四人芝居『再演A。』<東京公演版>
四人芝居『再演A。』作:すがの公
<あらすじ>
精神病棟に入れられている晶(女)と薫(男)。新しく誠(女)がやってくる。晶と誠はそれぞれのことを話すうちに、似ていることがあると気づく。薫は毎週、作家が面会にやってくるのをなぜか楽しみにしている。「誠が来た」ということを話すと、作家の様子が変わる。そして、ある残酷な事実が明らかになる。
<舞台>
客入れ中、舞台奥にくっきりと浮かぶ1枚の油絵、抽象画。
舞台奥に「となりの部屋」の照明
舞台中央に小高い正方形の場所。閉鎖病棟。
その周りをぐるりと囲む、国立第7精神病棟の廊下。
客入れ最後の曲上がり、客電落ちる。
舞台上手前、廊下にサス。
作家、受け付けに話し掛ける。
作家: あのー。あ、こんにちは。どーも。
一週間ぶりのご無沙汰です。面会お願いしたいんですが。
あ。今ちょっと嫌な顔した。いやしたした。
見逃しませんよ私は。敏感なんです。全身。
いやいやいやいや。ないない、それはない。
私うざいですか?毎週毎週。もう何年ですか。
長いですねお姉さんも。お互い年を取りますね。
あ、怒った。いや、怒ってるじゃないですかー。
眉間にほら、縦線。ここにも。あ、しわか!
いやいやいやいや。冗談。それはじょ。あ。
、、、すんません。はい。面会、、あ、「行け」。はい。
舞台前中央へ、舞台全体ぼんやりと。不安な色。
作家: ちっ。おこんなよ。おつぼね。
そんなんだからお前はどんどん大きくなるんだ。
何年か前はぽっちゃりとも言えたけど。
そやって隙を見てポッキー食うな。季節限定~。しらねぇよ。
ジャバザハット。お前のせいで受け付け一人減ったんだ。幅取るから。
手帳とペンを出し、メモを取る作家。
作家: 3月21日。わー。わ、わー。ごほん。書き出し。
まだ書き出し悩んでんのか俺は。
いやいや、偉大な作家は書き出しに悩むからな。ごほん。
「書き出し。」
「舞台は、とある場所」、、あるな。よくある。
「ちょっと特別な場所」、、ちょっと特別って「普通」か。
「ここは、おかしな場所」。愉快だな。楽しそうだ。
「珍妙な場所」、、うーん。
私は作家として、この事件を客観的にまとめ、真実を見極めようと、
事件の先を見つめようと、現代社会に一石を投じようと、
もう、人のふんどしで相撲とろうと、
本を出して売れて、印税とか、、
もう、すごくがんばろうと思います。
、、、。
『かく言う私は、ノンフィクション作家、北島明仁
舞台は国立第7精神病院閉鎖病棟。特別看護室。
物語は「彼女が来た日」から、始まる。』
突然鳴り響く曲、ハレルヤ。
作家の後ろから差す、美しい明り。
教会のステンドグラスから差す明かりのようにも見える。
後ろを振り向く作家。
作家: 、、、、。
音楽の中
舞台上手奥より登場する薫。
舞台奥より段上に上がる。
それを見て、退場する作家
薫: うるっせえええええ!!!!!
(はーれるや)(パン)(はーれるや)(パン)
(はれるっや)(パン)(はれるっや)(パン)
(はれぇるえるーやぁ)(パン)むかつく!
続いて現れる晶。
晶: (蹴る)
薫: (びたん)
曲消えていく
晶: やかましい。
薫: うるせんだもの!ハレルヤハレルヤ!
晶: ノリノリに見えたけどね。
薫: おい!
晶: 、、何。
薫: いてえよ!
晶: 遅いよ!
薫: ちっくしょう。あ。(パン)
こっちも。(パン)ち、(パン)
おめえらも大変とは思うけどよ。(パン)
こっちも仕事だからよ。
行くぜ?
晶: ?
薫: (リズミカルに)(パン!、、パンっパン!パンパン!パンパパン!)
行くぜ!
晶: (蹴る)
薫: うわ!(転がる)(転がる)(転がる)
晶: 、、、、。
薫: (落ちそうになる)(落ちない)あぶねえ、、行くぜ!
晶: 行くな。
薫: なんだよ?!
晶: 「ぜ」とか気軽に使ったら、駄目だと思うわけ。
薫: あ!いてぇよ!(蹴られたとこ押さえ)
晶: やらんでいい!忘れてたなら。
薫: じゃますんなよこのやろうぉ!(パン)
晶: そのぱんぱんぱんぱんが、やかましいっつってんの。
薫: 言ってること全然わかんねぇよ
晶: わかれ!ぱんぱんやかましいと言っておるのだ私は!
薫: しかたねぇだろお!そのへんで働いてんだからよぉお!
晶: 、、、。
見回す
晶: 何が働いてるって?
薫: 働きアリ。
晶: 、、、「え?」(耳に手)
薫: !働いてんだろ!せっせと!
晶: 働きアリ?
薫: ったく、おめええの目は節穴か!
せっせこせっせこ働いてんだろ!
自分の倍以上ある獲物を!
みんなと力合わせて!
一生懸命はこんでるだろー?!
晶: 、、どこ?
薫: 鬼かお前は?!
みんなの涙ぐましい努力が目に入らねぇのか?!
ここにも!(ぱん!)ここにも!(ぱん!)
あ、ここのチームなんて食い物と間違ってプルタブ運んでるぞ?
けなげだろお?気付かねぇんだよ?虫だから。(パン)
晶: でも、
薫: なんだよ(パン)
晶: つぶすんだ。
薫: (ピタ)、、。
晶: 殺すんだ。一匹残らず。根絶やしにするんだ。
薫: 、、、俺だってつらいよ、、。
晶: 「(蟻の子ども)ぼくたち命。小さくても、かけがえのない、イノチ!」
薫: やめろよ!
晶: 「(蟻の子ども)ママママー、パパはーパパはー」
「(恐い声)パパはね、お仕事中に、圧死したのよ」
薫: やめろぉ、、
晶: 「(蟻の子ども)にくい、、ヒト、、にくい、、テキ」
薫: ぐあぁぁ
晶: 「(恐い声)パパの触角」
薫: わかってくれよぉ!(パン)
晶: ぐじゃあ!!!「(蟻の子ども)ママー!」
薫: やめろおお!
あっちも仕事だけどよぉ!こっちも仕事だからよぉ!
どっちも仕事だからよぉ!お互い譲れねぇよー!
晶: そっか。
薫: え?
晶: ごめん。わかった。
薫: わかってくれんなら、それで。
晶: がんばって。
薫: おうっ、なんか、さんきゅう。
晶: ばあーーーーーーーかああ↓
薫: え
晶: ぶうううあああああああああっかあああああぁぁ↓
薫: 、、、。
晶: アリなんていねぇぇぇよぉおおぉぉおおおぉほ。
薫: 畜生!お、覚えてやがれ!
薫かかって行く。
晶: え!かかってくんの?
薫: 覚えてやがれぇぇ!(こぶし)
晶: (ナイフ)
薫: !、、く、、お、(手上げる)
晶: なに?
薫: お、、往生際わりいぞ?!
晶: すみませんけどっ
薫: え?
晶: なんかこぉ、マッチしてない。セリフ選びが。わかった?刺すよ?あんまり馬鹿だと。
ナイフ、しまう、チャンス!かかっていく。
薫: 覚えてやがれ!
晶: (ナイフ)ほんとに刺すよ?ばか。
薫: ??(手上げる)
晶: 「覚えてやがれ」なら、逃げてくんないと。ね?
薫: (手上げてる)ば、ばかやろう!逃げようったってそうはいかねぇぞ!
晶: とかね。
薫: (手上げてる)どうやら年貢の収めどきのようだなぁ!
晶: とかね。
薫: (手上げてる)おとなしくしな!
晶: 弱者は言わない!言えない!
おおまかに言うと、勝ちそうな人に言って欲しい。
薫: (手上げてる)そうそう、最初から言う通りにすりゃこんな事には
晶: れーてん。「決闘・ケンカなどでよく使われる言葉」れーてん。
舞台下手奥から誠登場、歩いてくる。
薫: (手上げてる)ちっハメやがって
晶: 刺すよ?ほんとに。
薫: (手あげてる)おとなしくしな!
晶: それさっき言ったから。
薫: (手あげてる)、、これが最後だ
晶: 最後にしちゃうよ?
誠、特別看護室へ入ってくる。
誠: おじゃましまーす。、、、、。(人殺しの現場発見)
薫: (手あげてる)どうやら死にてえらしいな
晶: あんたでしょ。(ナイフ)
薫: (手あげてる)女に手上げるつもりは
晶: あげてんでしょ。
薫: 念仏でも唱えな。
晶: 刺す。
薫: 来いやああああ!!
誠: 失礼しましたー。。
ガチャコン。
誠: あっ、、。
音で二人振り向く
誠: 、、、。(諦めて二人の方向く、注目されてる)、、あ。
晶薫: (にらみつけてる)
誠: あ、どうも、、。
晶薫: (うん)
誠: 、、お取りこみ中、、。
晶: (うん)(にらみつけてる)
薫: (んーん)(にらみつけてる)
誠: どっちですか
薫: あぶねええ!
誠: (ビクウウ!!!)
薫: (誠のまわりをパン!パン!パン!)
晶: 「(蟻の子)ママー!痛いよ苦しいよお!」
薫: ああ!よせえええ!!!(頭抱え)
晶: (蹴る)
薫: (ごろんごろんごろん)
誠: 、、、。
晶: どしたの?
誠: あ、
薫: (落ちそう)あぶねえ!
晶: あぶなくない!なに?
誠: あ、、あの、、それ、、にせもの、、
晶: ああ。これ?(自分を切る)
SEブキャア。
晶: あたし晶、よろしくね。
誠: ふえええええ。(泣く)
晶: え?
薫: 泣いた。
晶: どして?!
誠: ぶええええぷぶうううううええええええ(以下泣き続ける)
薫: ひどいな顔!
晶: どして?!どして!?なんで?どしたの?
薫: 顔隠せ、顔。
晶: どした?なした?なした?
薫: 顔隠せ。
誠: いたーい。(泣く)
晶: いたい?なに?
誠: いたーーーい、ふうえええ(泣く)
晶: あ!いたくないいたくない。ほら。(切ったとこ)
誠: ふ、、、、(見る)
晶: ね。動脈の血じゃない。静脈血。ね。ドスグロイ。
誠: ふうううう!(泣き)
晶: いたくないいたくない。いつもの事。ほら。(刺す)
SEザク
誠: ぶえええええ!(泣く)
晶: どした!なした!
薫: こええんだろそりゃ!
晶: ええ?!かすり傷じゃん!?
薫: すごい音したろ!
誠: こわーーいふううええ(泣く)
晶: これ?こんなのポイするから、ポイ、ね?はい、ポイ
晶ナイフ投げる。薫、受け取る。SEブキャアア
晶: あ。
薫: 指がっ
誠: !ゆ、ゆっゆっびいいい!(泣く)
晶: チッ。ちゃんと取れ!よおおしよしよしよし。
誠: しんじゃああああう(泣く)
晶: 死なない死なないっばかは死なない。ね?
薫: ばかじゃねぇよ!!
晶: でけえ声だすんじゃねぇよ!
おびえてんだろがあああああああ!ね・安心。ね?
誠: 、、、、、(硬直)、、。
晶: あれ?眼球が小刻みに振動してる。
え?誰恐い?あいつ?
薫: え、おれじゃないよねえ?!
晶: おまえだわ。
薫: おれじゃないよねぇ?!
晶: こいつでしょ?
薫: え?おれ?おれ?ほんと俺?
誠: ちがう(首振る)
薫: いええい!俺じゃなっい
晶、薫を蹴る。びたん。
晶: うるせえ。、、男子。
小学生か、おまえは。
薫: んだよ!泣かしたくせによお!
晶: あたしじゃないよ!
薫: そいつだよな?な!な!
誠: (コクン)
晶: は!
薫: へっへえ!ほらやっぱお前だ↑!
晶: あやまるもん!
薫: おまえ泣かしたんだ。
晶: あやまるもん!
薫: なぁーかしたぁなーかし
晶: 歌うな!あやまるって!いってんじゃん。
薫: あ、おまえも泣くかこの!
晶: 泣かないもん!
薫: 泣けこの!
晶: 泣かないもん!あやまるもん!
薫: なーけ!なーけ!なーけ!
晶: あのさあ、さっきさああ、あたしさああ。
気付けば誠、扉のとこにいる。
誰か来て欲しい。アピール
誠: うーうーうーうーうー。(ぴょんぴょんぴょんぴょんぴょん)
晶: 、、。
薫: 、、なんだ。
誠: んー、んんー、(ぴょんぴょんぴょんぴょんぴょん)
(諦める)、、ううう、うう。
晶薫: 、、、。
誠: 、、、、、、出たいんですけど。
薫: あ、そういう事か
誠: 出たいんですけどノブ無いんですけど。
薫: 無理。
誠: うーうーうーうーうー!(ぴょんぴょんぴょんぴょんぴょん)
薫: うーうーやめろそれえ!
誠: んー!んんー!(ぴょんぴょんぴょんぴょんぴょん)
薫: うるせえな。だから無理だっつってんだろおこのばかが!
誠: 、、うう。うううう。
薫: 子供かこいつは!おまえのせいだぞ?
晶: ふぶぅ(晶泣いてる)
薫: 泣くな!
晶: ごーべんなさーい。
誠: うう、、うう、、ううう
晶: ごーべんだざーーーひ
誠: ううううう、ううう
薫: いい大人なんだからしっかりしろお!
晶: ひうっく、ひっく。ゆるしてぇ?え、え、。
誠: うう、、?うん(コクン)、、ううう。
晶: 今許した?
誠: ううう、(ウン)
晶: へん!許された!ねーー・
誠: (でも恐い)ううう
薫: どっちでもいいからウーウー止めろ。
誠: ううう~~~
晶: 、、、(じっ)
誠: (見られてる)、、、うう、、うう。
薫: 、、何見てんだよ。
晶: かわいい。
薫: あ?
晶: かわいい。
誠: え?
乱暴に可愛がりにいく。
晶: かあいいな!かぁいいなおまえ!かあーいい!
誠: (もみくちゃ)んー、んーんー(嫌)
薫: 嫌がってるぞ
晶: 嫌じゃない嫌じゃない。
誠: んー、んーんー(ジタバタジタバタ)
薫: 嫌がってるって。
晶: じたばたしないじたばた。
誠: (ジタバタ!ジタバタ!)
晶: 動くな!!(怒る)
誠: (だまる)
晶: よーしよしよし。
薫: 、、可愛そうに。
晶: よーっしゃっしゃっしゃっしゃ。よーしよしよーしよし。
薫: そのうち指を食いちぎられるぞ。ムツゴロウさん。
誠: (転がされる)うわ。
晶: あー、かわいかった。
薫: 満足か?
晶: うん(ご満悦)
薫: もういいのか。
晶: 後で。
誠チャンス。今度は逆サイドへ距離を取る
誠: (ばたばたばたばたばた!)
晶薫: 、、、?。。
誠: き、気軽に可愛がらないでください!
薫: お、文章しゃべりやがった。
誠: 子供じゃないんですから!
薫: うーうー言ってたのだれよ
誠: なんなんですかこれは!誰なんですかあなたがた!
どこなんですかここは!どうしたんですかあたしは!
晶: わー質問だらけ!えらい!
薫: まためんどくせぇの来たな。(ぱん)
晶: どういう意味それ?
薫: あんでもねぇよ!
誠: ちゃんと、答えてください!、、あたし、あたし、、
晶: あ!泣く?!泣く?ううーってやる?ほらおいで。うーーって。(両手広げ)
誠: やりません!
晶: ねねねねねねね!いくつ?
誠: 18です。
晶: 晶。
誠: え
晶: 晶。結晶の「しょう」。で晶
品物の品の口を日にして晶。
日みっつ書いて晶。
薫: くどい。(パン)
晶: よろしく(手出す)
誠: あ、、はい。(手とる)
薫: レ~ズ
晶: はっ、きっ。
薫: ♪
誠: え?
晶: 気にしない気にしない、仲良く、、
薫: (くしゃみで)れずっ!
晶: てめえ!
薫: レズだろが!そういう事は早めに言った方いーんじゃねぇ?!へへ!
晶: レズじゃねぇ!ただ、
誠: ただ?
薫: なんだよ?
晶: 女の人の方が好きかなって。男なんかより。そんだけ。
薫: それはレズっていうんだこのばかが!
誠: げ。
晶: ちがわい!ちがわい!ねー?
薫: 犯されたくなきゃ毎晩気をつけろよ?かかか
晶: 嘘だから、嘘!あいつ頭小学校低学年レベルだから!うそうそ!
薫: おとついきやがれこのやろお!
晶: ほら言葉へん!!ね?
薫: レズが!
晶: (ナイフ)刺すよ?!
薫: (手上げる)やるかこら!
誠: げ。
晶薫: ?
誠: れええええずううううううう!?
晶: え。
誠: げええええええええ!!
晶: うわ。
誠: れええずううう?まあああじでえええ??
晶: あ。
誠: おおおおおおおええええええ!
薫: 吐いたっ!
誠: うわぁ、、きもちわるっ。
晶: (がくーーーーん)
誠: あ、!、、あ!!あたしったら!すいません。
晶: 、、、、、、、、、、、いや。いんだぁ。、、、
晶、一人離れる。
薫: おまえやるな!弟子にしてくれ!弟子に!
誠: すいません!言いすぎました!
晶: あ、いいのいいの。
ナイフ刺すSEグサァア
誠薫: あ。
晶: 自殺すっから。
誠: すいません!ちょっと、レズとか初めてで、
あの、生理的に受け付けなくて、ちょっと、いや、すごい、やだなぁって、
ナイフ横にずらすSEブキャブキャ
薫: おまえ天才だ。
誠: やめてださい!気持ち悪いけど我慢しますから!
SEブキャアアウ
薫: 天才だ!悪気なく人を傷つける天才だおまえ!
誠: すいませええん!でも昔、うちに背中に卵しょってるキモいカエル飼ってて、
薫: もうよせ!これ以上謝ると、ほんとに死ぬよ。
誠: ごめんなさぁああい(泣く)
薫: 泣いた。
誠: ふえええええ。(泣く)
晶: 畜生!(抱く)
薫: 抱いた!
晶: 畜生畜生!(抱く)
誠: きぼちわりいぃいぃ(泣く)
晶: 畜生畜生!(抱く)
誠: うつるぅぅうぅ(泣く)
晶: こんちきしょう!(抱く)
誠: ごべえんださーーい(泣く)
結構続く、それ。
薫: 、、、、、うん。寝よう。
照明、一瞬で変わる。
「となりの部屋」の照明奥に。
薫: ?
オルゴールの単音、1音
ヘンデルオンブラハイムの頭の音。
キーン。
薫: ?
キーン。
薫: 、、ねぇ。
キーン。
薫にだけ聞こえるその音。
薫: 聞こえる?
キーン。
振り向く薫。
二人、よく見えない。
薫: 、、やっぱ、俺だけか。
薫、舞台後方から降りる。音フェードアウト。照明戻り。
抱き会う二人。
誠: うう、、ふう、、、。。
晶: 落ち着いた?
誠: 、、はい。
晶: 慣れてきたね。
誠: それはぜんぜん。
晶: 気持ち悪い?
誠: はい。
晶: 嫌?
誠: 嫌です。
晶: そっかぁ。
誠: すごく、嫌です。
晶: 燃えるね。
誠: はい。
晶: 拒まれると。
誠: え。
(ギュウウ)
誠: ぐ!くう!かっ
誠どうにか逃げる
晶: あー、可愛かった。
誠: はぁ、はぁ
晶: 何ケダモノを見るような目してんの?
誠: ほんとに違うんですか。
晶: え?何が?
誠: 何がって。
晶: あ、違う違う違う。ぜんぜんちがう。
誠: 、、ほんとに?
晶: へへへ(照れ)(くねくね)
誠: どっちなんですかそれ(と体ごと視線をずらす)
晶: (照準ピタ)(ジィィ)
誠: 、、なんだろうこのヘビににらまれてるカエルの気持ち、、
晶: (ジィィィ)じゅっる。
誠: 殺気。(振り向く)
晶: (ニコニコニコ)
誠: 、、、、、(そらす)
晶: (ジぃぃいぃ)
気の済むまで遊ぶ晶
晶: 名前は?
誠: あ、そっか言ってなかったでしたっけ。
晶: うん。
誠: あの、えっと誠です。
晶: まこと。
誠: はい。
晶: どんな字?あ、あれか。
鼻水で蠅取ってしまう奇才うめずかずお漫画のマコト君
誠: 古いです。カタカナだし。
晶: どんな字?
誠: 誠実の、誠。
晶: そっかぁ、そっかそっかぁ、新撰組だね。
誠: 嬉しそうですね。
晶: ご用あらためである!新撰組どぅあ!!(ニコニコニコニコ)
誠: 嬉しそうですね。
晶: 我この柵にありてぇ!退くものは切り捨てる!!(ニコニコニコニコ)
誠: 嬉しそうですね。
晶: 土方さん!総司!ゲホぉ!また血を吐いたのか!ゲホお!
誠: あのー。
晶: (ニコニコニコニコ)やる?新撰組ごっこ。あたし土方歳三。あんたは、
誠: (ドキドキドキ)
晶: 芹沢鴨
誠: やりませんっ
晶: 井上源三郎
誠: なんかおっつい。
晶: 野口健司。水戸派、水戸派。
誠: 知りません!
晶: 沖田だと思った?沖田だと思った?新撰組一番隊組長沖田総司だと期待した?
誠: 、、、、、。、、、、、。、、。しました。
晶: じゃ沖田ね。
誠: え?(きらん)
晶: いいよじゃあほら、抱き合うシーンからよーいアクション!
誠: 結局レズ!
晶: ホモだよこれは!
誠: 似たようなもんです。
晶: ちぇ~~。(ごろん、ごろろん、ごろんごろん~)
誠: 、、、。
誠、自分の服を見る。部屋を見回す。
晶: どっから来たの?
誠: え、あ、今日、あの、帰りのバス乗ってて
晶: あ、高校生か。
誠: 帰るとこ、だったんですけど。
晶: へー。そんで?
誠: そんで、あの、、ここに。
晶: 共学?女子高?
誠: あ、女子高です。
晶: あたしもー。
誠: え、どこですか?
晶: お花学園。
誠: え?
晶: 花園。
誠: あたしも!
晶: まじで?!(とびおきる)
誠: へー、奇遇!
晶: 世の中狭いもんだね~。
誠: あの、今日卒業式だったんですよっ
晶: あ、そーかそういう頃か。泣いた?
誠: 泣きました。
晶: 泣きてぇ~。
誠: 晶さんも泣きました?卒業式。
晶: ああ、、っとね。どーだっけなぁ、、
誠: 感動しませんでした?あたしなんか大泣きでしたよ?
晶: ね。あ、あたし卒業式、出てなくて。なんか色々で、
誠: あ、そっかそっか。
晶: あ、でも卒業証書は貰った。
卒業証書は?卒業証書?お父さんお母さん喜んだ?
誠: あ、うちお母さんだけ。
晶: そっかごめん。でもうちも。
誠: そーなんですか?
晶: 色々似てるね。
誠: はい。
晶: 喜んだでしょ?お母さん。
誠: あ。えっと。
晶: うちのママなんて泣いたよ?なんでそこまで泣くかなくらい。
片親だとねぇ、ひとしおらしいねぇ。
誠: あ、、えっと、まだ、、見せてないっなんか、、色々で
あ、そのままここ来たから。
晶: あ、
誠: うん。
晶: そっかそっか。色々あるよね。
誠: うん、まぁ、色々。
ちんもく。
誠: ここ、窓とか。
晶: ないよ。
誠: 、、どうして。
晶: 脱走するからじゃない。
誠: 、え?
晶: 脱走
誠: 、、だっそう、、ですか。
晶: 開放病棟から?
誠: 、、病棟?
晶: あ、突然閉鎖病棟?
誠: あの、何言ってるんですか?
晶: 結構悪いんだねぇ?
誠: あのぉ。
晶: あ、もしかして相当悪い?
夢だかなんだかしっちゃかめっちゃか派?
とにかく誰かに狙われてるから近寄るな派?
宇宙の電波があたしによびかける派?
食って吐く派?クスリ食う派?酒だ酒派?
誠: 何言ってるんですか一体?!
晶: 何って。病気でしょ?
誠: 、、病気、、
晶: 病名知らないの?相当悪いわそりゃ。
誠: ちょっと待ってください。
晶: うん。
誠: あの、変な事聞きますけど、、えーと、
晶: 何?
誠: どこなんですかここ。ほんとに。
晶: ここ?
誠: すいませんなんか変な事聞いて。あたしあほなんですよねぇ。
晶: ここは、精神病院
誠: 、、、、、、精神病院。、、、。。
晶: 、、、、まこと?
誠: 、、ここ、、時計って、、、
晶: 今?んーとねぇ。あ、時計、あたし、「となりの部屋」にあるや。
誠: となりの部屋?
晶: あ、うん。すぐ外しちゃうんだよね、癖で。この部屋にはないや。
誠: あ、いいです。、自分の見ますから、
無い
誠: !、、、(無い)(無い)(また無くした)
晶: あるよあたし。もってくる?
誠: あ、いいですいいです。
晶: どしたの?
誠: いえ、別に。ちょっと、、すいません。
晶: うん、、?
誠、舞台前、角に行く
誠: 、、おちつかなきゃ。
、、、おちつかなきゃ、、。おちつかなきゃ。、、
胸をトントンする。
誠: (深呼吸)
晶: だいじょぶ?
誠: 、、だいじょぶです。、、たぶん。
晶: (心配)
誠: あの、整理させてください。
晶: うんうん。
誠: ここ、精神病院なんですよね。
晶: うん。
誠: 精神病院の、閉鎖病棟なんですよね。
晶: うん。
誠: 、、、初めて会いました?
晶: え?あたしと?
誠: はい。
晶: 初めて初めて。
誠: 合わせてません?
晶: 見るのも初めてなら触るのも初めて。
誠: (切れ)真面目に答えてください!!!
晶: !!
晶、突然の大声にびっくりする。
ちんもく。
誠、胸トン、、トン、、、トン、、
誠: 、、だいじょぶ、だいじょぶ、、、だいじょぶ
晶: 、、、、
誠: 、、信じて貰えるかわからないけど、いいですか。
晶: え?
誠: これ話さないと、話しがわからないと思うから。
晶: うん。
誠: あたし、実は、、、、、記憶が、、なくなるんです。
晶: 、、、え?
誠: 時間を失うんです。
聞こえてくる曲、ヘンデル、ラルゴ
閉鎖病棟、音楽の聞こえとともに暗くなる
絵に明り。
舞台奥、油絵の真下に明り。薫。
薫: 、、あ。
薫、音楽に気付く。
薫: 、、またこの曲だ。、、、
聞き入る。
薫、目をつぶる。
女(大人の誠)の声。
女: 『ちっちゃいとき、
ギュっと目を閉じると
音楽が聞こえてきて、、、』
薫: 、、、女の人、、
誰なんだろ、、。
なんで、俺だけ聞こえるんだろ、、。
、、いい曲なのに、なんでいつも忘れるんだろ。
女: 『、、まぶたに浮かぶのは、銀色の場所
とてもしずかで、
なんにもなくて、
嫌なこと全部
いっぺんに消せる、魔法の場所
眩しいくらいにキラキラ光る
あたしにだけの、銀色の世界。』
女の声終わり、曲少しあがる
壇上に腰かけ物書きを始める作家。
照明、閉鎖病棟。
奥でしゃべっている誠と晶
曲を聞いている薫。
暗。曲消え。
誠: あたし、時間を失うんです。
晶: 、、、(きょとん)
誠: だから、あたしは、時間を、失うんです。
晶: (きょとん)?
誠: 何きょとんとしてるんですか。
晶: あ。あー。
誠: 何か言ったらどうなんですか。
晶: あ、ふーん。
誠: 、、信じてませんね。
晶: いや、信じた信じた!
誠: じゃ、今あなた、私の事、どう思いますか?
晶: それはその~。ほら。いい子だなって。
誠: (プチン)信じてませんね。
そして今あなた私の事「おかしな子。」って思いましたね。
もしくは「変な子。」って思いましたね。
どうなんですかちゃんと答えてください。
晶: あの
誠: うわ、もうちゃんと答えてもくれない!
晶: ええ?!
誠、早口冷静の生徒会長調でまくしたてる。
誠: あたし忘れるというよりか時間を失うんです。
気が付いたら違う所にいたり気が付いたらすごく時間が経ってたり。
1日とかひどいときは1週間とか。
あ、やっぱり驚かないですね。つまり信じてないから!
晶: いや、あのー!
誠: 今日も気が付いたらこんな格好させられてて。
こんなおかしな場所に紛れてしまってはっきり言って混乱してるんですね。
さっき高校の卒業式終わって、家に帰るバスの中に居たのにですよ。
お母さん仕事で卒業式来られなかったから卒業証書見せようと思ってたのにですよ。
って信じてない人にこんな子と話してもしかたがないか。
じゃ証拠をお見せしましょう。あ。いっけね。腕時計が消えてんだった。
あ。卒業証書も持ってない。つーことはつまりこりゃ打つ手なしだ。
晶: あのう。
誠: じゃ質問を変えましょう今日は何月の何日ですか。
晶: えっとえっと3月の20日。
誠: 卒業式が3月7日だったから20から7ひくと?
晶: えーと
誠: 13です。
晶: あ
誠: 13日間も時間を失いました。はい新記録達成です。いきますよ。がくーーん、
晶: え?
誠: あーあ。あたし、また悪くなってる。あたしもう困り果てました。はい。
晶: 、??
誠: こんな姿見てもまだ「口からでまかせ言ってらー」
くらいにしか思ってないんですよね。証拠ないから。
晶: いや!
誠: じゃ!帰ります!
晶: あの、
誠: いいですいいです。信じて貰えないのなら無理やりにでもここを出る所存であります。
すんませえええええん!!!
薫。
薫: 呼んだ?
誠: おめええじゃねえええよ!!ばあああかあああ!!
薫: そんなきつく言わんでも!
誠: すんませええええん!
薫: ど、どした?
晶: なんか凄い勢いで話したと思ったら帰るって。
薫: 帰る?どこに。
誠: 家です!あなたは家以外のどこに帰るという表現を使うんですか?
薫: 何が起こった?!
誠: すんませええええええええん!
薫: まるでおっさんだ!お前何した!?
晶: 何もしてないよ!
誠: (パンぱン)だれもおらんのかねぇええ!!
薫: ちょっとどうにかしろよそいつよぉ!
うるせえと鎮静剤くらっちまうぞ?!
誠: 鎮静剤?!!ですか?!
薫: あんまり騒ぐとコードグリーンだ!
押さえつけられて!注射打たれんだよバカ!
誠: 人来るって事ですよね。
薫: あ、しまった。
誠: わー!わああああああ!!!騒いでますよおお!!!!
薫: わかりやすすぎるだろそれえ!
晶: おちついて!ちょっと、落ち着いて!ね!?
誠: (指パッチん指パッチん)
薫: なってねぇもの!そもそもそれじゃこねぇもの!
誠: らああああっらっらっっらあああああああ!!
薫: うるせぇ!あ!おい晶!今日って何曜だ?!
晶: 今日?、、あ
薫: おい!何あったのかしらねぇけど黙らせろレズ!
あ!今日!月曜だぞ?!
晶: あ、わかった。
誠: 鳴らない!鳴らない!(ぱっち、ぱっち)
薫: まだ指パッチン諦めてなかったのかおめえは!
晶: 誠!信じた!あたし、信じたから!
誠: らあああ、らっらっらっらうああああああああ!!(ぱっち、ぱち)
薫: 面倒な奴入ってきやがったなちくしょー!
月曜なんだよ!今日、月曜なんだよ!今日は何もあっちゃいけねえ。
晶: 信じた!誠!
誠: 嘘だ!
晶: 嘘じゃねええつってんだろお!
誠: 信じない!
晶: 信じろよばか!
誠: みんなあたしの事嘘つきよばわりするから!
あたしなにもしてないのになんか取ったとか!
あたしなにも約束してないのに約束やぶったとか!
気付いたら時間経ってんだもん!
気付いたら物もってんだもん!
晶: わかるよ!
誠: わかるわけない!
あたしみんなに嫌われないために嘘つくの。
信用されたいから嘘つくの。
話しあわせるために笑ってんの。
えへらえへらえへらえへら笑ってんの。
自分の事、なんにもしゃべんないで聞いてるの!
晶: それでも信用されないんでしょ!
誠: え
晶: 誰もわかってくんないから、仕方ないから嘘つくのにっ!
嘘つきって言われるんでしょ?!
気が付いたら誰かが自分に怒ってたり!
気が付いたら全然知らない人の車に乗ってたり!
そんな事誰にも話せなくて、
おかしな子って思われるから、
キチガイだって言われるから、
笑って元気なふりして毎日いるの。
元気いっぱい笑顔でいるの!
つらい時でも悲しい時でも元気いっぱい笑顔でいるの!
誠: でも。
晶: 壊れそうになる。
誠: うん。
晶: いっつもなんかに怯えてんの。つらくて。つらくて。
誠: 生きてるのつらくて、
なんのために生きてるのか、わかんなくなって。
晶: 、、死にたくなるよ。
薫: おれらもだよ!
誠: 、、え
薫: 俺らも同じ病気だよ。
誠: 、、、
晶: 、、、信じた?
誠: 、、(コクン)
晶: あたしも。
SEブー、、ブー、、ブー、、ブー、、
照明、不安な色
誠: !何?
薫: 、、ちくしょう、、、
晶: ごめん。
薫: 月曜だよ!
晶: ごめん薫!
薫: 今日は月曜なんだよ!ちくしょう!
誠: 何?
薫: 月曜だって言ってんだろがあ!!
月曜は!何もあっちゃいけねえんだよ!
(ばん!ばん!床をたたく)、、、。くそ、、。
うずくまる薫
誠: あの、、あたし、、
晶: 月曜日はね。面会の日。
誠: 、、面会。
晶: 足長おじさん。
誠: 、、、
晶: 薫の、大切な人
誠: 大切な人、、
薫: 、、、無理だよ。
誠: ごめんなさい!あたし知らなくて!
薫: うるせええ!!
誠: 、、。
薫: 月曜はなにもあっちゃいけない日だ。
誠: ごめんなさい。
薫: 次の月曜に、なんかあったら、、
その次の月曜に、、
その次の次の月曜になんかあったら、、
、、殺すぞ
ちんもく。
誠: 、、、、。
薫: 今日は勘弁してやるよ。
とっとと「となり」に隠れろよ。
晶: 誠。行こ。
誠: !あたし謝る。騒いだ事!
そしたら面会、大丈夫かも!
薫: 、、なに?
誠: お医者さんに、あたしが騒いだから二人は関係ないって。
薫: (笑う)おまえ、ほんとに何もわかってねぇな。
誠: え
薫: ここどこだかわかってんのかよ。
誠: あの、精神病院の
薫: 病院の?
誠: 閉鎖病棟。
薫: それだけ?
誠: 、、はい。
薫: てめえもちゃんと教えとけ!全員頭おかしいんだからよお!!
晶: 、、ごめん。
誠: え?
薫: 国立第7精神病院閉鎖病棟。
誠: 国立?
薫: ここに医者なんていねーよ。
誠: え
薫: 精神病院がこんな大げさな音鳴らすか?
誠: どういう事ですか?
薫: そろそろ来るぞ。エセ医者どもが必要以上に徒党組んで。
誠: ここ、精神病院じゃないんですか?
薫: 話しはあとだ。おめえらも注射ぶちこまれてえか。
晶: 行くよ誠
誠: なんで薫さんだけ残るんですか。
薫: うるせえそういう役回りなんだよ。
誠: だって騒いだのあたしだから!
薫: わかんねーなおめえもぉ!
誠: わかりません!
薫: たかだか精神病患者一人のために、なんで徒党組んでくると思う?!
誠: 、、。
薫: 俺たちが恐いんだよ。
誠: 、、恐い?
薫: 国立第7精神病院閉鎖病棟。
ここはキチガイの、人殺しが入る場所だ。
誠: 、、、人ごろし、、?
音楽、ハレルヤ
録音放送
『今日も神のめぐみに感謝し、称えましょう。
今日は、創世紀25章から28章までを学びます。
ここでのテーマは『祝福の相続』
私達はこのくだりで神の祝福の約束がアブラハムからイサク、
イサクからその息子ヤコブに受け継がれるのを見ます。
約束の子イサク。選びの子ヤコブ。第25章は『選びの計画』と呼ばれ、、』
作家、新聞を持ってる。
作家: 『平成18年4月1日より
先に可決された心神喪失者医療観察法(第2修正案)を受け、
全国で国立第1から第10精神病院の運営が始まる。
これは同法を受けて
「精神病により不起訴、措置入院の必要あり」
と判決される心神喪失者が増加する見込みでの運営であり、
同医療機関での治療が優先的に受けられる事になる。』
治療ねぇ。
刑務所が10個増えただけと違うかねぇ。
これは、精神病患者の牢獄ではないのか!(こぶし)
「と虚空へこぶしをつきあげた事を、病院の廊下で思い出していた。
ハレルヤコーラスと聖書の一説を聞きながら。」
(レコーダー)
よしよし。これで専門家と野党のハートはゲットだな。
ノンフィクションノンフィクション。
あ、どーも。毎日毎日ご苦労さんです。
ええ、そりゃ欠かしませんよ。
私が顔を出す事で少しでも元気になったら、なんて。
いやいや、こんな顔ですがね。え?悪くない?あ、言ってない?
今日はなんですか?お昼。
え?パン?おいしそうだぁ。何パンですか?コッペパン?!
大好物ですよー。私ー。あ、私の好みはどーでもいいですか?
私持っていきますよ。いんですいんです。大変でしょう。ここ広いから。
パスっ。
(袖から飛んでくる。コッペパン)
おお、ナイスコントロール。君のハートもコントロール。あ、仕事、どーぞどーぞ。
ちっ。愛想のねぇ。ひとっつも笑わねぇでやんの。
ミスタースポック!おめえが入院しろこの。
(コッペパン)
、、パン一個。、、殺す気ですか。
作家退場。
閉鎖病棟に光り
晶、誠。
晶: ほら、ちーさい頃。
なんにでもなれると思ってた頃。
あの頃、世界はきらきら光ってて。
何を見ても新しくて。みえるもの全部あたしの物で。
広い広いあたしの世界は、もう、どこまでーも続いてた。
誠: うん。
晶: でも少しづつ、いろんな事知っちゃう。
ホントの事しっちゃう。
あたしの物だと思ってた物が、
ホントはあたしの物じゃなかった事知っちゃう。
空とか、雲とか、家とか、人。
広かったはずのあたしの世界が、
凄い早さでちぢんでくの。
あたしの世界がどれくらいおっきかったか。
思い出そうとしても思い出せないの。
いつも比べてる。
ちーさい頃の広い広い世界と、今見てる狭い狭い世界。
それ比べてるだけでも、十分がっくりくるんだよ?
そこにまたクスリで夢見せられたら、やってけなくなるよ。
誠: 、、、
晶: 見える物見えたままの狭い狭い世界じゃ、やってけなくなるよ。(笑顔)
今見えてんのは、壁、壁、壁、壁。
聞こえてくるのは、ハレルヤと、いまいましい聖書の言葉。
この世界と、折り合いつける事、考えないと。
誠: でも、薫さん、
晶: 、、男だからだって。そういう役回りだからって、言うと思う。
誠: 、、。
ちんもく。
晶: あんたえらいよ?
誠: 、、、、、、え。
晶: 胸トントンやってたでしょ。さっき。
誠: あの、、あたしは、余裕ないから、とりあえず、落ち着こうって。そんで。よく。
晶: それ余裕あるよ。
誠: 、、え?
晶: 余裕あるよ。
誠: そんな事ないですよっ
ごっちゃごちゃだもん、今。薫さんとか、人殺しとか、ここの事とか。
なんか、全然よくわかんない。。
晶: そんな状況であんた、薫の心配できんだよ?
誠: 、、そうかも、しれませんけど。
晶: トントンしてんの見て、感心したんだ、あたし。
あたしなんて自殺未遂やらかしたからね。
誠: 、、、、!
晶: 3年前、自分が閉鎖病棟にいるって知っただけで、
これで(ナイフ)
誠: 、、、そうなんだ。
晶: おもっきり。
笑うよ?ここの連中、人が血だらだら流してんのに、ほっとくからね?
誠: 、、よく助かりましたね。
晶: 「ここの連中は、俺たちが自殺すんの待ってんだ。死んだら負けだ」って薫が。
手であたし切ったとこ押さえながら言ってた。
次の日アリ叩いてて笑ったけど、あー、頭は確実におかしーんだーって。
誠: そんな事言ったらあたしたちだって。
晶: おかしいね。
誠: おかしいです。
晶: おかしくない人なんてこの世にいるのかなぁ。
誠: いるんじゃないですか?どっかに。
晶: 、、、そっか。
誠: 、、、。
晶: ああ、おっさんがもうすぐ来るよ。
誠: 足長おじさん?
晶: 大人の男はどーもなぁ、、憂鬱だ。
ほら、隠れな
誠: やっぱりあたし、、
晶: いいよいいよ。あたし先輩だから。
根掘り葉掘り聞かれるよ?作家だから
誠: そうですか、、。
舞台下手奥から登場する作家
作: ふいー。ういうああ、あ。(ハンケチで汗をふく)
誠: おじさんって、ほんとのおじさんなんですか?
晶: フケてるって意味?フケてるよ。
誠: いやいやいや。血縁関係の話。
晶: そうらしいよ。父親の弟だか。(ファブリーズ)
誠: 何してんですか?
晶: 予防。匂うまえにとる。
作: うがあ、ペッ(タン)
晶: このへんに座るかなぁ。(シュシュシュシュ)
誠: やりすぎです。べちゃべちゃですよ。
晶: 長居したらぶんなぐってやる。
誠: 薫さんの手前それはどーでしょう。
晶: 薫は大好きらしいよ。おじさんの事。(シュシュシュシュ)
誠: やりすぎですって!あ、液体。
晶: スプレーの意味無し。
作: ごほんっ
コンコン
晶: わ。男登場。(時計)時間ピッタシ。おっかね。
誠: あ時計。あたしと同じだ。
晶: え?まじで?きぐう!
誠: きぐう~。どこでどこで?
晶: あんねぇ、
作: いねーのか?
誠: あ、あたし無くしたんだった。がくーん。
晶: あげるか?
誠: え?
晶: 拾いもんだし。
誠: 貰えませんよ。
晶: いいよいいよ
誠: いいですいいです
晶: とっときなとっときな
誠: いやいやいや
晶: おかーちゃんには内緒やで?
誠: 祖母ですか祖母
作: おおおおい。
晶: あ、ほら早く
誠: あ、はい。
晶: (いけいけ)
誠: (時計ありがとう)
晶: (うんうんうんうん)
作: 入っちゃうぞー?
晶: あ、どーぞ!
作家入ってくる。コンビニ袋。
作: よいしょぉ、、ギイ、バタンと。厳重だな。
何してたんだよ。薫。
晶: あ、こんにちはー。(固い)
作: ん?
晶: かおる、ちょっと具合悪くて。
作: あ、そうかそうか。君はー。晶ちゃん?
晶: はい。どーぞどーぞ、どーぞ
作: あ、こりゃどうも。
?、、、濡れてる?
晶: しっけっちゃって。しっけっちゃって。
作: あー。
晶: そこだけ
作: あー。
晶: ははっはは
作: はははっは、この湿気、レモンの香りがする
晶: あー、はいー。ははっは。
作: はははっは。
晶: は~あ。
ちんもく
作: 、、そおか。薫いないんだ。
晶: はい、さよなら。
作: え?
晶: いえ。
作: ずいぶん会ってないから、
一瞬誰だかわかんなかったよ。
私が来ると晶ちゃん、必ずどっかにいなくなるから。
晶: あの、えっとじゃましちゃいけないと思って。
作: 私と薫の事気ぃつかってくれるのはいいけど、
私はここのみんなの事を考えてるつもりだからね。
はい、差し入れ。
晶: あ、どーも。
作: ここのパンは開放病棟のイグアナにやったから。
晶: イグアナ?
作: 自分の事、イグアナだって思いこんでるおじさんが居てね。
晶: あー、へー。
作: 晶ちゃん。もう半年くらい会ってないよね。
晶: あ、はい。はははは。
作: 私の事嫌いだというウワサは本当だったか。
晶: え?!え?いや!
そ、そんな事ないですぅ(スマイル)
作: おもっきり作り笑顔だね。
晶: (スマイル)
作: やっぱ、男の人苦手なんだ。
晶: え!
作: あ、薫から聞いてる。
晶: あの馬鹿あたしの事までしゃべってんの!?ですか?!
作: あ、うん。
晶: ぶちころす。
作: え?
晶: なんでもないですぅ(スマイル)
作: あ、そう、まぁ、ほら、
私が薫と作りたいのはノンフィクション小説だから。
ある程度詳しい状況書いておかないといけなくて。
晶: 余計な事言ってない?
作: え?
晶: 寝てるとき宇宙語ともとれる寝言を言うとか、
昔ローラースケートで歌う人たちのファンクラブ入ってたとか、
ちょっと可愛いお絵描きが趣味とか!
作: うーん。初耳だね。(メモ)
晶: メモらないで!(ナイフ)メモらないで!(ナイフ)
作: はい!はい!
晶: なんだ、バレてたのかー避けてんの。
すげえ気まずい。あの馬鹿。
作: だってあいさつもしてくれないじゃない。
晶: したよ?
作: どやって
晶: 「、、~ゥス。」
作: 気付かない気付かないっ
晶: 「あ、(ドモ)」
作: 気付かない気付かないっ
晶: 、、、(カク)
作: わかんないわかんないっ!
晶: 、、なんか、すんませんでしたー(半身)
作: 謝ってないねそれは。いいのいいの。
まがりなりにこういうとこ入ってんだから。
変ないいかただけど。
晶: ?どういう意味ですか?
作: 社会でやってくには、心の病が少し重いというか。
まがりなりにこういうとこいれられてるんだから。
色々あるでしょ。
晶: 、、まぁ。
作: でも、どうにかしなきゃいけないよ。ココは。
治療らしい治療も無く、
殺人の覚えもない人たちがにこんなとこ入ってなきゃいけない。
薫も、君も。
晶: !
作: どしたの?
晶: 信じてくれんの?
作: え?
晶: あたしの事も信じてくれんの?
作: うん。
晶: どうして?
作: 心神喪失者医療観察法の第2修正案が平成18年の4月
晶: ZZZZ。
作: 難しい話しはよそう!
晶: どして信じてくれるの?
作: 簡単に言えば、ここは心に病を持つ人たちを囲っておくための病院だ。
「再犯の可能性あり」という烙印を君たちに負わせるためのね。
殺人を犯す人間の大半は正常な人間だ。
精神病患者による犯罪は全体の1割にも満たない。
だから私は、ここにいるほとんどの患者はここから出ていいと思ってる。
というわけだ。わかってくれた?
晶: ちょっとだけ。
作: いんだいんだ。
晶: でも信じてくれてる事はわかった。
作: あ、それは良かった。
晶: あたし、勘違いしてたかもしんない。
作: ん?
晶: 男の人は、味方になんてなってくれないんだと思ってた。
信用しちゃいけないって思ってた。
作: あ、もう、信用してくれた?
晶: 、、んーと。まだ。、、ごめんなさい。
作: だから、まがりなりにこういうとこ入ってるんだから、いいのいいの。
晶: ?
作: 薫から話しを聞くかぎり、
晶ちゃんは記憶喪失のせいで閉鎖病棟にいると思ってるみたいだけど、
晶: ちがうの?
作: たぶん、それもあるけど、
もっと、根本的な事だと思う。
晶: こんぽん?
作: そう。
晶: こんぽん?
作: そう。
晶: こんぽん?
作: だからそう。
晶: なるほど。
作: わかんなかったら(聞きなさい)
晶: どういうこと!
作: 例えば、なんで男性不信になったか、とか。
晶: え?そんなん、、覚えてない。
作: 忘れようとしてるだけかもしれない。
晶: 、、え
作: 、、、人間の脳味噌はね。弱いもんでね。
脳味噌が自分を守るために、ある重要な機能をそなえてる。
晶: なに?
作: 忘れる機能。
晶: 、、忘れる、、。
作: ケガした事はある?
晶: ある。
作: どんな?
晶: えっと、中学ん時にチャリンコで
軽トラと競争してたら転んで、骨折した。ねこ踏んで。
作: そりゃ、変わった骨折だね。
晶: うんっ。
作: 痛かった?
晶: 痛かった。
作: どのくらい痛かった?
晶: かなり。
作: その時の痛みを、今、覚えてる?
晶: うん。
作: え?
晶: かなり。
作: あれ?覚えてんの?
晶: えっと、なんか、中学ん時にチャリンコで
軽トラと競争してたら転んで、骨折したくらい、痛かった。ねこ踏んだ。
作: 晶ちゃん。
晶: はい。
作: それは、骨折した話。
晶: うん。
作: 思い出深い骨折話だと思う。
晶: ねこ踏んだ。(真剣)
作: ねこ踏んだしね。
晶: うんっ(真剣)
作: 私が聞きたいのは、「骨折した瞬間の、その痛みを覚えてる?」ってこと。
晶: あっ、、、、
作: 覚えてないね?
晶: うーん、
作: 晶ちゃん?
晶: 、、覚えて、、
作: あのね。
晶: だめだ覚えてない。
作: 良かったっ
晶: ごめんなさい
作: いいの、それでいいの。ありがとう。
晶: え?
作: いい?もし、骨折の痛みそのものを覚えてたら、
もしかしたら、思い出すたびに痛いでしょ。
晶: あそっか。
作: かなり痛そうでしょ。思い出すたびに。
晶: かなり!
作: 、、忘れるんだよ。脳味噌は。自分の事守るために。
晶: 、、守るために。
作: 痛い事とか。嫌な事とか、
忘れたい事、しょってくには人間は弱すぎる。
だから、脳味噌の奥の物置にしまっちゃう。
でも。
ここから出たかったら、
その嫌な記憶も一度
物置からひっぱり出さなくちゃいけない。
必要がなければ、またしまっちゃえばいい。
曲。聞こえている。
作: あ、(時計)もうお昼終わりか。
じゃ、薫によろしく、本、もう少しだぞって。
晶: うん。
作: どうもありがとう。
晶: 、、、、あたしも、信じてくれて。
作: いやいや。ははは。あ、濡れてる。
作家、出ていこうとする。
晶: これ。薫から、手紙。
(手紙)
作: お、ありがとう。
「今日はごめんなちい。また来週来てくだちい。」「さ」が逆だ。
晶: 馬鹿だからね。薫。
作: はははは。
作家出ていく。
晶: 、、、。
見送る晶。
晶: 、、こんぽん。
、、あたしのこんぽん。
しばらく考えてる晶。
顔上げる。
晶: 、、足長おじさん。
少し元気な晶。
誠。こっそり登場。
余計にこっそりしている。
晶: ?
誠: (こっっそぉぉぉ)
晶: 誠
誠: 、、終わった?
晶: あ、うん。
誠: ぶんなぐってやった?
晶: え
誠: 色々きかれた?
晶: あ、まぁ。
誠: くさかった?
晶: あ、、、まあ
薫フラフラ
薫: 帰った?
誠: 大丈夫ですか?
薫: あ、うん。
フラフラフラフラ
晶誠: あああああ!
薫: だいじょぶだいじょぶ。
誠: こんなんなるんですか?
晶: らしいね。
薫: よっぱらってねぇよ(ふんばる、無理、ふらふらふふら)
誠: すわってください、とりあえず。
薫: はい!ありがとうございます!
誠: あ~。
晶: ひどいでしょ。
誠: ザ・酔っ払いですね。
晶: こりゃ人には見せられん。
誠: うん。
薫: かえったぁ?
晶: うん帰った帰った。
薫: なんて言ってたぁ?
晶: あ、もうすぐ本出来るって。
薫: ふーん。あ、濡れてる。
曲少しあがり、
舞台前に作家。
薫の手紙
作: 『今日はごめんなちい。
また来週来てくだちい。
また来週の来週も。
また来週の来週の来週も
ぜったい来てくだちい。
今週の報告。
月ようび、おじさんがくる。
おかしや、かしぱんや、グミや、ばななや、
いろいろどうもありがとう。
おじさんとしゃべる。
やっぱり、晶が、つけた足長おじさんというアダナは
足が短いから違うと思う。
おじさんは俺の本を出してくれて、
おじさんは俺をここからだしてくれる。
ここの奴に負けたらだめだから、
俺はいっぱい我慢して、
晶を守ってそんで、こっからでるんだ。
火曜日、働きアリが一杯出て、困る。
水曜日、また曲が聞こえたけど、また忘れた。
木曜日、特になし。
金曜日、特になし。
土曜日、特になし。
日曜日、特に無し。』
作: 、、、。
『明日はおじさんが来るのでうれしくて眠れない。
また色々おかしを持って来てくだちい。
また来週の来週も。
また来週の来週の来週も
必ず来てくだちい。かおる』
作家。手紙を丁寧にしまい、
作: 、、、あきらめんぞ俺は。
少し幸せそうな舞台の情景。
じょじょに影になる。
録音による聖書
作家、その音に気付く。
『そうしてイエスは彼等に息をふきかけながら言われた。
「あなたがたが、誰かの罪をゆるすなら、その人の罪はゆるされ、
あなたがたが誰かの罪を残すなら、それはそのまま残ります。」
キリストは復活を果たしました。ヨハネ福音書29章、、』
曲。消える。作家のみに明り。無音、嫌な予感
作: 一週間後。
作家、明りの外へでる。
退場とともに閉鎖病棟、明。
明らかにソワソワする薫。
薫: (そわそわそわそわ)
晶: よーしよしししょししよしよし!
誠: はい、はい、はい、はい。
晶: お手!
誠: はい。
晶: おすわり!
誠: すわってます。
晶: チンチン!
誠: やです。
晶: なにー?今日はご機嫌ななめ?
誠: こっから出る方法考えましょう。
晶: たかだか1週間で何弱音吐いてんの?
あたしなんか3年、あの人なんて4年だよ?
誠: やっぱり納得できません!
ぜんぜん病院じゃない!
だれも何もしてくれない!
回診なんかちょっと覗いて「どう?」って言って「そう」って言っていなくなる!
平気なんですか?!
あたしたち何も悪い事してないのにこんなとこいれられてるんですよ?
晶: そりゃ平気じゃないけど。
誠: 人殺しですよ?!人殺しとか言われてますよ?
薫さんもなんか言ってください!
薫: うるさい。
誠: なんですかそれ?!
晶: 今日月曜日だよ。
誠: え?(時計)あ。
薫: 静かにしろよっ。
誠: すみません、、、。
晶: いやーい、怒られたー。
誠: 早く言ってくれればいいじゃないですか。
晶: 日付でんじゃん、それ。
せっかくあげたんだから使いなさいよ?
誠: でもおもっきりずれてましたよ。西暦が。
晶: えほんと?何年?
誠: 4年。未来。
晶: まー、たいした事ないべ?
誠: テキトーですね。。あ。じゃ、行きましょ。
晶: え?どこ?
誠: となりの部屋。足長おじさんの日でしょ?
ほら、ファブリーズも(シュシュシュシュシュ)
このへん?
晶: あ、、うんうん。(そぞろ)
誠: (シュシュシュシュシュ)
薫: 何してんだよおまえ。
誠: え?あの、おじさん臭いから、ねぇ?
薫: よけーな事してねーで早くいけよ。
晶: あたしいよーかなぁぁ。
薫: は?
晶: いてみよーかなぁ~~って。
誠: え?嫌じゃないんですか?
晶: あー、うーん。まーね。
誠: 匂いとか。
晶: あー、耐えられるレベルなるかなーって。
薫: 、、
晶: だめ?
薫: だめとか、、知らねぇけど。
晶: じゃま?
薫: いや、あ、あの、ほら、おじさんに聞いてみないと。
晶: だいじょぶだいじょぶみんなの事を考えてるって言ってたから!
薫: 、、え
誠: みんなって?
晶: みんな。この病院のみんな。
誠: へぇ。
晶: だから、あたしの事も。
薫: あ、、、ふーん。
晶: 信じてくれると思うよ?誠の事も。
誠: え
晶: 悪い事してないって。
誠: ほんとに。
晶: 外の人にいっぱい信じて貰ったら、ここから出れるかもしれないじゃん。
誠: そっか。
晶: そんな事よりこんぽんだって。
こんぽん、考えなくちゃ駄目だって
誠: こんぽんかぁ。
晶: こんぽんこんぽん。
誠: どういう事ですか?
晶: よくわかんない。
誠: でもなんか嬉しい!
晶: でしょでしょでしょだしょ?
誠: いいんですか?居ても。
晶: じゃましないじゃましない。
薫: 、、、まぁ、聞いてみないとわかんないけど。
いちお聞いてみるけど。
晶: 、、。
誠: お願いします!ね。、、、晶さん?
晶: 、、、。
薫: けど、、、そんなうまく出れねぇんじゃねぇ?わかんないけど。
晶: なんで?
薫: わかんないけど。
晶: 、、、何それ?
薫: 捕まってんだからさ。
晶: どういう意味?
薫: なんかやらかして、捕まって、
で、検査したら頭おかしくて、ここにいるんだからさ。
晶: そんなの、覚えてない。
薫: あー、そっかそっか。
お前ら、裁判とかな、覚えてないもんな。そっかそっか。
じゃ、駄目だわ。
晶: 、、、なんかムカつくんだけど。
薫: いや、だからぁ、裁判で、
なんかやらかした時にまともじゃなかったから、
ほら、覚えてねぇからここいるんだしよ。
晶: 何言いたいの?
誠: 、、ちょっと、もうやめません?そろそろ来るし。
晶: 言いたい事あんならはっきりいいなさいよ。
薫: いや、別にねぇよ。
晶: いいなさいって。
薫: いや、
晶: きちがい。
誠: 、、、、。
薫: 、、、、。
晶: アリ男。
薫: 、、、、、。
誠: やめましょ?ね?
晶: あー頭のなかでおんがくがきこえる~
あ~どこからか声がきこえる~
あ~でもぼく馬鹿だからわすれちゃったぁ~。あ~アリさんだぁ~。
誠: やめてください!
薫: 案外、殺してんじゃねぇの。
晶: 、、、、、。
薫: 記憶戻ったら、ちゃんと人、殺してんじゃないの?
晶: 、、、、。
薫: ナイフで。
晶: 、、、、やっぱそれ言いたかったんだ、、
薫: 、、、、、。
誠: 違いますよ!ね?!
言葉のはずみで!ね?!
晶: ずっと思ってたわけだ。
薫: 、、、。
晶: ずーーっと思ってたわけだ。
薫: 違う。
晶: どーだか。
誠: 晶さんっ
晶、退場しかける、
薫: 、、、。
晶: 言っとくけどね。
あたしは疑った事ないから。
薫: 、、、、、。
晶: 、、、、せいぜい可愛がって貰えば?
、、あんただけ。
晶、退場。薫、自責。
薫: 、、、、くそっ。
誠: 、、、、、、あの。
薫: なに。
誠: 、、薫さんは、覚えてるんですか。
薫: (笑う)
誠: ?
薫: おんなじだよ。
誠: 、、え?
薫: てめえらとおんなじだよ。
誠: 、、あ。。。
薫: 俺、頭おかしいから、やったかどーかもわかんねんだよ。
裁判沙汰になってて、
よくわかんねぇまま留置所いれられて、
必死こいて説明しようとしたとこで、
誰もわかっちゃくれねぇ。
それまで気付かなかったよ
自分がおかしいなんてこと、
誰かに言われるまで気付かなかったんだよ。
アリンコが見えたり、
頭ん中で音楽なったり、
知らねぇ女の声がしたり。
そんなん普通の事だと思ってたんだよ。
でも、
周りが狂ってるっつーからそうなんだろ。
周りに言われるまで気付かねーだろ。
俺は証明すんだよ。
俺がまともだって証明すんだよ。
誠: 、、
薫: 俺の本書いてくれんだ。
そしたら、ここから出れるって。
大手を振って歩けるって。だから、
誠: 、、きっとわかってますよ。
薫: え
誠: 晶さん。
薫: 、、そーかな。
誠: うん。
薫: 、、、、、、、、、、、、、、、、ケチくせぇな俺。
誠: 、、、、みんな、そうだと思います。
、、みんな、自分だけの物欲しいから。
晶さんも
薫: じゃぁ。
誠: 、、はい。
薫: 、、これは、普通か。
誠: 普通ですよ。たぶん。
薫: 、、、たぶん。
誠、退場。
薫: 普通か、、、、、、、。
、、、、。遅いな。
機嫌、なおってくる。
薫: おそい。なにしてんだにゃろう。
あ、髪。あ、ツメ。あ、めやに。あ、口臭。はー。おっけい。
あああ!働きアリ!
(パン!)頼むって今日はよぉ~。
(パン!)(パン!)お互い大変だけどよおぉ!(パン!)
人には(パン!)テリトリーと(パン!)言うものがあーる!!(パン!)
こっから!(パン!)こっちは!(パン!)入ってくんな!(パン!)
舞台下奥から作家
ノックSEコンコン
薫: はい!!
作: お、ギイイ、バタッン。。ズシイイ。厳重だな。よっ。
薫: 遅い!何やってんだよー!
飛び込む、薫をお姫様キャッチ作家。
作: おおおお!なんだ!人を信用するにもほどがあるぞ今日は!
薫: なにしてたんだよ?!
作: ちょっとな宇宙人の相手してたもんでな。
薫: 宇宙人?
作: ジャバザハットとな、ミスタースポックだ。
薫: また太った?ジャバ。
作: 受け付けボックスから出られなくなるのも時間の問題だな。
作家、コンビニ袋ぱんぱん。2つ。
作: ほら、一週間分。
薫: お菓子は?
作: あるある。きなねじりと、かりんとうと、きなごろもと、チーズおかきと、もろこしと
薫: じじむせえんだよ!
作: (ポケットから)グミ。
薫: やったあ!
作: 本当に嬉しそうな顔すんな。
薫: (バリバリ)
作: もう食うのか。ご飯の後にしろよ。
薫: 昼めし何?(グミ食ってる)
作: パン。
薫: 何パン?
作: 食パン
薫: だけ?
作: うん。
薫: なんだよそれ。
作: 腹立ったから来る途中でまたイグアナおじさんに与えた。
薫: ああ、タモリか。
作: タモさんかあれ?!開放病棟にいたぞ!
薫: 眼帯してた?
作: してた。
薫: タモリだよ。
作: そおかぁ。見なくなったと思ったらこんなとこに。
薫: 万引きしたらしいよ。薬屋で。
作: なにを
薫: (毛、毛、毛)
作: あー。張り合い無くしたんだろうなぁ。昼。
薫: うん(くっちゃくっちゃ)
作: みのさんもいなくなって、
お昼休みに何をしていいのかわからなくなったもんだ。
さんまさんに慣れるまで2年かかったもんなぁ。
薫: まだやってんだ。さんま。
作: あそうか。お前ここ来てからテレビ見てないのか。
薫: うん(くっちゃくっちゃ)
作: 今な、月水金がヤっくんだ。
薫: 火木は?
作: クワまんだ。
薫: なんで?
作: 覚えやすいからじゃないか?
薫: どーなんだよそれ。
作: がんばってるよ。
薫: ふーん(くっちゃくっちゃ)
作: 次は、おすぎかピーコだと、おじさんは踏んでる。
薫: どっちも同じだろ
作: 大きく違う、ピーコの場合「笑ってピーコも」だ。あっひゃっひゃっひゃ!
薫: おじさん思いついたの?
作: 素敵だろう?
薫: もうないの?(空)
作: もう食ったのか!
薫: 1パック2分だよ。
作: もう志村のスイカ並みだな。(ポッケから渡す)
薫: いえーい。(開けよう)
作: やめとけっ。後々きついぞ。
薫: じゃ、隠そう。食われねぇように。
作: 晶ちゃんは?
薫: 、、、、、、、、、、、、、、。
作: 今日、いないのか?
先週和解したんだがな。
今日はもう少しつっこんだ話題を展開したいと思ったんだが。
薫: 、、俺が教えてっからいいじゃん。
作: でもな、なるべく本人に確認すべきだからなこういうものは。
呼んでもらったりって、出来るか?
薫: 最近俺の話しぜんっぜん聞かねぇじゃん。
作: なに言ってんだ。聞いてるよ十分。
薫: 晶の事ばっかじゃん。
作: なんだ?すねてんのか?
薫: すねてねぇよ!!
作: どおした?変だぞおまえ?
薫: 俺の本だろ?!
作: お前の本だよ?もちろん。
薫: じゃああいつらなんて脇役だろ?
作: 薫。
薫: 、、、。
作: これは国立精神病院閉鎖病棟の闇をあばくための本だからな?
これが出たら俺とお前は夢の印税生活だぞ?
歴史に名を残すんだよ、現代社会に一石を投じるんだよ!
ベストセラー間違い無しだ!
薫: ほんとかよ、(不信)
作: いいか?これは小説じゃない。実話だ。
本当にあった話しとして世に出すから当たるんだ。
ノンフィクションには事実関係と詳しい描写が不可欠なんだよ。
薫: 出た。難しい言葉。
作: 実話に嘘書いて本出したら「間違いだらけのウンタラ」って
一生叩かれ続けるんだぞ?かわいそうに。
薫: 難しい言葉使うときは嘘つく時だからな。
作: だからスネるなよそやってー。
もちろんお前を軸に物語は進むんだから!
何年通い続けてると思ってるんだ?
薫: 4年。
作: 毎週毎週1日も欠かさずに4年だ!
生半可な覚悟で出来る事じゃない。
俺はな、おまえにかけてんだ。
もしかしたら、お前もここから出れるかもしれない!
薫: もしかしたらじゃねぇよ!(パン!)
SEキーン
薫: 俺の事考えてくれんだったら本よりも
俺がこっから出る事だろお!(パン!)
俺がこっから出て普通に暮らす事だろおお!
SEキーン
薫: おじさん俺の事全然考えてねーんじゃねーかって不安なるよぉ!
おじさん俺使って本出したらいなくなるんじゃねーかって不安なるよぉ!
難しい言葉使ってごまかして、俺頭狂ってっからって
俺の事捨てんじゃねーかって不安なるよお!
金持ちんなってそんで、俺の事忘れんじゃねーかって、
くそ!まただ!またあのくそいまいましい曲!
なんで俺だけきこえんだよ!
くそ!俺なおんねぇと出れねんだろ!?
ちくしょう!ちくしょう!(バン!バン!)
ヘンデルオンブラハイム
叫びながら床を叩き続ける薫。
作: よぉしよしよしよし。
作家、薫を抱く。
作: おちつけおちつけおちつけ。
よしよしよしよし。
薫: 、、、、。
曲の中、脱力したように抱かれる薫。
女: 『ちっちゃいとき、
ギュっと目を閉じると
音楽が聞こえてきて、、、』
作: 薫。
女: 『、、まぶたに浮かぶのは、銀色の場所
とてもしずかで、
なんにもなくて、
嫌なこと全部
いっぺんに消せる、魔法の場所
眩しいくらいにキラキラ光る
あたしにだけの、銀色の世界。』
薫: 誰だよこいつ。
なんで俺だけ聞こえんだよ。
こんなんじゃ俺、
一生こっから出れねぇよ。
俺じゃねぇのかよ。
俺はヤコブじゃねぇのかよ!?
俺は選んでくんねぇのかよ。
曲の中、空を見る薫。
作: 俺は、おまえを一番に考えてる。
俺よりも、何よりもだ。
必ずだ。必ずお前をこっから出してやる。
だからなぁ薫。
おまえはおまえの知ってる事全部話してくれ。
わかるな?
薫: 俺、主役か
作: そうだ。主役だ。
薫: 選んでくれんのか。
作: そうだ。
薫: じゃ、いいよ。
作: ほら、お昼の放送であったろ。聖書の。
薫: 聖書なんてわかんねぇよ。
作: さしづめお前はヤコブだな。
薫: ヤコブ?
作: 選びの子ヤコブだ。
薫: どういう意味だよ。
作: 神からの祝福を受ける、神に選ばれた子供だ。いいだろ。
薫: なんかいいな
作: いいだろ。
薫: うん。いいな。
安心する薫。
作: 薫。
薫: 何。
作: 何か、新しい事あったか。
薫: 、、うん。
作: そうか。何があった
薫: この部屋に、、女が増えた。
作家、引き剥がす
曲消えて行く。
薫: !!
作: 、、、何?
薫: え、あの、新しく、ここに増えたんだ。
作: 確かか?
薫: 、、うん。
作: 名前は?
薫: え
作: その女の名前は?
薫: 、、あの
作: これは大事な事なんだ薫。
その女の子の名前は。
薫: 、、誠
作: 、、、(うなずく)
薫: ?
作: マコト
薫: 、、うん
作: 、、誠実の誠。
薫: 、、、うん。
作: 、、、、、、、、。
作家、ふらりと背を向け、笑みを浮かべる。
薫: 、、、、あの、、
作: そうか。
薫: おじさん。
作: マコトかぁ。
しずかに聞こえてくる。ハレルヤ。
薫: おじさんっ
作: 、、。
薫: 、、もう行くの?
作: 聞こえるか薫。ハレルヤコーラスだ。
薫: 、、昼の時間、終わったから
作: そうじゃない!!
薫: 、、
作: この曲の意味を知ってるか?
薫: 、、。
作: ヘンデルのオラトリオ「メサイア」第2部の締めくくりの曲だ。
薫: 、、
作: 神を、人々が待ちわびたキリストの復活を!
神の子の復活を、賛美する曲だ。
薫: 、、なに言ってんだよ
作: 彼女はお前たちよりも先にいたんだ。
薫: 誠なんか先週来たばっかじゃねぇかよ!
作: 彼女は最初から、ずーっとそこにいたんだ。
薫: いねぇよ!俺来たときここには誰もいなかった!
作: 誠は4年前、あの事件をきっかけにいなくなった。
4年間姿を消していた。そして、復活を果たした。
、、、薫。
薫: 、、何
作: お前が必要だ。
薫: 、、ホント?
作: ああ、必要だ。
薫: 良かったおれ、てっきり
作: アキラも必要だ。
薫: 、、、!
作: そして何よりも必要なのはその「誠」だ。
薫: 、、、
作: どこにいる。
薫: え
作: その「誠」はどこにいる?
薫: 、、となりの部屋。
作: となりの部屋。
薫: うん
作: その「となりの部屋」って言うのは、どこにあるんだ。
薫: え。
作: どこにあるんだ。薫。
曲、少し上がる。
残される薫。
薫: 、、、、
録音放送
『そうしてイエスは彼等に息をふきかけながら言われた。
「あなたがたが、誰かの罪をゆるすなら、その人の罪はゆるされ、
あなたがたが誰かの罪を残すなら、それはそのまま残ります。」
キリストは復活を果たしました。ヨハネ福音書29章、、』
曲上がり、ゆっくりと、暗。
曲消え、明。
舞台に誠、晶、座ってる。
晶: 子供ん時から、よく目に浮かぶ景色があんの。ある?
誠: あります。晶さんのはどんなんですか?
晶: 目をギュっとして、
パッと目を開けるとねぇ、広がるんだよ。
しずかでぇ、なんにもなくて、
嫌なこと全部わすれちゃう。夢なのかなぁ。
誠: なんだろう。また同じだ。
晶: えー、また?
誠: 雪っていうか、白っていうか、銀色のキラキラが空から、、。
晶: あ。
誠: 銀のキラキラ。あの降ったら雪ふるガラス玉のおもちゃに似てる。
晶: あたしオルゴール持ってた。丸いドーム状の
誠: 中に雪だるま入ってる奴。
晶: 持ってたんだけど、、
誠: 、無くなったんでしょ。
晶: うん。
誠: 不思議なくらい似てますね。
晶: どこまで似るかね?(うれしそう。)
誠: (うれしい)はい。
誠: 薫さんもかなぁ。
晶: どーかなぁ
ちんもく
誠: ずっと思ってたんですけど、
晶さんって、あたしのお母さんににてる。
若くしたら、そんな感じ、、。
晶: へー。
誠: あたし、あんまり仲良くないからな。
晶: あー、まただ。
誠: え
晶: うちも。
誠: でも、卒業証書見せたら喜んだって。
晶: 喜んだらいいなーママがって話。
誠: ああ。
晶: ごめん。
誠: あたしも喜んだらいいなぁってバス乗ってました。そしたらここに。
晶: あたしはあんまり喜ばなかったなぁってフテ寝したら、ここに。
ちんもく、薫
薫: おう
誠晶: お父さんは?あーいないのか。
薫: こええよ!!
誠晶: こっちだって恐いよ!
薫: こわいって!
晶: 、、おはよ。
薫: おう。
3人横に座る。ちんもく
誠: あ、えーとえっと、話題話題
(キョロキョロ)
誠: あ!あたしこの絵、どっかで見た事ある気がして。
薫: どの絵?
誠: あの。
晶: どの?
誠: だから、あの。
晶: 、、、、、、どの?
誠: え?
晶: あのシミの事を言ってんの?
誠: いえ、絵です。いろんな色の。
女の子なのかなぁ。
晶: 寝ぼけてんの?
それとも、薫のアリみたいなもん?
誠: え、あれですよ。
薫: 無ぇよ。
誠: え?
晶: ここに来てからアートなんて触れた事ないよ。
誠: あたしだけ?
薫: まぼろしじゃねぇか?
晶: あんたの働くアリと一緒。
誠: あ、またそういう事を言うー
薫: ムカつく!レズ!
晶: レズじゃねぇよ!ばか!
薫: ばかじゃねぇよ!
誠: あ、良かったですねぇ。古めのドラマみたく仲直りできて。
晶: 余計な事いうなこの!
薫: 、、あのよ。
晶: なに。
薫: 誠も。次の月曜、おじさんとしゃべって。
誠: え?
薫: しらねぇよ。お前も。
晶: あ、うん。
誠: なんですか?
薫: 必要なんだと。そんだけ。
薫退場しかけ。
晶: また寝るの。
薫: うるせぇ。
晶: なんかあった?
薫: 、、別にねぇよ。あ。(アリ発見)
叩こうとして、やめる。退場。
誠: なんか、元気なかったですね。
晶: うん。
誠: まだ怒ってる?
晶: 違うと思う。
あんな元気ないの初めてだ。
誠: いいですね。
晶: なんで?
誠: いや、こんな事今言うの変だけど、
なんか、兄弟ってこんな感じかなぁって。
ケンカして仲直りして心配して。
おねえさんみたい。
あたし一人っ子だったからあこがれる。
晶: もう驚かないでね。あたしも一人っ子。
誠: 慣れました。
晶: じゃおまえ妹。
誠: やったー。
晶: 言うこときけよ。
誠: それはやだ。
晶: 忘れないように日記に書け。
「今日は、いもーとになった。ふくじゅうをちかった
にせんじゅーねん」今日何日?
誠: え?
晶: 27、8?
誠: 、28ですけど、(時計)
晶: 「おねえちゃんといっしょにおふろに入りたいな。
にせんじゅうねん三月にじゅう八にち」
誠: 2010年、、?
晶: うん。
誠: 2006年、、じゃ。
晶: え?何言ってんの?
誠、気付く。
誠: うわああああああああっ
キーン、
くずれる
誠: うわあああああああっ
晶: 、、どした?
誠: そんな嘘、つきませんよねぇ
晶: え?
誠: 違ったのあたしだったー。
晶: え
誠: うわああああ。
晶: どういうこと?
誠: 時計、合ってたあ。
晶: え
晶、理解する
晶: 時間、失ったって事、、、。
誠、晶にしがみつく。
晶: 4年も、、、。
薫、
薫: なんかあった?
晶: 、、。
薫: なんか、音して。
誠をやさしく抱く、晶。
キーン、
キーン、
作家、舞台前へ。
続く怪音、
怪しく、赤く染まる油絵。
しだいに暗。
作: 『1週間後』
薫 ほら並べ!整列整列!
明、閉鎖病棟に並ぶ3人
原稿を読んでいる作家。
薫わくわくしている。
乗り気ではない誠。
それを心配する晶
作: えー、『物語は、精神病院閉鎖病棟から始まる。
この病院では凶悪犯罪を犯しさらに精神病による心神喪失が認められる者が
閉鎖病棟に入れられる。
登場人物は3人。
4年前から入院している薫。』
薫: (おれおれ)
作: 1年遅れて入院した晶。
晶: 、、、、(誠の様子が気になる)
作: そして突然現われた誠。
誠: あの!やっぱいいですあたし。
薫: は?
誠: あの。このまま本にしていいです。
だってあたし、この前来たばっかだし、
どうせちょっとしか出てないだろうし、
薫: 馬鹿かおまえ?俺の本が読めるんだぞ?
これで俺が人殺しじゃねぇ事が証明されるんだから!
誠: いいよそんなの!信じたもん!
ちんもく
晶: 誠が嫌なら、あたしもいいや。
薫: 何言ってんだよ!
なんだおまえら?うらやましいのか?そうだろ?な?な?
晶: そんなんじゃないよ!
嫌がってんならいいよ。
この前、ショック受けたばっかなのに。
あたしだって信じてるもん。
薫: ほんとかよ?
晶: 怒るよ?
作: じゃ、こうしよう。私が原稿をわけるから、
お互い、自分の所以外は聞かなくていい。
薫: さすがおじさん頭いいな!
作: じゃ、つづき
『3人に共通している事は、
事件当時の記憶が無いという事。
これにより心神喪失が認められ無罪。
閉鎖病棟で治療を受ける事となった。
事件の裏には彼等のいたましい過去が、隠されていた。』
誠: なんでそんな事知ってるんですか!?
誰なんですか?!名前は?!
作: 読めばわかる。
晶: やめよ、誠!となりの部屋行こう。
あんた一人で読みな。あんたの本だから。
作: どこ行くの。
晶: だから、となりの部屋!
作: おじさんにはねぇ。
晶: 何?
作: となりの部屋なんて、見えないな。
誠: え?
3人、となりの部屋の方を見る。
■照明、となりの部屋の入り口の明り、消える。
薫: 消えた。
晶: 、、、どういう事これ。
作: しりたきゃ読めばいい。
誠: 、、やだ。
作: もう待ち切れないんだ。誠。
誠: !
作: おじさんは4年も待ったんだ。誠。
誠: 、、、
作: おじさんはもう、待ち切れないんだ。誠。
薫: おじさん、、?
作: 誠。さ、おじさんの本を読もう。
薫: 、、。
キーン
3人: !
晶: これ。
薫: 聞こえる?
誠: 聞こえる。
晶: 耳ふさいで!
誠: こわいよ。
晶: 耳ふぎな!
キーン、耳をふさぐ3人。
作: 『3人は自分の生い立ちをぽつぽつと話しだす』
キーン、ゆっくりと、薫の前を素通りし。
薫: え、、
歩み寄る作家。
原稿を、誠に渡そうとする。
誠: あたしから、、?
作: そう、君から始まる。
晶: おじさんっ
作: 物置きの中に閉まったもの、いっぺん全部ひっぱりださなくちゃ。
必要なかったらまた、しまっちゃえばいい。
晶: 、、、、。
ゆっくりと半ば強引に誠に渡す、作家。
誠を舞台中央につれてくる。
作: 小学校低学年の頃。君の、お父さんとの話し。
キーン、
誠: 「あたしの父は画家だった。
あまりしゃべらない人だった。
いつも自宅のアトリエで絵を書いてた。
学校から帰るとあたしはモデルになる。
お父さんと二人きり。
真っ白なシーツが部屋中にしいてあって、
白熱灯がたいてある。
お父さんはあたしの事を「おとぎの国のお姫様」って呼んだ
あたしは光りの真ん中、ゆっくりした、音楽。
少しでも動くとすごく怒って恐かった。
いつもは怒ったりしないのに。
小学校低学年の時、男の子を好きになった。
初めての気持ち。
話してると嫌な事色々忘れた。
モデルの事も、
お母さんがお父さんのケンカの事も、
あたしがお母さんに好かれていない気がする事も。
魔法みたく嫌な事全部消してくれる男の子。
席替えのたびにドキドキした。
初めてとなりの席になった時、
嬉しくてお母さんに話した。
「やっと、となりの席になれたんだよ。」
「そう、お父さんがアトリエで待ってるわよ」
お母さんは台所で晩ご飯のしたくをしにいった。
どうしてお母さんはあたしの事喜んでくれないんだろう。
気が付くと、お父さんがあたしの事をじっとみてた。
お父さんは喜ぶだろうか。
薫くんの事」、、、!!
薫: え?
二人、顔を見合わせる
それに気付く晶、耳を塞ぐのをやめる。
作家: 続けて。
誠: 「お父さんはなにも言わずに手をひっぱった。
あたしは、恐くなってギュっと目を閉じた。」
作家: 次は、晶。
晶: 、、、
原稿を渡す、作家。耳をふさぎ目をつぶる誠。
キーン
晶: 「なんでここにいるんだろうと思った。
男の人が、大きなキャンバスに向かいながら
たまにボソボソとしゃべってる。
まだおまえは小学生なんだから薫くんの事は忘れなさい。」?!
薫、晶顔を見合わせる。
作家: 続けて。
晶: 「何を言ってるのかわからなかった。
あたしは小学校へなんて行った事はない。
ひとつだけはっきりしてるのは、あたしは男の人が嫌いだって事。
こんな所に居たくなかった。
ここには誰か、女の人はいないのかな。
女の人がしずかにコーヒーを持って部屋に入ってきた。
あたしにそっくりな女の人。嬉しくなって話しかけようとしたら、
おどおどした目でこっちをにらんだ。
何かが飛んできて女の人の顔に当たって、
女の人は悲しそうに部屋を出た。
あたしも悲しくなった。
いつのまにか男の人が立ってた。
男の人は嫌だ。突然肩をつかまれた。
後退りしたら何かをグニャリと踏んづけた。
足もとの布が赤く染まった。
男の人が、君の悪い声で「誠」って言った。」、、、、。
誠を見る、晶。誠、聞いてない。
作家: 続けて。
晶: 、、、、。
「あたしの名前は、晶なのに。
あたしの事、なんで誠って呼ぶんだろう。
恐くなってギュっと目をつぶった。」
台本を落とす晶。
晶: 、、、、、。
晶、耳をふさぐ。
作家: お待たせ。
薫: 、、あの、
作家: 薫の番だ。
作家、薫に原稿を渡す
キーン
薫: 「なんでここにいるのかわからなかった。
たぶん、俺が馬鹿だから。
なんでもすぐ忘れちゃうんだ、俺は。
なんで布の上にねっころがっているんだろう。
なんで裸なんだろう。
そんな事考えてたら、下の方で何か動くものがいる。
別に嫌じゃない。俺は馬鹿だから、どおって事ない。
布に赤い色がついてる。油絵の絵の具。
きれいだなぁって思った。きっと誰かがこぼしたんだ。
俺の事、そいつは動きながら、俺の事「誠」って読んだ。
薫、誠を見る。
作: 、、、、。
薫: 「音楽がなってた、たぶん、まわりのやつには聞こえないんだろう。」
作家、晶の前を通りすぎる。目を開けてた晶、耳をふさぐのをやめる。
誠の肩に手。
作: 終わったよ。
誠: 、、、。。
薫: 、、、。
作: 何か、間違ってた事とかある?
晶: 、、、、おじさんの目には、
作: 、、え
晶: この部屋には、
作: 、、なに?
晶: 例えば、後ろの壁に、なにか見えますか
作: 、、誠の父親の、最後の絵。
晶: 、、、、、、、
くちびる、かむ。耐える。飲み込む。
作: 解離同一性障害ってわかる?
薫: (わからない)
誠: (わかりたくない)
晶: (判る)
作: じゃ、多重人格は?
晶: 知ってる。
薫: え
晶: 頭ん中に、何人も人を作る病気。
薫: 、、、人?
作: 人間の脳は自分を守るために、
もう一人の人格を作り出してしまう事がある。
晶: 身代わりってこと?
誠: え。
作: 、、、私の目には、この部屋には、一人の女の子しか見えない。
キーーーーーーン
3人、顔を見合わす。
誠: 、、、
薫: おじさん。ちょっと俺、よくわかんねぇよ
作: もうわかんなくていい。
誠: それじゃ、、、あの。
作: そう。ちいさい君の心は、
現実に耐え切れずに3つに分かれた。誠から晶。
誠: 、、
作: 晶から薫。
晶: 、、、。
薫: え?どういう事?じゃ、何?俺。
作: 薫はいんだ。
薫: やだよ。みんなわかってて
俺、わかってなかったらバカじゃん。
作: わからんでいい。
薫: なんで?
作: おまえはそのために生まれたんだから。
誠から晶、晶から薫。
おまえが忘れてくれるおかげで。
おまえが馬鹿でいてくれるおかげで。
二人とも生きてこれたんだ。
いいことなんだよそれは
薫: でも、、、それじゃ、俺、わき役じゃん、、。
曲?
誠晶: 、、、、、。
薫: おれ、主役じゃないよ?これ。
作: それでもいんだ。みんなの本だ。
この本出して、世間の同情票集めて、こんなとこから出るんだ。
薫: だっておじさん言ったじゃねぇかよ。
俺のために、俺だけのための本書いてくれるって言ったじゃねぇかよ。
作: おまえたちは一緒になる。統合という方法がある。
薫: 出た難しい話し。
俺の本じゃないよこれじゃ。
約束したじゃねぇかよ。
なんで誠の次に晶で最後俺なんだよ。
作: なんでって!
だから、誠の幸せは、みんなの幸せだ!
どおしてわからないんだおまえは。
薫: それは、、
作: わかってくれ。な?
薫: だからわかりてぇよ。身代わりってなに?
作: ばか、その話はいい。
薫: 、、なんだよそれ。
作: だからぁ
薫: 、、いいよ。じゃぁ。
作: すねるなそやってぇ
薫: いいよ!、、俺の事、捨てる気なんだ。やっぱ。
作: ばか!
晶: 、、、、、、おじさんさぁ。
作: 、、なんだ。
晶: 誠なんじゃないの?
誠: え?
晶: 誠、欲しいだけじゃないの?
作: わけのわからん事をいうな。
晶: わかれとか、わかるなとか。
馬鹿でいろとか馬鹿だとか
なんか、都合よすぎる。
作: だからそれは、みんなのためを思って。
晶: みんなの事考えなくたっていいよ。
薫のおじさんだもん。
書き直して。
作: え
晶: これじゃだめ。
薫が、主役の本なきゃだめ。
作: 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、。
それじゃ誠は、ここから外に出られないだろ?
晶: 、、、聞こえた薫?
薫: 、、、、
晶: 利用されたんだわ。あんた。
薫: 、、、
作: 、、君らから見れば、そうなるかもしれないが、
晶: あたしが見てるものがぜんぶだ!!!!
作: 、、
誠を見る、晶。
誠: 、、ごめんなさい。
晶: 、、、あんたのためじゃないから。
誠: でも
晶: 結果、あんたん事
助けてたみたいだけど、
あたし全然そんな気ないから。
あんたもでしょ。
薫: 、、
晶: あたしの身代わりだったわけじゃないでしょ。
そのつもりだったの?
あたしを守るためにボクちゃんは生まれたの?
薫: 、、
晶: あたしは、あんたを守るために生まれたわけじゃないから。
薫、理解してくる。
晶: ごめんねぇ?ボクチャん
あたしのために~
あたし~、パパに~せっかんされんの恐くてぇ~
お目めちゅぶってぇ~
あたしがか弱いせいで~
あなたを産んでしまったぁ~
薫く~ん。
薫: 、、、、、、、、、、、、、、、、、。
作家に向う晶。
晶: あたしはあたしで決めるわ。
貸して。
作: 読まないでいい。
晶: あんただれ?
作: え
晶: 読まないで欲しいのは、
あんたの事、思いだしちゃうからじゃないの?
作: そうじゃない!
晶: 自分で確かめる。あたしは何でここにいるのか。
無くしたもの。
作: 君らはわかってない。こんな記憶は無くしたままでいいんだ。
晶: 耳ふさぎな。誠。
作: 動機が立証されれば、
誠は、ここから、刑務所へ移されるだけだ!
作家、帰ろうとする。
薫、うばう。
作: !!
薫: 「薫:
作: 薫!
薫: ばかにすんじゃねぇよ!
作: 返せ。薫。
作家をにらみつけ、原稿を読みはじめる薫。
薫: 薫:また下でなにか動いてる。でももう慣れっこだった。
俺はどおーって事ない。俺は手を伸ばして
誰かのガラスの玉を降って遊んだ。
中で銀色の粉がおちて、すごくきれいだった。
あいつは取り上げて窓から捨てた。ガチャンて音がした。
、、、、。
晶: ?
薫: 「誠:
原稿に誠の文字。薫、困惑し、晶を見る。
晶: 、、、。
誠を見る晶。
誠: 、、、
諦め、代わりに続きを読もうとする誠。
誠、動く。
晶: !
誠、うばう。
作家: ばか!やめろ!
誠: 薫くんに貰ったオルゴールが無くなってた
丸いドームの中に雪だるまがいるオルゴール
部屋のどこを探してもみつからない。
悲しくて悲しくてまたギュっと目を閉じるっ、、、晶。
晶に渡す。曲。
晶: キラキラのオルゴールが無くなってた
きっと誰かが取ったんだ。どこを探してもみつからないから、
外を探してたら大きな植木鉢の中で、割れてた。ギュっと目を閉じるっ
どんどん回る。原稿。
過去がどんどん埋る。
真剣に原稿を読む3人。
絶望する作家。
薫: 土まみれのガラスの玉をみつけた。
手にとってみたら、ガラスの中が真っ黒だった。
顔を近づけてよくみたら、何かがうじゃうじゃ動いてる。
恐くなって捨てたら、中から、たくさんの虫がはいだした。
気持ち悪かった。いつか、あいつにしかえしをしてやろう。
そう思ってたら、消えた。消えたのはいいけど、
俺は、腹がたったないままだ。
作家: もういい!これ以上読むな!
誠: 高校の卒業式が終わってバスに乗る!
お母さんに卒業証書を見せようと思ってた!
出てったお父さんの事を考えてた!
作家: 耳をふさげ誠!
晶: あの男が乗ってきた!
あたしは2つ前で降りて歩いて帰った!
作家: 早く耳をふさげ誠!
晶: 家には居なくて安心した!
チャイムがなった。あの男が入ってきた!
作家: だめだ!それ以上読むな!
晶: ギュッと目を閉じた!
誠: あたし聞く!
晶: 誠!
明らかになっていく過去、
照明じょじょに上がる。
曲、じょじょに上がる。
薫: 誰かが怒鳴ってるので見にいった!
晶: 一緒にきこ?
薫: あいつが戻ってきた!
誠: 晶ちゃん。
晶、誠に手を差し伸べる。
手を取ろうとする誠。
薫: 俺は、するどいものをさがして、、!
作家: やめろお!
一瞬、躊躇し、晶に合図する薫。
薫: 、、晶!!
晶: おいで。
誠: え?
晶、誠の頭ごと、胸に抱く。
曲一気に上がる。
薫: ”俺は、カッターで、男を、刺した”
曲、下がる
聞こえなかった、誠。
誠: え。。
作家: え
薫: 、、、、そっか、、そっか、、、
晶: 、、、、なるほどねぇ、、
誠から離れていく二人。
誠: あたし、聞こえなかった。
、、晶ちゃん、あたし、聞こえなかった。
晶: ほんと?ごめんごめん。
薫: そっかそっか。
誠: 薫さん、
聞こえなかったよ?!
晶: ごめんごめん。
誠: 、、。
今まで壁だったはずの場所へ行く晶。
晶: 、、
意を決し、壁から廊下であるはずの場所へおりる。
誠: !
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