はじめまして、ハム子です 〜小娘編1〜

こんにちは。30代のハム子と申します。
自分のこと、毎日のことを書きたくて始めました。
今日はまず、私を語る上で外せないポイントとなる運命の出会い編を書いてみます。

中学3年生の時、私はとある雑誌で一目惚れをしました。
その人はギタリストでした。
この出会いはニキビ面の小娘の人生のまずい分岐ポイントその一となります。

一目惚れから数ヶ月後、小娘は彼に会いに行くことになりました。ライブです。
その日までの毎日、小娘なりに努力を重ねました。
めかぶによるスレンダーボディの加点、手を抜きがちだったしっかり洗顔により憎きニキビを克服し、小娘なりに厳選した一張羅に身を包みいざ向かうは渋谷のライブハウス。

向かう電車から見える車窓からの風景も、この日はきらめくニューヨーク(イメージ)のようでした。のちにこのイメージ画像は香港の夜景だと知ることとなります。

愛読書の人間失格も、大好きなオーケンの小説も今日の私には似合わないからと持たず、気分はモード系オシャガール。
運命の彼とのこの後に待つ毎日に思いを馳せつつ、芋小娘はついにライブハウスへ到着します。

そこで小娘は人生の世知辛さを知ることになります。
あたりを見渡せば、美人、美人、モノホンのオシャガール。みんな総じて良い匂いがして、まつ毛が長く、指先までキラキラしていました。
小娘は自身の一張羅のオレンジのシースルーベストをギュッと握りしめるしかないままに打ちひしがれました。

こんな猛者どもに私は混ざっていたのか…。

これまで自分の掌の中の写真や雑誌の中から小娘だけに笑いかけてくれていた彼は、美人で可愛くてオシャレで良い匂いの猛者たちに囲まれる存在だと、私だけのものではなかったのか…と、その距離の遠さを痛感し愕然としました。

初めてのライブはとんでもなく楽しかったです。
爆音、ギラギラの照明、ズンズン身体に響く低音。
隣のねーちゃんからは良い匂いがするし、小娘が芋すぎるからか周囲の美人のねーちゃんたちはとても優しく、前へ前へと押しつぶさずに優遇してくれました。
でも小娘のところに飛んできたペットボトルは、隣のねーちゃんに綺麗な爪で引っ掻かれながら力づくで奪い取られました。

小娘はトボトボと涙を堪えながら帰宅。
慣れない渋谷のライブハウスで得た疲労感はとてつもなかったけど、小娘にそんな時間はないと謎にめちゃくちゃ焦っていました。
小娘は途方もない負けず嫌いな上、納豆のような粘り強さ、と担任から太鼓判を押されるほど諦めが悪いのです。
その夜はライブによるさめやらぬ興奮と、圧倒的な絶望感にもがきながら一晩中作戦を立てました。

砂浜で一粒の砂と化している私を見つけてもらうのはもう無理だ。
どうしたら彼に見つけてもらえるだろうか

それだけを必死に考えます。
そして小娘は一つの答えを導き出しました。

彼に憧れられるギタリストになって、彼から追いかけてもらおう

小娘は自分を褒め称えました。天才かと。まだ鼻の奥に隣のねーちゃんの良い香りが残っている、目を閉じればたくさんのオシャガールたちの後頭部が蘇る。
芋の私があそこで勝ち抜く方法はこれしかない、と腹を決めたのです。

そう決めたことで安心し何もせず数日たった頃、運命の歯車が回り出します。

小娘には妹がいます。妹は猪突猛進の権化で、いつも3枚入りのお煎餅を、食べるのが遅い私の分まで奪い5枚食べるような子です。
そんな妹がある日、ドラム習いたい!と母に言い出しました。基本的に妹のそういった要求は無視する母が、この時はなぜか即行動。母は早速、妹と私を連れてヤマハ音楽教室へ出かけていきます。
付き添いを演じる私に母は、
「お姉ちゃんも何かやったら?手が大きいし指も長いからギターがいいんじゃない?」と、運命のようなワードを放ちます。

やっぱり運命だ…

そう思いながら渋々という表情をつくり、小娘は無事にギター教室へ入会。

小娘は初心者向けの5人のグループレッスンに入会しました。
おじさん、お兄さん×2、女優志望の女の子、小娘というグループでした。
おじさんは若い頃ちょっと経験があり、自称音楽好きな厄介系生徒で、ちょいちょいよくわからんコメントをして先生を困らせていました。小娘はおじさんのターンが始まると練習がストップするのが嬉しくてありがたかったです。
お兄さんその一は現役バンドマン、その二は初心者。
バンドマンのにいちゃんは厄介おじさんのターンタイムや、準備時間など隙間があるとすぐにピロピロ不快なギターを響かせていました。なんでこの人このクラスいたのだろうか。
女優志望の女の子は、色白でいつも俯いている静かでとても可愛らしい子でした。
秀でた特徴作りのためにギターを習うんです!と付き添いのママがいつも騒いでいました。ママはいつも教室の中までついてきていましたが、たまにいない日もあり、そんな日は女の子はすごくリラックスしているように見えました。ママは似た世代の私に敵対心を顕にしていたため、私たちはママがいない日にポツポツと話をしました。
女の子は女優になりたくないと言っていました。人と話すのも苦手だし、でも母があんな感じだからとドラマでよく聞く話をしてくれました。まあ、こんだけ可愛かったらママの気持ちもわかるなぁ、と小娘は思いながら聞いていました。
女の子のギターは青くてなんかいかついやつでした。
受付のバイトのにいちゃんたちが言うには、初心者が使うやつじゃないレベルのものだったようです。
小娘の相棒は、初心者キットの赤いストラトキャスターでした。でも彼が使っていたギターに似ていたので、小娘はこのギターがとても気に入っていました。

そんなグループレッスンを何度か行ったのち、母が先生に呼び出されました。
毎回与えられる宿題を全くやらず、その場で素知らぬ顔で乗り切っていた私は、やばいぞ…クビか?とソワソワしながら待っていたことをよく憶えています。

部屋から出てきた母は、とても嬉しそうでした。
なに?何だったの?と聞く小娘に母は
「先生がね、お姉ちゃんは素質があるって。もっと本格的にやってみたい、個別に切り替えませんか?って。
どうしたい?」と。

正直、嘘だと思いました。宿題もやらない私に愛想をつかした先生は、グループレッスンより高い個別に追いやって良い金蔓にしようと企んでいるに違いないとそう思いました。

すると母は、「内緒だけど、値段もこのままでいいからって。そのかわり時間は日曜日の朝、通常のクラスが始まる前に先生が早く来て無理やり枠を作るからそこになるけどって」
そう言いました。

小娘は混乱しました…というのは嘘で、
はっはーん、やっぱり運命だ。私は天才ギタリストになって彼と出会う運命だったんだ
と確信しました。(小娘は調子にのりやすいところが、今でも人生における失敗ポイントの課題として残っています。)

そうして天才ギタリストとなる小娘と、ファンキーな先生とのタイマンレッスンが幕を開けたのです。

続く


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