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風邪じゃなかった☆大人の細菌性髄膜炎で2週間入院した昔話

耳の中が炎症して痛い。
季節の変わり目や、すこし体調がよくないと、すぐに体のあちこちが炎症したり化膿したりする。
コストコで購入したフルコートを綿棒で少量採って、炎症を起こしている患部に塗り込む。
だいたい1日で痛みが引いてく。フルコートは痛みを伴う炎症系化膿創に抜抜群の効果を発揮するので、我が家の薬箱には欠かせない常備薬だ。

わたしは昔から細菌に弱い。
皮膚上の表面だけの化膿なら、なんとか自分で対応できるし、我慢すれば収まるのだけど、体内に細菌侵入を許してしまうとどうしようもない。

一昨年摘出した胆嚢から出てきた48個の胆石も、感染が原因のビリルビン混合石だし、胆嚢は感染原因のガスまみれで破裂間近だった。

もっと昔のことだと、細菌性髄膜炎にかかったことがある。

髄膜炎といえば小児の病気イメージがあるけど、私が患ったのは20代前半、成人してからのことだ。

髄膜炎とは

髄膜炎とは、脳や脊髄の周りにある脳脊髄膜が細菌やウイルスの感染によって炎症を起こしてしまう病気。

炎症が進行してしまえば脳にダメージを与える可能性がある。とても重篤な疾患の一つだから、早期の診断と治療が重要なのだけど、初期症状が発熱、頭痛で風邪に似ているため発見しにくいのだ。

ウィルス性の髄膜炎より細菌性髄膜炎の方が重篤化しやすい。

何事も二分の一の確率だったら悪い方を引きがちな私が罹ってしまったのは、当然のごとく細菌性髄膜炎。

ウイルス性髄膜炎は1週間ぐらいで治癒し、後遺症はほとんどない。
対して細菌性髄膜炎は

19才未満の死亡率は3%
60歳までの成人死亡率は17%
60歳以上は最大37%

大人になると罹患に気づきにくく、対処が遅れて重症化してしまうのか死亡率が高い。

今回は風邪かなぁと放置したら、細菌性髄膜炎を引き当ててしまった思い出話です。

症状が出てから入院するまで4日、その後二週間入院しました。

これはかなりダメダメ行動の記録です。もう時効なので許してね!

当時勤めていた会社から、二泊三日の東京出張を命じられ上京した時のこと。

水曜日 宿泊先の赤坂のビジネスホテルで若干の寒さを感じるも、10月ということ全館空調が切られていたようで、暖房の効いておらず、特に対策もせず震えながら就寝。
木曜日 前夜の寒さが祟ったのか、寒気、頭痛の風邪の症状が出始める。
金曜日夜 東京在住の従姉と待ち合わせて夜六本木のスポーツバーに飲みに行きそのまま都内の従姉宅に宿泊。
帰宅後深夜、激しい頭の痛みに目が覚めて、夕食に食べたものをすべてリバース。
後頭部を金づちで殴られるような激痛が始まる。
ボルタレン二錠服用するも痛みは引かず。
最終的には座薬を入れた。

思えばこれがダメだった。成人が重症化していく過程が多分これ。
自己判断で適当に薬を飲んで誤魔化してしまうから。
この精神はいつまでたっても改めることができないなぁ。
後年、緊急手術で胆嚢摘出することになったし。

金づちで殴られるような頭痛、痛みのあまり目が覚めた瞬間に寝ゲロを吐くのも普通じゃないのだ。


虫歯治療の麻酔が嫌でC3の虫歯を無麻酔で治療してしまったことがあるほどの、痛みに強い私はここで耐えてしまうのです。

旅先で病院に行くのも、いろいろめんどくさそうだし。

土曜日 一日中従姉宅で熱に苦しみ寝込む。本当に申し訳なかった。いろいろ遊びの計画を立ててくれたのに。

日曜日 なんとか復調。熱は平熱くらいに下がり、ロキソニンが効くくらいの頭痛になる。昼は東京駅の大丸で寿司を食べ、体調がよくなった今がチャンスと新幹線に乗りこみ帰宅。

帰宅後の日曜の夜 再度吐き気を伴う頭痛到来。
治る気配がない。悪化の一途を辿っている。ここでついに観念した。
歩行が困難な状態だったので救急車を呼ぶか迷ったけど、到着を待つくらいなら、車で直接行った方が早いかと思い直し、同居の母にお願いして車で向かう。

病院に到着しても車の助手席から降りることができず、母が借りてきた車いすに乗り待合室に向かう。

幸い救急患者がいなかったようで、即診察室で当直医に診てもらうことができた。
『痛みがなくなりますよーー』と鎮痛剤入りの点滴を打つも頭の激痛は止まず。
点滴途中に様子を見に来てくれた看護師さんに『全然、効きません。痛いです』と訴えた。

あれ?これはおかしいかも?となりかけていたころ、夜間の当番医、二人目の医師がやってくる。

わたしの様子から、なぜか膝を診察。
ここで事態急変。

当時は膝を触られて、どうしてここで脚気の検査をするのかと不思議に感じたのだけど
これは、髄膜炎の症状であるケルニッヒ徴候、もしくはブルジンスキー徴候がでているかどうかを確認するための検査だったらしい。

ケルニッヒ兆候は股関節を90度に曲げた状態で膝を伸ばせない。
ブルジンスキー徴候は頸部を曲げたら同時に膝が曲がってしまう。
この二つは髄液に髄膜刺激症状が起こっているときに出るそうです。

頸部硬直、ケルニッヒ兆候もしくはブル人スキー兆候、発熱、嘔吐
ほぼ症状役満ということで、髄膜炎の疑いありと診断が出た。

入院決定である。

ここで運がよかったのはこの先生の専門が脳神経外科だったこと。

激しい頭痛で病院を訪れた30代の患者は、処置室で40分待っている間に昏睡状態に陥ってしまった症例もあるとか。

点滴が外され、腕に謎の注射を打たれる。この注射がいまだになんだったのか謎なのだが、一発で痛みから解放された。

注射すごい!最初からこれ打ってくれよと思ったけれど、副作用がすさまじかった。体に全く力が入らなくなったのだ。

病室に移動するためにストレッチャーが用意され、
痛みがなくなったので揚々と乗り換えようとしたら、床に崩れ落ちる。
腕で体を支えられない、腰が立たない。
自分の体じゃないような、ふにゃふにゃなこんにゃくのようなわたしを
看護師さんが二人がかりでストレッチャーに乗せた。

消灯すぎた六人部屋に担ぎ込まれ、病室内のベッド上で腰椎穿刺の髄液検査を行う。

髄液検査

横向きになって背中を丸めて、腰椎に針を刺して髄液採取をした。
局所麻酔を打つので検査の針が刺さる際に痛みは一切ない。
ズブズブとした標本採取の昆虫になったような気分になる感覚だけがあった。
背中で何が行われているのかわからないけど、1.2.3…とカウントの声と
『うわー濁ってるわ――』というつぶやきが今も記憶に残っている。

髄液内の細胞数は健常者は0~2個、ウィルス性髄膜炎の場合は細胞は0~100で髄液の色は透明、細菌性髄膜炎は髄液が白く濁り、細胞数は1000を超える。

髄液が目で見てわかるほど濁っていた私の細胞数は、この時1400だった。

採取時点で数値はもちろんわからないけど、目に見えて濁っていた髄液から細菌性髄膜炎が確定した。

2週間の入院治療

細菌性髄膜炎は抗菌薬を静脈投与して治療する。
入院最初の1週間はひたすら点滴の日々。

床上安静だったのでただじっとベッドで眠る日々だった。外科手術の場合は回復を促すために院内を歩くことを推奨されるけど、内科入院の場合はただただ横になるだけ。

入院2週目に入ったときに、歩いてもよいと許可が出た。

脳波検査をして、脳に異常がなく、髄液内の細胞数が100くらいに減ったところで退院することになった。

後遺症

入院時、病気と治療方針の説明を受けた母は医師から

『今は後遺症より、命の心配をしてください』と言われて大泣きしたそうな。

母には成人後に細菌性髄膜炎に罹った同級生がいた。3カ月意識不明の重体になったのだ。意識が戻った後も相当な後遺症に苦しんでいたのを知っているからとても心配してのだ。


入院初日の夜は私も若干せん妄状態で、走馬灯的なものを見ていた。
何を喋っていたのかわからないが、後日仲良くなった同室の患者さんから一晩中ブツブツ言ってて五月蠅かったと愚痴られた。

一晩中わたしに寄り添い手を握っていた母の心中は大変だったろうな。

実際のところ、当時わたしはICUに入っていないので、そこまで重篤な状態ではなかったのだと思うけど。

細菌性髄膜炎の後遺症について詳しくはこちらをどうぞ。

日本神経学会より

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdf/zuimaku_guide_2014_03.pdf

言語障害、記憶障害、麻痺など脳にダメージをうけてしまう可能性は3割と高い。

わたしは身体機能が落ちるような麻痺などの後遺症はなかったと思う。

退院5年後くらいに突発性難聴に悩んだ時期はあった。耳元でトラックのアイドリングのような音が響き続けて、低い音が聞き取れなくなったのだ。
これは後遺症ではないと思う。真実はわからないけど。

だた、一時的な認知機能障害のようなものは出た。

とても印象に残っているのが
お茶を入れることができなくなったこと。

茶葉を用意する。
急須に茶葉をセットする。
ポットのお湯を急須に入れる。
湯呑に注ぐ

これがなぜかわからなくなってしまった。

ポットも急須も茶葉も目の前にあるのに、どうやってお茶を入れたらいいのかわからない。名称はわかるけど、使い方がわからないのだ。

だから手順をノートに必死にメモした。
忘れたことがおかしいことにも気づかずに、もう一度覚えなおした。

あとは、それまでの人生の記憶が吹き飛んだ。学生時代の思い出的なものは、かなり印象的な事以外ほとんど残っていない。

今なら老化で記憶が無くなっただけではと思うかもしれないが、20代でそれだった。
同窓会に参加してもあなた誰?となっていた。


記憶力はかなり悪くなった。
もとはもう少し優秀だった気がするのだけど。

普通じゃない頭痛が起きたら

細菌性髄膜炎になったら記憶の被害が甚大です。命を落とす可能性もある。

後頭部(首筋に近い部分を)金づちで殴られたような頭痛が起きたら、早めに受診してくださいね。



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