二人芝居『サンタのひげ』
二人芝居『サンタのひげ』
<あらすじ>東京に一人暮らしの兄の狭い狭いアパートに、妹・花がやってきた。今日も押入れで「一人妄想ライブ」をする今年31になる自称ロッカーの兄・太郎。自分を田舎に連れ戻す気だと思い込んだ太郎は妹に帰れと突っぱねる。あらゆる手段で兄押入れから出そうとする花。小さい頃に亡くなった父親代わりだった太郎に、花はある報告をしようとしていた。
<登場人物>兄、妹
■家族年齢対応表(出来事)
1993年 父39 母37 太郎17(不良) 花8(ヒゲ)
1994年 父 40(死) 母38 太郎 18(高3) 花9(小3)
1996年 母40 太郎20(大1) 花11(小5)
1999年 母43(ネギ) 太郎23(中退) 花 14(中2)
2000年 母44 太郎 24(東京) 花15(中3)
2006年 母50 太郎30(ロック) 花21(就職)
2007年 母51 太郎31(バイト) 花22(就職)
<舞台>
ロックンローラーの住む一人暮しの狭いアパート
万年床 冷蔵庫 茶ぶ台 押入
缶ビール カップメン 炊飯器 旅行カバン
茶碗 おわん 割りばし コンビニ袋
ゴミ箱 段ボール 音楽雑誌 ギター
■1場『サンタのアゴ』
押入の中からギターの練習の音。
録音による妹の声。声の中、じょじょに月明り。
ふとんに体育座りをして、押し入れを見ている妹。
『あたしが小学校4年生の冬、
お兄ちゃんは不良をやめた。
2浪して地元の大学に入ったけど、
もう少しで卒業するって時に中退。
1年間バイトをしまくった。
21世紀の最初の春、
あたしの高校合格を聞いてすぐ
今度はロックスターになりに田舎を飛び出した。
以来、東京のアパートを点々としている。
私は専門学校を出てすぐに東京で就職。
たまにお兄ちゃんのバンドを観に行った。
30を過ぎて小さなライブハウスで叫んでるお兄ちゃんは、
なかなかカッコ良かった。』
音を立てないように立ち上がる妹。
立てかけている画用紙をみつける。
携帯を取りだし、ライトを当てる。
ひげの無いサンタの絵。
妹: お兄ちゃん。
なんでこんなの持ってんだろ?
3年2組、玉手花。
小学校ん時のあたしの絵じゃん。
もう一枚見つける。青いアゴのサンタの絵
妹: あ、こっち小2。
なんだこのアゴ。
不思議そうに押し入れの方を見る。
『東京に来て2年、あたしはもうすぐ23歳。
あたしとお兄ちゃんとサンタのひげ。』
暗
■第2場『SUPER STAR』
押入から漏れ始める白熱灯の明り。
兄・玉手太郎、妄想ライブ中。
長淵剛『SUPER STAR』のBメロから終わりまでを歌う
兄: さんきゅー、
今日は俺のためにこんなに集まってくれて感謝しますイエー
シブ公ベイベー、どもありがとーう。
CCレモンホール?くそくらえだぜベイベ。アンコールアンコール
じゃあアンコール応える。
俺の敬愛するJ.Lのこの曲でお別れだ
ジョンレノン、イマジンをやる。
Aメロ~サビ。英語はめちゃくちゃ。
窓から月明り。万年床、少し動く。中に妹がいる様子。
兄: さいこーさいこーアンコールアンコール
じゃあ本日10回目のアンコールに応えるぜ、
俺様、ミッキーTのオリジナルヒットナンバーで、
今度こそお別れだ
押入の中のアンプから歪んだギター音。
押入の側面を隠していた布、落ち、観客が中を覗けるようになる。
防音加工をしているつもりの押入の内部。
つり下げられたはだか電球と、電源タップ。
ギャオーンギャオーン
その音に万年床の中身、丸くなる。
兄: イエい!ベイビー!イエイ!シェキシェキ!
ベビベビヨ!ベビヨ!カモン!あーいえぇ!
布団の中に妹、顔を出さずに叫ぶ
妹: ミッキーさんミッキーさん。
兄: 誰もいないはずの部屋から声がするな。
まさかロックの神様か?
妹、ふとんで寝ながら、テキトーに神様をする。
妹: ミッキーTさん
兄: はい。
妹: こちらロックの神様です。
兄: あ、はい。
妹: 少しあのー、しずかにしてください。
兄: あ、すんません。
妹: はい。グーグー
兄: あ、あのおあのお!他には?
妹: え?
兄: 助言とか。
妹: がんばってください。
兄: あ、はい。
妹: はい。グーグー。
兄: 寝てますか?神様。
妹: あ、いやはい、はい。起きてます。
兄: なんかないですか。こういう事やったらよくなるよーとか。
妹: えー。
兄: すごく嫌そうですね。
妹: じゃあー、******をして、
そして******をすること。
兄: あ、今?
妹: 今。
兄: じ、じゃあ******をします。
そして******をします。
妹: はい。
兄: *******、******、、、
妹: グーグー
兄: 寝てます?結構がんばったんですけど。
妹: グーグーグッ!、、、、、、グゴウ
兄: 無呼吸。
妹: あーあ、**************
でも、**********
だから、*****だろ。グー。
兄: 、、寝言?
妹、突然起きる。寝ぼけた状態で電話。
妹: おわあ。
兄: !!びっくりした。
妹: あ、もしもし。はいはい。
どしたの?うん、うん。
でもまだしゃべって無いから。
兄: 神様じゃない。
妹: 待っててってそこで。
じゃその辺にいて。電話して。
うん。うん。
兄: 花じゃん。住所ざっくりとしか教えてないのに。
よくわかったな。
妹: だって一人でライブしてんだもん。
ピンポン押したけど全然気付かないんだもん。
うん、家で。押し入れにこもって
うん。知らぬは本人ばかりなり。まる聞こえ。
兄: え。防音加工したのに。
妹: ふすま10センチくらい開いてんだもん。
兄: 、、あ。
妹: 大声で歌ってるから。
近所まで来たらすぐわかった。
またすぐ追い出されるねこれは。
え?だからまだしゃべってないって。
兄: 花。
妹: あ、終わった?
兄: あ、え?
妹: ライブ。
兄: あ、あー、うん。
妹: 切るよ?じゃね、はーい。
兄: 、、、、。
妹: おっす!
兄: おっす。
妹: あー寝た寝た。
電気をつける。のび。
妹: うー。
兄: 花。
妹: ん?
兄: どやって入った?
妹: カギ開いてたよ。
兄: いえよ。来たなら。
妹: 言ったけど、聞こえてないみたいだったから。
兄: えーと、、じゃぁ
妹: アンコール結局何回までやったの?
兄: あ。
妹: 良かったよ。妄想ライブ。
兄: ちょっとあの、練習だ、練習。
妹: 照れなくていいって、今に始まった事じゃないでしょ?
兄: え?
妹: 昔もよく歌ってたじゃん。お風呂で。
兄: うん。え?なんで知ってんの?
妹: 『玉手んとこの風呂ライブ』近所じゅうにまる聞こえ。
兄: え?うそ!
妹: 中学から高校にかけて6年間。知らぬは本人ばかりなり。
兄: 、、俺、決めた。もうオラ北海道には戻らねぇ。
妹: 笑い話笑い話
兄: 俺にとっては大問題だ。
妹: あのさぁ
兄: 何。
妹: たまに実家顔出さないの?
兄: 旅費が無いもん。
妹: 最後に実家帰ったのいつ?
兄: 正月。
妹: いつの?
兄: タマちゃん来たころ
妹: タマちゃん?
兄: 多摩川に。
妹: 結構前じゃんっ
兄: 無事に帰ったかなぁ、タマちゃん。
妹: 帰ったはずだよ。5年前とかだもん。
兄: そうか、5年前かー。
妹: お兄ちゃん帰らないの?
兄: そのうちそのうち
妹: あたしこの前帰ってみた。
兄: んあー。
妹: 畑少し狭くするとか言ってたな。
兄: あー、もう歳だからな。
トラクターとか運転出来てんのか。
妹: フケたね。
兄: おふくろ?
妹: どっちも。
兄: 、、ふーん。何しに来た?
妹: ちょっと。
兄: ちょっとって何?
妹: まーまーまー。ホラ、あたしのためになんかやって、はい、さんっはい。
兄: あ?なんかってなんだよ。
妹: なんかなんか。得意の奴。
兄: 得意の奴?
妹: なんかないの?
兄: 突然言われても、、
妹: さんっはい。
兄: 、、
妹: あ、ほれ。どした。よいしょ。ほい、こらしょ。どっこい。よ!ほ!
兄: やりにくいだろ!
妹: ねー。
兄: ねーじゃねぇよ。
妹: がんばってるか。
兄: あ?
妹: ギターとか。
兄: 、、
妹: 唄とか。
兄: 、、
妹: 夢っ
兄: なんだ。おまえ兄貴をコケにしに来たのか。
妹: 違う違う!いいと思うよ。
30越してしかも平成の世の中で
ロッケンローラー目指してるなんて希少じゃん。
兄: コケにしてんな。
妹: してないしてない!
兄: ロッケンローラーっって、なんか古いだろ。
妹: 逆に新しいよ。
兄: 竹の子族みてぇだろ。
妹: とにかく応援してますからな?
兄: 、、、。
妹: バンドうまく行ってんの?
兄: あ、まあまあ。
妹: ねぇ、ライブ次いつ?あたし仕事やっと慣れてきたから行く行く。
兄: ああ、今度な。
妹: あの人元気?あの人!
兄: だれ?
妹: ドラムの、あれ?ベースだっけ?
*****似の
兄: 誰だよそれ
妹: 居たじゃん!あのカッコいい人!
兄: まずその*****がわからねぇ。
妹: わかった!ドナルド!あれ?グーフィーか。
兄: なんの話だよ。
妹: お兄ちゃんミッキーでしょ?
兄: うん
妹: バンド名は?
兄: ディズニー
妹: 大丈夫?お兄ちゃんのバンド。
兄: 大丈夫だよ!
妹: あの人元気?*****似のグーフィー!
兄: しらねぇよ。
妹: え?やめちゃった?
兄: ロックはな、出たり入ったりが激しいんだよ。
妹: そっかー、残念。
SE犬の遠吠え。ワンホーーーーンワンワンワン
兄: ハナ
妹: ん?
兄: 何か用か?突然夜中に現われて。
妹: あ、あたし?
兄: お前だ。
妹: あ、用?用はほら、えーと、、
兄: 金ならねぇぞ。
妹: いやいやお兄様よりは持ってます。
いちお社会人ですから。
兄: お、えらいな。まだ続いてんのか。
妹: もう2年目。
兄: えらいな。
妹: 今なんのバイト?
兄: 色々。たまに土方とか。たまに土方とか。たまに土方どか。
妹: 土方ばっかり。
兄: はい。
妹: あのさ。
兄: 何。
妹: 不自然だよね。
兄: 何が?
妹: 格好。
兄: 誰の?
妹: 太郎さんの。
兄: え?僕?
妹: どうしてすき間から覗きながら会話してんですか。
兄: 変かい?
妹: 変だよ。
兄: そぉ?
妹: 、、、。
兄: なんだ。なんだなんだ。くんな。くんな。
押入に寄る。
妹: 中どうなってんの?
兄: どどどどうもなってねぇ!
妹: ちょっと見せてよ。
兄: だめだ!
兄、足で向こうのふすまを閉める。
結構大変な体制になる。
妹: ちょっと。ガードしてない?
兄: してないしてない。
妹: してるよ絶対!何?
兄: してないよ。こういう格好なんだよ。
妹: え?どんな格好してんの?
兄: 普通だよ。普通。
だいたいこうだよ。最近の俺は。
妹: ふーん。
兄: 覗くな。えっち。すけべ。マイペット
妹: なにそれ。
兄: なんでもねぇよ。覗くな。訴えるぞ。
妹: そんなに見せたくないなら閉めればいいじゃん。
兄: 俺だってそうしたいよ。
妹: どういうこと?
兄: これ以上閉まらねぇんだよ。こっち側。
妹: なんで?
兄: しらねぇよ。覗くな。
妹: けち
兄: けち?ああ、けちなんだよ俺。参った参った。
今日から名前変える。玉手ケチ夫。
妹: あ、明り。何?電気引っぱってきてんの?
兄: そーだよ。早く帰れよ。
妹: みしてみしてみして
兄: 男の城だ!入ってくんな!
妹: わかった。いやらしい本とかあるんでしょ?
本の隠し場所をチラっと見る。
兄: 、、ねぇよ?
妹: 絶対あるよその反応!
兄: 男の城だ!文句があるか!
妹: ないない。
戻ろうとする。がフェイント。
妹: にゃあ!
兄: てめえ!
妹: ちっ。フェイント失敗。
兄: ふっ。もとバドミントン部をなめんなよ?まんけん。
妹: 漫研だけじゃないよ!美術部も掛け持ちだもん!
兄: お、やはり漫画研究会は各下なのか。
妹: そういう意味じゃないよ!世間体!
兄: そうだって言ってるようなもんだろーが。
妹: バドミントンだって女子スポーツじゃん!
兄: お前なぁ、スマッシュの瞬間最高速度知らねぇだろ?
妹: 知らないよそんなの!
兄: 仕方無いよ、文化系だもん。
妹: どういう意味?
兄: メガネブスにゃわかんねぇって。
妹: コンタクトにしたもん!
兄: 根暗系。
妹: あのぉ、
押入れでひとりぼっちで妄想ライブしてるような
30過ぎのおじさんに言われたくないんですけど。
兄: わかったからほら、しっしっ。
妹: なにさ。犬みたく。
兄: ブタ。
妹: てめえ!
ティッシュの箱などを投げつける。
兄: あぶね!おまえな、このスキ間に物体がせまってくる感じ、わかるか?恐ろしいんだぞ?!
妹: へっへっへ。あースーっとした。
兄: おまえは昔っから物に当たるな。
妹: そー?
兄: あれ?
妹: 覚えてないなー
兄: 本人自覚ねぇの?!けんかするたびに俺に物を投げつけたろ。
妹: そんな事あったっけ?
兄: お前に投げつけられた物ワースト3、小学1年生。水出しむぎ茶。
妹: 水出しむぎ茶?
兄: ハウス水出しむぎ茶をむぎ茶入れごと投げつけて来たろ。俺お茶まみれ。
妹: うそ、なんで?
兄: 知らねぇよ。
妹: 2位は?2位?
兄: 2位、幼稚園。石。
妹: え?
兄: 石。
妹: 石?(小さめに手で表現)
兄: (首をふり)石(大きい)
妹: 理由は?
兄: 知らん。
妹: どこにぶつかったの?
兄: 頭。
妹: よく平気だったね。
兄: 平気じゃねぇよ!ここに一生ハゲがある。
妹: まぁいいかそんな昔の話は!
兄: よかねぇよ。
妹: 1位は?1位は?
兄: 1位、新タマネギみじん切り。
妹: 新タマネギみじん切り?!
兄: まな板、包丁付き。
妹: 包丁!?
兄: さすがにかわした。が、まな板と新タマネギがな。
妹: 思い出した。
兄: 泣いたな、あれは。目を拭えば拭うほど、泣いたな。
妹: 包丁じゃないよ!果物ナイフだよ!
兄: かわんねぇよ!
妹: あたし、料理してたんだ。初めて出来た彼氏遊びに来て。
兄: ちっ何が彼氏だ中学1年生が。
1年前ランンドセルしょってたガキが!
変な顔しやがってあの野郎。
妹: 何思い出し怒りしてんの!
兄: 別れたか?まさかまだつきあってるとか
妹: また新タマネギのみじん切りなげつけるよ?
兄: あ。
妹: そやってねぇ、あんまりうるさいから
兄: あー、みじん切りが飛んできたのか。
妹: 用も無いくせにあたしの部屋覗きに来たりして。
兄: 用あったんだよ。色々。
妹: 絶対無いよ。
兄: おい、おまえ大丈夫か?東京出てきて変な虫ついてないか?
妹: まるで父親。
兄: うっ。ちっ違うわ!
妹: おじさん。
兄: 9個しか違わねぇ
妹: じゅうぶんでしょ?
兄: うるさい。
妹: 9個下と喧嘩する方が悪い。
兄: あーよく喧嘩したな。なんであんなに喧嘩したんだろーな。
妹: だいたい次の日はなんで喧嘩したか忘れてるんだよなぁ。
兄: なー。この歳になるともうさすがにねぇな。
妹: ないない。この歳で喧嘩してたらさすがに進歩ないでしょ。
兄: そーだなー。
妹: あたしももう23だ。
兄: もうそんなんなったか?
妹: うん。もう大人。
兄: ちんちくりん。
妹: ふざけんじゃねぇぞ!
兄: おい。
妹: は。
兄: はたから見たら、進歩の無い兄妹だと思われるぞ。
妹: あぶない。
兄: あぶないあぶない。
妹: ねぇねぇねぇねぇ
電気つけるとこの部屋ホントに狭いね。何畳コレ?
兄: 4畳半。
妹: すごいね。神田川の世界だね。まんが道の世界だね。
あれ?4畳半もある?1、2、3畳も無いんじゃない。
兄: 押入が1畳で玄関が半畳だったんだよ。
妹: それ、だまされてない?
兄: だまされたんだよ。
妹: だから言ったのに、今度お部屋探しの時にはかわいい妹をおよびって。
兄: かわいくねぇよ。
妹: ピキ。
兄: ピキって。今怒った音したぞ。
妹: うわ、もしかしてお風呂ないの?
兄: ないよ。
妹: 銭湯って事?ますます南こうせつ。台所は?トイレは?
兄: 共同。
妹: めぞん一刻じゃん。
兄: 古いんだよいろんなチョイスが。
妹: ねーねーいくらいくら?
兄: 1万円。
妹: 安い!東京でそんな部屋あるんだ!
兄: まーな。
妹: 白木屋3回分じゃん!
和民3回分じゃん!
笑笑3回分じゃん!
つぼ八4回分じゃん!
兄: なんでつぼ八は4回なんだよ。
妹: ***、*回分じゃん
***、*回分じゃん
兄: わあかったわかった。
妹: きったねぇ壁だなぁ。塗れば?
兄: え?塗ったんだよ。それでも。
妹: ほんとに塗ったの?
かりもんでしょ?
兄: いんだよもともとボロボロなんだから。
感謝されるに決まってる。
妹: また追い出されるね。引っ越したばっかでうるさいし。
兄: 俺には日本が狭すぎるんだよ。
兄: あのさぁ、お前いつからいるの
妹: 仕事終わってからだから、9時。
兄: 今何時よ。
妹、携帯で時間を見る。
妹: えっとね、もうすぐ12時。うわ、3時間も妄想ライブしてたの?
兄: そういう事になる。
妹: 病気だね。そういう仕事あればいいのにね。
兄: え?どんな仕事だよ。
妹: 押し入れで一人で妄想ライブして、お金貰えるの。
兄: 時給は?
妹: 時給2000円
兄妹: いーねー!
ちょっと考える。
兄妹: ないだろそんな仕事は
ちんもく
兄: 何しに来た?
妹: え?あたし?
兄: だからお前以外に誰がいるんだっつの。
妹: えっとぉ、んーとぉ。えーっとぉ。今度の部屋はどんな部屋かなぁと思って。
兄: 思って、何。
妹: 見に来た。
兄: わざわざ?
妹: そう。
兄: どうだった?
妹: 狭くて汚くて安かった。不便。
兄: よし。
妹: ん?
兄: 帰れ。
妹: うわ!冷た!
花の都で親元を離れてしかも別々に暮らす兄妹が
何ケ月かぶりの再会を果たしたっていうのに!
兄: おおげさなんだよ。もーいいだろ。
妹: 泊まる。
兄: は?なんで泊まるんだよ。自分のアパート帰れよじゃまくさい。
妹: ねーねーねーひとつ言ってもいい?
兄: いいよ。
妹: それでも血の繋がった兄か?!
いっつもいっつもじゃまにして!
今まで一度もお兄ちゃんらしい事してくれた事ない!
兄: 、、、、おい、、、それは、、その、、。
妹: お、傷ついた?
兄: 全然。俺なまらお前の世話してやったもん。
妹: ちくしょう。
兄: 俺はお前のうんこも替えた。
妹: うんこ替えるな!おむつ替えてくれ!
新しいうんこに替えてどうすんだ!替えのうんこ!売ってんのか!
兄: うるせえな、間違っただけだろ!
鬼の首取ったみたくなんだ!
用がねぇなら帰れほらー
妹: だから用あるよ。部屋見にきた。
兄: だから見たろって。
妹: まだ!まだちゃんと見てない!
兄: これ以上どうやって部屋ちゃんと見るんだよ。
妹: じっくり。ゆっくり。
兄: じゃしゃべってないでよく見たら帰れ。俺忙しいから。
妹: なんで忙しいのさ?
兄: 練習だ練習。
妹: いいよ練習して。あたしは、じゃ、じっくり部屋みよーっと。
へー、なるほどなー。ふーん。
兄: 練習のじゃまですけど。
妹: ムカ。
練習する、失敗する。
妹: ヘタクソ!ヘタクソ!ヘタクソ!ヘタクソ!
兄: うるせえ!
妹: うるせぇのおめーだこの!
兄: だまってろ馬鹿やろう
妹: 馬鹿じゃねぇこの!
兄: 口悪いんだよてめえ!
妹: おめーのせいだタコ!
兄: タコじゃねぇこの!
妹: 、、、、、、、イカ!
兄: 、、、、なんだそれ!
妹: 知らねぇよ!
兄: おめぇが言ったんだぞ。
妹: 言ってねぇよ!
兄: うそつくな!
妹: 、、、、、、寝る!(ふとんかぶる)
兄: 帰れ!
妹: (起きる)わあーー!
腹立つ!ムカつく!出てこい!
妹、立ち上がりふすまに手をかける。
兄、殺気を感じてふすまをガードする。
妹: 出てきなさい!(手前)
兄: やだ!
妹: 出てこい!(奥)
兄: やだ!
妹: 出てこい!(手前)
兄: やだ!
妹: 出てこいっての!(奥)
兄: やだ!やだ!やだ!やだ!
妹、離れる。
妹兄: はー、はー、はー、はー。
再び。
妹: 出てこいっての!
兄: やだ!やだ!やだ!やだ!
妹: なんで妹が会いに来てやったのに顔すら見せないの!
兄: やだ!やなもんはやだ!いやなんだあ!
妹: 子供か!、、まったく。はー、
兄: はー、はー、はー、はー、
妹: いつまで押入れ入ってんの?!
兄: こうなったらお前が帰るまで。
妹: 帰るまで?
兄: 帰ったら出ていく。
妹: 、、、、。
兄: おい、ちょっと爪きり取って。
妹: 爪きり?
兄: うん
妹、渡そうとしてやめる。
妹: 出てきて取ればいいじゃん。
兄: 駄目だ。出る瞬間に覗かれる。
妹: 覗かない。
兄: 覗くだろ。
妹: 信じて、この目が嘘をついてるように見える?
兄: 嘘だろ絶対!
妹: ほれほれほれ。
兄: ううう!
妹: ほれほれほれほれほれほれ!
兄: 爪きりくれ!
妹: 交換条件
兄: なんだよ。
妹: 絶対覗かないからその代わり、写メ。
兄: あ?
妹: 写メとらして
兄: あほか!同じだろ!
妹: 撮るだけ。絶対見ない。
兄: うそつけ!
妹: じゃーいいよ。交渉決裂。はい。どーぞ。
ギリギリ手の届かないあたりに置く。
兄: 、、、、、、。
妹: どうぞどうぞ。
兄: 、、、。
妹: お切りなさい。爪。ぞんぶんに。
兄: 、、、、。
妹: そして磨きなさい。爪。つるっつるに。
兄: 、、、、、、ちくしょう。
妹: あ、あきらめたんですか?
切った方がいいですよ?爪。
切らないと脳が活性化されないって、
あるある大辞典で言ってましたよ?
兄: 全部嘘だったんだよ!
妹: あー、よかったなぁ。
こっちに爪きりがあって。
あ、そうだ、ちょっと買ってこようかな。スペア。
爪きりの無い生活なんて、
クリープの入ってないコーヒーだわ。
兄、おもむろに立ち上がり、押し入れの奥から「釘取り機」を出す。
妹: ?
兄: 、、、。
カチ。
妹: 今なにした!
兄: ん?
妹: 今!何した!
兄: なんだよ。
妹: カチ!カチッて!
兄: え?持ってないの?「磁石でらくらくキャッチ」
妹: 持ってないよ!何その商品名。
兄: 一家に一台は必要だぞ。100均に売ってるんだぞ。
妹: そんなもの一台もいらないよ!
兄: ばかかおまえは。
妹: いつ使うのそんなもん!
兄: 例えば、爪きりが妹に奪われて届かなくて、
しかし押し入れから出られない、そんな緊急事態とか。
妹: 無い!そんな緊急事態めったにない!
兄: 例えば、
妹: 、、、
兄: せんきゅーせんきゅうとーきょー!あ。
ピックを落とす
兄: 例えば、ライブの最中に、
つい、この鉄のピックを落としたとする。
このままじゃ、俺のライブがとまっちまう!
じゃーん。
カチ
妹: 無い!なんでライブにわざわざ持ってってんの?
どこに置いとくの?
兄: ドラム、ベース、ギター、「磁石でらくらくキャッチ」
妹: しかもわざわざ鉄のピック?
プラスチックだったらどうすんのさ?
兄: そりゃおまえ、手で拾うよ。
妹: 手で拾え!
SE犬の遠吠えワホーんワンワン、ワン
兄: おい今何時だ?
妹: あ、やべ。充電切れてた。わかんない。
兄: 時計持ってねぇのか。
妹: ない。
兄: 時計くらいあれよ。
妹: この部屋には?
兄: 無い。
妹: 時計くらいあれよ!
兄: わっはっはは。
妹: 充電させて充電。そしたらわかる。
兄: うちに充電機なんぞ無いぞ。
妹: 持ってますから。
兄: ふーん。
妹、充電機を探す手を止める
妹: あ、そうだ。ちょっと携帯!繋がらなかったんだけど。
兄: つながるわけねーだろ。
妹: え?なんで?
兄: 無いから。
妹: え?無くしたの?
兄: いーや。
妹: 壊れてんの?
兄: いーや。
妹: どしたの。
兄: そんなものとっくにやめたわ。
妹: やめたの?
兄: だっていつでもどこでも好きな時に遠くの人と会話出来るじゃん?
妹: そうだよ。
兄: 最悪だろ。
妹: いいトコでしょそれ。
兄: 携帯なんかなぁ、持ってたってどうしようも無い事ばかりだ。
妹: 困んないの?
兄: 困んないよ。
だって俺が小学校の時なんてトランシーバーしか無かったんだぞ?
しかも100メートル以上離れないでくださいって。
妹: 無理じゃんそんなの。
兄: もともといらねぇって事だ。
妹: いるよー
兄: 電報でいんだよ電報で。
妹: え
兄: 電報で十分。いや、電報も使ってねぇな。
妹、あたりを見回す。
妹: もしかして家電も無いの?!
兄: うん。
妹: どうすんのもしもの時!
兄: それはもしもの時に考える。
妹: 例えば、誰か、死んだとか!
兄: そんなもん俺が行って生き返るわけじゃないだろ。
妹: 誰か事故ったとか!
兄: 俺が行って治るわけじゃないだろ。
妹: 突然実家戻らなくちゃいけなくなったとか!
兄: 安心しろ。俺に突然の北海道への旅費なんぞ用意出来ない。
妹: 内臓が破裂して!突然救急車が呼ばなきゃってなったら!?
兄: 自力で病院行く。無理なら死ぬ。
それ以前に、内臓に気をつけて生きる。
妹: 、、、。
兄: おわり?俺の勝ちだな。
妹: じゃ、あたしに、なんかあったとか。
兄: なんかってなんだよ。
妹: なんか。大変な事。
兄: 大変な事?例えば?
妹: 、、
妹、なにかを言いかけるが、やめる。
兄: ほらな?大変な事なんてそうそうねーだろ?
妹: 、、コンセントどこ!?
兄: なに怒ってんだよ突然。
妹: 怒ってないよ!ムカついてきただけ!
兄: 怒ってるだろそれ。
妹: う~~
手近に投げられる物を探す。
兄: お、なんか投げるもん探してる?
妹: はっ
兄: 危険な女に育ったなおまえ
不法侵入と物をすぐに投げる罪で警察呼びますよ?
妹: そんな罪無い!電話もないくせに!
兄: ちょっと君、携帯で呼んでよ。警察。
あ、充電ないのか。
じゃ、ひとっぱしり自首してこい。
妹: なんであたしが!、、くそ、、、
狭い!汚い!万年床!出てこい!コンセントどこだ!
兄、ギターを弾く。ギャヤギャギャギャゥウウン
妹: 近所迷惑だぞおお!!わああああ!
兄: 落ち着け。
妹: はーはーはー
兄: おまえが一番うるさい。
妹: わかってるよ!
兄: もったいぶって無いで早く言え。
妹: え?
兄: 大方予想ついてんだから。
妹: ほんと?
兄: うむ。
妹: そっか。
兄: さあ、言え。
兄、すきまに顔。
妹: 実は。
兄: うん。
妹: あの、、
兄: うんうん。
妹: 、、あのさ。
兄: うん。
妹: 、、、、。
兄: どうした。聞いてるぞ。
妹: 押し入れから出て来てくんない?
兄: なんで。
妹: 話、しにくい。
兄: 俺はそんな事ないぞ。
妹: あんたはそうでしょうよ。
兄: いーじゃねぇか別に。
妹: ちゃんと話したい。
兄: これのどこがちゃんとしてないって言うんだ。
妹: どこもちゃんとしてない!
兄: どうせたいした事じゃねーんだからよぉ。
妹: なにそれ!?
兄: だから大方予想はついてんだって。
妹: 言ってみないとわかんないじゃん
兄: だから言えって言ってんだよ。
妹: 出てきてよ!
兄: おまえ帰ったらな。
妹: うううう
また投げるものを探す。
妹の目に入るちゃわん。
妹: 、、、、、、、、、。
兄: ?
妹: 、、、、じゃ、帰るわ。
兄: お?
妹: あたし、どうかしてたみたい。
兄: ふーん。帰れ帰れ。
妹: そのかわり。
兄: なんだ?なんでも言ってみろ。
妹: もう来ないからね?
兄: 、、え
妹: 2度と来ないからね?
兄: 、、
妹: いい?
兄: 、、、
妹: いいの?
兄: いいよ。
妹: じゃ帰る。
兄: いいよ別に。
妹: いんだね。
兄: うん。
妹: 未練たらしくこっち見ないでくんない?
兄: 見てねぇよ!
背を向ける、兄。
妹: じゃーねぇー。帰るよー。
部屋の電気は消して行こうっと。
電気を消す。月明り。
妹、足音をちゃわんとおわんで立てる。
カッポカッポカッポカッポ
馬の足音にしか聞こえない。
妹: 、、、、。
兄: 、、行ったようだな。
妹: (よし)
兄: さて、押入という名の小宇宙から出るか。よっこらしょ。
妹: 、、。
兄: どっこいしょ。いて。小さな食卓に小指ぶつけちゃったよ。
あ、小さなクーラー止めなきゃ。
小さな階段降りて~、小さなテレビの横通って~
小さな暖炉の前通って~、おや、小さな暖炉の火を消さなくては。ふー。ふー。ゲホゲホ
あ、ごめんごめん。起こしてしまったか?小さなみんな。
よおし、点呼を取る。番号。
いーち、ニィ、さん、シィ?ゴ!ろーく、ナナ!
ははは、まったく元気がいいな、7人のコロポックルたち。
おいおい両腕の上腕二頭筋から三頭筋にかけて
ぐるりと3人づつぶら下がるのはおやめよ。
一人余ってるじゃないか。おい、どこに行くんだイエロー。
駄目だ!押入という名の小宇宙から出るな!
妹: !?(出てくる!)
兄: 出ちゃ駄目だ!おい!イエロー!
お、おい!おまえたちまで行くのか!
人間には気付かない程度の小さなふすまの穴を
小人が通れるくらいの大きな穴にするのはよせ!
よせ!みんなで協力するのはよせ!
モウスコシダァ、ガンバルゾオ、オー
手にちゃわんを持ったまま、思わず押入に寄る妹
兄: お前たちに、人の世は広すぎる!!
アイタゾ!ワー!
妹: あいた?どこ?どこ行った?こびと?
、、、どこ、、、どこ、、。
妹、気付く。
兄: おい。
妹: 何。
兄: もっかいやってみろ。
妹: 、、、、。(ちゃわんを思い出す)
手におわん。
妹: 、、。
兄: もっかいやってみろ。
妹: 、、。
妹、もっかいちゃわん芸をやってみる。
兄: 馬かおまえは。
妹: く
兄: だまされるかそんなもの。
妹: く
兄: 普通に歩けばいいだろ。
妹: は、しまった。
兄: ばーか。
妹: くそ!押入を、ぶっこわす!
こわしにかかる、妹。
兄: ばかばか!
妹: ばかじゃない!
兄: ちがう!よく見ろ足元!
妹: え?
兄: 足元!小人踏んでる!
妹: あ!!
そーっと足を上げる妹。
妹: 、、、
兄: かわいそうに。レッド。
妹: リーダー、、、、。
兄: あーほぉ。
妹: 、、、
兄: あああほお。さーるぅ。
妹: 、、、、、。
妹、不機嫌に背を向けて座る
妹: なんで昔喧嘩ばっかしてたか、思い出してきた。
兄: そーか。よかったな。
妹: 良くないよ。
兄: どうせまたブスっつらしてんだろ。
妹: !(してた)、してない。
兄: どんどんコロッコロしやがって。
妹: ああ?!
兄: おまえ大丈夫か?そんなに密度が高くて。
妹: は?
兄: ブラックホールにでもなるのか。
宇宙一密度が高いものそれはブラックホール
妹: 、、、。
兄: 常に甘いモノを吸い込むのか?
大丈夫か?おまえの密度。
妹: 大丈夫です!
兄: 密度。
妹: 今あたしの密度の事は関係ない!
兄: みっちゃん。
妹: そんな名前じゃない!
兄: 話は終わりだ!さあさあ帰った帰った!
妹: そんな話で終わりにすんな!
妹が、せっかく兄の家に尋ねてきたんだよ?
なんかないの?お茶出すとか!よく来たなぁとか!
「おう、来てたのか、最近どうだ?」とか!
「ちょっと見ないうちにまた奇麗になったなぁ」とか!
兄: 夢みてぇな事言ってんじゃねぇよ。
妹: どこが!!どこが夢みたいな事だっての!
兄: わかったからいちいちいきり立つんじゃないよ。
妹: 仮にさぁ!用も無いのに遊びに来たとしてもさぁ、もてなしてよ!
兄: わかったよ
妹: もてなしてよ!
兄: わかったって
妹: じゃんじゃんもてなせ!
兄: うるせぇ!
妹: 、、、。
兄: モテなせばいんだな。
、、じゃ、えーと、唄いまーす。
妹: え?
兄「帰れの唄」
妹: モテなしてない!
兄: そう?
妹: なに*******って!
兄: 心をこめて歌いました。
妹: こめないでよそんなのに。
兄: お、怒ったか。
妹: 怒ってません。
兄: 怒ってんじゃーん。
妹: 、、、(無視)
兄: あ、無視!リアル怒り?
妹: コンセント貸してください。どこにあるんですか。
兄: お、敬語が出たらもう本気モードだな。
妹: 子供扱いしないでください。
兄: お前の行動パターンが読めるだけ。
妹: 、、、。
兄: お、言い返さなくなったら次は「帰る」だな。
妹: わかりましたからコンセントどこですか?
充電少しさせていただいたら帰りますんで。
兄: コンセント、ふとんのあたりにありますけど。
妹: この部屋暗すぎで見えないんですけど。
兄: お前が消したんですけど
スイッチをつけるが、つかない。
妹: つかないんですけど。
兄: え?
妹: つかないんですけど。
兄: なんでだよ。
妹: 知りませんけど。
兄: 電気切れたんかな。
妹: 買い置きなんてどうせないですよね
兄: どうせ無いです。
妹: 暗いんですけど。
兄: 手探りで探せばいんじゃないですか?
妹: 嫌なんですけど。
兄: なんでですか!
妹: どーもすみません。
兄: 敬語やめろ!まくらもとに明りあるよ。
妹: どこ?あ、これ?
工事現場のピカピカ
兄: あー。それではないが。
妹: なにこの、よく工事現場で見かけるやつ。
兄: 落ちてた。
妹: どこに。
兄: 工事の、現場
妹: 盗んだだろ?!
兄: 違う違う、ちょっと点滅しすぎだと思ったから。間引きした。目に悪い。
その明りで探してみろ。もっと懐中電灯に近いもんあるだろ。
妹: どやってつけんの?
兄: 頭回せ。くるくる。
ピカピカの中で探す。
妹: 、、くそ、ちょっと役に立ってるのがシャクだ。あ。、、
自転車の電気
妹: もっと懐中電灯に近いものって、もしかしてこれ?
兄: そう。
妹: 自転車なんか持ってたっけ?
兄: 落ちてたんだよ。
妹: どこに。
兄: 駅の自転車置き場。
妹: のどこに。
兄: チャリ
妹: どんな。
兄: 子供用
妹: のどこに!
兄: ハンドル。
妹: 盗んだんだろ?!子供のチャリから!?
兄: わかんない。
妹: わかれ!貧乏だわ盗みは働くわ。おまけに嘘はつくわ。最悪だ。
兄: 生きてくためだ。
妹: 必要ありません。あ、コンセント発見。
兄: ほら必要じゃん。
妹: くそ。
妹、コンセントに充電さす。
妹: あれ?あれ?
兄: どした。
妹: 壊れてる?このコンセント。
兄: 壊れてないよ。今日つかったもん。
妹: あれ。充電ささらない。
兄: 電話が壊れてんじゃないのか。
妹: 壊れてないよ。今日つかったもん。
兄: あ。
妹: なに。
兄: 今日月末?
妹: ああ、うん。
兄: なるほど。
妹: なに?
兄: いいか、これは第一段階だ。
電気、ガス、水道の順に止められる。
人間に必要の無いものから順に、止められる。支払いが滞ると。
妹: え?
兄: 電気とまっちゃった。
妹: 1万ぽっちの部屋で電気止められるって、なんなのさあんた!
兄: な、俺も毎月不思議でたまらん。
妹: 毎月?ねぇ毎月?!
兄: そうじゃない月もあるよ。
妹: そうじゃない月だけにしてよ。
兄: 無茶言うなよ。
妹: 無茶じゃないよ。
妹: 月いくら稼いでんの?
兄: そんなには稼いでないな。
妹: 何に使ってんの?
兄: 飯、酒、タバコ、銭湯。あと、スタジオ代。
妹: もしかして借金とかしてるわけ?賭け事とか。
兄: まさかー。
妹: なんかすごい心配になってきた。
兄: 安心しろ。大丈夫だ。
妹: この暗さで言われても説得力無いんですけど。
、、あれ?
兄: 何。
妹: なんで押し入れだけついてんの。
兄: あ、気付いた?
妹: なんで?
兄: ここさぁ、軽く防音加工しようと思ってさぁ、天井あけたんだよ。
そしたらさぁ、電気のコードがさぁ出てたんだよ。
しかもムキ出しで。俺10秒くらい感電しちゃったもん。
しぬかと思った。ふふふ
妹: だからなに?
兄: たぶん、5号室の。
妹: 5号室?
兄: 郵便箱には山田って書いてたな。となりの人。
妹: 電気泥棒じゃん?!
兄: ヤマダデンキ
妹: 、、最悪だ。
兄: せっかくだから3つ口コンセント導入しちゃったよ。
妹: ミッキーさん。
兄: はい。
妹: そのうちショボい罪で新聞乗るよ。
「ロッケンローラー、電気の類いを盗んで捕まる。」
兄: そりゃいいや。はっっはっはっっは!
妹: 笑い事じゃない。なんかあたし、情けなくなってきた。
兄: そう?俺はそうでもないよ。
妹: 、、、そう。
兄: なんだその思い切り失望したような「そう」は?
失礼だな。俺だってがんばって生きてんだよ!
妹: 他の事をもっとがんばって!
兄: 他に何がんばれって言うんだ。
妹: 、、(タメイキ)
兄: ん?
妹: 帰る。
兄: あら。
妹: 帰る前にちょっとだけ充電さして。
電話入れなきゃ。
兄: おふくろか?
妹: え?
兄: だから大方予想はついてるって言ってんだ俺は。
妹: あっそ。
兄: タマネギの事だろ?
妹: 、、、え?
兄: タマネギの事なんだろ?
妹: なに言ってんの突然。
兄: 隠したって駄目さ。
妹: タマネギじゃないよ。
兄: 俺は、タマネギが、嫌いなんだよ!
妹: うん、あーそうなんだ、へー。
兄: タマネギなんだろ!タマネギの事なんだろ?!
妹: 大丈夫?!タマネギじゃないよ!
兄: タマネギの他に何があるってんだよ!
妹: タマネギの他にも色々な事があるよ!
兄: 無いよ!
妹: あるよ!
兄: あーもうタマネギタマネギタマネギ!
妹: タマネギタマネギ言ってないでしょ!?
兄: タマネギの事になるとすぐそれだ!
妹: あ、やっとわかったよ!
今日はタマネギじゃないから!
兄: 今日はタマネギじゃないのか!
妹: なんだこの喧嘩!
知らない人聞いたら意味わかんないよ!
兄: タマネギ農家つげって言ってんだろ?おふくろ。
妹: 最初からそう言ってください。
貧乏で頭おかしくなったのかと思ったよ
兄: ちょっと俺、最近タマネギに敏感になりすぎてるかも。
妹: もーいいって。
兄: 、、タマネギ農家の話じゃないの?
妹: ぜんっぜん違います。
兄: 違うんだ。
妹: 違う。
兄: はっはっは、なーんだ。すまんっ許せ。
妹: 、、、、、、、
そんなに心配してんなら、
自分で聞いてみりゃいいじゃん。
兄: 、、だって
妹: だって何
兄: 、、携帯ないもん。
ちんもく
妹: 昨日お母さんと電話したけど、
そんな事一言も言ってなかったよ。
兄: 、、、、、
妹: ニューパパも元気だってさ。
あ、もうニューじゃないか。
兄: 、、
妹: 新しいパパが来て、
タマネギ農家に変わってもう7年だもんね。
SE犬の遠吠え
妹: これ、充電して。ちょっとでいい。
兄: 帰んの?
妹: 帰る。
兄: もちょっといろよ。
妹: いい。
兄: もう終電無いんじゃない?
妹: タクシーで帰る。
兄: もったいない。まぁゆっくりしてけ。
妹: いいよ。暗いし。
兄: そうだ。そのタクシー代でコンビニ決済して明るい生活を手にいれよう。
妹: 自分で払ってください。
兄: 冷蔵庫に冷た~いビールあるぞ。
妹: どんどんぬるくなるよ。電気止まってんだから。
兄: 日本人だけらしいぞ?ビールをキンキンにひやして飲むのは。
妹: あたし日本人だから。
兄: よく来たな。ハナちゃん。
妹: もう遅い
兄: いい名前だ。
妹: なんか疲れた。これ差して。
充電機のコンセントを渡す。
兄: 、、、話ってなに?
妹: いい。今度。電話急ぐから。
兄: 聞く聞く。ちゃんと聞く。はい。何?
妹: 、、
兄: 見える?ハナちゃん、俺正座してるよ今。
妹: まず充電して。
兄: 充電したら出てくだろ。
妹: 電話、急ぐんだって。
兄: そんなに急いでどこに行く。な。
妹: 充電!
兄: 駄~目、これはヤマダさんの電気。
妹: 、、、、。
妹、キレる。
無理やりこじあけようとする。
兄: あ!ハナちゃん!駄目!中は見たら駄目!
妹: あけろおおおおお!!
兄: 駄目!駄目!駄目だ!
SEバキ!
妹兄: ?!!
兄: だいじょぶか?
妹: え、うん。
兄: ほんとか?血出てない?
妹: 出て無い。
兄: えらく大げさな音がしたな。
妹: なんか折れた?
兄: おまえ折れてないか?
妹: 大丈夫。
兄: びっくりしたな。
ちんもく
兄: おい、だいじょぶか?
妹: 、、うん。
兄: すまん、ちょっと調子コイた。
妹: うん。
兄、電源タップに充電機を差す。
兄: 充電したぞ?
妹: うん。
兄: やっぱ帰る?
妹: 、、うん。
兄: そうか。
長いちんもく。
妹座る。
妹: 充電待つ間、何か聞いていい?
兄: ん?ああ、いいよ。
CDを探す妹。
兄: あ、駄目だ。デッキ売ったんだった。
妹: 、、、。
兄: わかったわかった。俺がかなでようじゃないか。
CDを置き、
ふと、サンタの絵を思い出す。
兄、ギターをひき始める。
妹: 、、心配してたよ。
兄: 誰
妹: おかーさん。
兄: あー
妹: ニューパパも。
兄: 俺は心配ないって。
妹: お金ないじゃん。
兄: いいの。必要ないの。
妹: ミュージシャンなのにCDデッキも無いじゃん。
兄: そのうち金入るよ。
妹: ちゃんと仕事する気ないじゃん。
兄: 、、あー、それは言えてる。
妹: ニューパパが、お金困ったら言えって。
兄: 、、やっぱタマネギの話じゃん。
妹: ちがうよ。心配してんだって。
兄: だから、俺は心配ないの。
妹: 、、、、、、。
いて。血出てた。
兄、ギターをやめる
兄: 嘘!?わりい!あ、ばんそうこっ
あ、えっと、どこだっけ。
そっちだわ。
あんねぇ、冷蔵庫の中!
妹: なんでそんなとこにあんのさ。
兄: いや、わかりやすいから。
ドアんとこ。開いて、右っかわの。
たまごんとこ。
妹: ウソ。
兄: は?
妹: ウソ。
兄: なんだそれぇ!
あくどい嘘つきやがって。にゃろう。
妹: なんで不良やめたの?
兄: え?
妹: 不良だったじゃん。高2まで。ツッパリだったじゃん。
なんで不良やめたの?
兄: えー。なにそんな恥ずかしい話を。
妹: なんで?
兄: さぁ、わすれちまったなぁ。
妹: なんで大学入ったの?
兄: 農業大学?
妹: なんで大学やめたの?
兄: つまんなくなったの。
妹: かあさんとこにニューパパ来たからでしょ?
兄: あーそうですよ。
タマネギ農家になったからですよ。
くせえんだよ。夏。
ならいいやと思って農業大学やめたの。
妹: で、ロックを目指していると。
兄: お前もずいぶん古い話を持ち出すね。
どした?
妹: これ。
サンタの絵を自転車のライトで照らす。
兄: なに?
妹: あたしの描いたサンタの絵。
兄: !!あ!人の部屋漁ったのかおまえ!
妹: 熱唱してんだもん。
兄: 大事に扱えよ?
妹: 大事なんだ。
兄: あ、いや、別に大事じゃない。うそ。
妹: これが、小学校3年の時で、
これが、小学校2年の時。
見える?
兄: 見えるよ。
妹: 裏に線香花火。
兄: 知ってるよ。俺が貰ったんだからおまえに。
妹: あたしは毎年サンタに誕生祝して貰ったからな。
誕生日のお返し。25日までに描くの。
兄: サンタさんへっつってな。
妹: 小学校2年生。
兄: ふっ。あおひげ。
妹: これだーれだ。
兄: 、、死んだ方のおやじ。
妹: これお父さんにあげたのに。
兄: 引き継いだんだよ俺が。
妹: こんなに青かったの?アゴ。
兄: うん。
妹: 覚えてないなぁ。
兄: いんだよ、一人で事故って死んだんだから。
妹: どんな事故?
兄: 雪ですべったの。よりによって12月24日に。
妹: あたしの誕生日だ。
兄: おまえ9歳。
妹: 小学校3年。これだーれだ。
兄: 、、俺。
妹: ひげが無い。
兄: 18でひげボーボーはこわいだろが。
妹: 引き継いだのか。18歳のお兄ちゃんが。
兄: しかたねぇだろ。サンタと言えば男だから。
妹: で、不良やめて、2浪して、農業大学入って。
でも卒業間際にやめたんだ。
兄: おまえも無事高校合格したしな。
妹: ニューパパが、タマネギ植えに来たからでしょ?
兄: 、、、、、引き継いだんだよ。
妹: そっちの部屋の天井。
あたしの子供部屋のカーテンだ。
兄: え?
妹: 壁にはきっとあたしの歴代サンタの絵がびっしり。
兄: 覗いたのか!?
妹: 行動パターンが読めるんだよね。
兄: 、、、くそ。
妹: 必死に隠して損したね
兄: うん。
妹: シスコン。
兄: なんだそれ。
妹: シスターコンプレックス。
兄: 違うっての。
妹: あ、手痛い。さっきくじいたかも。
兄: うそ!湿布、冷蔵庫の、奥!
妹: ウソ。
兄: なんだおまえさっきから!怒るぞ?!
妹: 、、、。
いつの間にか聞こえてるへたくそな演奏。
妹: 自分の事も心配しないと駄目だよ?
兄: してるよ。
妹: ニューパパが、お金困ったらいえってさ。
兄: やっぱそんな話か。
妹: 母さんも言ってるよ。
兄: わかったわかった。充電もーいいだろ?帰れよ。
妹: バンドがおっきくなるまででもさ。
兄: 、、、わかったわかった。
妹: 電話もつけてね。
兄: いんだよそれは。
妹: よくないよ。
プルルルル、プルルルル。携帯の着信。
兄: ほら出ろ。ニューパパか、おふくろだろ?
わかったって伝えろ。
妹: もしもし?今どこ?
近くのコンビニ?わかった今行く。
いや、もう帰る。
兄: だれ?
妹: 結婚相手。
兄: え?誰の?
妹: 来年転勤になるから、一緒についてく。
兄: 誰が?
妹: あたしが。
兄: は?!
兄、戸をあけようとする。
兄: あれ?
妹: 何?
兄: ちょっと、あれ?く!
妹: どしたの
兄: 変だな。
妹: え?
兄: そっちから開けてみてくれる?
妹: 開かないの?
兄: あかないんだよな。さっきので立て付け悪くなったかも。
妹: 、、。
兄: くっ。そいつ、大丈夫か
妹: 大丈夫
兄: くっいい奴か?
妹: 大丈夫。
兄: やさしいか?
妹: 大丈夫。
兄: 音楽とかやってねぇか?
妹: やってない。
兄: たいした音楽なんぞ興味ないくせにっ
せっかく新しい奴来たのにっ
意地張るようなっ、、くっ
なんか、妹取られたような気になって、、く!
何年もいじけてるみたいな、、くく!
ちくしょ、、。
開けるのをあきらめる。
兄: しまいに、
バンド仲間に逃げられて。
自分で勝手にしょいこんでっ、
家族に心配かけてるような、、そんな。
ちんもく。
妹、ふすまに手をかける。
妹: んんん!!!
兄: 無理だって。
妹: んんんんん!
兄: 俺でも開かないんだから。
妹: んんんん!!
兄: おい
妹: んんんんんんんんんんんん!!!!!!
兄: 花。
妹: できる!
兄: 、、無理だって
妹: 一人でできるもん!
兄: 、、、
妹: んんんんんんんんん!!!!!!!!!!!!!
このやろおおおお!!!!!!
SEバキ!!
ふすま、はずれる。
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たくさん台本を書いてきましたが、そろそろ色々と人生のあれこれに、それこれされていくのを感じています。サポートいただけると作家としての延命措置となる可能性もございます。 ご奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。