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調達屋 A その2

 ハインドーK

 とある歴史資料館……
 

資料館


 その奥にある、古びた小さな保管室……
 そこに眠るあるモノを探しに、A、紗椰、そしてディは足を踏み入れた。

「……静かにな」
 Aが薄暗い保管庫の扉を押し開ける。
 錆びついた蝶番がギシギシと音を立てた。

「ねえ、なんでここに?」
 紗椰がAの後ろからひょこっと顔を出す。
 いまさらなことを聞いてくる。
 普通は、来る前に聞くものだ。
 彼女の手には、懐中電灯が握られていた。

 「ある神様からの依頼だ……神具が消えて、存在が危うくなっているって話だ……調べたら、その神具は誰かに持ち出された後、ここに来ている可能性が高い」

 Aがポケットから取り出したのは、小さな羅針盤。  
 針は、奥の棚に向かって微かに揺れている。
 これは、ある依頼の報酬として貰った、霊気的に繋がりのあるものの位置を特定できる反則的な異世界の道具だ。
 

羅針盤


「ふむ。遺物の回収……面白い。違う世界でのこういう探索も、また違う趣向があって良い」
 

ディ


 ディが腕を組みながら棚を見回す。
 いつもの騎士の鎧ではなく、こちらの服を身に着けて、これがまた似合っている。

 資料館の奥まった保管庫には、誰も使わなくなった資料や古い書物、時代の流れに取り残された小物が雑多に並べられていた。

 埃をかぶった木箱の数々。鍵のかかった錆びかけた鉄製のロッカー。そして、さらに奥の棚には、まるで時間そのものに取り残されたかのような古びた小物入れが、静かに鎮座していた。

「これか?」
 一見ただの、凝ったティシュケースだ
 Aが手を伸ばしかけたその時、鉤爪の付いたワイヤーがそれを絡め取り、保管庫の奥へと引き込む。
 
 「これは……頂くわ」

ハインドーK

「つけてきた甲斐があったわ……久しぶりね、A」
 女が物陰から現れる。
 
 「Kか……お前のところにも依頼がいったのか?」
 「ええ……依頼の報酬が破格だから、御屋形様が何としても、と……貴方なら、見つけるだろうと……」
 
 「ねえ、貴方の名前も記号なんだね?」
 携帯のカメラのシャッター音が鳴る。
 「……おとなしく返せば、晒さないであ・げ・る」
 紗椰がにこにこと、スマホを振る。

 「貴様、私をハインドーKと知って……っ!」
 西洋風の剣が、首筋に突きつけられる。
 ディの姿が、空気が揺らぎすうっと現れる。
 彼女の異世界の魔術だ。
 「知らぬし、横取りは関心せんな……沙耶、いい仕事だ」
 ディが親指を立てる。
 沙耶がにこりとする。
 
 「この二人を敵に回すと……おっかないぞ、楓」
 Aが、指で首を横に引く動作をする。
 「本名はやめて……分かった、返す」
 どこか拗ねたように、ディに箱を渡してくる。

 「貴方が以前のように、私と組んでくれれば……」
 そう言い残して、去ってゆく……
 
 「A……あれは、なんだ?」
 「聞くまで、それ渡さないでよ、ディさん」
 
 Aが、お手上げといった風に手を挙げる。
 「アイツ、少し前に依頼を手伝って貰ってた忍者なんだ……アイツん家の依頼を受けた時の縁でな、少し組んでたことがある」


 「ああ……それで、ハインド……」
 ……厨二病だろうか……
 沙耶が少しだけ呆れたように、ディから箱を受けとってAに渡す。

 Aは、慎重に引き出しを開ける。
 中には、錆びた鍵、小さな紙片、そして奇妙な紋様が刻まれた小さな木片が入っていた。

 これだ、と木片を取り出す。
 「これで、神様から神薬を貰える……それを、あっちの世界に持っていけば、万事解決だ」
 「ところで……何故、組むのをやめたんだ?」
 ディが聞く。
 「いや、アイツ結婚してくれって、言うんだよ……アイツの御屋形様が、俺を気に入ったとか、なんとか……」
 「好きでもない男と結婚させられるって、可哀想だろ?」
 
 「……どう思います、ディさんや?」
 下から覗き込むように沙耶。
 「鈍すぎるのも……大概、罪だな」
 上から苦笑いの表情を覗かせるディ。
 
 こうして、この事件は終わりを告げた……

 後日……沙耶は、Kが同じ高校だと知ることになる……

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