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冒険者  #29


炎の終わり

 「良かったですね……あれだけ想われたら、女冥利に尽きるのではないですか?」
 ノワールが、屋上の縁で細身の剣の刀身を目を眇めて点検している。

ノワール

 「……それは、全くその通りなんだけど……ね」
 ミレニムが壁の方を向いて、ノワールに背を向けて何やらフラフラ不安定な動きをしている。
 「ねえ、ノワールさん……レオルが私の名前を一番に出して、想いと言ってくれたことは純粋に嬉しかった……本当に嬉しかった」
 「……両思いですか、おめでとう御座います……あと二、三人は、両思いのように聞こえましたが……それは、受け入れているのですか?」
 ……そもそも、それは両思いの範疇なんだろうか?
 ノワールは、そんなことを頭の片隅で思いながら、小さなハンマーを取り出し、剣の歪みで気になるところを応急処置していく。
 アサシンである彼女は、いついかなる時にも武器の手入れが出来るようにしている。
 「……それは、もう諦めているし、ジュラやエルフィのことは、姉妹みたいに思ってる……それはいいの、でもね、そこじゃなくて……ノワールさん!」
 ミレニムが滑るように、ノワールの目の前に現れる。さすがのノワールも、少しだけ身体をのけ反らせる。

ミレニム

 「ここまで、念話が無差別に聞こえたってことは、王国の大半は聞いてたってことですよね!……凄い恥ずかしいんですけど!……レオルが魔族ってことも、大っぴらになっちゃったし、私とか、ジュラとかエルフィが、みんなレオルのこと好きだって、みんなにバレちゃって……明日から、どんな顔して、街を歩けばいいんですかーっ?!」
 ノワールが、ふむ、と視線を上にやる。
 晒し首だの、はずかしめだ、の物騒な単語を一通り呟いた後、ぱんと両手を打ち合わせる。
 「ああ……あれですね。公開処刑、が一番しっくりきます」
 がっくりと項垂れて、手すりに垂れ下がる。
 「……もう、いっそ殺してください……」
 目を細めて、呆れたようにミレニム見遣るノワール。細身の剣の手入れが終わり、澄んだ音をたてて鞘に収めていく。
 「一応、私アサシンなので、そういう発言は……まあ、レオルさんでしたか、あんな人外、いえ天外ですか……そんな方、どうこうできる人いないですよね……天使様とかと仲良さそうでしたし……」
 「レオルは、そういうこと嫌うわ……分かってるでしょ?」
 アサシンギルドが、組織の存続のためにノワールの首を差し出そうとした。それを止めたのが、レオルだ。彼はそれを望んでいない者まで、力ずくでどうこうはしない。
 「……お陰でギルドに居づらくなりましたけど……命の借りは、命で返す。それが、私の流儀ですので……行くのでしょう?付き合いますよ」
 「ありがとう、ノワールさん……当千の味方を得た気分よ」
 ミレニムは術で身を浮かして、建物と建物の間を跳ぶノワールの後を追う。

 「……結局、貴様はそうやって、口だけで相手を誑かし、運だけでここまで来た臆病者よ……」
 ザインが下げていた頭部を上げ、下から龍神化したレオルと、アヴィスを睨め上げる。
 その瞳には、怒りがあった。
 ザインがこれまで降した天使や人間は、数え切れない。逆らえば、同族とて滅ばしてきた。
 焼き尽くし、取り込んた力を使い、次の敵を滅ぼす……それの繰り返しだった……
 長いことそうしてきた。
 ギラ・ファンにおいては、全てを奪い蹂躙した。
 全て焼き尽くし、力に変えてきた。
 その世界は、無慈悲なる闇の聖母、闇帝に飲み込まれ、消えてしまったが……

 それは、ザインがギラ・ファンを制圧したと闇帝が認めたからだ。
 これ以上はなく、あの世界を魔族のものとしたから、「収穫」対象になったはずだった……
 
 だが、この世界であり得ない事が起きていた……
 
 こんな人間や勇者、天使人形に助けらればかりの弱い魔族を、闇帝が認める……?
 このエルサーク世界を、支配もしていない魔族に闇帝がその力の象徴たる能力の一部を貸し与える……?
 
 あり得ない……
 誑かし、その支配下においているなら、分かる……
 そうした強大な支配力を持つ同族が存在することをザインは知っている……

 だが、コイツは違う。
 ただ、仲良しゴッコをしているだけだ……
 何も支配していない、何も闇帝に捧げていない……
 闇帝に取り入って、その能力を利用しているだけの卑怯で臆病な同族……

 「これからやって来るであろう他の魔族に通じるものかよ……それに、守るべきものが力というのなら、これはどうする!」

 ザインが、姿を変えてゆく……
 竜如き姿から、巨大な魔神の姿へ……
 胸元に赤い光が集まってゆく。
 あたりの温度が下がってゆく……炎と熱が、ザインへ集まってゆく……当たりの建物から、街から、王国の外を越えて、急速に炎の精霊力を奪い、集めてゆく……

魔神(ザイン)

 『なるほど……そう来るか』
 アヴィスが、黒き球を魔神の前に呼び出し、その身体を削り抉るが、魔神の再生力は、先程とは比較にならない。
 周囲の建物の壁や窓に霜が、這いのぼる。
 「……アヴソーヴの吸収力を上回る、エネルギーを呼び寄せているのか……」
 『擬似的なアヴソーヴ……アヴソーヴの弱点をつかれたな……』
 レオルの分析に、アヴィスがそう付け加える。
 指を打ち鳴らすと、今度は炎の鎖を生み出している陣そのものに、黒い罅を奔らせ、砕ききる。
 『……今の私のアヴソーヴは、まだ不完全だ。かと言って、……』
 「……アヴソーヴの力を上げれば、今度こそこの街を食らい、被害を出してしまう……」
 レオルが歯噛みする。
 ザインは、ギラ・ファンで「収穫」を見ているのだ……この規模のアヴソーヴならば、対策を考えついても不思議はない。
 「……それだけだと思うか……闇帝、しょせん、分体……本体に及ぶべくもない!」
 ザインが、紅い閃光を放つ。収束から、放出までの展開がおそろしく速い。
 ……こうして、やれば……っ!
 レオルが、見よう見まねでアヴソーヴを放つ。
 閃光が市街地の一部を狙うが、黒球を閃光の軌跡のわずか上に発生させて、曲げ逸らす。
 紅光が、大気を灼き、空へと消えてゆく。
 吸収にこだわれば、閃光のエネルギーが処理しきれず街に被害が出ていただろう。 
 『よくぞ使いこなした……だが……』
 ……手を読まれた……何度も同じ手は通じはしまい……何か、この者に与えられるスキルか何か……
 アヴィスは、闇帝としては、らしからぬ思考を巡らせていることに、自覚はなかった。ある意味、闇の聖母とはいえ、母としての一面を持つ故か。
 レオルのやり様に、配慮して何かを与える……
……それは、一見すれば本来の人間の親子のあり方に似ていた。魔族が究極の個と語った者の行動としては、矛盾が生じていた。

アヴィス

『……お前、残存するエネルギー以外に、自分の魂を削る気はあるか?……ならば、手がないわけではないが……あまり賢明とはいいがたい手段ではある……』
 ……他の生命に配慮することが、ここまで窮することになるか……この者とのあり様から、今一度再考すべきか?……
 「構わない……やってくれ。貴方を信じるよ……」
 『……魂そのものが削られれば、転生する回数が減ることは、理解しているのか?』
 ……信じる?闇帝である、私を……?
 なんと愚かな響きであるか……
 「……いや、初めて聞いた。だが、他に手だてがないのなら、それをやるしかない……俺にとっては賭けるものが命か魂かは、大して違いはない……今を守ることが俺には重要だ」
 ……いや、違うぞ?……天と地ほどに、違うからな?……こやつ、本当に理解しているのか?……まさか、考えなしの阿呆では、あるまいな……
 闇帝は、これまで存在した無限に等しい時の中で、心の中ではあるが、初めてダメ出しというものをしていた。
 
『お前……何か、即断が過ぎるのではないか?自分の色々なもの、あっさり差し出しすぎではないか?』
 ……見ているこっちが、モヤモヤしてくる……こやつの仲間、よく付き合っておるな……
 
 ザインが、再び赤光を二方向に同時に放つ。
 レオルとアヴィスは、何の打ち合わせもなく黒球を先程と同じように発生させて、空へと光線を曲げる。
 『……よくわかったな』
 「そっちが、左肩に乗ってるからな……やってくれると思ったよ」
 レオルは、目の端でアヴィスが少しだけ笑ったように見えた。
 
 『……お前の言うように、決断するべきだな』
 「それって、僕の魂の存在エネルギーをレオルにあげることって、できるの、闇帝さん?」
 ジュラが、龍神の肩に飛び移るや、そんなことを言ってきた。
 ルミエルがリンを背負い、ジュラを引っ張り上げながら、ここまで飛んできたらしい。おそらく重力操作ぐらいはしているだろうが……
 「さっき聞こえたですが、この国のことをレオルばかりにやらせては、ここを守る天使としてカッコつかないですよ……闇帝、お前に頼むのは、正直、一生オヤツ抜きよりキツイのですが、このルミエルからもエネルギーをレオルにやってくれ、ですよ」
 『いや、お前生体ゴーレムであろう?魂とか、ないのでは……それに、取り込んでもいない魂のエネルギーを、こやつのスキルを立ち上げるのに使うのは……』
 アヴィスが、ルミエルの中をざっとサーチする。
 ……いや、何か、魂っぽいものがあるな……喋り方も、個性が豊かすぎる……結構適当に作られてないか、この天使人形……?
 「……闇帝と聞いたから、わざわざ来たのに実は大したことないのですか?がっかりですよ……」
 やれやれと、天使が肩をすくめて首を振る。
 『……安い挑発をしてくれる。アヴソーヴで、塵に変えてこやつの中に叩き込んでやろうか……』
 アヴィスの片眉が跳ね上がる。
 「じゃあ、それをやってくれです……」
 ルミエルが、アヴィスの深い色の瞳を捉える。
 『何を言っている……』
 「だから、それをやってくれと、言ったですよ……だいたいレオルは、おかしいんですよ……この王国を、ここまで守る義理あるんですか?このルミエルや騎士団の仕事なんですよ、それは……魂まで削るなんて恐ろしいこと、普通はやらないんですよ……」
 「……お前は、多分、私の知らないところで、何かを差し出しているのは、分かっているのです。これ以上は、やめてくれです……ルミエルを助けてくれたヤツが、これ以上苦しむのは……見てられないんですよ」
 ルミエルの目から、何かが落ちる。
 「……お前だけ犠牲になって、ルミエルが一人楽しくオヤツ食べれると、そう思ってるんですか!」
 ルミエルの叫び夜空に響く。
 「何、茶番を……!」
 「お前、うるさいですよ!」
 ザインの巨体が、地に叩きつけられる。
 ルミエルの腕と頬に、光の亀裂が奔り、光る体液が噴き出す。彼女の身体の限界を越えての重力の一撃だ。
 ルミエルの怒りが、弾け飛ぶ。

ルミエル

 「ルミエル……ありがとう」
 龍神となったレオルが、天使を優しく見つめる。
 「そんなの……聞きたくないのですよ……」
 ルミエルが背を向けて、翼が器用に近寄るなと主張してくる。
 「アヴソーヴ、使えるかも……」
 ミレニムが、合流する。ノワールが、その後ろに控えている。
 「闇帝さん……アヴソーヴを私達の魂から出ている存在エネルギーに狙いを定めること、できますか?」
 レオルは、一旦ザインから距離を取るように動く。作戦がまとまるまでの、一時の時間稼ぎだ。
 「やれぬことはないが……はっきり言って、全然足りんぞ?」
 『それなら、私の分も持っていってください!エルフの魂なら、他の人に負けませんから!』
 「エルフィ?」ミレニムが驚く。
 『……む、念話の経路が開きっぱなしか……』
 「そのことについては、後でお話があります……」
 ミレニムが、アヴィスの肩を掴んで静かに微笑む。闇帝が、彼女の謎の圧に怯む。
 
 『おい、こっちは王国騎士団第三中隊隊長ロイだ、事情はだいたい聞いていた、俺達からも持っていってくれ……ここに家族がいるヤツらばっかりなんだ。遠慮するな!ヴァルターの親父のところも、同じだから、構わないと言っている!』

 『こちら第一大隊ククロアである、こちらもやってくれて構わない、こちらはあまり役に立てていないからな、存分にやってくれ』

 『第一王女、リゼルです……こちらも協力します。王城内の成人全員、提供できます。やってください』

 『冒険者ギルド、ステラです。こちらも、大丈夫です……支部にいる事務員や冒険者、承諾取ってあります……死なない程度にお願いします』

 『こっちは、酒場やってるゴルドってもんだ。こっちも頼むぜ。避難してきてるやつらも、そう言ってる……ここブラッドレインは、冒険者が建てた街だ、魔族に一泡吹かせてくれるなら、やってくんな!』

 『ミィナです。ミレニム、カリウス達も聞いてたから、闇帝さんに伝えて!やっちゃって、って!』

 『兄さん、俺も忘れんでください!』

 『グレイシャも、パパの力になりたい!』

 『リタだよ、アイツにかましてやって!エレの分まで!』

 ……何だ、この意識の奔流は……
 ……こやつら、自分の魂を闇帝たる私に……委ねる、と?……
 ……我が子たる魔族にすら、忌み嫌われる私を、信じる……
 ……分かっておらぬだけだ……私が何者であるかを……

 ……勝手に……期待しおって……
 ……この、荒くも瑞々しい魂のあり様は、冒険者の街という、性質故か……
 ……わからぬ……
 ……こやつらの、考えがわからぬ……
 ……いつから、自分以外の考えに関心を持たなくなっていたのか……とるに足りぬ、と断じていたのか……
 ……もう、憶えてもおらぬ……

 ……ただ、この宇宙の闇を支えるだけの存在……
 ……そのための、膨大なエネルギーを集めるだけの存在……それが、私だ……

 ……だが、何だ……この、心地よさ、は……
 私が、闇帝ゆえに、捧げられなかったもの……
 
 ……応えてやりたい、と思う……
 ……衝動……力になってやりたいという、何か……
 
 白皇のヤツめ、こんなものを独り占めしておったのか……やはり、あやつは、許せぬ、な……

 アヴィスが、念話の経路を切ろうとした途端のことだった。
 ミレニムのアイデアが、呼び水になって王国中の『声』が集まってゆく……
 「闇帝さん、リンといいます。勇者スキルがあるので、接続手伝います……急ぎましょう!」
 『……ええい、分かった。やってやろうぞ……レオル、グランドスキルだ。集めた力を魔族の最上位武器へ変換させる、剣か、槍、弓、どれが良いか選べ!』

アヴィス

 「槍で頼む……手の縮尺から考えて、一番扱い易いはずだ」
 『分かった、魔槍ブリューナクを選択……王国の全範囲を指定、その上で先程のリンクのあった者だけを選別……リンとやら、回路を繋ぐぞ、構えよ』
 
 リンの肩にアヴィスが手を置く。
 リンの意志が、一瞬にて光に変じる……
 闇帝は、一瞬でそれを成す……
 ミレニムやジュラさん、ルミエル……
 繋げていく……ハクロさん……リタ……名も知らぬ人へ……

 ……光が奔っていく……人の魂の光が見える……
 ……次へ……人の魂から、魂へ……道をつくる
 ……全てを一つに……闇帝のもとへ……
 ……光の流れを、光の川を……彼女に導いていく……

 エネルギーラインが、アヴィスへと繋がる……

 『……よくぞ、一度で成し遂げた……貰うぞ!お前たちの魂の光を……』
 『闇たる帝が命じる!魔槍ブリューナクよ、今ひとたび、顕現せよ!……続けて、変生せよ、変幻万華鏡ブリューナク!』
 
 龍神の手に、光の武骨な巨槍が現れる……
 だが、それは転生する……闇帝が、本来の魔槍に違う性質を上書きしていく……
 
 槍の刃に、円鏡がはまり込み、光を放ちながら回り出す……異槍へと生まれ変わる……
 

ブリューナク

 「変生だと……過去の魔族の勇者の武具に、無理矢理別の機能を付けたのか……」
 ザインが唸る。
 この世の理を捻じ曲げるルザロ・ワーズの中でも、一等異質の能力。闇帝、しか使えぬと言われる能力。
 『無理矢理ではない……自然に無理なく、元からそうあったように同化させたのだ……大サービスというヤツだ』
 アヴィスが、得意気に笑う。

 槍が教えてくれる。まだ、認めていないが、教えてやると……
  
 巨槍の円鏡が回る……渦が回る……ザインの纏う炎を強制的に奪い、吸い上げていく……速度が上がっていく……
 
 ザインが閃光を続けて放つ。

 槍が自ら正面を向く……閃光を先端に吸い込んでいく。
 円鏡の回転が上がり、紅い色を帯びていく……
 槍の先端に紅の光が集まってゆく……

 「ルミエル、いいよ!」
 ミレニムがルミエルの腕の傷を治す。
 応急手当だ。ルミエルに腕だけでも動けるようにしてくれと言われ、手持ちのポーションで上等の物を惜しみなく使った。
 
 「ジュラ、頼んだですよ!」
 ルミエルの髪と瞳は、既に金色を失っている。
 力が尽きかけている……あと、一度やれるかどうか……
 「アンチ・グラヴィティ・ボール!」
 光玉がザインをの周囲を回り出す。
 

ルミエル

 ジュラが、龍神の肩から跳ぶ。
 「貴様らなどに……!」
 魔神の腕が振られるが、ジュラが軽く触れて滑り落ちてゆく。
 「そうさ……君は負けるよ」
 巨大な魔神の足に手がかかる。
 ジュラの身体がその一点を起点として、回転する。
 魔神の身体が、羽の如く浮き上がる。
 ルミエルの術が、強制的に魔神の重さを限りなくゼロにしている。

ジュラ
 

 「重さがなければ、君なんてこんなものさ!」
 かつて、黒騎士ヴァルハルトを宙に舞わせた技。
それが今度は、塔程もある巨体を城外に向けて投げ飛ばす。
 「……君は、レオルが生命をかけて集めたものに負けるんだ」
 
 異槍の円鏡の回転速度が最大になり、うねりを上げる……!
 ザインの閃光を蓄え、より上位の術へ、より上位のルザロの術へと昇華させた……術が放たれる!
 「赤灼の閃砲」

赤灼の閃砲

 熱線がザインを貫き、城壁を飛び越えブラッドレインの街の北に広がる平野に魔神の身体を叩きつける……!
 熱線の放出は止まらない。
 ザインを、大地を、焼き尽くしていく。
 「……俺が、炎翼と呼ばれた俺が……焼かれる……」
 「……ありえぬ……ありえ、ぬ……」
 熱線がザインの身体を貫いた穴が広がっていく。
 砕かれていく……
 黒い物質へと、塵へと還っていく……
 
 炎翼のザインの最期だった……

 拍手……
 「なんとも、面白い展開になりましたね……闇帝までも取り込みますか……」
 傘がクルリと回る。
 ルルリエが城壁に腰掛けて、レオル達を見遣る。
 「……レオルさんもですが、彼が言ったように人間にも興味が湧きましたよ……この国にはしばらく滞在させて頂きましょう……」
 「よろしくお願いしますよ、皆様がた」
 ルルリエが、上機嫌に城壁の向こうへ消えていった……

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