ラジオドラマ『幸せのアリオおばさん』
ラジオドラマ『幸せのアリオおばさん』作・すがの公
<あらすじ>札幌のショッピングセンター”アリオ”で働く理恵(25歳)には大学からつきあっている彼氏・明男(27歳)がいる。今日はデートで彼が迎えにくることになっている。圧倒的に記憶力の悪い彼が、この広いショッピングモールの中、無事にココまで辿りつけるのか不安だ。バイト上がり際、ちょい悪おやじの店長が”幸せのアリオおばさん”の話を教えてくれる。
<登場人物>
女=理恵:スターバックスでバイトする25歳。
男=明男:理恵と大学からつきあっている27歳。
店長: コーヒーショップ店長。
友人=美代:花屋でバイトする30歳独身。
■SEアリオ内の音。
女: 「私は理恵。アリオ店内のコーヒーストア、
スターバックスでバイトする25歳。
3年つきあっている彼氏・明男がいる。」
女: いらっしゃいませー。
本日のコーヒーいかがですかー。いらっしゃいませー。
店長: 理恵ちゃん、今日もう上がっていいよ。
女: 「店長は年令不詳。
パッと見おじさんだけど実は案外若い気もする、
黙ってさえいればダンディな、チョイ悪おやじだ」
女: 上がっていんですか?
店長: 知ってんだ俺。今日誕生日でしょ?ラブラブデートでしょ?
フランス料理?おしゃれなバー?海いっちゃう?夜の海。
女: 「今日は明男とつきあってから迎える3回目の誕生日。
バイト終わりに迎えに来る事になっている、、けど」
店長 懐かしいなぁ。俺も若いころ行ったなぁ、夜の海。しかも冬。
なんも見えねぇの。暗くて。寒いの。でも海行くの。
女: そんなに気合い入ってないです、きっと。
店長: あれ?なんかあんまり嬉しそうじゃないね。
あ、わかった倦怠期だ?
女: ち、違います!
女: 「そりゃあ3年もつきあえば、つきあいたての初々しさはない。
最近はもっぱら明男の家でビデオを見たりゲームをしたり。
でも、今日は久しぶりにデート。あたしも嬉しい、、だけど。」
店長: わかった!彼が年がら年中不機嫌。
女: 違います。
店長: すぐに刃物を持ち出す。
女: 違います。
店長: 今日彼は、出所したばかりだ。
女: 違いますっ!
店長: 彼ってずいぶん前に一緒に来たあのぬぼーっとしたのだろ?
女: 失礼ですね。
店長: 優しそうだもんねぇ?『ぼっさん』っつったっけ?
女: 「優しい。確かに優しい。
でも明男は圧倒的に人よりも抜けてるのだ。
サークル時代のあだ名は、『ぼっさん』だ。」
店長: わかった!ぬぼーっとしすぎて、迷子になる!
ぬぼーっとしすぎて、デートの約束すら忘れる!
あ、今日も来ない可能性がある!
女: 店長
店長; なーんつってな!わはは!
女: 店長。
店長: わはは!ガキじゃあるまいしってな!
女: 店長。
店長: 、、、え?まさか。
女: 実は、、そうなんです。
■SE携帯の着メロ(「雨上がりの夜空に」)
女: 「そうなのだ。明男は記憶力も悪く方向音痴。
”アリオ札幌”は『ぼっさん』には広すぎる。
この店まで、たどり着けるかどうか。それが心配だ。」
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
○タイトルコール
女: 「ほら、となりにいるよ 〜幸せのアリオおばさん〜」
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■着メロ切れる。
女: もしもし?
男: もーしもーし
女: あ、明男?
男: 迎えに来たよー。
女: 、覚えてたんだぁ、、。
男: 誕生日じゃーん。忘れるわけないじゃーん。
女: そっか、今どこ?
男: たぶんー、アリオー。
女: 、え?たぶんって何?
男: じゃ、ちょっと待ってー。
女: え?もしもし?
男: すみませーん、ここ、アリオでいいですか?
女: 、、、誰かに聞いてんの?
男: アリオだってー。
女: 誰に聞いてんの?
男: 駐車場のおじさん。変な顔された。
女: そりゃ、されるでしょ!
男: コーヒー屋さん行けばいい?
女: わかる?大丈夫?
男: 大丈夫大丈夫ー。
女: 大丈夫?迷ってない?アリオおっきいよ?
わかんなくなったら電話してね?
男: はーい。
■SEツー、ツー、ツー。
女: 「心配だ。本人は気付いてないけど、
自信がある時に限って明男は迷う。」
店長: まるで子供との会話だな〜。
女: とにかく、迷うんです。
店長: 迷ったら聞くだろー?ぼっさん年上?
女: 2個上です。
店長: 甘やかしすぎじゃないの?駐車場のおやじに
「ここアリオだすか?」って聞けるなら大丈夫!わはは
女: ナマってませんから。
「きっと誰もわかってくれないけど、
明男の方向音痴は、あたしの悩みの種だ。」
店長: で!”幸せのアリオおばさん”の話なんだけどっ!
女: なんですかいきなり!アリオおばさん?
店長: え、、、し、し、知らないの?!
女: はぁ。
店長: ほとんどアリオに住んでいると言われるおばさんだよ?
”アリオおばさんを発見した者は必ず幸せになれる”
アリオ店員の間で持ちきりだよ?知らないの?!
女: 知りません。
店長: ある店員はアリオおばさんと遭遇直後にロト6当たったんだよ?
ある店員は視力が2.5まで上がったんだよ?一時的に。
女: 一時的ってなんですか
店長: 他にも
株で儲けたとか家庭が円満になったとか茶柱が立ったとか
だんなが帰って来たとか、子供が声変わりしたとか!
女: 最後の全然関係ないんじゃないですか。別にめでたくないし。
店長: とにかくハッピーな気分になれるんだってば!
女: 嘘くさい。
店長: なんだ?幸せになりたくないのか理恵ちゃん!
女: なれるもんなら、なりたいですけど。
店長: というわけで、見かけたら教えてくれ。24時間受付中だ。
女: 見たことないですもん。
店長: 黄色いネッカチーフをしている。
女: ネッカチーフ?黄色?
店長: なびいている。常に。
女: お先に失礼しまーす。
店長: ああ、理恵ちゃん!
女: 「店長はいつもふざけまくっているが、
コーヒー豆を挽く時の顔は真剣だったりする。
店長が閉めた次の日のお店は塵ひとつ無いほどピカピカだ。」
■ドアを開け、閉める音。カチャ。パタン
女: 、、奥さんとかいるのかなー店長。
、、何を言ってんだあたしは。
、、やっぱ、倦怠期って奴なのかなぁ、、
いやいやいやいや!そんなわけない!
さ!さ、明男が迷う前に着替えよう。
あ、一応メールしとこ、場所。
■ドアを開ける音。カチャ。
友人: うばぁあ。
女: うわぁ美代ちゃん。
友人: 理恵もう上がり?うばぁああ。
女: 何その音。
友人: あたし休憩の音。今日花屋激混み。
女: 「花屋さんでバイトしてる30歳独身・美代ちゃん。
更衣室でよく一緒になるうちに友だちになった」
友人: あああああああお男欲しい!
女: え?もうふられたの?また。
友人: 「もう」とか「また」とか言わないでくんない?
浮気してやがったの。つーか、あたしが浮気相手だった。
女: そっか。元気出してね美代ちゃん。
友人: はい。男なんて星の数ほどいるわけですから。
で、今日合コンなんですが行きませんか?
女: 元気そうだね美代ちゃん。
友人: 合コン行きますせんか?
女: 間に合ってます。
友人: 何?あ。まさか!あんたまだ「ぼっさん」とつきあってんの?
女: 明男です。
友人: まじで?!何年目?
女: 3年。
友人: ギネス載る気?
女: 違います。
友人: じゃ結婚すんの?
女: 、、そんなの、まだ考えてないし。
友人: 嘘つきなさいよ。25でしょ?焦る頃でしょ?
女: くっ
友人: あっちはもっと考えてないよ。
大丈夫?明男くん日本に結婚という風習があるの知ってる?
女: 知ってます!
友人: ほんと?
女: たぶん。
女: 「美代ちゃんはブっ飛んでる分、よく痛いところをついてくる。
あたしも適齢期。
ずっとこのままぬぼーっとした恋愛が続くのは正直恐い。
友人: 自分に限って普通の幸せが訪れると思ったら大間違い。
あんたかわいいっちゃかわいいんだから、今のうちに遊びな。
女: 遊べって言われても、、。
友人: で、合コン行きませんか?
女: メンツ足りないの?
友人: ぶっちゃけそーっす。うばぁああ、休憩終わりだ。ばいぶー
女: ば、ばいぶー、、。
■SEドアが閉まる音
女: 、、いいな美代ちゃん、悩みなさそうで。
あ、メールしとこ。えっと。
「1階、、第一立体駐車場から出てくると、
まっすぐの、、、スターバックス。コーヒー屋。けっこー有名」
、、わかれよ!スタバくらい!あああーー、
なんでこんな事までしなきゃいけないんだあたしが、、。
いや、期待したらダメ。いつも待つのはあたしだ。
女: 「なんかの雑誌に書いてあった。
相手に期待しなくなったら、おしまい」
女: 、、結婚かぁ。明男、考えて、、、、なさそー。。
、、、遊べって言われてもなぁ。
学生が終われば、出会いはどんどん減るし。
かと言って合コンに出る勇気もないし。
残すは、職場かぁ、、。
、、店長みたいな人なら、楽しいだろな。
店長: 理恵ちゃん。
女: ぬあ!どっから湧いて出たんですか!
店長: 理恵ちゃん、理恵ちゃん
女: 近い!店長近い!
店長: はぁ、はぁ、はあぁ
女: 荒い!息荒い!
店長: ゴホン!、、落ち着いて聞いてくれ。理恵ちゃん。
女: 、、どしたんですか、そんな真面目な顔して。
店長: 一緒に行こう。
女: 、、え?、、
店長: 俺と一緒に行こう!
女: 、、店長、、、。
店長: 急がないといなくなるぞぉ!
女: は?
店長: 今、アリオ2階フードコートに居る!!
女: え?誰が?
店長: 誰がって!あの方に決まってるだろぉ!!
女: あの方?
店長: ”幸せの、アリオおばさん”に決まってるだろおおおお!!
女: あ、ああああ、、(理解、ガッカリ、汗)
■音楽
店長: 一緒に行こう!
女: 、、危ない、あたしったら、勘違い甚だしい。
店長: 何をドギマギしてるんだ理恵ちゃん?
女: なんでもありません
店長: 私は見た。この目ではっきりと。麺類を喰っていた。
女: 麺類?
店長: 俺の読みでは、そばだ!
女: なんか普通ですね?
店長: しかし間違いない!
黄色いネッカチーフをしていた!
女: ほんとに居るんですか黄色いネッカチーフ!
店長: 常になびいていた!そしてぇ!!
自分はアリオおばさんであるというオーラを放っていた!
女; どんなオーラなんですかそれ?
店長: もちろん幸せのオーラだ!理恵ちゃんにも見せてやる!行くぞ!
女: え、でも、あたし、
店長: 早くしろ!奴がそばを食い終わったら、アウトだ!
■SEメール着信音"you got a mail"
女: メール。、、明男から。
店長: そんなもの後だ!アリオおばさんを見たくないのか!?
女: でも、待ち合わせが、
店長: 今度いつ現れるかわからんのだぞ!
女: あたしいないと明男、
店長: 理恵ちゃん!幸せになりたくないのか?
女: なりたいですけど!
店長: 大事に小事だ!これで逃げる幸せなぞ!逃げてしまえ!
女: 、、店長、、
友人: 出たって?!アリオおばさん?!
店長: 美代ちゃん!そうなんだ!出たんだ!アリオおばさん!
女: ほんとに有名なんだ。
友人: 行くよ理恵!
店長: 行くぞ理恵ちゃん!
女: は、、はい!
女: 「今日は明男とつきあってから迎える3回目の誕生日。
思えばこの時、私が踏み止まっていれば、
この後に起こる大騒動には、
発展していなかったのかもしれません」
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
○CM
CMまで11分
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
CM明け
■数人が走る足音
友人: 到着!2階!フードコート!どこ?!
店長: 確かにこの席に幸せのアリオおばさんが居たんだが!
友人: ほんとに居たの?
店長: ほら!ここに麺類の器が!
■SEズズズ
店長: ぷはー、
友人: 何飲んでんの!
店長: 間違いない。これは、、うどんだ。
女: そばじゃ無かったですか。
店長: ひとつ謎が解けた。
アリオおばさんはそば派では無く、うどん派だ!
友人: だからなんなの。
店長: ああ!残りのつゆを見ろ!
女: なんですか?
友人: あ!麺が!
店長: うむ。
友女: 麺が立ってる!
店長: 麺柱だ!これは、茶柱ならぬ、麺柱だ!
なんて、なんて俺はラッキーな男だぁああああ!
■SEズズズ
店長: うえーい。
友女: だからって飲むな!
店長: すまん!
俺はアリオおばさんをこの目で見た。
そして麺柱の立った残りつゆまで飲み干した!すまん!
友人: 何あやまってんの。
店長: 悪い!俺だけひと足先に幸せだ。すまん!
友人: は?
店長: 許してくれ!俺の幸せを許してくれ!
友人: 見ただけなんでしょ?
店長: え?うん。
友人: ダメじゃん。
店長: え?
友人: タッチしないとダメじゃん
店長: 、、そうなの?
友人: 当たり前じゃん!
女: どっかの運送屋のマークみたいだね。
店長: しまっったあああ!!
友人: 見た人全員幸せになってたらアリオ店内みんな幸せになるよ?
女: 言われてみれば、そうだ。
店長: 飲んだのに?!
友人: あー、走って損した。
女: 疲れた、、。
店長: 、、仕方が無い。
友人: まー、気落とさないで。
店長: 落とすものか。
女: え?
■バサッと店内図を広げる音
女: なんですかそれ。
店長: 名付けて、『アリオおばさんMAP』だ!
友女: ありおおばさんまっぷぅ?!
■曲、踊る大捜査線的な曲
店長: 店内の案内図に、
アリオおばさんの出没場所をチェックしてある。
友人: そこまでやってんの?!
店長: ワタシはアリオ店員の一人一人と契約を結び、
うちの店に目撃情報が集中するようにしている。
女: やり過ぎじゃないですか?
店長: 構成員は駐車場からサービスカウンターの果てまで
アリオの約99%!うち店の通称は、”A・O・S”
友女: AOS?
店長: ”アリオ・おばさん・捜索本部”だ。
女: 知らなかった。
友人: 知らなくていいよ。
店長: アリオおばさんメールマガジンも週一で発行中だ。購読するか?
二人: 考えときます。
店長: あ、そう、ちっ。男のロマンのわからん奴らめ
■曲消える
店長: あ。ときに理恵ちゃん、ぼっさんどうなった?
女: あ、メール来てたの忘れてた!!
友人: バカな事してないで、メールチェックしな。
女: うん、、。
店長: バカな事とはなんだ。
女: 、、あれ?
友人: どしたの。
店長: メールなんて?
女: 「みそーか」
店長: なに?
友人: どれ。
「みそーか」なんだこりゃ。
店長: みそーか?何が?何を?
友人: 何言ってんのこいつ。
店長: 暗号か?
友人: 二人だけがわかるギャグ?
女: ちがいます。
店長: 笑えないな。
女: ちがいますって!
友人: わかる?
女: わかりません。
店長: 電話してみれば?
女: 、、うん。
■おかけになった電話番号は、電波の届かない所におられるか、
■ピッ
友人: どしたの。突然浮かない顔して。
女: 、、電波、届かないって。
友人: あら。どこ行ったんだろ。
女: 、、はぁ(タメイキ)
友人: どしたの?大袈裟にため息なんてついちゃって。
店長: 店に戻ればいるんじゃないか?
女: お店は電波つながるじゃないですか。
店長: あーそうか。
女: あたし、着替えます。
店長: 、、理恵ちゃん?
友人: あー、むっちゃ肩落として歩いてっけど、あの子。
ぼっさんとうまく行ってないのかなぁ。
店長: うーむ。良くわからんがそっとしといた方が、、
友人: おーい、理恵ー、
店長: 話しきけーい。うーむ。行ってしまった。
後に残るは、アリオおばさんのうどんの残り香と店長。
ん?なんか器の横に落ちてる。
これはこれは近年まれに見る代物だな。
俺もつけてたな。願い事ないのに。
どれ。くんくん。うーん汗臭い!
ん?よく見ると細かい刺繍がほどこされている。
”A”、、アリオおばさん!?
あ、違う。アルファベットに続きがある。
A、K、、
■SEアリオ内の音。場転コーヒーショップ
女: 、、いない。
友人: もう約束の時間?トイレじゃない?
女: 違うと思う。
女: 「、、まただ。
少しでも期待したあたしが、良くない。
こんな事なら、迎えにこさせなきゃ良かった。」
女: 、、、。
友人: どしたの理恵?
女: なんでもない。
友人: たかだか彼氏の電話が繋がらないだけでー、
約束にちょっと遅れてるだけでしょ?
女: そうだけど。
友人: あんたねぇ、そんなんで簡単に暗い顔してたら、
幸せ逃げてっちゃうよ?
女: 、、。
友人: あたしなんか男に電話かけても
出てくれないなんてザラだったからね?
女: 「明男の事だ。どうせまた、充電が切れたにちがいない。
でも、それは、私には簡単な事じゃない。」
友人: 元気出してほら!あたしみたいのもいるんだから!
女: それは、美代ちゃんが、、
友人: え?
女: なんでもない。
友人: あたしが、何?
女: いや、なんでもない。
女: 「私には簡単な事じゃない。
こんな悩み、わかるわけない。」
店長: あ、無事についてた?ぼっさん。
女: いえ。
店長: あ、そっか。あのさぁさっきさぁ。
友人: トイレかもトイレ。見てきて店長。男子便所。
店長: あ、いいけど。うどんのとこにさぁ、コレ
女: あ、店長いいです。トイレじゃないですから。絶対。
店長: あ、そう。でさ、コレが落ちててさ、
やっと名前思い出したよ。
友人: 何辛気臭い顔してんの?ねぇ?
女: なんでもないから。
店長: ミサンガの話しも聞いてほしいなぁ。
友人: うるさい。
店長: はい。
友人: ねぇ。理恵。
女: わかんないよ。
友人: 、、、、え?
女: 美代ちゃんにはわかんないから。
友人: ほー。
女: 、、、。
友人: わかんないから聞いてるんですけど?
店長: あ、美代ちゃん。
友人: うるさい!
店長: ハイ。
友人: ムカつくんだよねぇ。自分だけ可哀想みたいなそういうの。
女: わかるわけない。
友人: 言ってみなきゃわかんないでしょうが。
女: 彼が方向音痴だなんてバカげた悩み、
わかってもらえるわけ無い。
店長: 確かに、わかりにくい。
友人: うるさい
店長: 口チャック
友人: どゆこと?理恵。
女: 去年の誕生日も去年のクリスマスも
わざとかって思えるほど待ち合わせの場所に辿り着かなくて。
お正月、一緒にお参り行ったのに、会えたのは人が減った朝方。
あたし、寒空と人ゴミの中で3時間も振り袖で待ちぼうけ。
正月早々風邪で1週間寝込んだ。
■聞こえてくる音楽。
友人: 、、そーか。
女: 口じゃ「反省する」って言ってるけど。
なんか当然遅刻するみたくなってて。
最初の頃はそんな事なかったのに。
軽く見られてるんじゃないかって。なんか、情けなくなる。
女: 「あまり外に出かけなくなったのは、
待ちぼうけが嫌になったからかもしれない。」
友人: ごめん。
女: 、、。
友人: でもさ。たまには、自分から探して見れば?
ただ待ってるだけじゃなく。
女: !
友人: わるい!あたしちょっと今日イラついてたもんで!
女: あ、、。
友人: やべ、花屋激混み!あたし行くわ!すんませーん!
■去っていく足音
女: あたし、、何も考えてない。
店長: え?
女: 、、美代ちゃん、、。
彼氏と別れたばっかだったのに、、。
なのに、あたしの心配してくれたのに、、。
店長: さておき!
女: 、、え?
店長: それはさておき、許せんなぁ。俺は。
女: え?
店長: たかだか方向音痴であると言う理由で
彼女を待たせ続けるというのは
どうなんだろうなぁ。
女: 店長。
店長: 君の言う通り、
ぼっさんは君を軽く見てるとしか思えんなぁ。
女: え、あの。
店長: 俺がもし極度の方向音痴だとしたら
1時間前に約束の場所に行くなり!
携帯の充電に細心の注意を払うなり!
前日にデートの下見をしておくなり!
対処法はいくらでも考えつく!
女: 明男は、ぼーっとしてるから。
店長: 本人が、ぼーっとしてるせいにしてるのが気にくわない!
女: あの、そんなふうに考えてないです、たぶん
店長: どうしてそんな事言い切れるんだ?
女: だって、
店長: だってなんだ。
女: だって普段、一緒に家にいる時とか、
なんか普通に気使ってくれるし。
店長: 優しいだけじゃだめだろ!
よし、別れて俺と結婚しよう!
女: 優しいだけじゃないです!
ぼーっとしてるけど。
店長: 記憶力も悪いんだろ!
よし、別れて俺と結婚しよう!
女: ほんとにやる時はやるんです!
忘れっぽいけど、逆に人が覚えてないような事覚えてるし!
店長: だめだだめだ!
よし、理恵ちゃん結婚しよう結婚!
女: 明男は、大学のテニスサークルの先輩で!
普段ぬぼーっとしてるけど!
ラケット持たせると人が変わったようになって!
それで、女子にも人気があって!
あたしもあの、そんなギャップに惹かれて!だから!
店長: うーぬ。理恵ちゃん。
女: え?
店長: おそれいった。
俺のプロポーズ3回も聞き逃すとはたいしたもんだ。
女: え?、、あ!わ!ごめんなさい!
店長: 気にするな、俺、可愛い奥さんと子供いるし。
女: 人の悩みを、面白がってません?
店長: さ!ちゃっちゃと君のラバーを探そう!
女: 質問に答えてください!
店長: はい。ミサンガ。
女: 、、え
店長: ”A、KI、O”
汚くてボロボロだったからわかりにくかったけど
女: 、、へたくそな刺繍。
店長: 細かい刺繍だよ。君が縫ったんでしょ。
女: サークル入りたての時、
先輩に上げたんです。ただの後輩だった頃
店長: 何年前?
女: 、、6年。
店長: そーかぁ、じゃぁつきあう前だー。
女: 6年も、持ってたんだ。
店長: その様子じゃ、肌身放さずだな。
女: 、、明男、、
■走って近付いてくる足音
店長: うわ、なんか来た!
友人: ミサンガミサンガミサンガ!
女: うわぁ美代ちゃん!
友人: 「うでのアレさか」!わかったんだけど!
女: 何?!
友人: 腕のアレは、ミサンガ!
店長: 坂は?
友人: 探してる!のさが!の「か」!
店長: あ!
友人: 充電切れそうになって、
やばいと思って途中で送信したんじゃない?!
女: あ!
友人: ね!ミサンガ!
店長: 美代ちゃんナイス推理だ!
友人: 理恵!
女: はい!
友人: ほんと御免!あたしフラれ気分でブロークンハート八つ当たり!
女: そんなことない!あたし悲劇のヒロイン大袈裟まる出し!
友人: 理恵!
女: 美代ちゃん!
店長: 美しいぞお!
■ほたるの光、流れ出す。
女: 、、閉店時間?
店長: じゃ、店しめるか。
友人: じゃないでしょう!
女: あたし探す!
友人: 理恵!
女: あたし、自分で探す!
友人: 手伝う!
女: うん!
友人: 急ごう!
店長: 待たれい!
友人: なに?!
店長: 内線!ピポパポピ!もしもし!俺だ!
友人: なに!?早くしないとしまっちゃうよ?
店長:
あいわかった!ふむ!ふむ!かくかく、しかじか!
女: 何してんですか?
■店内放送。ピンポンパンポーン
友人: ん?
女: なんだろ。
■「迷子のお呼出しをいたします。
ぼっさん明男27歳様。ぼっさん明男27歳様。
至急、1階サービスカウンターまでお越しください。」
女: ぼっさん明男?
店長: 3分置きにかけて貰うから。
女: 店長?!
店長: 本人も恥ずかしさのあまり、必死になって辿り着くだろう。
友人: なるほど!
女: 、、甘いです。
店長: え?
女: そのサービスカウンターに辿り着けるかどうか。
店長: 猿かぼっさん!
友人: あたしやっぱ行ってくるって!
女: あたしも!
店長: 行き違いになったらどうする!
■店内放送。ピンポンパンポーン
女: あ
店長: 3分経った?
友人: 経ってないよ
■”逆”店内放送。
「迷子のお呼び出しをいたします。理恵さま、理恵さま。
おつれ様がお待ちです。至急、、」
店長: あの野郎!
迷ってる分際で”逆”迷子のお呼出しかけてきやがった!
友人: し!黙って!
■「、、までお越しください」ピンポンンパンポーン
女: 今なんて言った?
店長: すまん、俺が叫んだから聞こえなかった。
二人: ばかあああ!!!
店長: すまーーーん!!
女: もう閉店しちゃう。あたし、行ってきます!
店長: 内線!ピピポパポ!
友人: もういいから!
店長: 駐車場の源さんを頼む!あ、源さん?俺俺ー。
女: 駐車場?
店長: 変な質問してきた若造の服そうなんだけどー
女: あ。
友人: ほっといて行こう!理恵!
女: 待って。
店長: 黒のニット帽に赤のジャケット!
友人: 趣味悪!
女: 明男のお気に入り!
友人: は?
店長: 私に任せろ。
■ツーツツツ、ツーツツツ、ツーツツツ
二人: モールス信号?!
店長: ハローワンツーハローワンツー
友人: どうしてそんなもんあるの?この豆屋!
女: AOSだ、、。
友人: !!
■ツーツツツ、ツーツツツ、ツーツツツ
店長: こちらAOSこちらAOS
アリオ全域に告ぐ。
女: もしかして、、
店長: 黒のニット帽に赤のジャケット27歳男性。
閉店までに「ぼっさん」を探し出せ。
タイムリミットはホタルの光りが切れるまで。
友人: 店長って何もの?!
店長: 答えてくれ。
■複数のモールス信号音
ツツツツーツウツウツツツー
二人: 答えた!
店長: では本日に限りAOSは
『ぼっさん明男』捜索本部、BASとする!
■曲『踊る大捜査線』らしき曲。デデッデデッデッデ
二人: すげええええええ!!!
友人: アリオの店員って何?!
女: 「大捜索劇が始まった。
サービスカウンター嬢、
タバコ屋のおじさん、
服屋の店員さん
ペットショップのトリマー
岩盤浴のマッサージ師
駐車場の源さん、アリオ中から
続々と目撃情報が寄せられる。
■複数のモールス信号音行き交う
ツツツツーツウツウツツツー
1: アリオモール!赤のニット帽!黒のジャケット!
店長: ばかやろう!逆だ!
2: 2階!家電!電池パックを買った人物!
店長: よし、尾行しろ!
3: 黒のニット帽赤のジャケット!今年還暦!
店長: そんなに年じゃねぇ!
4: ハーベストコートイベント広場!ステージで楽しく歌ってます!
店長: 歌うかばかやろう!
5: スパ・レジャー館!くつろいでます!
店長: なわけねぇえべや!
6: 屋外エントツ広場!一生懸命、
店長: 登らせとけ!そいつじゃない!
友人: そろそろ時間ないよ?!
店長: 店内放送、ホタルの光、長回しにしろい!
友人: 無茶言わないの!いくらなんでも
6: ラジャー!
女: おおお!
店長: やるな!アリオ!
女: 、、、みんな、、
■捜査線の音楽、『ホタルの光』とクロスフェード
女: 「私は、この時の事をきっと一生忘れません。
まるで夢のようでした。
アリオ店内が団結して、一丸となって、
見ず知らずのあたしのために、、
それだけでもう、十分でした。」
女: あ。
■店内放送『ホタルの光』切れる。
女: 、、、、切れた。
友人: 理恵、、。
店長: くそ、、
ハーベストコートイベント広場に各員、集合してくれ。
■足音。たくさんの人々。ガヤ。
1: 本部長、全員、集合しました。
店長: このたびは、みなさん。
女: あたしにお礼、言わせてください。
友人: 理恵、、。
女: 皆さん、有難うございました。
あとはあたし、
従業員出口が閉まるまで一人で探します。
あたし、わかるんです。
絶対、まだ、明男はあたしの居るとこ探してるから。
今迄だって、明男はあたしの事探すの
あきらめた事無いから。
友人: 理恵。あたしも手伝う。
女: ありがとう。
■モールス信号。
ツーツツツツーーツツウツ
店長: 誰だ?全員集合したんじゃないのか。
1: 本部長、この場にいる者ではありません。
店長: 、、、、
ハーベストコート、、
イベント広場、、、
吹き抜け、、
3階、、、
上を、、みろ?、、
誰だ?
、、、、送信者、A.O
友人: AO、、
■どよどよっどよどよっ
店長: 上だ!上を見ろ!スポットライト〜〜〜!!
■カシカシーーーーンっ!!
男: うわ、まぶし。
女: 、、明男
男: 、、理恵!
女: 明男!
男: 理恵!理恵〜〜〜!!!
店長: 捕まえろぉ!
全員: わああああああああああああああああああああああ
女: 「アリオ店員が吹き抜けの上、3階の彼を取り囲む。」
男: うわあ!うわ!うわあああ!!
理恵〜〜!助けて!理恵〜〜!!
女: 「あたしも止まってるエスカレーターを駆け上がる」
女: 明男!
男: ごめん、、、また、迷った。
女: 、、なんか探してたの?
男: 、、、また迷っただけ。
女: 何かしてたの?
男: あ、うん。えっと。迷った。そんだけ。
女: 嘘、下手すぎだね、ぼっさん。
男: え?
女: これ探してたんでしょ?
男: !あ、僕のミサンガ、、。
女: 実は探してたでしょ?
男: 実は。、、、あ、、、切れてる。
女: うん。
店長: 切れたらどうなるんだっけ?
友人: 自然に切れたら、願い事がかなうの。
■優しい曲
男: あの、コレ、プレゼント。
女: 、、
男: 実は、1ケ月まえ上のお店で予約してたんだ。
でもお店までの道でまた迷って。
迷った末、うどん屋さんに着いて。
店長: なぜだー(小声)
男: ミサンガ探してるうちに充電切れて。
さらに迷って困ってたら、また、
うどん屋さんに着いて。
店長: なぜだー(小声)
友人: 黙ってて!(小声)
男: ホタルの光りがかかって。
焦ってたら、そしたら、
どこからともなく、。
黄色いネッカチーフのおばさんが現れて
店長: 幸せの、アリオおばさんだ、、
男: ほたるの光りの中、
おばさんとは思えない物凄い早さで
僕を宝石屋さんに引っ張ってってくれた。
ギリギリセーフ。
女: 開けていい?
男: サイズ、たぶん合ってると思う。
■指輪の箱の開く音。
男: つけてみて。
女: 、、、、うん。
男: また待たせてごめん。理恵。
女: 、、、、ぴったりだ。
男: 誕生日、おめでとう。
女: 、、、
友人: (ひそひそ)ねえねぇアレって”何”指輪?、
店長: (ひそひそ)美代ちゃん、野暮な事は言いっこ無しだ。
(ひそひそ)引っ張られたって事は、
友人: (ひそひそ)幸せのアリオおばさんにタッチしたんだもんね。
女: ありがとう、明男。
店長: めでたい!全員拍手!
■SE拍手
店長: これからどこ行くの?ぼっさん。
男: あそっか、どっか、えっと、、
友人: 考えてないね、ぼっさん。
男: ごめん。
女: 明男ん家でいいよ。
男: え?でも。
女: ゲームしたり、テレビ見たりで、いいよ。
友人: えー。せっかく誕生日なのに。
女: いーのそれで。
店長: さ、帰りますか皆さん。
全員: おー!
店長: 飲みますか皆さん!
全員: おー!
男: 、、、いい人たちだね。
女: 、、うん。
ねぇ。
男: ん?
女: 明男がミサンガにかけてたお願い事って何?
男: さ、帰ろう帰ろう
女: 「明男はちょっと、照れくさそうだった。
きっとその願いがなんだったのかは、
待ってりゃそのうちわかるだろう。」
男: あ!
女: どしたの?
男: いや、えーと。車の
女: 何?カギ無くした?
男: いや、その。、、車の場所、忘れた。
女: えーー。
<了>
2007年11月
============
・許可なく上演コピー配布することを禁じます。
・許可については別記。
============
この記事が参加している募集
たくさん台本を書いてきましたが、そろそろ色々と人生のあれこれに、それこれされていくのを感じています。サポートいただけると作家としての延命措置となる可能性もございます。 ご奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。