
ヒカリ:?
ジュリ:ちょっとここ居てくださいすいません。
栗田:わすれもん
幕間:またか
ニコ:まただわ
栗田:ジュリちゃん
幕間:たるんどるぞー
ヒカリ:、、、
ヒカリ以外:うへへへへへ

 堀江マサフミ、白衣で登場

幕間:あ。
栗田:あ。
ニコ:あ。
堀江:おはようございます
幕間・栗田・ニコ:おはようございまーす
ヒカリ:あ。
堀江:寝られましたか?昨日
ヒカリ:退院じゃ、ないんですか
堀江:退院?
ヒカリ:もう、あの、落ち着いたんで。
ヒカリ:大丈夫です。もう、普通です。
堀江:あ、そう。
幕間:先生。(挙手)
堀江:はい?
幕間:証拠を見せてもらえたら。
ヒカリ:え?
ニコ:あー
栗田:なるほどなるほど。
堀江:証拠ね。
ニコ:正常だっていうね
幕間:証明というか。
ヒカリ:証明?
堀江:ま、座って座って

 ヒカリ、座る。

栗田:一見わかんないよねぇ。キチガイかマトモかなんて。

 ヘルパー、春山サンペイ走ってくる。

春山:おはよっす!はよ!はよー!おっす!おねがいしゃす!しゃっす!
 あれ?あれ?(足元を気にしてる)

 清掃員、斉藤セイヤ走ってくる

斉藤:あああん!あちゃあ!
春山:濡れてるここ?
斉藤:ごめん!おしっこ!
春山:ううええ?!
斉藤:たは!たはは!
春山:新品!くつ新品!(退場)
斉藤:ごめごめごめ!たっはぁ!(ついてく)
権藤:あぁはぁ
ニコ:(うなづく)かわいそうに。
幕間:(うなづく)ねぇ。
栗田:(うなづく)うんうん
ヒカリ:、、え?
権藤:(うなづく)うん
ヒカリ:、、、
栗田:早口言葉はどうですか?
幕間:あ。いいね。
ニコ:完璧に言えたら正常ってことね。
ヒカリ:え。
幕間:(スマホ)じゃあ。早口言葉。これ。

 幕間、スマホを見せる。

 「マグマ大使のママ マママグマ大使」
 「魔術師魔術修業中」
 「除雪車除雪作業中」など。日替わりで。

 ヒカリ、早口言葉を間違うまで言わされる。

四人:あーーーー
ヒカリ:いや今のは(いいわけ)
堀江:アウトー

 医者、葛木アトム、サチ。白衣を探している

葛木:うーん、、
黒金:どこで脱いだんですか?
幕間:あ。

 葛木、サチ、堀江を囲む。
 他、逃げる。

ヒカリ:え?
堀江:どうしました?

 葛木、隠し持っていたぴこぴこハンマーで堀江を叩く

葛木:(ぴこ)、、どうかなコレ
黒金:イイと思います
葛木:あ、惜しいね
黒金:惜しいですか
堀江:なんのはなし?
葛木:脱げ。

 サチ、白衣を脱がせ、葛木に着せる。

ヒカリ:え?
葛木:院長の葛木です。
ヒカリ:え?(堀江を見る)
堀江:え?(サチをみる)
黒金:え?(堀江を二度見)
葛木:(ピコ)(堀江に)
堀江:だれ?
黒金:はぁ(ためいき)
ヒカリ:あの、、
葛木:あ、覚えてない?
ヒカリ:、、。
黒金:あ!まだ着替えてな〜い!

 ジュリ、カルテもって登場

ジュリ:やば。
黒金:せんせ!(ジュリを指さす)
葛木:お。
ジュリ:?
葛木:(ぴこ)(ジュリ)、、どうコレ?
ジュリ:かわいい。
葛木:ジュリちゃん正解
ジュリ:あ。正解。
黒金:あなたは化粧が濃い!!(退場)
ジュリ:、、、、
葛木:まぁ、フランスじゃ、
 「ニシン樽はいつでもニシン臭い」って言うしな

 葛木も退場

ヒカリ:この人は?
ジュリ:若年性アルツハイマー。堀江まさふみさん。あだ名、社長
堀江:はろーゆーちゅーぶ(キメ)
堀江・ジュリ:わははは(笑)
ヒカリ:、、ここ、どこなんですか?
堀江:精神病院
ヒカリ:え?
ジュリ:ここは、国立第七精神病院、閉鎖病棟、D棟です。

 栗田走りこみながら

栗田:くるよ!精神病院あるあるくるよ!

 音楽「ラジオ体操第二」
 でんでででん!でんでででん!てっこてこでーんででん!

 掃除夫、体操着のお兄さんになって登場。

幕間・ニコ:きたきたきたきた!
栗田:へんな時間のラジオ体操!

斉藤:♪両足跳びで全身をゆする運動から~はい!!

 みんなあつまってくる
 みんなでラジオ体操第二をする

斉藤:いち、に、さん、し、ごー、ろく、腕と足の曲げ伸ばし

 患者たち、口々に「なんでこの時間?」「変な時間にやるわ」「なんで?」「朝ちゃうんか」「あ、二だ」「今日二だな」「第二だ」「第二だな」などという)

斉藤:振り上げて、曲げ伸ばして、曲げ伸ばして、振り下ろす、腕と足を元気よく曲げて延ばします
 いち、に、さん、し、ごー、ろく、腕を前から横へ
 開いて、振り下ろして、大きく回します、開いて、(間)、腕を大きく回します

04<ざわざわ>

 いつのまにか全員スローモーションになる

 ヒカリ独白

ヒカリ:私は閉鎖病棟に閉じ込められた。
 あてがわれたのは四人部屋。同室の女の人たち。
 
ニコ:仁義のジンに子供の子で仁子だけど嫌いだから、ニコって呼んでね。
ヒカリ:、、はい
ニコ:あと、ミノルちゃんっ。
ミノル:(無視)
ヒカリ:4人部屋って、、。
ニコ:あ、自殺だってさー。
ヒカリ:え
ニコ:外泊許可出たのに。自殺。
ヒカリ:、、
ニコ:ヒカリちゃんは、なんでここに?
ヒカリ:、、
ニコ:ああ、まだちょっとアレか
ヒカリ:アレ?
ニコ:意識混濁中?

 ミノル、ヒカリを見てる

 みんなデストルドーズ仮面を装着する。

05<閉鎖病棟にて>

 独白

ヒカリ:私を閉じ込める鉄の扉。監視カメラだらけの天井。10センチしか開かない窓、しきりのない相部屋。

 SEひたひたひた。

ヒカリ:大部屋のベッドの一つに潜り込む。
 消毒で消えない病院のシーツの匂い。
 保護室にいた時には気づかなかった、いろんな音。

 SEシュコーシュコーピ、、ピ、、ピ、、

ヒカリ:廊下に響くすすり泣き、だれかの奇声。ここの空気は澱みきってる。

 SEドンドンドンドン!ううう、うううう

ヒカリ:こんなところに居たら。わたしはたぶんおかしくなる。

デストルドーズ:ざわざわ、ざわざわ
ヒカリ:明日私は先生に言おう。
 私は正常だって。これはきっと何かの間違いだ。

デストルドーズ:ざわざわざわざわざわざわざわ

 ラジオ体操の音楽があがる。

 水槽にアホロートル

 水槽に照明、ポンプが稼働する。
 ぶくぶくぶくぶく

06<夢>

 暗の中曲が切れ

ヒカリ:睡眠薬で眠らされた私は変な夢をみた

 デストルドンと手下4人。

ドン:はい整れぇええつ!
手下四人:はい!
ヒカリ:え?
ドン:お願いします!

 合唱曲『信じる』

♪笑うときには大口をあけて
♪おこるときには本気でおこる
♪自分にうそがつけない私
♪そんな私を私は信じる
♪信じることに理由はいらない
♪信じることに理由はいらない

ドン:いや、ありがとうございましたー!
手下4人:ざしたー!!
ヒカリ:ほんとに変な夢だな!
ドン:作詞・谷川俊太郎、作曲・松下耕『信じる』でしたー!
ヒカリ:中高は合唱部だったから知ってます
ドン:おやまぁ!
手下4人:おやまぁ!!
ヒカリ:だからだれ?
ドン:自分らですか?
ヒカリ:だれ?
ドン:はい番号!
4人:1
ドン:だめ!
手下1:1
手下2:2
手下3:3
手下4:4
ドン:5人あわせて!
ドン&手下:デストルドーズです!だ!だい!だじょ
ドン:合わせれー!はーっはっは!
手下4人:はーっはっは!
ヒカリ:だからなに!
ドン:リーダーのデストルドンで、あります!
手下4人:ドンどーん!
ドン:デストルドーの説明を姫が所望されておる!誰か!
手下四人:はいはいはいはいはいはい!!
ドン:よしイチロン。デストルドーとはっ。
手下1:四の字固めで力道山と対戦した覆面レスラー、
ドン:"デストロイヤー" 違う!イチロンが説明したのは昭和に活躍した「白覆面の魔王」ディック "ザ・デストロイヤー" ベイヤー。
手下1:あ!
ドン:他!
手下四人:はいはいはいはいはいはい!!
ドン:よしジロン。いってみよう!デストルドーとはっ。
手下2:♪乗りもの酔い症状の予防及び緩和に♪
ドン:トーラベぇルうミン♪違う違う!それはエーザイの酔い止めトラベルミン!そんなCMもない!
手下2:あ!
ドン:デストルドー!トラベルミン!二つ目にしてかなり離れた!
手下四人:はいはいはいはいはいはい!!
ドン:頼むぞサブロン。もう勇気だけじゃダメだぞ!デストルドーとはっ!
手下3:男性ホルモン!
手下3・ドン:テストステロン!
手下3:あ!
ドン:簡潔さ!つっこみのしやすさ!声の大きさともに申し分ないが、全然違う!
手下四人:はいはいはいはいはいはい!!
ドン:シロン!
手下4:正解をいいます!
手下123&ドン:お願いします
手下4:デストルドーとは。

 音楽

手下4:フロイトの提唱した精神分析学用語。
ドン:そのとおーり!
手下4:「死にたい気持ち」のことである
ヒカリ:死にたい気持ち?
手下3:人間の無意識的な自己破壊的傾向
手下1:最古の欲動
手下4:自他の区別なき生命破壊
ヒカリ:デストルドー
ドン:それは「悪魔的」破壊衝動である。
ヒカリ:あなたたちは私の
五人:死の衝動だ
ヒカリ:そんなはずない
五人:あなたの衝動だ
ヒカリ:これは夢だ
五人:認めるのだ
ヒカリ:これは悪い夢だ。
五人:我々を受け入れ
ヒカリ:わたしは
五人:楽になるのだ。
ドン:はい、姫も一緒に!!

 合唱のつづき、ヒカリも歌う。

♪葉末(はずえ)のつゆがきらめく朝に
♪何を見つめる小鹿のひとみ
♪すべてのものが日々新しい
♪そんな世界を私は信じる

 みんな、軽くおどる。
 6人でポージング。

 ヒカリ:なんなのーーーーー!!!

 伴奏、あがる

07<次の日。大部屋にて診察>

 大部屋にヒカリ、葛木、ジュリ、黒金。ミノルもいる

ヒカリ:は?!スマホ依存?
葛木:まぁ、暫定的に。
ヒカリ:暫定的?
黒金:当面とかとりあえずとか、
ジュリ:とりま。
ヒカリ:スマホ依存で入院とか、あります?
葛木:困った時代になったもんです。にゃー(新しい道具)どうかなこれ?
ヒカリ:は?
黒金:かわいいです!
ジュリ:かっこいい
葛木:正解。
黒金:田中さん仕事が遅い!!
ジュリ:(無視)内田仁子さーん
ヒカリ:あの、私は?!
葛木:とりま。1週間。
ヒカリ:1週間?!とりま?!

 次の人、ニコ

ニコ:あ、やっべ。先生来てた。
葛木:うにゃー(新しい道具の機能を披露)
ニコ:かっこいい!!
葛木:具合どーですか
ニコ:ぼちぼちですなぁ
葛木:「ですなぁ」と(診察終わり)
ニコ:やばい、ひるおび(テレビ)がやばい(退場しかける)
ヒカリ:わたし、正常です!
ニコ:お?(面白そうだから聞く)
黒金:桑原さん
ヒカリ:、、
黒金:あなたは措置入院なんです。
ヒカリ:なんですかそれ
黒金:強制入院。
ヒカリ:え?
黒金:自分を傷つけたり他人に危害を加えようとするおそれがある場合、知事の権限により措置入院となります。
ヒカリ:、、危害?
黒金:この説明はもう何度もしています。
ヒカリ:え?
黒金:まだ脳がバグってます。
葛木:ま、『タンゴを踊るには2人必要』っていうし
黒金:スペインの言葉
ジュリ:フランス
黒金:次どこ?!
ジュリ:次男子部屋ですー(退場)
葛木:あれ?あ、そっか減ったのか(退場)
黒金:はい(退場)

08<ミノル>

 ミノル、立ち上がる。
 ヒカリをみる

ヒカリ:、、、
ミノル:、、、
ヒカリ:?

 ミノル、ヘッドホンを外し、

ヒカリ:、、、

 そっと、ヒカリにかけようとする

ヒカリ:なになになに!
ミノル:、、、

 ミノル、ためいきをつき、居た場所にもどる

ヒカリ:、、、、、、

 おろおろする。

09ニコ>

ニコ:ピカリンさー。
ヒカリ:(ビクッ)え。
ニコ:自分が正常だなんて訴えるだけ無駄だから。
ヒカリ:、、
ニコ:認めた方がいいと思う。

 間

ヒカリ:でもわたし、おかしくなんかないし。
ニコ:じゃあ、それ、あたしたちが言ったら信じる?
ヒカリ:、、、はい。
ニコ:うっそでーぇ。なんか今日離人感パねぇな
ヒカリ:、、
ニコ:ねータバコ持ってる?
ヒカリ:吸わないんで
ニコ:すえよー!もーいーわじゃーお前には用はねーよー。
 あばよ。おとといきやがれだ。ふん!死ね死ね!

 間

ヒカリ:、、
ミノル:、、
ニコ:ごめん今ひどいこと言ったので私最低。
ミノル:、、
ニコ:許してもう二度と言わないと思うたぶん
ミノル:(耳打ち)許したほういいよ。
ヒカリ:え、
ミノル:勢いで言ったこと後悔しがちなの
ヒカリ:あ、えっと、許します。

 間

ニコ:えへ♪ありがとぷ(ケロ)
ヒカリ:ぷ?
ニコ:あ、おい!そこのダンディ、タバコねえか!
ヒカリ:、、、、、

09<スマホ探し>

ヒカリ:、、、、、、、、

 スマホを探す。

ミノル:何か探してる?
ヒカリ:は。、、、いや、なんでもない。
ミノル:北島実です。24歳。
ヒカリ:あ、桑原光凛、22歳です。
ミノル:知ってる。
ヒカリ:あ、、

10<ルーティン>

栗田:はい音楽!!

 栗田、滑稽に出てきて指パッチン。
 音楽(youtubeでよく聞くやつ)

栗田:それでは「割とまとも」なこの私、栗田太郎がこの国立第七精神病院閉鎖病棟D棟、略して7Dでの1日をご紹介いたします。
周り:いよっ(拍手)
栗田:「7D閉鎖病棟の毎日ルーティン」
周り:やんややんや(拍手)
栗田:朝7時、起床。そして検温。からの病室の整頓。
 患者数に対して職員の数が圧倒的に少ないという事実はさておき、
 ここでは患者の自立をモットーに、患者ができることは患者が行う
 8時、談話室とよばれる部屋に患者は集められ朝食タイム。
患者たち:わいわいがやがや
栗田:自立およびコミュニケーション能力の向上という名のもとに
 配膳および下膳も患者が自分たちで行う。
患者:おいすくないぞ
栗田:麦飯、生卵、たくあん二切れ、白菜のみそ汁。
患者:またこれか。
栗田:利益をあげるには徹底的なコストダウンであるとばかりの献立。
患者たち:いただきますごちそうさま
栗田:そして服薬。
 患者たちは廊下に出て、看護師の前にずらりと列を作り、順に番号と名前。
患者:20番、幕間ケイジ
ジュリ:はいどーぞー
栗田:患者それぞれに対して医師が処方する大量の薬を看護師が見ている目の前でのみくださねばなりません。
患者:ごくん。うえー
栗田:平均5種類7錠、どのような薬を飲まされているのかを把握している患者はほとんどおりません。
患者:たくさん出して儲けてんだ
栗田:特徴的なのは病状はさまざまだというのに全員が等しく飲んでいる緑のこな薬。
患者:(あくび)ま、でもいっかー(のび)
栗田:飲むと、どうも眠くなり頭の回転がにぶるので、
患者:ぱやりらーーん
栗田:わたしは舌の裏に入れて飲み込む量を減らし、口に残った分は便所で吐き出す。
患者:いいいねええ
栗田:9時。部屋にもどり点呼を受ける。
ジュリ:堀江さーん
患者:36.4。1回と4回
栗田:朝の検温結果と昨日の大小の回数を言い、自由時間。
患者:ひまだ
栗田:10時。症状によっては食間の服薬。
患者:うえー
栗田:そして朝の作業療法。本日は、習字。
 みな思い思いに作業をする。はい発表
患者:(漢字二文字)
患者:(漢字二文字)
患者:(漢字二文字)
栗田:11時半。昼食。カレーライスは人気があり、
患者:おかわりここまでー
患者:ええええ
栗田:12時。昼食後の服薬。13時変なタイミングでラジオ体操。14時回診・面談。15時食間の服薬。16時夕方の作業療法。18時夕食と食後の服薬。

 斉藤、掃除しながら聞いている。

幕間:でもまぁ基本、暇。
栗田:それにつきる
堀江:つきるわー
ニコ:あー毎日毎日、おなじことの繰り返し
ヒカリ:薬ばっかりですね。
栗田:暴れられると管理できないからさー。

 ニコ、UNOを配り、始める。
 社長と清のカードは、となりの人が手助けする

ヒカリ:え、管理。
栗田:俗にいう「薬漬け」という奴で。
ニコ:確かに。
栗田:調剤薬局との絡みで薬を処方すればするほど、マージンが病院に入ってくるというウワサもある。
ニコ:20時就寝。21時消灯。
ヒカリ:はちじ?
ニコ:お風呂は3日に一回、30分。
幕間:スマホも1日30分
ヒカリ:地獄だ。
ニコ:思った。
幕間:でも慣れる
栗田:そう、人間は慣れることができる生き物です。

ヒカリ:、、みなさん、どのくらいいるんですか?
ニコ:あたし半年
ヒカリ:え?
幕間:俺1年、こいつなんて5年だ。
清:ふあふあ
栗田:社長なんてもう10年選手じゃないかな。
堀江:忘れたなぁ。
栗田:私はまだまだ。新参者で。1ヶ月。
ヒカリ:詳しいですね。
栗田:物書きでね。調べちゃうんだよつい。
幕間:あと、言うこと聞かんやつは、やられるよ。電パチ。
ヒカリ:電パチ?
栗田:電気ショック療法。
幕間:な?
清:ああぅ
斉藤:ちょっとちょっとちょっとー
幕間:昔はめっちゃ暴れてたらしいよ、清。ね?
清:はー
幕間:いまじゃこんなだけど。
ニコ:やられたの?!
栗田:前頭葉に通電することで痙攣発作を誘発する。
幕間:(清のこめかみに手を添え)バチバチバチバチ!
清:(痙攣)うふうふうふうふ!
ヒカリ:、、、、
ニコ:あれ社長もやられた?
堀江:さあー。忘れちゃったなぁー
ニコ:ヒカリちゃんも気をつけて。
堀江:こんなになっちゃうから(笑)
ヒカリ以外:へへへ(笑)
斉藤:まーた、堀江さんまでー。
幕間:でも、本当のことだから。
ニコ:それ聞いてあたし、必死に飯食ったし。
ヒカリ:?
斎藤:あ、電気は生命の危機と判断される症状に用いられるんです。
ニコ:拒食とか。あと、希死念慮。
ヒカリ:希死念慮?
幕間:自殺したい人
ヒカリ:、、、
ニコ:ヒカリちゃんセーフ?アウト?
ヒカリ:(食い気味)セーフです!
栗田:よかったねぇー。
斉藤:あんまり怖がらせたらダメだよ
幕間:でもさ、予備知識もなくバチバチっとやられるのも嫌じゃん?
斉藤:今は、誓約書だってやりとりするし。全身麻酔ですから。
ニコ:こっちが普通じゃないときにサインさせられて、薬で寝かせられて脳味噌に電気かけられるってね。怖いよねぇ?
栗田:50年代には一旦廃れたんだ。
斎藤:懲罰的に行われていたからでしょ。
栗田:管理する側の人間は悪魔にもなるってことだよ
斎藤:でも効き目はあるから残った技術でしょう
栗田:なぜ効くのかは解明されてないけどね。
ニコ・幕間:おっかね!
栗田:誰が得するかってことですよ。
権藤:ぬあー
栗田:ロボトミーもやってると俺はみてる
幕間:あー脳をちょんぎるやつ?
栗田:そう。脳外科手術でやけに大人しくなるアレ!
堀江:ジャックニコルソン!
権藤:ふぉおう
ニコ:『カッコーの巣の上で』あれ?下だっけ?
幕間:あれ禁止じゃないの?
栗田:批判が多くて自主規制しただけで。実はあれ、今でも合法だ。
ニコ:うえーおっかねえ
権藤:あー
斉藤:栗田さんはなんでも火種にするなぁー
ニコ:この人は掃除のおじさん。
斉藤:斉藤です。ただの掃除のおじさんです
ヒカリ:あ(会釈)
斉藤:半分できいた方いいよ栗田さんの話は。
ヒカリ:でも安心しました。
堀江:あんしん?
ヒカリ:もっと、怖い人たちかなって、思ってたから。
幕間:頭やばい奴らの集まりだって?
ヒカリ:、、ちょっと。
ヒカリ以外:(どっと笑う)
ニコ:いや、大丈夫。
幕間:そういう意味では、
栗田:ちゃんとキチガイだから。
堀江:みーーーんな♪

 間

ヒカリ以外:(どっと笑う)
ヒカリ:、、、、
幕間:あれ?清おまえUNOストップだわ
清:おお
幕間:おお
栗田:強いな清くん
ニコ:社長、いまどうなってる?
堀江:清がトップで5600円。ニコ2000円。私1200円。栗田マイナス3000円。幕間マイナス5800円。
栗田:この人、数だけ強いの。
堀江:痴呆なのにねー♪
ヒカリ以外:うへへへへ(笑)
幕間:よし、まくる!あ、斉藤さんやる?
斉藤:いやいや、ギャンブルはちょっと。
幕間:遊びでしょ遊び
斉藤:仕事中だから
栗田ニコ幕間:仕事しろよ
斉藤:たはー!お邪魔しましたー(退場)

幕間:あ。ヒカリちゃんやる?
ヒカリ:いや、1週間で出るんで。
ヒカリ以外:ああああああ
ヒカリ:え?
栗田:誰にでもいうんだよ。そやって。
ヒカリ:え?
幕間:そうして、知らないうちに退院が伸びてくわけ。
ニコ:ま、あいつら、虫だから。
ヒカリ:は?
ニコ:わたしらとは祖先が違うから。
栗田:へー
ニコ:哺乳類を集めて、エキス抜きたいんでしょ
幕間:ウケる。なんのために
権藤:ふぉふ
ニコ:理解したいんでしょう。私たちを。ふふふ
幕間:(突然のキレ)何言ってっかわかんねぇよ
ニコ:気門(場所を示す)で呼吸してんのかゴラァ!
権藤:(不快感)ううううん
堀江:あれ?
ヒカリ:え
堀江:新しい人ですか?
ヒカリ:、、、はい

 春山、ベルを鳴らしながらくる

春山:(カランカランカランカラーン)食間の服薬ー食間の服薬ー
ジュリ:食間のお薬のある方は、ならんでくださーい

 ミノル、並びにくる。

栗田:、、、、持病持ちや、症状の重いやつらは薬が多いんだよ
ヒカリ:あ、皆さんは(軽いんですね)

 幕間以外、同時に立ち上がる。
 そして、無表情に列に並ぶ。

ヒカリ:、、、
幕間:いやー。ウケるよねー
ヒカリ:、、、
幕間:俺はADHD、栗田さんはアルコール中毒のせん妄、社長は若年性アルツハイマー、ニコさんは摂食障害と双極性障害I型、清は統合失調症となんだっけなー
ヒカリ:、、、、
幕間:でも面白いのがさ
ヒカリ:、、、
幕間:男子はお互い「あいつよりましだ」と思ってるってことー
ヒカリ:、、、
幕間:女子はね。「自分のほうが大変」って思ってるらしー

11<清>

 清とおりかかる

清:、、、、、、ううー。ん?うー

幕間:あいつはさ。異世界の電波をキャッチしてんだよ。
ヒカリ:え
幕間:いっか?

 幕間、清のじゃまをする。

清:うううう!ううううう!!!!

 清怒る。

幕間:あ間違った間違った。ごめんごめん清ごめん
清:ふー!ふーー!!
幕間:ネコか!あやまってんだろが!!
清:うう、ううう!!!

 ミノル、清のとこへ。

ミノル:はいはい。よしよし。死ね幕間!
清:うう(落ち着く)。
幕間:わけわかんねえよな(笑)
ヒカリ:、、、
ミノル:行こうあっち。

 清、退場。

12<幕間>

幕間:俺、任意なんだよ。任意入院。だからいつでも出られるんだー。(キレ)あ、信じてない?信じてないでしょその顔は?
ヒカリ:いや、信じてます。

 ジュリ通りかかる

幕間:ねえジュリちゃん!俺任意だよねぇ?ねえ?

 春山も通りかかる。

幕間:あ、サルヤマ!!おいサルヤマ!!
春山:はるやまでーす
幕間:ねえ!俺任意でしょ?ねえ?
ジュリ・春山:(ためいき)
ヒカリ:?
幕間:なんだよそのためいきは!
ジュリ:春山さんお願いします
春山:うぃーす(屈伸運動)
幕間:言ってやってよこの人俺が任意入院でいつでも出れるって信じないんだよ?!
ヒカリ:いや、
ジュリ:幕間くん。前も言ったけど、幕間くんは、医療保護入院に切り替わったから。ね?
幕間:(キレる)はあああああ?!!!!
春山:(つかまえる)おいっしょおお
幕間:ふざけんなああ!!だれだああ!だれだ裏切ったのわああ!!
春山:おーし。おーし落ち着こうぜ。
幕間:やだーー!やだああああ!!!脳の手術だけはいやだーー!!!
ジュリ:大丈夫ですよーー(棒よみ)
ヒカリ:、、、、

13<社長>

堀江:あれ?会ったことあるかな?前に。
ヒカリ:え。
堀江:いかないのー?ご飯だよもうすぐ。
ヒカリ:あ、行きます。
堀江:えっとー、名前えっとー。
ヒカリ:あ、(そうだ痴呆の人だ)
堀江:ああー出てこない、だめだな。ははは
ヒカリ:あの、ヒカリです
堀江:たぶん何回も聞くよー。3秒で忘れちゃうからー
ヒカリ:あ。はい
堀江:撮っていい?(一眼レフ)
ヒカリ:あ、はい。
堀江:はいチーズ

 カシャッ

堀江:あー、撮れた。ほらー。
ヒカリ:、、、
堀江:キャノンの7D(セブンディー)すっげー古いやつなんだけど。当時すっげー欲しかったやつでさ。ま、フルサイズじゃないんだけど、APS-Cの最高峰と言われた機種。

 3秒の間。

堀江:あごめん。君、だれだっけ?
ヒカリ:、、、、ヒカリです。
堀江:たぶん何回も聞くよー。3秒で忘れちゃうからー
ヒカリ:、、、

 堀江、退場。
 すれちがってミノル戻ってくる

14<感想>

ミノル:だいじょぶ?
ヒカリ:ちょっと、びっくりして。みなさん、えっと。個性的で。
ミノル:すわる?
ヒカリ:、、、、
ミノル:ここ入る前は、ほんとに社長だったみたい。
ヒカリ:え
ミノル:堀江さん
ヒカリ:、、ヘぇ、、。

15<栗田登場>

 栗田、登場。

栗田:あ、ひかりちゃん、
ヒカリ:、、あ。どうも

 栗田から距離をとり

ヒカリ:、、だめだ。

 スマホを探す。

ヒカリ:スマホ、、、くそ。

16<サッチャーのお守り>

黒金:あ、桑原さん。
ヒカリ:あ、よかった。
黒金:どしたの?
ヒカリ:あの、スマホ、私のスマホください。
黒金:スマホは、渡せない。
ヒカリ:なんで!!!、、、、

 つい大きな声、

ヒカリ:(ためいき)、、すいません。
 なんか、イライラして。
黒金:信じて欲しいんだなー。私たちのこと。
ヒカリ:、、、

 黒金、何かを出す

黒金:これあげます
ヒカリ:、、なんですか。

 干し首みたいなのを渡す

黒金:お守りです。
ヒカリ:、、お守り?
ミノル:チッ(舌打ち)

 ミノルいなくなる。

黒金:早く、よくなりますように。
ヒカリ:、、私、病気じゃありません。

 黒金、しゃがみ、目線を合わせ、

黒金:ここだけのはなし。
ヒカリ:はい。
黒金:人を信じられないのは「ピイ(ผี)」のせい
ヒカリ:ピイ?
黒金:悪霊って意味です。
ヒカリ:は?
黒金:タイ語で。「ピイ(ผี)」
ヒカリ:タイ語?ぴー?
黒金:「ピイ(ผี)」。イライラするのも、うまく行かないのも。あなたの周りの「ピイ(ผี)」のせい。持っていて。この子が「ピイ(ผี)」から守ってくれるわ。
ヒカリ:、、どーも。
黒金:いいの。

 黒金、立ち去ろうとする。

ヒカリ:これ、手作りですか?
黒金:現地の人がね。
ヒカリ:?
黒金:ちゃんと編み込んでます。神様の体毛。
ヒカリ:体毛って、、?
黒金:毛♪(退場)
ヒカリ:(ぶん投げる)

 ヒカリ。寒気、ふるえる

ヒカリ:、、なんなの、、ここ。
栗田:はっはっはっ。
ヒカリ:(警戒)
栗田:いや、失敬。

17<春山っす>

春山:うあっと!いたー!ぴかりん!あすんません桑原さん。唐突にあだ名で。
ヒカリ:(会釈)
春山:えっとヘルパーの春山ですー。皆さんからは影でサルヤマと呼ばれているのを僕は、承知しています。誰が猿やねんっ。よろしくお願いします。
ヒカリ:あ、はあ(会釈)
春山:覚えてます?点滴ひっこぬいてスタンドぶっ倒してシュークリームぶっつぶしたの?
ヒカリ:えっと
春山:僕言ったんですよやめとけって、サッチャーに。でもクリスマスだからって聞かないんで。
ヒカリ:サッチャー。
春山:おちゃめなオールドミスなんです。許してやってください
ヒカリ:あの、サッチャーって、、。
春山:鉄の女、1990年までのイギリス第71代首相マーガレットサッチャーですね。2022年78代首相あっと言う間に消えてしまった鉄の女2.0リズ・トラズの線ももちろんあったんですが、本名が黒金サチなんでまぁ、やっぱここはサッチャーかなと。このニックネームは本人知らないんで気をつけてください。僕がつけました。
ヒカリ:こういうとこ、初めてで。
春山:あ、初めて。
ヒカリ:はい
春山:あー、えーと。そうでしたそーでした。
ヒカリ:え?
春山:なんかあったら相談してくださーい
ヒカリ:はい。ありがとうございます。
春山:ほんじゃっ(走って)
ヒカリ:あっ!
春山:(戻ってくる)はいサルヤマです
ヒカリ:これ(干し首)
春山:なんですか?
ヒカリ:くれたんですけどいらなくて。
春山:またかサッチャー。
ヒカリ:なんですか?
春山:アニミズム信仰ってんですか?ハマってて。
ヒカリ:はぁ。
春山:僕あずかっときます。欲しくなったら言ってください。
ヒカリ:はぁ。
春山:ほんじゃっ(走って)
ヒカリ:あっ!
春山:(戻ってくる)はいサルヤマです。
ヒカリ:あの!!退院するには、どうすればいいですか?
春山:あ!簡単だよ!
ヒカリ:え?ほんとに?
春山:退院の許可をもらうこと!!

 春山走って退場。

栗田:ぷははは!
ヒカリ:、、
栗田:はーあ。あ。失敬失敬。

 ニコ、うねうねと登場

ニコ:サルヤマになんか言われた?
ヒカリ:え
ニコ:気をつけた方いいよ
ヒカリ:え?
ニコ:何人もやられてるから。
ヒカリ:、、え?
ニコ:サルだから。
ヒカリ:、、
ニコ:、、ミノルちゃんもさ。

 ミノル入ってくる

ヒカリ:え?、、、、
ニコ:今の話なしね〜♪

 ニコ、うねうねと退場。

ミノル:どしたの?
ヒカリ:、、、、いや。

18<栗田です>

栗田:おかしくもなるんだよー。こんなとこにいれば。
ヒカリ:、、、
栗田:病院の連中にもろくなのがいない。掃除の斉藤はム所帰り。サルヤマはサルだし、サッチャーはアニミズム信仰、葛木院長は患者で実験してるな。
ヒカリ:、え
栗田:ちなみにおれはね、アルコール中毒からのせん妄。
ヒカリ:、、、、
ミノル:いこ。

 ヒカリ、ミノルその場を立ち去ろうとする。

栗田:ってことになってる。
ヒカリ:、、?
栗田:実は俺、患者じゃないんだ。
ヒカリ:、、、、は?
栗田:潜入ルポライター。
ヒカリ:、、、
栗田:患者にまぎれて、緑の粉の謎を追っている。ふふふふ

 と、緑の粉薬をこっそり見せる

ミノル:ははははは
ヒカリ:は、ははは
栗田:ふふふふ
ヒカリ・ミノル:ははははは
栗田:あ、コレ、みんなには内緒でね。

 栗田、その場を立ち去る
 入れ替わりで斉藤、掃除をしにくる。

19<衝動>

 ミノル、水槽へ

ヒカリ、、とにかく、ここにいちゃ、ダメだ
ミノル:ヒカリちゃん。
ヒカリ:、、え?

 ヒカリ、水槽のほうへ。
 二人、水槽を見る。

20<斉藤とウーパールーパー>

斉藤:ウーパールーパー
ヒカリ:え
斉藤:昔流行ったんだよね。やきそばのCMで。知ってる?
ヒカリ:いえ
斉藤:たはっ!知らないよね。昭和だもんねアレ。
ヒカリ:、、
斉藤:メキシコサンショウウオ。学名はなんたっけな。
 アホ、アホ、
ヒカリ:、、アホロートル?
斉藤:あ、そうそれ!
ヒカリ:なんで私、知ってるんだろう。

 三人、ウーパールーパーを見る。

斉藤:そろそろこの水槽じゃ狭いかなぁ。
ヒカリ:、、、
斉藤:あ、動いた。
ヒカリ:刑務所入ってたんですか
斉藤:たはー!!聞きにくいことはっきり聞くねぇ
ヒカリ:もう、誰も信用できない感じなんで、すみません
斉藤:ま、入ってました。入ってました。4年くらい
ヒカリ:私は1週間も、無理だ、、
斉藤:まぁ。でも、すぐ慣れるよ。
ヒカリ:慣れたくないです。
斉藤:たはー!そーだよねー!でもねー。しょうがないからなぁー。
ヒカリ:なにやったんですか?
斉藤:、、ギャンブルで、、
ヒカリ:、、、、
斉藤:そちらはえーと、何入院ですか?任意、じゃないよね?
ヒカリ:措置入院。とか言ってました。
斉藤:てことは、なんかやらかしてるわけでしょう?
ヒカリ:やらかしてる?
斉藤:自分を傷つけたり、他人を傷つけたり・
ヒカリ:え?
斉藤:自殺未遂とか、暴力をふるったり、とか?
ヒカリ:、、、
斉藤:あ、いや、ごめん!嫌なこと思い出させたかな?!たは!失敬!

 斉藤、仕事へ戻る。

21<知ってる>

ヒカリ:そうだ。私、覚えてない。
ミノル:、、
ヒカリ:なんで、ここにいるのか。
ミノル:、、
ヒカリ:、、、私、何をしたんだろう

 院内放送。音楽『ペールギュント』がかかる。

22<夢>

ヒカリ:お昼寝の時間、また私は薬を飲まされて、変な夢をみた。

 ウー、パー、ルー、パーツーたち4人。一人はヒカリ

ウー:「記憶障害」とは何ぞや
パーツー(ヒカリ):え?
ウー:なにぼけっとしてるんだ。パーツー
パーツー:パーツー?
ウー:わたしがウー
パー:わたしがパー
ルー:わたしがルー
ウー:ウー
パー:パー
ルー:ルー
パーツー:、、パーツー?
ウー:四人合わせて
3人:両生綱有尾目(りょうせいこうゆうびもく)トラフサンショウウオ科トラフサンショウウオ属に分類される、メキシコサンショウウオのアルビノを品種改良した幼形成熟個体。
パーツー:なっげー
ウー:記憶障害というのは、本当に不思議なもんだよ。
パー:誰にでも起こる「物忘れ」とは異なりますか?
ウー:記憶が「抜け落ちる」ような症状をさす。
ルー:原因は脳の損傷、認知症、そして心的ストレス。
パーツー:心的ストレス。
ウー:記憶障害は誰にでも起こる。
ルー:たとえば子供時代のことや結婚していること、仕事のこと、家族のこと。ある部分の記憶がすっぽり抜け落ちてしまう
パーツー:え
ウー:ある事件が起こったことにより、
ルー:脳が、記憶を消しちゃうんだ。
パー:つまり
ウー&ルー:自分自身をまもるために。
パーツー:え
パー:思い出せるんですか?
ウー:何かきっかけがあればねぇ
パーツー:きっかけ
ウー&ルー:うん。
パー:どんなきっかけですか?
ウー&ルー:ある言葉、だろうね
パー:言葉。
ウー&ルー:キーワードだ。
パーツー:キーワード
パー:思い出すとどうなりますか?
ウー:あまりおすすめしないなぁ。
パーツー:どうして?
ルー:思い出さない方が
パー:なるほどなるほど
ウーパールー:幸せな場合もあるか。

 ヒカリ、お面を取る。

ヒカリ:、、え。

 音楽上がる。

23<当事者治療>

 患者7人、春山、ジュリ、黒金

ジュリ:今日の当事者治療ミーティングのテーマは幸せについてです。
春山:いよ!(拍手拍手)
黒金:テーマに沿って自己を省みることで病気と向き合いましょう
春山:はい、拍手拍手!(みんな拍手拍手)
黒金:では、そちらから、どうですか?
堀江:え?あー。なんだっけ?
黒金:幸せについて
堀江:ああ、幸せね。幸せ。うん、幸せだなぁ
ジュリ:ありがとうございました
黒金:回復したいという気持ちがよく現れていました。
ジュリ:感動しました。
ヒカリ:そうでした?
栗田:お約束お約束
黒金:では、おとなり。
ヒカリ:え
清:(一応立つ)あ。うーーふ。うーん。
幕間:以上です。
ジュリ:ありがとうございました
黒金:回復したいという気持ちがよく現れていました。
ジュリ:感動しました。
ニコ・幕間:いやいやいやいや
清:ふおふ
栗田:はい!えークリクリです。こんにちは
ヒカリ:は?
全員:こんにちはクリクリ。
ヒカリ:うわわ
ニコ:ニックネーム。
幕間:おっけーだから
栗田:私はしがない作家ですが、ここ数年は何も書けない状態が続いていました。そして、つい酒に手を伸ばしていました。このビール一本を飲んだら書こう、この焼酎をお湯でわったら書けるかもしれない、酒の量はどんどん増えていきました。ある日、いつものパック酒に手を伸ばすと、パック酒が私に語りかけてきました。それが、幻聴のはじまりでした。「ぽっくんはパック酒だ。おまえは合成酒のぽっくんよりも役立たずだ。パックんぽっくん」
ジュリ:ありがとうございました
栗田:あれ?
黒金:回復したいという気持ちがよく現れていました。
栗田:まだ続くんだけどなー
ジュリ:感動しました。
ニコ:うん感動はした
黒金:では次の方
幕間:はい、えーと、マクゴナガルです
全員:こんにちはマクゴナガル
春山:ハリーポッター
幕間:えーと****************
 *****(幸せと日常について)*****
 *********************
 (例:たまに自炊しようと思って。スーパー行って、
 醤油と、味噌と、納豆と、豆腐を買って、
 あと第3のビールと枝豆もカゴにいれて、
 そんでお会計で
 ああ、今ぜったいレジの人に
 「こいつ大豆しか買わん」て思われてんなーって。
 そういうのって、幸せですかね?逆に。、、あれ?)
ジュリ:ありがとうございました
黒金:以下省略。
幕間:はしょんなよ
ニコ:はい!ベネディクト・カンバーバッチです
全員:こんにちはベネディクト・カンバーバッチ
幕間:いわすなや
春山:マクゴナガル静かに
ニコ:わたしは、幸せは、男子とつきあったらとか、高校受かったらとか、免許とったらとか、就職したらとか、結婚したらとか?、思ってたんだけど。結局、せっかくローンで買った家の中にも、見つかんなくて。それで、アマゾンでめっちゃ買い物してたら、やっぱ私片付けられなくって、そんでゴミ屋敷なっちゃって、旦那もなんか暴力ふるってきて、「え?どこ?しあわせ」って感じで。で、もう、食べないほうが幸せかなーって、なんか思っちゃって。拒食はじまっちゃって。それで、結局入院させられました。旦那に「子供作ろう」とか言われたんだけど、「え?私がこんなに人生期待できてないのに、子供育てるなんて無理じゃね?」って。思いました。ま、虫にはわかんねーか。おわり。

 間

ジュリ:ありがとうございました
ニコ:はーい
黒金:回復したいという気持ちがよく現れてました。
ニコ:なんかてれるー
ジュリ:感動しました。
ニコ:え?した?(ヒカリに)
ヒカリ:、、はい。なんか
幕間・ニコ:うぇーい(幕間とハイタッチ)
権藤:うえええ(僕もハイタッチ所望)
ニコ:あ、うええええい(出遅れハイタッチ)
黒金:他にありますか?
ミノル:パス。
ジュリ:では、最後、どうぞ。
ヒカリ:あ、えっと。幸せ。ですか。
黒金:はい。幸せです。
ジュリ:はい。大丈夫ですよーゆっくりで。パスもありです。
黒金:えー、(引用)「人は幸せにならなくてはなりません」

 間

ヒカリ:あ。

24<きっかけ、幻覚>

 明かり変わる。

ヒカリ以外:ざわざわざわざわざわ
斉藤:ざ、ざ、ざ、ざわざわざわ

 斉藤掃除をしながら、お面を被って現れる。
 よくみると母である。

母:光凜。
ヒカリ:、、ママ?
母:あなたは幸せにならなくちゃ。
ヒカリ:!!!

25<混ざる>

 ヒカリから言葉が漏れ出る

ヒカリ:あの、、幸せは、、あの、私は、
「自分はいま、しあわせなんだ」って言い聞かせてるとこあるっていうか。
 本当は、「これほんとのわたしなのかなっ」て。
 だから、今の嘘をこう、破壊したい欲求が、あります
 教えて欲しくて。誰かに。誰か、わたしと同じようなざわざわや、
 ドキドキを解決してる人に。会いたい
 だからずっと、探してしまう。スマホで一日中。

デストルドーズ(声):ざわざわざわざわざわざわ

 照明、いつの間にかヒカリだけになっている
 声、大きくなり、突然消え。

デストルドーズ(声):ざわざわざわ!!!!

26<我にかえる>

ジュリ:ヒカリちゃん?
ヒカリ:え?

 明かり戻る。

ミノル:大丈夫?

 ヒカリ、我にかえる

ジュリ:何かありますか?幸せについて。
ヒカリ:あ、あ、と、パス。パスです。
黒金:それでは時間が余ったので最近の私の愛読書から引用をします
患者たち&春山:うわー
ジュリ:(春山をこづく)
春山:はい、静粛に。静粛に
黒金:私は孤独ではない。私たちは孤独ではない。
幕間:つらいんだよこれ
ニコ:あたしがんばったのになー
栗田:なら俺の話をさせろっての
清:うー
堀江:ぐーぐー
春山:寝た
黒金:私は自己の欲求・行動・感情に対して無力である。足・行動、耳・素直に聞く、口・感情の分化、を使い、仲間を信じて、私は回復してゆくでしょう。続きまして、私が最近自費出版した『ぜんぶピィのせい』からの引用です。

 音楽『別れの曲(ショパン)』が放送でかかる
 
ジュリ:時間なったので終わりです
黒金:え。私の本は?!
ジュリ:次回でー

 皆。終わった終わったと文句をいいながら席を立つ

 ヒカリ、なんとなく水槽を見ている。

ミノル:フラッシュバック?
ヒカリ:え
ミノル:幻覚とか。突然くるときあるから。
ヒカリ:、、幻覚?
ミノル:気分悪くなったら、誰か呼んで?

 ミノル、水槽を見て

ミノル:アホロートルはネオテニーなんだって。
ヒカリ:、、
ミノル:子供のまま大人になるの。
ヒカリ:子供のまま、大人。
ミノル:うん。
ヒカリ:あれ。、、デジャヴだ

27<清の歌>

 清が、悪い電波を拾っている

ヒカリ:、、、
清:あ。

 清、まるで普通にヒカリを見る

ヒカリ:、、、、

 ヒカリ、目を離せなくなる。

ヒカリ:、、、、
清:あー。

 しばらくそのままの二人。

清:うおおうーおいこえーー(くもをーとびこえー)
ヒカリ:?
清:おこあーええいおお(どーこーまでいこーお)
 おーおおおおぅいいーアイがあああ(そーこーにーなにかがーー、)
ヒカリ:あ
清:あうてー(まぁてー)うーぬーがああー(いーるーかー)
清:うあんあん(手拍子)うーああんあん(手拍子)んあんあああうー
 (手拍子)ぱぱっぱぱん!
 合唱の方々元気に登場する。
 幕間、ニコ、栗田、堀江、春山、斉藤、ミノル(伴奏・ジュリ)

ヒカリ:え?
合唱の方々:らん♪らーんら♪らんらんらんら、らららーん♪らんらーららららん♪

合唱の方々:
 ♪気球にのってどこまでいこう
 ♪そこにかがやく夢ーがー、あるからー

ジュリ:てらりらりん、じゃん♪
合唱の方々:、、(ヒカリを見ている)

 間

ヒカリ:え、、これは、幻覚?

28<ウパ吉>

 合唱の方々、一瞬考え、

合唱の方々:、、

 何事もなかったかのように、
 「やれやれ」「ひまだひまだ」と入院生活に戻る。
 口々にいろいろなことを言っている。

合唱の方々:ぺちゃくちゃぺちゃくちゃぺちゃ
ミノル(声):アホロートルはネオテニーなんだって。
ヒカリ:あ。
合唱の方々:ぺちゃくちゃぺちゃくちゃぺちゃ
ミノル(声):子供のまま大人になるの。
ヒカリ:デジャブじゃない。前にも聞いてる。

 院内の人たちが交差する。
 しだいに慌ただしく。

合唱の方々:アホロートルはネオテニー
ヒカリ:え
合唱の方々:子供のままで大人になるぞ
ヒカリ:なに
合唱の方々:アホロートルはネオテニー
合唱の方々:子供のままで大人になるぞ
ヒカリ:なにこれ
デストルドーズ:ざわざわざわざわ

29<パニック>

ヒカリ:なにこれ。調べなきゃ
デストルドーズ:ざわざわざわざわ

 ヒカリの手がスマホを探してポケットをまさぐる
 無い。

ヒカリ:無い。
デストルドーズ:ざわざわざわざわ

 めっちゃ探す。こわくなる

ヒカリ:調べなきゃ。調べなきゃ。 
デストルドーズ:ざわざわざわざわ

 デストルドーズがまざる。

ヒカリ:調べなきゃ。なのに。
デストルドーズ:ざわざわざわざわ
デストルドーズ:(たまに聞こえる)幸せ
デストルドーズ:ざわざわざわざわ
デストルドーズ:幸せ、、幸せに、、幸せに

 頭をかかえ、うずくまる。

ヒカリ:だれ!?
デストルドーズたち:あなたは、幸せにならなくちゃ
ヒカリ:!!やめてよ!!!

 同時に、全員おし黙り、ストップモーション
 照明変わる。
 みな囁やく、「しあわせ」「しあわせ」

清:んああ
ヒカリ:なんか、きもちわるい。
清:ヒカリちゃん
ヒカリ:え?

 振り向くと、清が正気の目をしている。

清:僕らは水槽からは出られないの?
ヒカリ:、、、、、

 清、ウーパールーパーのような動きをする 

デストルドーズ(声):ざわざわざわざわざわ
清:僕だよヒカリちゃん。
ヒカリ:なに
清:ウパ吉だよヒカリちゃん?
ヒカリ:、、ウパ吉?
清:うん、ウパ吉だよ?
デストルドーズ(声):ざわざわざわざわざわ

 照明もどり

ミノル:どしたの?
清:あー

 清、心配して手をとる

ヒカリ:やだ!!触るな!!
清:あー
ヒカリ:さわるなキチガイ!!!
 
 ジュリ走ってくる

ジュリ:ヒカリちゃん!
清:うあは!

 倒れるヒカリ。
 ミノル、ジュリ、抱きとめる。

 暗。

30<夢。入院の記憶>

ヒカリ:そして私は夢を見た。
 くっきりとした、まるで本当にあったみたいな、夢だった。

 SEセミの声。ミーーンミンミンミンミン

葛木:オーヴァードーズねぇ。

 明転

 ヒカリ、ヘッドホンをしている。

ヒカリ:市販の咳止め薬です。
ジュリ:え。咳止め?
ヒカリ:気分アガるんですたくさん飲めば。
葛木:死ぬ気はあったの?
ヒカリ:半分半分、ですかね?
葛木:ですかね。と。
ジュリ:え。半分半分、っていうのは?
ヒカリ:あわよくば死んだら楽かもな。ぐらいの?
ジュリ:あ。
葛木:ぐらいの。と。
ヒカリ:そこメモします?
葛木:なんで死にたいの?
ヒカリ:幸せってなんですかね。
ジュリ:幸せ、、
ヒカリ:私めっちゃ普通でハブられたこともグレたこともないし
 大学も割といいとこ入ったしまぁまぁいい感じだと思うんですけど、なんか、暇なんです。生きてる意味とか、なさそうだし。
ジュリ:、、、
ヒカリ:ありますか?長く生きて。どうですか?
葛木:どうですか?
ジュリ:楽しいこともあるし。とにかく生きてた方が。
 あ、死んだら、楽しいことも、ないじゃない?
ヒカリ:先生、いつまで私だけスマホ禁止ですか?
葛木:我々はドーパミンの分泌をひっきりなしに受けねば
 生きていけない脳みそになってしまった。
ヒカリ:現代病なら私に限ったことではないです!
葛木:君は自分の病状をまだ認めていないようだ。
ヒカリ:この閉鎖病棟で、何もすることがないんです。
葛木:外の世界だと違いますか?
ヒカリ:え?
葛木:外の世界では、やるべきことを見つけていますか?
ヒカリ:、、、
葛木:何もすることがないのは外だって一緒だよ。
ヒカリ:、、ほんとだ。
葛木:うん
ヒカリ:どうすればいいんですか?
葛木:間抜けだなぁ君は。
ヒカリ:間抜け?
葛木:同室に同じようなこと言ってる阿呆が居たから、それを客観的に観察してみなさい

 葛木、退場。

ヒカリ:なにあれ!むかつく!うける!
ジュリ:え?
ヒカリ:だれ?
ジュリ:葛木先生。

 ミノル

ミノル:、、あ。新人?
ジュリ:あ、えっとちょうどいいや。同室の
ミノル:まぬけ女?
ヒカリ:はぁ?!
ミノル:先生がろーかで。
ヒカリ:あいつ
ジュリ:、、、、
ヒカリ:桑原光凛、22歳です。
ミノル:北島実です。24歳。
ヒカリ:あなたは?
ジュリ:あ、、田中ジュリ28歳、、です。
3人:はじめましてーーー。

 セミの声、大きくなる。
 ミーーンミンミンミン

 暗

31<夜中、談話室>

 非常灯の緑の明かり

ミノル:、、、、

 水槽を眺めている。
 かたわらにギターがある。

ミノル:あ。

 視線の先から、ヒカリが歩いてくる

ミノル:だいじょぶ?
ヒカリ:運んでくれたんですか?ベッドに。
ミノル:ジュリさんがね。

 ミノル、ギターをつまびく

ミノル:おもちゃギター
ヒカリ:わたし、大学軽音部で、中学高校合唱部。
ミノル:知ってる
ヒカリ:え

 ミノル、音楽を選んで、ヒカリに片方を。
 二人で一つのヘッドホンから音楽を聞く

ミノル:これでしょ。
ヒカリ:そう『ミセス』。高校最後の合唱でやったの
ミノル:うん
ヒカリ:なんで知ってるの?
ミノル:教えてくれたの、ヒカリだよ
ヒカリ:、、あれ、やっぱり、夢じゃないんだ。

 ジュリ

ジュリ:あ、いた。大丈夫?
二人:、、、、
ヒカリ:大丈夫です。
ジュリ:もしかして、思い出した?
ヒカリ:少し。
ジュリ:どこまで?
ヒカリ:え?
ジュリ:全部?
ヒカリ:じゃ無いと思います。
ジュリ:そっか。良かった。
ヒカリ:え
ジュリ:全部思い出したら、すぐ言ってね。
ヒカリ:、、はい。
ジュリ:うん。
ヒカリ:わたし、会ってますよね。二人と。
ジュリ:、、、うん。
ミノル:そーだよ

 ミノル、ギターをぽろろん

ミノル:おもちゃピアノは?
ヒカリ:あ、おもちゃピアノ、、。なんでしたっけ。
ジュリ:あ。そうだ、おもちゃピアノ!できるかな。待っててね(ジュリ、とりにいく)
ヒカリ:え?
ミノル:はい。いくよ。ミセス。
ヒカリ:え?
ミノル:♪「早いものね」と、ハイ
ヒカリ:え。

 じゃらーん

ミノル:じゃ一緒にね。1、2の、3はい

『春愁』Mrs. GREEN APPLE

(ミノル)
♪「早いものね」と心が囁いた
♪言われてみれば「うん、早かった」
♪また昨日と同じ今日を過ごした
♪そんなことばっか繰り返してた

(おもちゃギター)(ヒカリ)

♪「憧れ」「理想」とたまに喧嘩をした
♪どうしても仲良くなれなかった
♪青さのカケラが行き交うが
♪やっぱり摘み取ることは出来なかった

(2人)(ギター、おもちゃピアノ)

♪大嫌いだ
♪人が大嫌いだ
♪友達も大嫌いだ
♪本当は大好きだ

ミノル:おー。
ヒカリ:、、、すごーい
ミノル:まだ覚えてたね
ヒカリ:、、、、
ジュリ:まだ覚えてた。手が思い出すんだよね。
ヒカリ:、、、練習した。
ミノル:うん。
ジュリ:うん。
ヒカリ:今年の夏、私はミノルとジュリさんに会って、たくさんの時間を過ごしたんだった。
ジュリ:いち、にの、さんっ
(合唱)

♪明日が晴れるならそれでいいや
明日が来るのならそれでいいや
あなたが笑うならなんでもいいや
世界は変わりゆくけどそれだけでいいや

ヒカリ:わたしはどうして、この記憶を忘れていたんだろう。

 過去になる。

32<夏の終わりごろ>

 『春愁』の伴奏がクロスフェード

ヒカリ・ミノル・ジュリ:ありがとうございましたー。

 幕間・権藤・堀江・春山・斉藤が拍手しながら出てくる。

男子:うえーーーい
ヒカリ:できたできたー
ミノル:うんうん
ジュリ:あー緊張した
幕間:いやすげえ!いいわ!!
権藤:ふぉーー
堀江:ぶらぼー
ジュリ:こっそり練習したもんねー
ヒカリ:夏の間ずっとね
春山:いつやってたの?
ミノル:真夜中にリハビリ室とかで
斉藤:いやー才能ですなあ
堀江:はい、チーズ

 カシャ

ミノル:おおー。
ヒカリ:いい写真。
ジュリ:なんか照れるな
幕間:なんかいいなぁ。
堀江:やりたくなっちゃうねぇ?
斉藤バンドとかねー
権藤:ふおおお
春山:楽器なんかできるんすか?
堀江:ぜんぜん
幕間:じゃダメだ
斉藤:春山くんは?
春山:口笛できます
斉藤:たは!だめだこりゃー
ヒカリ:、、

 男子退場。

ジュリ:どした?
ヒカリ:できるよね。
ミノル・ジュリ:え?
ヒカリ:バンドじゃなくても、みんなでやれるよね。
ミノル:え?
ジュリ:わたし、サッチャーに聞いてくる。
ミノル:なにするって?

 音楽上がり、場転

33<秋の記憶>

 音楽の中風鈴の音。チリーーンチリーーン

ジュリ:C棟の開放病棟から引っ越してきた内田仁子さんですー。
ニコ:軽い鬱からの摂食障害だったんですけど、突然そっからやけに元気になって全能感感じるあたりもしかしておまえ双極性障害のI型じゃね?という精神病あるあるライフ真っ盛り。今日の気分は「死にたい」です。よろしくお願いしまーーす。
ミノル・ヒカリ:お願いしまーす
ニコ:わたし取り上げられたんですけどイヤホン!
ニコ:くっそ!ここも虫だらけか!
ジュリ:(小声)まだ混乱してるから。そっとしといて。
ミノル:うん

 ジュリ退場
 ヒカリ、立ち上がり、ニコの方へ進む

ヒカリ:ニコさん!!
ニコ:そっとしとけ!!
ヒカリ:ソプラノいけますよね?
ミノル:ちょっと、ヒカリ!
ニコ:おめーも卵で増えてんのか?!
ヒカリ:合唱!合唱やりましょう!
ニコ:んあ?

34<クリスマス合唱>

 幕間、ヒカリ、ミノル、ニコ、権藤

幕間:んあ?!「クリスマス会で合唱しようぜ?」
ヒカリ:うん
幕間:どういう意味だよ
ヒカリ:そのままですけど。
幕間:合唱?!なんで?
ヒカリ:、、なんでだろ。

 間

ヒカリ:楽しいから。
幕間:え。楽しくねえよ合唱なんて!
ヒカリ:じゃ。暇だから。
全員:、、おおおお。
ヒカリ:わたしたち、なんにもしてないじゃないですか。
幕間:いや入院してるじゃないか!
ヒカリ:毎日、食って寝て
ニコ:それ普通じゃね?
ヒカリ:夏だったのに、秋になっちゃった!
権藤:ふっぁあああ

 ジュリ、はいってくる。

ヒカリ:作業療法での並びで、カラオケあるじゃないですか。なら合唱でもいいじゃないかって!
権藤:んああ。
ジュリ:先生、いいって。
ヒカリ:よっしゃああ!!!
黒金(声):ただし!

 回想のサッチャー

黒金:諍(いさか)いが起これば即刻中止!音楽の授業の「歌のテスト」は地獄です。歌わざるものを歌わせる、音楽室にはいつもピィ!!
ジュリ:わかりました!わかりましたああ!!!

 ジュリ、回想のサッチャーを下げる

ヒカリ:どーせとうぶん出られないんでしょ?
 私は、何もせずにただ生かされているのが嫌だ。
 
 間

ミノル:、、あたしやる。はい。他
ニコ:じゃまあ、ハイ。
ヒカリ・ミノル・ジュリ:お!!
ニコ:でも歌えるかどうかわかんないよっほっほっほほー♪
ヒカリ・ジュリ:できてるできてる。
ミノル:他!
権藤:(挙手)
幕間:できんのかおまえ!
ヒカリ:あとは。
幕間以外:(幕間見る)
幕間:わかりましたよやりますよ!でも音痴だからな?!しらんけど!
ジュリ:合唱はこころだから!
 まわりの音をよく聞いて一生懸命歌えば、
 きっと素敵な合唱になります!
幕間:あつっ
ヒカリ:なんと、ジュリさんも高校合唱部でした。
ジュリ:伴奏やってました。
権藤:ふぃい
ジュリ:それであの、みなさんの音域を知りたいんで
幕間:やばい。本気のやつ来た。
ジュリ:(おもちゃピアノ)(♪ちゃーん)
ニコ:本気じゃないのもきた
ヒカリ:どーしたんですかそれ
ジュリ:キッズルームでほこりかぶってたから。
ミノル:わたし合唱わかってないんだけど。
 何人いればいいの?
ヒカリ:女子がソプラノとアルト、男子がテノールとバス。
ジュリ:2人ずつの8人入れば一番いいけど。
ミノル:じゃ、女子が、
ヒカリ:1。
ニコ:2。
ミノル:3。
ジュリ:男子が、えーと
幕間:1。
権藤:あぅいー
幕間:コレ数に入れる?
ジュリ:では、初日の今日はこれです(プリントまわす)
ミノル:(読む)楽しい発声のドリル1「あくび」?

35<楽しい発声のドリル1>

「あくび」楽しい発声のドリル1(詞・曲:岩河三郎)
♪あくびが出るよー アーアーアーアー
♪あくびが出るよー (権藤)アーアーアーアー

幕間:あああ!!

♪あくびの時は、のどがいっぱいひらきますー
♪アーアーアーアー、アー、アーアーアーアー

幕間:戦力になってるう!!
権藤:ふうはは!
ジュリ:どんどん行くわよ!
幕間以外:おー
幕間:はりきってんな
ミノル:幕間うるさい
ニコ:おこられぷー
ヒカリ:次の週!!

 皆腕組み。

ニコ:しかし、バス2人かー
幕間:いや、1.5だろー。

 堀江、なんか歌いながら登場。

全員:、、、、、
堀江:ん?
全員:いたーーー!!!!
堀江:え、なに?
ヒカリ:合唱やろう!社長!
堀江:あ、おっけー
幕間:軽!
ミノル・ヒカリ・ジュリ・(権藤):やたーー(ぬあああ)!!!
堀江:多動力
幕間・権藤:は?
ニコ:歌詞おぼえれんのか
幕間:男子ぼろぼろじゃね?
ジュリ:はい!
ミノル・ニコ:(読む)楽しい発声のドリル2「ためいき」!

36<楽しい発声のドリル2>

「ためいき」楽しい発声のドリル2(詞・曲:岩河三郎)
♪ため息をつくように
♪喉に力を入れないで声を出そう
♪あーあーあああー、あーあーあああー
♪あーあーあああーああー、あーーあああああー

ジュリ:その調子よ!社長!!清くん!!
幕間:めっちゃ戦力になってるぅ!!
ニコ:けっこうイケてんじゃね?!
ヒカリ:なんとかなる?
ミノル:やれるやれる!!
権藤:んがー
堀江:来週には忘れるけどねー
ニコ:普通の曲は無理だな
幕間:男子不足!
全員:うーーーん

 たまたま通りかかる斉藤

斉藤:掃除はいりまーす。
女子たち:男子!!
斉藤:え?
幕間:従業員あり?!
斉藤:いんですかぁ?
全員:まんざらでもねーー
ヒカリ:さらに次の週!!
ジュリ:いちにのさん

37<気球にのってどこまでも>

♪気球にのって どこまでいこう
♪風にのって 野原をこえて

 春山、登場。

♪雲をとびこえ どこまでもいこう

春山:?なに?なにこれ?え?あ、しってるかも、えとね

♪そこに なにかが まってーーー 

春山:♪いーるーかー、らん!
 らーららんら、らんら、らんらららー!

 春山、独自のスタイルで勝手に参加

全員:らんらーららんららんららん!

 ぱぱんぱぱん!

 ♪ときには、なぜか、

ヒカリ:そして、(♪大空に〜)今年の夏は、
 あっと言う間に過ぎ去ったのでした。

 ♪旅して、みたくっ、なーるーものさー、さあ、さあ、さあ
 (リフレイン処理)

 暗。

38<3人>

 ヒカリ。ミノル。ジュリ

ヒカリ:私、夏にオーバードーズで入院して。
 それで、ミノルちゃんと、ジュリさんと会って、
 ニコさんや、幕間くんや、清くんや、社長と、合唱部をつくって。
 斉藤さんが増えて、春山さんも勝手に入って。それから、
ミノル:楽しかった!
ヒカリ:楽しかった。
ミノル:あんなに楽しいこと、入院して初めてだった。
ヒカリ:それで、あっと言うまに、秋になって。
ミノル:そう、栗田さんが入院してきて、
ジュリ:ヒカリちゃん。
ヒカリ:全部思い出せそうな気してきた!
ジュリ:ストップ
ミノル&ヒカリ:え?
ジュリ:ちょっと休もうヒカリちゃん
ミノル&ヒカリ:どうして?
ジュリ:え。
ミノル&ヒカリ:どうして止めるの?
ジュリ:ヒカリちゃん。
ミノル&ヒカリ:どうして。せっかく思い出そうとしてるのに
ジュリ:急に思い出そうとすると、危険なの。

<危険?>

 別の場所

黒金:危険?
葛木:彼女の脳みそは友人にまつわる一切の記憶を封印し、忘れることにした。
黒金:はい。
葛木:それは、自身の命を守る手段でもあったんだ。
黒金:でも彼女が自ら思い出したってことは
 脳が、過去と向き合おうとしてるってことじゃないんですか?
葛木:同じ事が起きるかもしれない。
黒金:そうか。

<つづき>

ヒカリ:あの、やめるんですか?看護婦
ジュリ:ちょっと、つらいことがあって。
ヒカリ:聞いていいですか?
ジュリ:、、、どうしよう
ヒカリ:無理なら別に。
ジュリ:ざっくりなら。
ヒカリ:じゃざっくりで。
ジュリ:結局、私は、誰も元気にできない。
ヒカリ:、、、
ジュリ:私、ここに春から勤めてて。何かがあったときのショックに耐えられなくなるから患者さんと親しくなるなって、黒金師長にいわれてたんだけど。わたしには、それが難しくて。
ヒカリ:、、、
ジュリ:精神科という特質上、何が起こっても不思議じゃないですからねって。その意味を私、よくわかってなかった。
ヒカリ:、、
ジュリ:毎日、大丈夫ですよー。大丈夫ですよー。って。呪文のように言ってるのがつらい。

ヒカリ:、、

39<デストルドー理論>

 栗田。本を読む

栗田:豊かな国ほど精神を病む人間が増加する近年の傾向は、あながち矛盾とも言い切れない。
 我々が病と呼ぶものは、「生」を阻むもの全てである。「死」の概念をポジティブに捉え始めた近年、病が病として認識されるべきかは甚だ疑わしい。
 現代精神病デストルドー理論。葛木アトム。

 栗田、本を閉じる

ヒカリ:栗田さんにもわたし、会ってるんでしょうか?
栗田:会ってる会ってる。
ヒカリ:初めて会ったふり上手ですね。
栗田:まともな人間よりも、そういう理解はあるんだよ
 「まぁ、本人そうならしょうがない」ていう許容力ってゆーの?
ヒカリ:、、、
栗田:なんでその若さで死にたいの?みんな。
ヒカリ:、、え?
栗田:いや、売れない作家で女房子供にもバカにされてると死にたくもなるけどねぇ。でもみんな若いじゃない?
ヒカリ:みんな?
栗田:若者が死にたがってる感じするんだよね。この本みたく、死をポジティブに捉えてたりするわけ?それって、進化なんかな?
ヒカリ:なんで私に聞くんですか?
栗田:あ、そっか、まだ思い出してないのか。全部。
ヒカリ:、、、、
栗田:いや、失敬失敬

 間

ヒカリ:同室の人が、外泊の時に自殺したって。
栗田:あー。んーと。どれのこと?
ヒカリ:え?
栗田:よくあるからね。そういうのは。
ヒカリ:そうなんですか?
栗田:そうだよ。
ヒカリ:最後にあったの、いつですか?
栗田:1週間前だね。
ヒカリ:え。

 春山

春山:あああー!ぴかりん!いたいた!どう調子は!
栗田:じゃま、ヒカリちゃん。お大事に。色々。
ヒカリ:、、

 栗田、退場。春山、それを確認し。

春山:、、なんか言われた?。
ヒカリ:え?いや、別に。
春山:クリクリは、外泊のとき平気で酒飲んで帰ってきちゃう人だから。
ヒカリ:あ、へー。
春山:幻覚がきびしいときは、泣きながら誓うんだけどね。「もう一生飲みません!」て
春山:眠れないならマッサージしよっかなって?リハビリ室で。
ヒカリ:え。
春山:きもちいいよ?下半身もスッキリするよー?
ヒカリ:結構です。まだ、気分がすぐれないんで。
春山:気分のったら言って?(肩に手)
ヒカリ:(避ける)はい。ありがとうございます。
春山:ふむ。そーか。残念だな。
 しっかしぜんっぜんうごかねえなウパ吉。生きてんのかね。

 春山退場。

ヒカリ:そーだ。ウパ吉、、こいつだ。

40<ウパ吉登場の頃>

 ハロウィンくらいの頃。
 水槽のまわりにひとだかり。

ヒカリ:うわなにこれ!
黒金:メキシコサンショウウオ。学名アホロートルです。
ミノル:ウーパールーパーだ!!
権藤:うへへ(好きすぎて、べったり張り付いている)
黒金:「亀が臭い」という意見が多かったので、
 生き物を入れ替えました。
ニコ:なぜウーパールーパー
ジュリ:投票です。
ニコ:二位は?
ジュリ:二位ヘラチョウザメ 三位シシバナヘビ
堀江:マニアック。
幕間:そして投票した覚えないんだが
ミノル・権藤:(口笛)
ヒカリ:これは誰かが、なにかしたな笑
ミノル:かわいいー。
権藤:ぬあー
ニコ:名前決めるか名前。
ヒカリ:うんぱー!
幕間:****!
ニコ:****!
黒金:ぬめぬめ!
権藤:んば!
堀江:白トカゲ。
ミノル:却下!
幕間:ホワイトデーモン!
ミノル:却下!はい!私!ウパ吉!ウパ吉!
全員:うーーん
ミノル:ウパ吉!ウパ吉!ウパ吉!ウパ吉!
全員:うん
ミノル:では、ウパ吉に決定します。拍手
全員:拍手
幕間:強引だな
ミノル:寿命はどのくらい?
黒金:えーと寿命。一般的には、長くて10年。
幕間:結構長ぇな。
ミノル:じゃ、だいじょうぶだな
ヒカリ:え?
黒金:餌やりは毎日1回です。世話係を決めますか?
権藤:(挙手)うお
堀江:適任適任
黒金:では権藤さん、責任を持ってお願いします。

 黒金退場

ニコ:ミドリガメはどこ行ったの?

 斉藤

斉藤:うちですうち。
ヒカリ:斉藤さん
斉藤:いや独り者なもんでね。かわいい。
幕間:あれ結構でかかったよねすでに
斉藤:甲羅の模様が、年輪みたくなってて、それ数えたら年齢わかるの。
ニコ:待って、当てる。5歳
斉藤:残念8歳。
ニコ:惜しい!
幕間:おしくねえし
ニコ:オス!
斉藤:ぶぶーメス。
ニコ:あ、逆か。惜しい
幕間:惜しくねぇわ
斉藤:でも困ったことがあって。
ヒカリ:なんですか?
斉藤:平均寿命は15年なんだけど、上手に飼うと30年生きるんだって。
ニコ:よかったじゃん
幕間:ねえ
斉藤:いや、22年後もう老人だからさ。生きてるかなぁって。
ヒカリ:あ(ミノルをみる)

 ミノルと権藤と堀江、アホロートルをみている

幕間:飼えなくなった亀を公園の池に離すって聞くよね。
ニコ:亀にとってはいんじゃね?
ヒカリ:、、、ミノルちゃん。
ミノル:ん?

 二人、目があう。

デストルドーズ:ざわざわざわざわざわざわざわ
ヒカリ:、、
ミノル:アホロートルはネオテニーなんだって。
デストルドーズ:ざわざわざわざわざわざわざわ
ミノル:子供のまま大人になるの。幼形成熟ていう。
デストルドーズ:ざわざわざわざわざわざわざわ
ミノル:でもたまに陸にあげると、大人に変態する奴も出てくるの。
デストルドーズ:ざわざわざわざわざわざわざわ
ミノル:その代わり、無敵じゃなくなるの。
デストルドーズ:ざわざわざわざわざわざわざわ
ミノル:ヒカリちゃんは、どっちがいい?

 春山。

春山:あ、いた!愛しのミノルちゃん。
ミノル:なに?
春山:ちょっとちょっと。
ミノル:、、

 ミノル、渋りながらもついていく。
 ヒカリ、その様子をみている。

ニコ:仲良いんだよ二人
ヒカリ:、、へぇ。
ニコ:意外?
ヒカリ:、、

41<ウパ吉をめでる>

清:ううっぱああ
幕間:よく飽きねえな。
堀江:すごいんだよウーパールーパー
ニコ:ネオテニーでしょ。子供のまま大人になってんの。
幕間:え。なにそれ。
栗田:全身万能細胞で、手、ちぎれても、生えてくるんだよ。
幕間:きもちわる。
栗田:水槽にいる限りは、何度傷ついても復活するんだ。
幕間:へー、ここなら不死身かぁ
ニコ:でもでもでも!水槽から出すと、突然、大人の体に進化するのもいるわけ。
幕間:ほー
栗田:でもつまり、万能細胞ではなくなるってことでもある。
ニコ:そしてかわいくないわけこれが。ぜんぜんウーパールーパーじゃないの。ぬるっとしたトカゲ。色も黒くなるし。
栗田:あれだ。外で生きるためには醜くなれってことですよ
幕間:そして傷つくことを恐れるなと。
ニコ:そうそう
権藤:ふあー

 ヒカリもウパ吉のとこへ。

ヒカリ:なんか、、かわいそうですよね。

 暗くなる。

ヒカリ:次の日、ミノルは1日ベッドから出てこなかった。

42<現在・催眠療法>

葛木:ミュージックオン!
黒金:ユーチューブで拾ったリラクゼーション音楽オーン!
葛木:いわんでよろしい!
黒金:ふぁい!

 リラクゼーション音楽がかかる。 
 明転

 ヒカリ、椅子にすわってぽやっとしている。
 後ろに葛木&黒金、首だけ出している。

葛木:わかりますかー?
黒金:桑原さーん。気分はーどーでっかー?
ヒカリ:なんか変な感じです
葛木:今、催眠療法中でーす、
黒金:無意識が優位になってる状況でぃーす
黒金:メリークリスマーース!!!

 黒金、サンタレディの服を着ている。帽子をかぶる

葛木:こら黒金くん
黒金:私好きなんですクリスマス。軽薄で。
葛木:まったくもう

 葛木、サンタクロースの服を着ている。帽子をかぶる

黒金:あー♪せんせいまでぇー
葛木:てへぺろ!
黒金葛木:てへぺろりーん♪
ヒカリ:あのう
黒金:このように無意識下では少しみんな自由になります。
ヒカリ:自由。
葛木:では、少しだけ記憶が戻った記念!
黒金:深層心理の扉を開き、本当の自分に会いにいきましょーう
二人:れっっちゅ、ごーーーーう
ヒカリ:ご、おーう!

43<本当の自分のコーナー>

波:ざっぱーーーーん!!!

 水の中の照明

黒金:先生、ここはどこですか?
葛木:ここは母なる子宮です。
黒金:パワースポットで自撮りしましょう!
葛木:ほら、ギャルピースぅ!!

 3人、子宮で自撮り

葛木黒金:うぇーーい
ヒカリ:うえーい
葛木黒金:さあインスタだ!インスタばえだ!
ヒカリ:インスタ?
黒金葛木:ハッシュタグハッシュタグ!
ヒカリ:はっしゅたぐ、「子宮DE自撮り」

 変な生物が数体、泳いでくる。

黒金:あれはなんですか先生!
葛木:あれはヒカリくんの深層心理、母なる子宮にすまう変な生き物だね
変な1:ふるふる、ふるふるふる
ヒカリ:ええ?!やだー
黒金:ふふふ。ふふふ。
変な2:てと、てとてとてと
ヒカリ:これも?
葛木:これも、これもだ。
変な3:おぱむ
ヒカリ:やだー!
変な3:おっぱ、おっぱ、おっぱおぱむ
変な1:ふるる。ふるふるふるる
変な2:わんわんわんわんわんわんわん、てと、てとてとてと
ヒカリ:あ、こっちはかわいい
黒金:あれは?
葛木:ん?

 おかまみたいなママ登場する

ママ:うふふ、うふふふ
黒金:あれはなんですか?
葛木:なんだと思う?
ヒカリ:これは、、
ママ:うふふ?
ヒカリ:ママ?
葛木:そうだ!
ヒカリ:やだーー
黒金:はははは
ヒカリ:うちのママこんなおじさんみたいなのじゃありません
葛木:深層心理ではちょっと自由な形をしているんだ

 SEおぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ

葛木:お。
黒金:この声は
葛木:ヒカリくん
ヒカリ:え?
葛木:生まれたようだぞ。

ママ:名前名前。あなたの名前。光に、凛々しいの凛で、ヒカリ
ヒカリ:、、ママ
ママ:こんにちはヒカリ
ヒカリ:幼稚園。ママが毎日言いました。
ママ:あなたは幸せにならなくちゃ
ヒカリ:小学校。世界はぜんぶ私のもの
ママ:あなたはとても頭の良い子だから
ヒカリ:中学校。成績優秀。
ママ:ヒカリはなんでも人よりできるの
ヒカリ:合唱と出会った。初恋をした
ママ:遊んでちゃだめよ。もうすぐ受験よ。
ヒカリ:高校。彼氏ができた
ママ:あの子、ママは好きになれないわ
ヒカリ:メリークリスマス、どうしたの?
ママ:ママとパパとどっちと暮らしたい?
ヒカリ:もちろんママと答えなくちゃ
ママ:メガネ?コンタクトにしたらどう?
ヒカリ:本ばかり読んでいた
ママ:大学までは行かなくちゃ
ヒカリ:受験に失敗。
ママ:あなたは幸せになりたくないの?
ヒカリ:なんで大学に行くんだろう
ママ:どうしてママの言うことをきかないの
ヒカリ:大学に入った。初体験。
ママ:ヒカリにはまだ早くないかしら?
ヒカリ:一人暮らしを始めた。
ママ:あなたあの人に似てきたわ
ヒカリ:サークルでお酒を覚えた。
ママ:就職活動していないの?
ヒカリ:この先には何もないと気づいた。
ママ:あなたは何になりたいの?
ヒカリ:しあわせってどこ?
ママ:知らないわ
ヒカリ:知ってたんじゃないの?
ママ:教えて欲しいもんだわ
ヒカリ:どこにあるの?
ママ:いつまでも子供じゃないんだから
ヒカリ:え?
ママ:もう大人なんだから
ヒカリ:わたし大人?
ママ:自分で探して。
ヒカリ:わたし、いつから大人だったの?
ママ:ママはママで忙しいから。
ヒカリ:え
ママ:一人で探して。

 ママ消える。
 ヒカリ、呆然とする。
 スマホを出す。

ヒカリ:、、、、検索。しあわせ。
 検索。しあわせ。普通。
 しあわせ。なるには
 しあわせ。方法
 しあわせ。見つけ方
 しあわせ。のために。
 しあわせ。ある。
 しあわせ。ない。
 しあわせ。呪い。
 しあわせ。どこ?、、、、、

黒金:はいスマホ没収〜!

 ヒカリのスマホ取り上げられる。

ヒカリ:あ
葛木:さぁかえろう黒金くん!!
黒金:ハ!
葛木黒金:ピィ♪ピィ♪ピッピッピピィ♪

 葛木黒金退場、ヒカリ取り残される。
 SE波の音

ヒカリ:、、、、どこ。どこにある?
ヒカリ:、、、、だれか。
こだま:か、か、か、か、
ヒカリ:、、、、だれか。
こだま:か、か、か、か、
ヒカリ:この、水槽から!!
こだま:からっからっからっからっ
ヒカリ:ここから出して!!!
こだま:て、て、て、て、
ヒカリ:おおいしあわせーー!
こだま:わせーわせーわせーわせー
ヒカリ:だれか、おしえろ!
こだま:えろーえろーえろーえろー

波:ざっぱーーーーーーん

44<現在。12/25談話室>

 ヒカリ、ニコ、ミノル(読書中)

ニコ:だいじょぶ?

 明

ヒカリ:、、ハァ、ハァ、ハァ、、
ニコ:うなされていましたが。
ヒカリ:ここ、母なる子宮の中?
ニコ:そんなとこいたの?
ヒカリ:いました。
ニコ:あ、哺乳類だもな俺ら。
ヒカリ:わたし、どうして、、
ニコ:催眠途中で、寝ちゃったって。
 とんでもねえ寝言言ってたけど大丈夫?
ヒカリ:げ。なんて?
ニコ:「********」。やばいでしょ
ヒカリ:、、やばいですね
ニコ:うそ
ヒカリ:え
ニコ:とにかく色々言ってたよ
ヒカリ:、、すみません
ニコ:いーのいーの。面白いから。
ヒカリ:あ。あの。今日、何日ですか
ニコ:え?2022年12月25日めりくりっす。
ヒカリ:え、じゃ。クリスマス会って。
ニコ:うん今日だよ
ヒカリ:あ!合唱!!
ニコ:あ!思い出してくれた?!合唱!やる?
ヒカリ:あの
ニコ:やる!?やった!!
 リーダー忘れたぽいから無しかなってなってたの!
 ちょっと男子に言ってくるわ!!ひゃほーい!

 ニコ、退場

ヒカリ:ウワサか、、

45<社長2>

 社長、のったり登場

堀江:いい?カメラ。
ヒカリ:ああ、(ミノルをみて)
ミノル:(ニコ)
ヒカリ:はい。

 カシャ。二人の写真を撮る

堀江:これメモがわり。
ヒカリ:怖くないですか?
堀江:、、、
ヒカリ:、、、、、忘れるのは。
堀江:、、最初は、50代だったの。
 仕事もできなくなって。なさけなかった。
 カミさんの名前も忘れるようになって。
 息子も娘も。えーと。どこだっけな。

 デジカメをみている

堀江:あ、これ。うんとー。うんとー。
 名前名前、うんとー。、、
ヒカリ:、、、
堀江:ううんと、、うんとおお。うううう、、、
ヒカリ:あの、ごめんなさい、私
堀江:葉月!健斗!!はあ。はあ。やったぁ、、はぁ。
ヒカリ:、、、
堀江:忘れるのは、、こわい。
 でも、また新しく思うことは、あるからその時。
 だから、また覚えなおせばいいかって。
ヒカリ:、、
堀江:、、
ヒカリ:?

 3秒

社長:あ。えっと。名前、ごめん3秒でわすれちゃう
ヒカリ:ヒカリです。
堀江:あ。そーだそーだ。

ミノル:私のことは思い出してね。
ヒカリ:え?
ミノル:私がいなくなっても。
ヒカリ:なにいってんの?

堀江:あれ?ヒカリちゃん
ヒカリ:え?
堀江:誰としゃべってんの?
ヒカリ:、、え?
 だれって。ミノル。

 遠くの救急車の音、
 ピーポーピーポーピーポー

ヒカリ:あれ?
ミノル:、、、、

 ミノル、自分の読んでいた本を、ウパ吉置き場の引き出しにしまう。
 そしていなくなる。

ヒカリ:、、、、え?

 暗

46<本番1週間前>

 ジュリ(伴奏)ヒカリ、ミノル、権藤、幕間、社長、ニコ、春山、斉藤、栗田

 合唱のようにならんでいる。

 ジャーン

ジュリ:ハ、ハ、ハ、ハ、ハー
患者:ハ、ハ、ハ、ハ、ハー

 ジャーン

ジュリ:ハ、ハ、ハ、ハ、ハー
患者:ハ、ハ、ハ、ハ、ハー

ヒカリ:んなああああ!!!

 栗田を、楽譜で叩く

ヒカリ:ちゃんと聴け!耳あんのか!新入り!
栗田:栗田ですよろしくおねがいします
権藤:んあー

 権藤も叩く

ヒカリ:んあーじゃねえわ
堀江:あー怒られた

 社長も叩く

ヒカリ:おまえもだロンゲ覚えろ!
全員:痴呆痴呆痴呆痴呆(笑)
堀江:ははははは
幕間:いや無茶言うなよー
ヒカリ:あと1週間だぞ!
 こんなんじゃ間に合わないぞ!
全員:うん
ヒカリ:うおい!!やるきだせ!あきらめんな!
ニコ:このメンツで美しい合唱は無理ゲーすね
全員:たしかに。
栗田:本気なんですね?
ヒカリ:本気だ!!
ジュリ:ヒカリちゃん、
ヒカリ:なに?(キレ)
ジュリ:ある程度は妥協しないと。
ヒカリ:幕間くん心がこもってない
幕間:させん
ヒカリ:斉藤さんはちょっと歌い方が**です
斉藤:ええ?!
ヒカリ:サルヤマさん、、
春山:なんでしょう
ヒカリ:真面目にやってください?
春山:やってんだけどなぁ
ヒカリ:今日終わり!!各自練習!
幕間:気合い入ってうぜーんだが?
栗田:入りすぎじゃないですか?
ジュリ:ま、楽しそうでいいか
堀江:楽しい
権藤:ふおふお
斉藤:おれ***だって。たは!
ミノル:、、

 みなバラける

47<外泊許可>

 ヒカリ。ミノル。のこる

ミノル:外泊許可、出ちゃった。
ヒカリ:え?
ミノル:コレうまく行ったら、退院の方向だって。
ヒカリ:うまくって何?
ミノル:無事に、ってことじゃない?
ヒカル:、、、
ミノル:正直、外、怖い。仲良くないし。親と。
ヒカリ:、、、
ミノル:自分の部屋に戻ると、死にたくなる。なんかいろいろ、嫌になって。
ヒカリ:、、、え
ミノル:こんな風になったの、親のせいにしてる自分も嫌になって。
ヒカリ:、、わかる。
ミノル:最近思う。一生ここにいてもいいかなって。
ヒカリ:え
ミノル:合唱たのしいし。
ヒカリ:、、、
ミノル:だから外で、またまわりとは違うってことを気にして生きていかなきゃいけないくらいなら、この病棟から出ないで、暮らしてくのもアリだなって。
ヒカリ:、、、
ミノル:ここで、ヒカリにあえて本当によかった。

 間

ヒカリ:私もそう思うよ。ミノルに会えてよかった。
 でも、ここはさ。
 この、濁った水槽の中で、生かされているだけじゃん。
 私は出たい。私は。外でまた会いたい。
 私は、ミノルにも幸せになってほしい。
ミノル:、、、、、、、そっか

48<喫煙室>

 ニコ、ぼんやりしている。

ニコ:、、、うえ、やばい

 懐中電灯をもった黒金がくる。

ニコ:ねますねますねますねます
黒金:内田さん。
ニコ:はい、はいすいません。ねますんで。
黒金:タバコあります?
ニコ:え。うん。あれ?吸うんすね
黒金:あります?
ニコ:これでいいですか?
黒金:あ、電子の、やつ?
ニコ:そうです。
黒金:なるほど。
ニコ:わかります?
黒金:こう?ですか?
ニコ:はいそうです。
黒金:こう?
ニコ:たぶん。
黒金:えい。うぇっへ!うえっへ!うええ!なにこれー
ニコ:吸えないんじゃん。
黒金:今日は、なんか、吸える気したん、ですけども、、。はぁ。
ニコ:ああ、そんな日も、あります。
黒金:ねー。(腕で目を隠す)
ニコ:おや
黒金:うえーん
ニコ:うわ泣いた?!どどっどうした?!
黒金:ひっく。ひっく。
ニコ:なしたなした?なしたなした?
黒金:大丈夫です。ハイ。泣き止みました。
ニコ:はやいなぁ。
黒金:心配で。北嶋さんの外泊。入院長かったから。
ニコ:へー、、、、意外。
黒金:ですよね
ニコ:あ、失言でした
黒金:あの。ぶっちゃけ私、たぶんアスペで。
ニコ:え。まじで。
黒金:精神障害って社会的に問題あるかどうかなんです。
ニコ:あ。へー、
黒金:私の場合、できないこといっぱいあるけど、たまたま、できることが仕事になってるので問題がない。ので障害はない。ということになってます。でも家ん中めちゃめちゃ。家事も育児もだめだめ。
ニコ:お子さんいるんですねー
黒金:ひとり。でも超苦手で。育児。全然上手にコントロールできないので。ほとんど旦那が。
ニコ:そっかー。
黒金:そーなんです。
ニコ:大変なんだね。サッチャーも
黒金:は?
ニコ:さっちゃんも
黒金:無力を感じますね。やっぱ。
 自分のことも人のことも治すことなんかできないくせに。
 白衣の天使気取って。
 私たちはただ、待ってることしかできない。
ニコ:天使なー
黒金:なんでもいいから、居てほしいですね。神様
ニコ:あー
黒金:私すぐハマるんです。宗教とかスピ系とか。
ニコ:ほほー。はまりますねぇ
黒金:治らなくたって、出られなくたって、
 落ち込んでいたって、死にたくなったって、
 ここで、私たちのこと見てくれてる、
 神様が、居てほしいですね
ニコ:、、今日は天使の羽見えるよ。さっちゃん。
黒金:(目に腕)(泣く)
ニコ:おお、泣いた。よしよし(あたまぽんぽん)
黒金:どっちが患者だよーうえーん
ニコ:よしよしよしー
黒金:それやめてーそれやめてー(泣く)

 溶暗

49<次の日>

 ジュリ、幕間、堀江、ニコ、権藤、栗田

ミノル:じゃ、いってきます

 ミノル歩き出す

ヒカリ:無事に帰ってくるって、約束して。。
ミノル:(指切りにくる)
ヒカリ:(指切り)はい
ミノル:じゃ。

 ミノル、外泊へ向かう。

ヒカリ:、、、、、

幕間:いつ戻んの?
ジュリ:12月25日
ニコ:クリスマス会の日じゃん

 皆、退場。

ヒカリ:、、、、え。

50<時間戻る。>

 救急車の音ピーポーピーポーピーポー
 バタつく病院、ストレッチャーを運ぶ人々
 照明、じわじわと不自然に現在の明にもどっていく

 堀江、不思議そうに見ている?

堀江:ヒカリちゃん?

 照明が完全に変わる。現在。

ヒカリ:、、、え
堀江:誰としゃべってんの?
ヒカリ:、、あれ?ミノルは?
堀江:だれ?

 ヒカリ、ミノルがしまった本を思い出し、
 ウパ吉置き場から出す。

 開くと、中から四つ折りの紙が落ちる。

ヒカリ:、、手紙、、「光凜へ」

 開く

ヒカリ:やっぱり外泊がおっかなくて眠れなくて、
 こっそり書いています。

 ミノル登場

ミノル:さっき光凜は、生かされてるって言ったけど。
やっぱり外で、わたしは一人でうまくやっていける全然自信がない。
退院してから、たぶん起きる色々なことが、今からおっかない。
仕事を探して親と喧嘩して誰にも相談できなくて、そして焦って絶望する。退院すれば、春山さんも構ってくれないだろうし。
きっとヒカリだけは、外でも友達でいてくれるっていうだろうけど。
でもそれは、私が嫌だから。
外での私はここでの私とは別人だから。
みじめな私を、ヒカリに見られたくない。
わたし、学校も全然行ってなかったし
友達も全然いなかったし。
だから合唱、本当に楽しかった。
わたしは、たぶんあれでいいんだと思う。
あれがわたしの幸せってことで。
ここで、ヒカリに会えて本当に良かった。
今まで、本当にありがとう。

 ミノル退場。

ヒカリ:、、え、、これ、、どういう意味。

 栗田が聞いていた。

栗田:手紙?
ヒカリ:はい、、
栗田:最後にくれたんだね。
ヒカリ:最後?
栗田:もうすこしだね、ヒカリちゃん。
ヒカリ:、、、どういう意味ですか
栗田:気になるんだ。
ヒカリ:、、
栗田:僕はつまんない人間でね。平凡な物語しか書けない。
 だから君たちみたいな特別な人間にジェラシーを感じるんだ。
ヒカリ:特別?
栗田:僕もおかしくなりたい。そしたら傑作をかけるかもしれない。
そしたら僕をバカにする妻も子供も世間のやつも見返すことができる。それで僕は精神病院に通って、主人公を探した。
ヒカリ:、、 
栗田:長期記憶障害の女の子。君の噂を聞いて、ピンときた。
ヒカリ:、、、
栗田:もう何年もピクリともしなかった作家の直感が働いたんだよ
ヒカリ、、、
栗田:決めちゃったんだよ。ヒカリちゃんをヒロインにするって。だから僕も、閉鎖病棟に入った。

 1週間前

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