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冒険者 #3
生命をかける戦い
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それを見た時、ミレニムは黒い呪いの水を思った。辺りを呪いの色に染めずにはおかない、恐ろしい黒き水。
ダスクウルフを追い立てるように現れた怪物。二本の足で歩ける構造をしているのに、両手足で地を掴んで、こちらに流れるようににじり寄って来る。
「あんなの……知らない。聞いたこともない……」
ミレニムの横に、いきなり陣が現れる。
小さな鬼が転げるように飛び出てきた。
どこからか出した紙で、未知の魔物の姿を手早く描き始める。その絵は正確無比、実物そのものといっていい出来だった。
「ゴロさん、絵を頼むわ……描き上げたらパタパタと一緒にギルマスに報告して……こちらは構わなくていいわ」もう一つの陣からは、小さな翼竜のような1つ目の小鬼が出て来た。
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「わ、可愛いい」
ジュラが状況に構わず、目を輝かせた。
「……あと、レオル」
「何だ」
ミレニムが、溜まった息を一気に吐き出した。
「奥の手があるなら出してもらっていいかな?……何をみても、驚かないって約束するから」
レオルは一瞬だけミレニムの瞳をみたあと、少しだけ笑った。
「……分かった、リーダー」
「僕は?どうしたらいい?」
ジュラが、いつになく真剣な顔で聞いてくる。
「ダスクウルフを撹乱、で、倒せるなら倒しちゃって……ジュラなら、やれるよね」
ミレニムが真正面から聞いてくる。
「いいよ、遊びは無しだね」
ジュラがいつもとは違う笑い方をする。
獰猛な獣のような笑みを浮かべて頷く。
「頼むわ……あれは、野放しにしてはいけないものよ」
気を帯びて淡い光を纏ったジュラの体が宙を舞う。ダスクウルフの群れの上空に、ひと飛びで距離を縮めた彼女の身体がくるりと回り、ダスクウルフの背に踵を叩き落とす。
ダスクウルフの立つ地面がひび割れ、その背骨はただの一撃でへし折られた。
そこに2匹ほどが襲い来る。その身をかがめてかわすや、下からその顎を足刀で砕く。
続けざまに、バク転……踏みつけるように、頭蓋を砕ききる。
「あの子、戦闘能力でいえばBクラス越えてるんじゃないかな……」
ジュラのさらに上空を、ミレニムが飛んでいく。
魔女とは、空を飛んで一人前とか、はミレニムの言。
その下をレオルは、背の高い木々の枝を次々と飛び移っていく。
「レオル、どうする?」
「……一度火球なりを撃ち込んでくれ。その隙に距離を詰めて、ひとアテしてみる……何か掴んでみる」
「お願い」
「火球」
ミレニムの回りに火の球が3つ、生まれる。それが次々と黒い魔物に向かってゆく。
「……キ……キエ……テ」
最初、それを言葉とは捉えられなかった。
まるで鉄やガラスを擦り合わせたような異音。
魔物の周囲の空気が張り詰め、見えないものが弾ける感覚が走り抜けた。
火球が怪物の前で、掻き消える。
「……あり得ない、相殺でもなく……ただ消えるなんて……もう一度いく」
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「氷槍よ」
人の背丈ほどもある氷の槍が、何本も現れて再び怪物を狙い撃つ。
今度はレオルも、合わせて怪物の間合いに踏み込む。
「……キエテ……キエテ……」
再び周囲の空気が張り詰め、氷の槍が掻き消され、レオルが数歩押し戻される。
「レオル!」
「……近づくな!何か持ってかれる感覚がある。ミレニムは、距離を取っていてくれ!」
「分かった、気を付けて」
上空で待機する魔女は、不安そうに旋回する。
〘熱線を推奨する、連続で照射すれば打ち消しきれなくなる……その後、魔力刃のどれかを撃ち込むことで効果があがると推測できる〙
魔剣の提案は、聞くべきものがある。
もともと、レオルだけでなくナルディアの思考も転写してある。あの思慮深い聖女の思考には何度も助けられた。
「術はお前に頼む……魔力刃は俺が受け持つ」
レオルが魔物に向かって駆けだす。彼に並行して熱球が生まれ、熱線となり怪物を撃つ。
再び、怪物は術を次々と打ち消し始めるが、熱線はすぐには絶えることがない。
そこへ、レオルの魔剣が振り抜かれる。
怪物の腕の中ほどから突如景色が歪み、骨が割れる音が幾つも響く。怪物の上腕があらぬ方向に曲がって折れてゆく。
咆哮!
森の静寂を震わせていく叫び。それは、ただの叫びではない。
辺りの森の木々が、水に濡れた絵のように存在感がなくなっていく……それに応ずるがごとく、怪物の腕が時計の針のように回り、もとに戻っていく。
「キエロッ!」
閃光が森の闇を灼いてゆく。
ジュラと向き合っていたダスクウルフが、光線を浴びて蒸発する。ジュラが身を投げ出すように伏せた上を閃光は走り抜け、森の木々をなぎ倒していく。
誰かの悲鳴が聞こえた。
レオル達の他にもこの森に誰かいたのか?
「ジュラ!レオル!……無事なら、返事して!」
ミレニムの声は悲鳴に近い。
「何とか無事ー」
ジュラが駆け寄ってくる。
「こっちも、なんとかだ」
ほっとしたように息をついた魔女が、二人の傍に降り立つ。怪物は腕を振りながら、あたりを見回している。巻き上がった粉塵で、こちらの位置がわからないようだ。
「あいつの打ち消しはなんとか出来たが、あの再生力と光線はまた別の対処が要るな」
三人は木の陰に身を寄せ合って、ヒソヒソ作戦会議にはいる。あまり時間はないが……
「たいがいの怪物って、頭潰せばよくない?」
ジュラがさらっと物騒なことをいう。
「あんた、あんなデカい頭潰したことあるの?」
「うーん、サイクロプスってのはやったことあるんだけど……あれは、その数倍でかいね。一発じゃ無理かなぁ」
「俺の魔力刃の中で、一番強力なのを使っても半分はやれるかだが……それでも再生してくるかもな」
「だったら、一緒にやってみる?……タイミング合わせてみるけど?」
「動いているものを、タイミング計って、狙って、一度に、か?いけるか?」
ふふっ、と場違いな声が聞こえた。
「ミレニム?……頭、打った?」
「大丈夫か?」
二人が本気で心配してくるに到って、笑いがこらえられなくなる。
怪物がこちらの方を向く。
「……嬉しいの!また、仲間ができて、とってもピンチで、一生懸命作戦を考えて!……本当に嬉しいんだよ!これこそ、冒険者よ!」
怪物が前進を開始する。
「……ミレニムが壊れた!やばい、ピンチかも!」
ジュラが木の陰から飛び出す。
「ボッチをこじらせすぎだ……!」
レオルも飛び出す。怪物の横に回り込むようにジュラと並走する。
「……二人とも、そのまま怪物の方へ走って!攻撃系でない術でなんとしても動きを止めるから、頭を狙って!」
ミレニムが飛ぶ。空中に陣が5つ浮かぶ。
〘全力でいく!〙
怪物の周辺だけ空間が歪んでゆく。
「時間遅延!」
巨体の動きが、ほとんど止まっていく。いや、恐ろしいほどゆっくり動いている。
ジュラが、急停止して両手に気の青光を集める。レオルは、魔剣に呪文を走らせ力を集めていく。
「レオル!」
ジュラの合図で、魔剣から紅い閃光が束となって奔る。ジュラの両手から合わさった光がそれを追いかける。
「……キ…」
怪物の頭が、焼かれていく。それをジュラの放つ光が次々と砕いていく。
時間にして一秒もかけることなく、黒き怪物は頭を失い地にその巨体を沈めていった……
三人は疲れ切った様子で地面に座り込んだ。
「はぁ….......なんとかなったね」ジュラが額の 汗を拭いながら笑う。
「簡単な依頼......なんて、もうごめんよ」 ミレニムがに言い、膝に手をついた。
「……ミレニム」
「なに?」
レオルの方を、向く魔女。その顔は疲れた、でも充実感あるものだった。
「これからも、よろしく頼む」
「こちらこそ。ジュラも……よろしくね」
「うん!とっても楽しかった!……また行こうよ、
この三人で!」
ところで、とジュラがいう。
「あっちのほうで、獣人の、多分冒険者っぽいのが落ちてた……さっきの光線に巻き込まれて、結構酷い怪我してた」
「そういうことは、……」
「早く言ってくれ!」
疲労困憊の身体に鞭打って、ジュラを先頭に走る三人。
「……ハクロ?!」
魔女の知り合いらしい。右足がひどい出血だ。
「でさ、この人、こんなの持ってた」
ジュラが、薄汚れた袋をつまんで持ってくる。
「これ、引き寄せ香の匂い……まさか……」
そんな場所から少し離れた場所に、困ったようにウロウロしている影が一つ。
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「うーん、なんかにつられて逃げ出したコがお亡くなりー……責任とらされるー、やばいー」
緊迫感のない声が、森の片隅に漂っていた。