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1st Single『鬼』は人生をつかった自傷と拷問

2022年12月28日に1st Single『鬼』をリリースしました。

アートワーク別ver.
撮影:夕


今作は私、梅星えあが受けた性犯罪被害の経験から着想を得た楽曲になっています。
これまでの作品を振りかってみると肯定する心で言葉を紡いできた気がします。
それは人だったり、今だったり、未来だったり、過去だったり。
私が私を肯定されたいから無意識に音楽で抱きしめる行為をしていたのだと思います。
しかし、歳月が経つにつれて同時に攻撃性を秘めている自分を認めることができました。
それも人と比べると高いほうだと思います。

強い人ほど優しい。
痛みを知っていればいるほど優しい。
痛いのは怖いけど、“この痛みがあったから今この人に少しでも寄り添えているのかも”。そういう瞬間のために私は痛みをたくさん知りたいです。
攻撃をするというのは恥ずかしい行為だなと感じてしまいます。
でも、まあ優しさは私が抱きしめたい人間にだけ限ってできればいいか。と良い意味で自分を諦めて、せっかくなのでこの痛みでもう一個お薬作れるかも、と生きるのを面白くしたい私に期待しました。


これを読んでくれているあなたに当時のことを簡易に説明したいと思います。


何年も前の夏。
空が白んでいく朝のことでした。
人気のない路上をいつものように歩いていました。
背後から加速していくベタベタした足音が近づいてきます。
それに気付いて振り向いた瞬間、左胸を弄られ身体がコンクリートに叩き落とされ横たわったあと記憶が途切れました。
なんの前触れもなく訪れた、たった一瞬の出来事で地面に足をつけることが怖くなりました。
一人で歩くことだけではなく、室外に身体を露出させるということ自体が恐怖に変わったことが不思議です。


何度も何度も警察の前で加害者を模したマネキンをつかって再現を求めらすぎて、何をされたのか本当のことが分からなくなっていきます。
繰り返していくうちに、性被害を被るトレーニングをしている気分になりましたが、途中マネキンの頭が取れて笑いそうになりました。
ゴロゴロと無様に転がっていく加害者の首をキャッチした警察官が神妙な面持ちをしてるのも相まって、とうとう爆笑してしまいました。
楽しい涙を排出しながら笑う私をみた警察官たちが「古くなってて...。ごめんねー。」と謝りながらも困惑してい表情が忘れられません。加害者の顔も覚えていないのに。

身体が脳と感情のいうことをきかなくなりました。
バイト帰りの夜道、刃物やスタンガンを持たず無防備にこのまま歩き続ける勇気がふっと無くなって、しばらくの時間コンビニの明かりに照らされて立ちすくんでいた時。
男性に話しかけられました。
心臓がドンドンと胸を叩いています。
喉には空気でできた石が詰まっています。
護身用の武器を持っていたとしても使えるかどうかは別だな、とどこまでも無力な自分を見つめていました。

「最近ここで女の子が襲われた事件があってね、心配で声かけただけだよ」

警察手帳を見せられると「あ」と喉の石が溶けて発声しました。多分それ私です、と言って笑顔になったことを(こんな偶然あるのか)と面白かっただけだと記憶していますが、警察の男性は「ああ、君か」と少し驚いた様子で申し訳なさとも悔しさともとれる表情を浮かべたので上がった口角を下げました。

パトカーに乗せられて家まで送ってもらっている道中、「おっちゃんたちが絶対に捕まえるからな」と映画の主人公みたいにハンドルを握りしめながら肩を振るわせる警察官の背中が視界に入ったので、泣きだして悲劇のヒロインとして振る舞ったほうがいいのかなーなどと思った気がします。
初めから、加害者と呼ばれる男について何も考えておらず無関心だったのでそいつがどうなろうと私には関係のない話のように感じていました。

私が加害者の男を一人の人間だと意識したタイミングは2回です。
1回目は示談の後、直筆の手紙を相手方の弁護士から受け取り読んだ時です。
それは誰かに言われたままの言葉を雑に書き殴っただけのものだと伝えるにはあまりに簡単なものでしたが、私とその男を人間同士の繋がりだと表す唯一のものでした。
2回目は上京して数年後。
私を担当していた警察がわざわざ東京に来てくれて、一緒に入ったカラオケです。
(え?カラオケ?何か歌った方がいいのかな?だとしたら何を?シリアスな空気だし盛り上がるやつ?なら…。)と考えるだけでニヤつきが止まらず下を向いていました。
警察官は白く広いテーブルに新聞紙を広げて、その中にある小さな記事を指差して言います。
犯人が捕まったこと。
私を含めた多数の性犯罪を繰り返していたこと。
行動はどんどん大胆になり、ついに女子大生の家に入り込んだことによって現行犯逮捕されたこと。
当時の私のことも書かれていました。
そして、数人の男の写真を並べてどの顔に見覚えがあるかを尋ねてきました。
正直わからなかったので、コレかも…でも服が違うから自信がないと笑っていると「分からないならそれでいいよ、それで大丈夫」と言って写真を両手で手早くまとめてしまいました。
とても優しい言い方と厳しい仕草でした。



破滅ロマンスのコンポーザー、ナガタトモヤからトラックをもらったのは2022年の12月24日にメンバー発表配信をするだいぶ前のことです。


これまでの作品の中で最もアッパーで良い意味でナガタっぽさがなく、私もメロディをいっぱい動かして遊びたくなりました。いろんな歌い方をしたかった時期に、和にも洋にも地獄にも天国(非合法)にもできるトラックをくれたのはベストなタイミングでした。
メロだけでなく韻など内容とは裏腹にことばあそびを楽しんでいるのが分かるでしょうか。
芯の部分を気にせず、ただアガる音楽として聴いてもらうのも嬉しいです。

性犯罪のニュースが連日報道されています。
被害者の女性は顔も名前も全国に晒して訴えかけています。別事件の被害者女性は3人の男に家に連れ込まれ被害を受けたあげく、加害者たちは輝かしい未来を約束された若い学生ということで近所の人たちにまで庇われていました。
私は自分の相手、つまり私にとっての加害者からの謝罪の手紙を読み直しました。時間をおいても字が汚いままの燃やせないゴミの内容はやはり頭に入ってきません。相手の心がそこにはないからです。
ただ面倒なのだとはっきりとその文が言っています。


アートワーク撮影は破滅ロマンス、カメラマン・デザインの夕さんです。
オフショやチェキもたくさん撮ってくれたので要チェックです。


結果的に“日本のケミカルな地獄”に突き落とした本作。
悩むことなく着物を着ることにしました。
首についた手形の血は暴力性の表現と“自分の首をしめる”、“首をとる”、“手垢をつけられる”といった意味を持っています。

ベースは破滅ロマンスのRY。今回も忙しくてかっこいいベースラインをつくってくれました。


ミックス、マスタリングは桑山さん。

ドラムなどのアレンジの提案も積極的にしてくださりました。
寄り添ってくれる、理解しようとしてくれるエンジニアさんが大好きです。
破滅ロマンスと桑山さんの処女作がこれなので今後もぜひ期待していただきたいです。


現在もかなりの頻度で男が部屋に入ってくる夢をみます。私をこのような歪な形にさせた張本人ではないです。ただシルエットや声が男ばかりです。それは窓からだったり気がついたら側にいたりします。耳元で何か言われることもあります。
声を上げようとしても声は出ませんし、シルエットは私の身体へ侵入してきますがそれを遮ろうとしても寝返りさえ打てません。
現実世界の酸素が深く肺に入り瞼を開くことが許されて誰もいない部屋を見渡すことで、やっとこちらの地獄に戻ってこれます。
私の寝顔を見た人が顔面が痙攣していたと笑っていました。
きっと、そういう夢と記憶の最中にいるからでしょう。
現実でも背後からでも正面からでも走ってくる音が近づくとスイッチを押されたように強張ってしまいます。その他にも些細な支障が出ています。もうずっと続きすぎて恐怖心なのかなんなのかよく分からないです。

加害者が逮捕されて無職になったのを理由に相手の弁護士に言われるままに初めに11万円の示談金をもらいました。その後25万円に達するように毎月2万円ずつ支払われる約束でしたが何年経っても一度も支払われることなく今に至ります。
その頃は金がほしかったので相手の弁護士に電話したところ、その件に関して私が再び訴えてくれとのことでした。
気力がないのでやめました。
今は25万円くらいさっさと自分で稼げますが、金はあるに越したことはないし、気力もあるので次回チャンスが訪れたら殺すまで追い詰める元気があります。

新曲を以上の経験から作ろうかなと考え始めるとニュースが目に頭に脳に神経に行き渡り、性犯罪被害に全振りすることに決めました。
単純な復讐心で出来上がったのが『鬼」です。
MVもつくります。
加害者直筆の“燃やせないゴミ”と呼べるお手紙も登場させます。
ここまでの数年間と死ぬまで続くであろう何かの元を取ります。
あわよくば本人へ届けたいのですが我々の知名度ではかなり難しいので当時の弁護士に聞いて本人に「あの一件からできた音楽がある」と報せたいです。

これは私だけの復讐ではないと誓いました。
取り上げたのは以上の件ですが、痴漢や盗撮、尾行など警察沙汰にしない出来事は何度も起きています。
いちいち騒いだらかまってちゃんだと思われるから言わない。
下手するとモテている、自分は容姿が優れているというアピールに変わるそうですね。
私も最初こそ他人から心配の言葉をかけられていましたが時間が長くなってくると、だんだんと寄り添うことよりも私を強く生きさせようとする言動に変わっていきました。
それはチクチクとする毛糸に心を包まれていくようでかなり鬱陶しかったので普通の顔をして何事もなかったようにするよう努めました。
誰にも何も言われないように。
みんな、生きていれば当たり前のように被り当たり前のように自分の生活に戻ります。
段差に躓いて転んだこと、気圧で頭が痛いことと同じにしないといけないのです。

私の持つ強さとは何か。
幸いなことに未だに発言力を持てていない自分の存在を使って非道になれる点です。
攻撃も不遇もなかったことにして日常を過ごそうとするあなたへ。
ただ楽しい日々にしたいあなたへ。
私を鬼にした鬼たちへ。
1st Single『鬼』を捧げます。

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