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あなたの癖取り除きます
◇◇◇◇◇【実験参加者募集】◇◇◇◇◇◇◇
あなたについた変な癖、取り除きます
どんな癖でもOKです。
お問い合わせください。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そう書かれた貼り紙が図書館の地下へと向かう入り口に貼られていた。
ここはハムスタラボ。
京都に隠れた名医がいると噂になっている。
何をしてもやめられなかった癖がここに来れば簡単に治ってしまうというのだ。
といっても、ハムちゃん先生はお医者さんでも、何かのセラピストでもない。
京大にきて最初に取り掛かったのが
人間の思い込みについての研究であった。
実験参加者を募るために、人が飛びつきやすい募集をしたのだという。
思い込みというのは、使い方によっては万能薬となり、時として己の最大の敵である。
長年にわたり脳にこびりついた癖は、どんなにやめたくても自分の意志ではやめられない。
これまでに多くの人が、藁にもすがる思いでこのハムスタラボを訪れた。
相談内容は可愛らしいものから深刻なものまで幅広い。口癖、あがり症、アルコール依存、ピーナッツ中毒など様々である。
ハムちゃん先生のところに月2回程度通えば、大抵の人が治ってしまうらしい。
いったい何がそんなに効果があるというのか。
ハムちゃん先生にも最初はさっぱりわからなかった。
後になってわかったことだが、「ここに来れば必ず辞めたかったものをやめられる」という本人の思い込みが長年の癖をやめさせているのだという。
嘘みたいな話だが、そういう気持ちでハムスタラボを訪れる人はすんなりと依存症を克服してしまうそうだ。使い方によっては思い込みというのも悪くない。
今日は、大学内の研究室秘書からメールで問い合わせがあった。
「うちの研究室の教授は、気に入らないことがあるとすぐに舌打ちをするクセがあります。大変不愉快なので、すぐに治療をお願いします。」
最近、この手の相談が多い。
ハムちゃん先生をどんな病も治すことのできる名医だと勘違いする相談者だ。
ハムちゃん先生は返信した。
「お問い合わせありがとうございます。当研究室では、あくまでも研究目的で人間についた癖を取り除く実験をしております。治療行為ではございません。万が一、実験参加後に効果がみられない もしくは癖が以前より強くなったなどの症状がみられた場合は、保証いたしかねます。なにとぞご了承くださいませ」
そう返信してから、ハムちゃん先生は急いで秘書の教授の部屋へと向かった。
結局、この教授の癖は改善されなかった。
教授本人が癖を治したいという意欲がないどころか、舌打ちをしている意識が全くないのである。
「お宅の教授、お風呂の黒カビよりしつこい癖ですなあ、全然治りませんわ〜。本人が気づくまで気長に待つのみですな。そしたらまた連絡してください。ほな、また。」
そう無責任に言って、ハムちゃん先生は次の相談者の元へと向かった。
今日も明日もハムちゃん先生の研究は続くのである。