サンタのうた

『サンタのうた』 作・すがの公
(2017.9.6韓国テジョン公演バージョン)
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<演劇台本>
・許可なく上演コピー配布することを禁じます。
・許可については別記
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■一場 前の日の夜

客入れ最後の曲上がり暗。
娘による録音の声。

『うちの物置には、小さなツバメの巣がある。
「今年もちゃんと、戻って来てるのかなぁ」
春が過ぎて夏になる頃、父がテレビを見ながら必ず言う。
ママはそれを聞いて、「あなた気になるなら見てくれば?」と少し馬鹿にしたみたく笑う。
「ひーちゃん、そろそろツバメが寝たと思うよ」
父はパジャマのあたしに懐中電灯を渡す。』

娘の懐中電灯の光り、物置の中を照らす。

『「ツバメを起こすといけない」
父の作った梯子をかけて、あたしがのぼって確認する。
ツバメを起こさないように気をつけながら懐中電灯で静かに照らす。
ツバメのつがいと小さな卵。
あたしは梯子を押さえてる父に無言でうなづく。
またそおっと梯子を降りて、黙ったまま家に入る。
あたしは父に報告する。
卵は何個で、どうやら去年と同じ燕で、懐中電灯で一匹が起きて、、、
小さい頃。ツバメを確認するのが楽しみだった。』

録音の中、目がなれてくる。
月明りの明、上手から差し込む光。
夏になる前。物置。
娘、下手の天井を見る。

『小学3年生の時、ツバメが戻ってこなかった。
あたしはその年の夏休みの自由研究でツバメの事をたくさん調べた。
中学校に入るまで物置探検は毎年行われた。
高校を出て、大学に入って、いろいろあった。
いろいろあって最近、あの物置探検を思い出す。』

娘:清彦さんまたなんか作りかけ。
 そりゃママに片付けろって言われるわ。

物置の壁を照らす

娘:、、、こんなに狭かったっけかなぁ

なにか、物音が聞こえた気がして、
再び下手の天井をみる。耳を済ます。

娘:、、、、あ。

曲聞こえてくる。
『アベマリア(シューベルト)』
娘、棚にある宝箱を見つける。
手紙の束。
中を見る。カセットテープが出てくる。

娘:カセットテープ?

カセットテープに文字「あべ」

娘:清彦さんの字だ。

よくわからず
燕の方を見上げる娘。

曲少しずつ上がり、ゆっくりと暗。

『季節は夏になる前、私と物置と、サンタの話。』

暗の中、風の音、何かの音。
SE『ビュウウウウウ、カランガタン』

照明、戸口にはしご。つっかい棒になる。

二場■片付け

トンカチの音、聞こえてくる。
トントントントンっトンっトンっ
はだか電球の明。

父、スツールを作る。掃除の格好。つなぎ。てぬぐい。
娘、まわりで片付けをしてる。ハタキ。マスク。

父:♪(鼻歌)♪なんか風強いなぁ今日。外の梯子、飛ばされないように中いれなきゃな。出てたろ?使った?あの梯子見た目よりも軽いからな。軽くて丈夫。俺が作ったの。♪おーいえい、軽いはしごー♪ふと口にした言葉が詩となり、歌となる。参った参った。
娘:清彦さん。
父:はい~
娘:片付ける気あんの?
父:あるよ。
娘:どこが!清彦さん他の事してんじゃん!物置片付けろっていわれたの清彦さんでしょ?「明日9時、物置集合」だけメールして手伝わせて!もう昼すぎたんですけど?
父:よくみなさい聖くん、父は今、何をしている?
娘:トンカチもって。また余計なもん増やしてる。
父:男のDIYを馬鹿にするのか!
娘:D I Y
父:「Daddy、Iloveyou、You love me」
娘:片付けないなら帰る?
父:まだちっとも終わってないじゃないか?
娘:だから働けっていってんの!
父:働いてるよ!
娘:働いてない。
父:働いてるよ!
娘:ちっとも働いてない。
父:俺だって働きたいよ!
娘:え?
父:俺だって早くまんが家になってしめきりに追われたいよ!
娘:ちょっと
父:担当に銀座でカツ丼買ってこいっていいたいよ!
娘:清彦さん。
父:でも努力賞もとれないんだよ!
娘:なんのはなししてんの?
父:雑誌のまんが大賞。
娘:少年誌の。
父:はい。
娘:作品のタイトルは、えーとー
父:『バードウォッチャーうずらちゃん』
娘:読み切り31ページ。
父:鳥と話せるうずらちゃんの生活。
娘:拝見しました。
父:はい。
娘:バードウォッチングという題材が新しいと思います。
父:ありがとうございあす!
娘:ただー
父:ただ?
娘:全体的にのんびりとした印象を受けますね。
父:のんびり。
娘:最後のえーと、クライマックスというか、
父:うずらちゃん、鳥を数え間違える
娘:盛り上がりに欠けます。
父:くそ(何か八つ当たりをする)
娘:八つ当たりしない!作るならちゃっちゃと作ってそれ、片付けるよ?
父:はーい。

娘、片付けに戻る。

娘:木工職人にでもなればいーのに。
父:やだ。俺まんが家だもん。

トントン、トントン。

娘:いけそう?『バードウォッチゃーうずらちゃん』
父:だめかなー。
娘:弱気じゃん。
父:ここ1ヵ月弱気なんだよ俺。
娘:あー。そりゃーねぇ。
父:人事だね。君も。
娘:だって関係ないもん。お二人の問題でしょ?
父:はいはい。そーですね。
娘:あたし聞きたかったんだけど家出てから1ヵ月、どこ住んでたの?ここ?
父:住むかこんなとこ。
娘:どこ?
父:アシスタント部屋だよ。
娘:あ、まんが家先生の?
父:なさけないよおれは
娘:売れるまでの辛抱ですってば
父:お。売れると思ってくれてる?
娘:あ、思ってる思ってる。
父:言い方が軽いな
娘:でも少年用のマンガ雑誌はどーかなぁ。男の子用のマンガってさぁ、弱い主人公が強い敵と戦ってどんどん強くなってくような。そして友情パワーで仲間を増やしていくような。そういうのでしょ?清彦さんのマンガはそういうのとちょっと違う気がする。
父:でも俺は少年誌に当選したいんだ!
娘:そっか
父:『最年少大賞受賞!小石川清彦くん(若干15歳!)』少年誌にデカデカと。
娘:タイトルなんだっけ?
父:『ハードパンチャーこぶし君』
娘:ネーミングセンス変わんないね。
父:中学3年の春でした。次の日からクラスの人気者だ。あだ名、「まんがくん」。
娘:安易だー
父:それがそもそも間違いの元だ。少年誌へ投稿を続けるうちに、いつの間にやらアシスタント歴25年。
娘:間違いじゃないよ。男の夢でしょ?
父:そういってくれんのはひーちゃんだけだ。
娘:あたし清彦さん派だもん。味方味方。だって。ちょっとママひどいと思う。
父:いやいや。ママは悪くないの。
娘:そうかな。
父:そーなの。

トン、トントン。

父:元気か、ママ。
娘:知らない。
父:知らないって事あるか。
娘:あんまり会わないもん。
父:なんで?一緒に住んでんなら会うだろ。
娘:会わない。忙しいから。
父:どっちが。
娘:どっちも。
父:そーかぁ。
娘:ほら、手動いてない。手!
父:はいはい。

トントン。トン。

父:会社うまく行ってんのかなぁ。大変なんだろうな。社長さんだもんな。よくしらないけど。
娘:忙しいって事はうまく行ってるって事なんじゃない?
父:ぜんぜんしゃべってないのか?
娘:テーブルに書き置きがある。「今日は仕事で遅くなります。ごめんね。ママ。」なんか嫌なんだよね。
父:なんでさ
娘:なにあやまっちゃってんだか。
父:え?遅くなるからじゃないの?
娘:今さら「ママいなーい」もないでしょ?思った事ないし。ずっと清彦さん居たから。ずっと。ねぇ?
父:それは、仕事が無いという意味ですから。
娘:清彦さん追い出してから突然だよ?
父:それは俺が一日中居たからだろ。
娘:突然母親やろうとしてる感じ。
父:だって、母親だもん。
娘:変じゃん突然。今までそんなん無かったのに。
父:これからずっと二人なんだから。ママもほら、考えるとこあるんですよ。
娘:あの人嘘くさいんだもん。言う事が。
父:いやいや。
娘:なんか余計に気ぃ使われてさぁ。わかんの。あーこの人あたしの事苦手なんだなぁとか。
父:ひぃちゃん。
娘:何。
父:いや、なんでもない。
娘:、、。
父:あ、大学どーよ?卒業できそうか?
娘:突然なに?二人して。
父:え?
娘:別れた途端、父親母親みたい。
父:そーだな。
娘:だからそのすまなそうな顔とかやめて~。もともと変な家だったんだから。父親が売れないまんが家、母親が通信教育教材制作会社の社長。それが突然別れました。今さら何も驚かないって。
父:そう言っていただけると非常に、ありがたいです。はい。
娘:もともとさぁ、清彦さんとママ、あまり相性良くないしねぇ。
父:やっぱそう見えるか?
娘:ママキツすぎじゃん。わがままだし。離婚だって一方的に決めてきたんでしょ?
父:もうハンコ押してあったからな。俺の。
娘:うわ、新事実だ。
父:でも文句言ったら怒るじゃん、ママ。
娘:怒られるのが嫌で離婚決めたの?
父:うん。
娘:ほんとに恐いんだね。
父:恐いよ。え?恐くないの?
娘:だってあたし怒られないもん。
父:いいなぁ。
娘:あ、またなにもしてない。
父:あ。
娘:片付けないとまたママに怒られるよ?
父:お。
娘:知らないよ?怒られるよ?
父:別れた女房が恐くて男がDIYできるか!
娘:いいつけるよ?「清彦さんひとつも片付ける気ありません」
父:いいよ別に。
娘:「ずっと積み木して遊んでました」いいつけるよ?
父:いいよ別に。でもこれは積み木ではありません。
娘:あ、ママっ。
父:(焦って)こら!積み木して遊ぶんじゃない!きれいにするんだよ!お前はひとつも片付ける気が無いな!
娘:、、、、。
父:(だまされたことに気づく)あ、騙したな。
娘:恐れすぎ。
父:おっかねんだもんあの人!
娘:だったら早くやっちゃおう。全部捨てちゃえば30分で終わるよ?
父:全部捨てる?!
娘:物置にあるって事は全部使ってないって事なんだから。全部ゴミ。いーじゃん。
父:ある人が見るとゴミだがな。見る人が見るとゴミではないんだな。どうだこのクリエーターならではの物の見方。レッツ、クリエート。
娘:それ後にしたら?
父:コレ作らないと片付かないじゃん
娘:片付けんの面倒なだけじゃないの?
父:実は、私、結構片付いてると思ってます。
娘:はーい。笑ってー。

携帯電話を出す、写真を撮る。カシャ。

父:何すんの。
娘:「片付きました」はーとまーく。ママに送る。
父:鬼かお前は!殺されるぞ!
娘:自分でも汚いと思ってんじゃん。
父:ママは思う。俺は思わん。
娘:でも怒られるのは?
父:俺。
娘:いいの?
父:やだな
娘:はい、ママの勝ち。はい立って。
父:うー
娘:これ、いるもの箱。これ、いらないもの箱。じゃ、清彦さんそっち。あたしこっち。迷った物は捨てる事。1時間で終わらせるからね?いちについてー、よーい、どーん

二人、かたづけの曲歌いながら片付けを始める。
「いる物箱」「いらない物箱」

娘:いる物箱見せて。
父:、、、、。

娘、「いる物箱」から「いる物」を取り出す。

娘:これ、
父:いるな。
娘:これ、
父:いる。
娘:これ、
父:ギリギリだな。
娘:これ。
父:セーフセーフ
娘:これ。
父:あー、いつかいるな。
娘:、、、、。清彦さん。
父:はい?
娘:あたしの考え。実演してもいい?
父:あ、どうぞどうぞ。

娘、いるもの箱の中身をいらないもの箱のなかに入れる

娘:わかった?
父:こっちの箱を、いる物箱にした方が良いと。
大きいしな。
娘:、、、、ペンある?ペン。
父:ペン。はい。

娘、ペンをどこかから取りだし、
変な音を出しながら「ゴミ」と書く。

娘:ちゃーんどーんごーん!
父:、、
娘:読んで。
父:ちゃーんどーんごーん!
娘:文字を読んで!
父:『ゴミ』。ちょっと言いすぎじゃないかこれは。
娘:捨てるか捨てないかじゃなくて、何のゴミかを考えて。

娘:あ、これ。

ラジカセ発見。

父:おお!なつかしい!
娘:カセット?
父:わ、これなぁ。ラジカセ。知ってるかラジカセ。ずっと、ダブルラジカセ欲しかったんだけどな。ダビング出来るやつ。結局シングルラジカセでずっと我慢してた。トリプルってのもあったなぁ。カセットテープ3つ入るやつ。
娘:なんのために?
父:便利なんじゃない?
娘:なんで?
父:わからん。
娘:あ!!カセットか!
父:なに?大きい声だして
娘:これ動く?
父:もう動かんだろ。んーと、燃えないゴミ。
娘:まったまった!まった!まった!
父:何。え?燃える?いや燃えないだろ。プラスティックだよ?
娘:ほんとに動かない?電池?
父:いや、コンセントでも動くけど。生きてたら。
娘:動くかなぁ。
父:ひーちゃんMP3世代だろ?
娘:ちょっとね。
父:ちょっと?なに?売るの?売れないよこれは。
あ、テープ入れっぱ。
娘:また?
父:え?また?

取り出す。

娘:貸して。(ひったくる)
父:どしたの?またって何?
娘:、、あん。
父:あん?
娘:ひらがなで、あん。
父:ひらがなで、あん。
娘:あん。(うん)
父:何言ってんの?あ、書いてんの?
娘:清彦さんの字。
父:だな。
娘:まただ。
父:だからまたってなに?
娘:あべといい。あんといい。
父:は?
娘:あべのみならず、あんまでも。
父:なにいってんの
娘:わくわくすんね!
父:いや俺ついてけてないかも
娘:謎だね!あんこの歌?あべさんの歌?
父:あべさんてだれ?
娘:わくわくすんね!
父:ごめん全然
娘:カセットセット!
父:あ、セット。はい。
娘:電源ある?コンセント!
父:何言ってんの。
娘:え?
父:ここ外の物置だよ?
娘:、、あ、、そーかー。(がっくり)
父:その段ボールの裏。
娘:あるんだ!(ぴきょーん)
父:わっはっはっは!ここ「俺の」物置だぞ?

段ボールの裏にコンセント口。

娘:ほんとにあった!
父:ちなみに電気はとなりの山田家からひっぱって来ている。何かあった時にはいつでも使いなさい。

電源を差す。

娘:電気供給!
父:なんかうらやましいなぁ。楽しそうで。
娘:スイッチ用意!
父:はい。用意。
娘:秒読み開始!
父:あ、テン
娘:ちゃーん
父:ナイン
娘:ちゃーん
父:エイート
娘:長い長い!
父:スリー
娘:ちゃーん
父:ツー
娘:ちゃーーん
父:ワンーー

スイッチを押す。

父:あ、動いた。
娘:なんか感動!
父:しっ、なんか聞こえる。
父娘:(ゴクリ)

録音による『マンガの原案を考える』の声

『***********。
***********。
***********。
***********。』

ほぼワンピースのパクリである。
父消す。

娘:何今の。
父:わからん。 (シラ)
娘:清彦さんの声だよね。
父:わからん(シラ)
娘:清彦さんだよ。
父:これはあずかって置こう。
娘:絶対清彦さんの声だよ!今の!
父:知ってるよ!騒ぐな!
娘:何今の!
父:若い頃、有名な作家に影響されたんだよ。自分でしゃべったテープの録音をワープロに起こすからすごい早さで本書くの。真似してまんがの原案録音してみたんだよ。
娘:つまり、「あん」って原案の『案』か!タイトルは?
父:たぶん『ワンツーピース』だ。
娘:パクリじゃん。
父:だからボツになったんだよ。はい。燃えないゴミっ
娘:まったまった!まだ聞きたい!
父:恐ろしい事をいうな!
娘:もったいない!欲しい!
父:もったいない事あるか!燃やす!マッチ。ライター。ガソリン。
娘:わー!待った待った!交換条件!
父:そんじょそこらの物とは交換せんぞ。
娘:自信あります!

宝箱

父:あ。
娘:昨日すごい物を発見しました。じゃーん。実はこれ、
父:うわ!なつかしい!ひーちゃんの秘密の宝箱。
娘:なんで知ってんの?
父:自慢してたもん。「秘密なわけさ」って
娘:なんだその秘密。
父:あ、なるほど恥ずかしい手紙と交換か!秘密同士!交換!
娘:違う。
父:じゃなに?

カセットテープあべ。

娘:これと交換しませんか
父:?お。またカセットテープ。
娘:ラベルには、ひらがなで、
父:?『あべ』?あ、あべさんってこれか!
娘:間違いなく清彦さんの字
父:出た。
娘:どうする?
父:あべってなんだよ
娘:聞いてみよっかな
父:ノー!(NO!)

ばくる。(交換する)

父:あっぶね。ノーモアカセット。
娘:よし。ノーカセットノーライフ
父:やっぱこのトレードへんじゃない?
娘:『あべ』あげたじゃん。
父:これおそらく俺のあべさんだし。
娘:あたしの宝箱に入ってたんだから。
父:そうか。
娘:♪
父:それどうすんだよ
娘:個人で楽しむ。
父:やっぱ返せ。
娘:ばくる?(交換する?)
父:ノー!
娘:そっちなんだろうね。
父:、、うん
娘:聞いてみるしかないんじゃない?『あべ』
父:あべ?
娘:あべ(うなづく)
父:聞くの?
娘:よく言うでしょ?
父:なんて?
娘:身から出た錆。
父:よし。聞かない。
娘:えええ!!!
父:ええじゃねえよこれ俺んだもん
娘:じゃ契約破棄!
父:だめ!
娘:じゃこの『あん』ネットで流すよ
父:おい!脅しか!
娘:怒られるよワンピースの作者に
父:そんなに心狭くないよ尾田栄一郎さん!
娘:じゃママにあげる。
父:おい!とんでもないことをすんな!
娘:どうする?
父:、、この物置からこの秘密を外に出さないと誓え。
娘:やったー!聞こう!あべ!
父:くそう。
娘:スタート。
父:あ。心の準備がまだ

録音による声
『あ、はい、はい。あーあー。』

娘:清彦さんだ。
父:やっぱり。
『あーべまりーーぃいぃぃぃああああ』
父娘:!?
『あああああああああああああ。
そんそーんはらそんそんそんしーそーおおおお
はんそーんさらそんそんもそろそおお』

娘:うたってるよ?
父:、、、、、思い出した。

流れ続ける父のうた。
状況を思い出した父。

娘:あははははは、あべ!

娘:あべマリアって、日本人だと思ってたの?
父:ちがう!

イヤホンつける。

娘:あはっはははっははっはは!
父:笑うな!
娘:(父をみながら)そんそもそんもーそもそー
父:歌うな!静かに聞け!くそ。電源なんぞ引かなきゃ良かった。山田家め。
娘:逆恨み。
父:うるせぇ。
娘:あ。
父:?

娘、踊りだす。

父:?
娘:あーべまりーいーあああ。♪

娘、大きく踊り出す。

父:どした
娘:はんそーんさらそんそんもそろそおお♪

さらに踊る。

父:どした、腹いてえのか。
娘:違う違う!

巻きもどす。イヤホンをとり。

娘:清彦さん清彦さん。ほら。行くよ?

録音の音。
『べまりーーぃいぃぃぃああああ』

父:個人で楽しめ!
娘:違う違う、この後。いくよ?
父:行くよって、なんだ?
娘:行くよ。

『そんそーんはらそんそんそんしーそーおおおお
はんそーんさらそんそんもそろそおお』

父の歌に合わせて、上手に踊る。

父:お。ははは。拍手拍手拍手
娘:ね?何これ?
父:あー。
娘:なんで踊るんだあたし?
父:変な質問だな。
娘:なんで?
父:まだ思い出さないの?
娘:え?なんか知ってる?なんで踊るのあたし?
父:たくさん練習したからだと思うよ。

父:、、、、。

トンカチの手、止まる。

娘:、、、、、。
父:風強いな。巣、大丈夫かな。
娘:思い出した。幼稚園のクリスマス会でさぁ。あたし、アベマリアで踊る事になったんだ!
父:幼稚園ってなんでもありだからな。3匹の子豚役が3人づつ居たりするぞ。
娘:うん。
父:家で練習するって言うから作ったわけだ。練習用アベマリア。心をこめて。
娘:曲探すのめんどくさくて生歌にしたんじゃない?
父:正解。
娘:やっぱり。
父:「本物と違う」とか文句言って練習やめると思ったんだよ。甘かったね。発表会まで連日近所中に俺のあべさんの歌が鳴り響いたよ。
娘:でもさー。あたし踊った記憶ないんだけど。
父:また余計な事まで思い出したな。
娘:え?
父:発表会当日、ひぃちゃん踊る番になって。いよいよアベマリアがかかった。
娘:かかった。
父:、、、ひとっつもおどんねぇでやんの。
娘:なんでさ?練習したのに。
父:曲違ったんだよね。
娘:歌下手だったからだ!
父:違う!俺のあべさんはかんぺき。
娘:じゃなんでなんで?
父:曲ごと違ったの。
娘:は?
父:アベマリアっつってもさ。何個かあんだよ。シューベルトのだの、グノーのだの。アルカデルトだの。俺歌った奴じゃないの流れたの。
娘:じゃなに?あたしは舞台でなにしてたの
父:先生が舞台からひきずり降ろすまでずっと踊る気で構えてたよ。
娘:あかっぱじだ。
父:三歳でも一週間口聞いてくれなかったりするんだよ
娘:当然だね。
父:しかもさ。ひぃちゃん張り切ってたんだよな。
娘:なんで?
父:ママ見にくるからって。
娘:、、、。
父:いやいや、ブラボー初御披露目!(拍手拍手もっかい踊ってくれもっかい。生歌でいくか、あーべまりぃいい
娘:もおいいよ。
父:なにいまさらおこっちゃってんの?時効だろ?親だって間違う。アベマリアたくさんあるなんて知らねえもん。
娘:、、、あのさぁ。
父:ん?
娘:そんときってさぁ。
父:うん。
娘:結局来たんだっけ。
父:、、、、。
娘:ママ
父:えっと。いや。

ちんもく。


娘:日本人によくある名前?
父:よくある名前の男はな。地道にやってく宿命をしょってるわけだから。めったな事にはならん。
ちょっと珍しい名前だとするだろ?小さい頃から珍しがられるから自分は特別だと勘違いするわけだ。で、ろくな男に育たない。
娘:小石川清彦
父:最悪。そいつはまんがで人生を狂わせるね。俺だ。
娘:あたしも小石川ですけど。
父:女は名字じゃない。下の名前だ。
娘:なんでさ
父:日本人女性は結婚したら名字が変るからな。
娘:そうとは限らないよ。
父:だいたいそうなんだよ。
娘:偏見ー。
父:はい、下の名前は?
娘:聖。
父:聖、聖なる夜の子供だから。聖。いいでしょう?!けがれなくたっとい。そして、人格、技芸に優れている人という意味もあります。いいでしょう?!僕がつけました。僕が。いいでしょう!?
娘:はいはい。
父:デートは行くのやめなさい!
娘:なんで!
父:父と娘の貴重なひとときをどこぞの馬の骨につぶされてたまるか!
娘:そんなんじゃないって。
父:じゃ、誰だ。言ってみろ。ゆかちゃんか?
娘:だれ?
父:仲良かったゆかちゃん。近所の。
娘:近所?
父:おさげの。眼鏡の。暗めの。ななめの
娘:あ、小学校んときの、ゆかちゃんか!ななめってなに。
父:角度だよ。じゃ高校か?大学か?バイト先か?だれだ。やっぱ男か?彼氏か?紹介してみろ。ぶんなぐってやる。
娘:しつこい父親は嫌われるよ?
父:俺がしつこくなかったことはない!
娘:なに胸張ってんの。とにかく行くから。またね。
父:えええ。ひーちゃーーん。ちぇーーー。ええええ

着信、ピロロロ。ピロロロ

父娘:あ。

二人携帯チェック

娘:あ。あたしだ。もしもし?あ、どーもぉ!はい。はい。ああ!いいですねぇそれ。はい!行きます行きます。絶対行きます。少し遅れるかもです。ごめんなさい。失礼しまーす。はーい。
父:、、、、、、。
娘:あ、電池切れそう。じゃ。
父:なんだ今の。
娘:え?
父:「少し遅れるかもですぅ。どふふふ」なんだ今の。
娘:そんな言い方してない
父:「失礼しますぅ。え?うふふ。はーい。どふふふ」なんだそれ。
娘:だからそんな言い方はしてません
父:変なサークルでも入ってんのか?おちゃらけた、馬鹿ものどもの、ああ!!
娘:今度はなに。
父:ま、まさか、合コン!
娘:合コンくらい誰でも行くよ!
父:ひぃちゃんは行かないよ?

父:おれも言いすぎたかも。
二人:(肩を落とす)
父:そんなシーンだろお!
娘:よいしょ!せい!は!ほっ!
父:台無しだ。
娘:よいしょ!せい!は!ほっ!開けてよ。
父:にやにやにやにや
娘:なににやにや言ってんの
父:理由を話すと約束すればあけてやっても構わんがね。
娘:いい。
父:強情だ。
娘:はっ!ほいい!たぁ!たあぁ!タア!
父:なんだそのかけ声
娘:はーはー。開けてよ!
父:あけて?
娘:、、
父:あけて?くだ?
娘:(小声)さい
父:あああああ?聞こえない。
娘:ちっ
父:え舌打ち?
娘:(普通声)あけてください
父:え?おしいもっかいもっかい
娘:(でかいこえ)あけてください!
父:ふん。仕方がないな。ほらどけどけ。最初からそうやって深く頭を下げて御願いすればいんだよ。

 とドアへ。

父:よ。あれ?ほ!あれ?ふあああ!あれ?があが!あれ?
娘:開かないんじゃん!
父:なんだ
娘:なんかひっかかってる感じ。
父:あ。
娘(父):もの干しざお(はしご)だ!
娘:はしごだ。
父:今意見かえたろ。
娘:はしごだ!軽くて丈夫な。軽く作るからだ!
父:それはガキでも持てるようにだなぁ。
娘:だれの物置片付け手伝ってると思ってんの?
父:昨日使ったまんまの人どっかにいたな。
娘:どこ?
父:おめーだこの。
娘:あたしのせい?
父:俺なかに早くいれろっていったじゃん。
娘:自分で入れればいいじゃん。
父:なんで?使った人は?
娘:え?
父:おめーだこの。(と、肩を押す)
娘:いたい!暴力!(と、肩を殴る)
父:いって!!おまえの方が断然暴力だ!出したら片付ける。基本だろ?
娘:だって!
父:だってなんだ?
娘:だって!
父:だってなんだ?このだってだって星人が
娘:ひどい!!
父:だってだって星人は言い訳がましいわりに何もしない。鳴き声、だってだってーだってぇええんだってえ
娘:だって!
父:はい?
娘:なんでもない。
父:♪あーりゃーりゃこーりゃーりゃ。とーじこーめーられちゃった。なぜならそれは?昨日出したはしごをーかたづけなかったひぃちゃんのせい♪
娘:うるさい!
父:どーすんだよー。閉じ込められたよー。白骨になっちまうよー。しんじゃーうよーう。誰かさんのせいで。
娘:腹立つ!
父:あーあ。あーあ。このままおばさんになるんだ

携帯出す。

父:お。なんだ?文明の利器を使うのか?
娘:うるさい。
父:ははーん。
娘:あ、もしもし?ママ?
父:出た。
娘:あたし。うん。今ママどこ?事務所?実はさぁ、誰かさんのせいで。ちょっとやっかいな事になってさぁ、うん。あ、そうか。あ、はいはい。わかった5分後。待ってますはーい。
父:困った途端ママだ。
娘:他に誰に電話すんのさ
父:「失礼しますぅ。はーい。どるふぶぷぷ」のあいつに電話しろ
娘:やだよ!
父:とにかく座れ。ききたい事が山盛りだ。

SE携帯の着信音

娘父:あ、

二人探す。

娘:うわ、、(出る)もしもしー。あ、今電話しようと思ってたとこだったんですけどー。今、物置に閉じ込められてて。変なおじさんと。

父:、、、だってほら入りたかったんだろ?事務所。
娘:入りたかったよ。
父:でも、落ちたんだから。いや、ひぃちゃんが落ちたっていうなら、残念だなと思って。
娘:ホっとしてるんでしょ?
父:え?
娘:面接いけなかった事。
父:そんなわけないだろ。
娘:これで良かったと思ってる。
父:思ってないよ。
娘:思ってるよ絶対。
父:俺が聞きたいのは、どうして大学やめたかって事だ。
娘:同じですけど?タレントとか芸人とか、そういうのになりたかったから、大学やめたんですけど?
父:やっぱそうなのか。
娘:だったらなんか問題ある?
父:、、、
娘:自分のやりたい事やれって清彦さんいつも言ったじゃん。我慢して経済学部で勉強でもしてた方が良かった?興味ないのに?我慢して、そのうちママの会社手伝うって思わせてたほうが良かった?
父:ママには相談したのか?
娘:なにそれ。
父:当り前だろ。学費出してんのママなんだから。
娘:合格してお給料貰えるようになってから言う。
父:先に相談するのが筋だろう。
娘:なんで?
父:相談して、納得してからじゃないと、だめだろ。これから、二人で暮すんだから。
娘:、、、お父さん。
父:え?
娘:パパ。
父:なんだその呼び方。
娘:そう呼んで欲しいみたいだから。
父:いつもどおりでいいよ。
娘:なんでママはママなのに、なんで清彦さんはパパじゃないの?
父:話し変えるんじゃないよ。
娘:全然変えてないよ。
父:ママになんで相談しないんだって話しだろ。
娘:どうしてパパとかお父さんって呼ばせなかったの?
父:大学やめることは相談するべきだろ先に。
娘:この前ママに聞いてみたの。
父:勝手に決めていいことと悪いことがあるだろう。
娘:自分たちは?
父:、、え
娘:あたしに相談ひとつも無かったけど。

SEチーッチーギッギ
SEチーッチーギッギ
SEビュウウウウウウウウ

娘:風強いね。
父:、、。
娘:ツバメの巣大丈夫じゃないかもしれないね。
父:、。
娘:巣ごと風で飛ばされて、
父:、、
娘:なくなっちゃうかもしれないね。
父:、、、。
娘:親も巣、みつけられなくて。戻ってこれないかもしれないね。
父:、、、。
娘:でも、なにも出来ないじゃん。
父:、、。
娘:なにも出来ないくらいなら、
心配しない方がいいよ。

SEチーッチーギッギ

父:、、、ごめん。
娘:なんであやまんのさ。
父:、、
娘:、、二人して。

長いちんもく。
SEビュウウウウウウウウ
風の音と同時に暗。

父娘:あ。
父:、、、、なに?
娘:、、、停電?
父:うそ!、、どうしよ。
娘:どうしよじゃないよ。
父:困った。
娘:何か探して。
父:何かって?
娘:何か。あかり。あ、懐中電灯、昨日おきっぱにしたから。
父:どこ?
娘:知らないよっどっかそのへん。
父:ちょっと暗くて見えない。
娘:だから探すんでしょ?
父:あ、そうか。
娘:清彦さん。
父:はい。
娘:、、しっかりしてよ。
父:、、はい。

曲『アベマリア(グノー)』

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たくさん台本を書いてきましたが、そろそろ色々と人生のあれこれに、それこれされていくのを感じています。サポートいただけると作家としての延命措置となる可能性もございます。 ご奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。