見出し画像

2チームの試作品のゆくえ


吉正織物工場× 福川登紀子(Fukulier)チームによる「広幅」化。
南久ちりめん×岡田倫子(滋賀東北部工業技術研究所)による「交織」化。
前へ進み始めた各チームのプロジェクトをレポートします。

両チームとも第一段階の目標として、9月開催の東京インターナショナル・ギフト・ショー(*1)、10月の求評会(*2)で、取り組みを紹介することに。

*1 総出展社数約4000社、「衣食住遊」全ての商材が勢揃いする見本市
*2 浜ちりめん協同組合が京都で主催する和装業者向けの展示会

画像12

(写真)東京インターナショナル・ギフト・ショー。浜ちりめんの産地としての合同展示(提供:吉正織物工場)

画像1

(写真)求評会。和装反物が並ぶなか、新たな開発分野としての紹介


吉正織物工場× 福川登紀子(Fukulier)チームの歩み②

120㎝幅の生地をつくり、福川さんが3種の洋服を仕立て出展する当初の計画が、精練の不調により90㎝幅の生地で2種に急遽変更に。
そんななかで出来上がってきたのが、こちらのレディースシャツ

画像2

画像3

画像4

(写真)デザインは福川さんの既存のパターンを用い、仮提案の形で

ギフトショーをふまえ、吉田さんは「具体的な価格の提示をしていなかったこともあり、反応を見た感じになりました。そのなかで、100%シルク製品として想定価格は決して安価ではないものの、高くても買う人は買うというご意見もいただきました」と話します。

画像11

(写真)求評会にてデザイナーの桂由美さんと吉正織物の吉田和生さん。吉正織物の反物生地は、桂由美さんのウェディングドレスコレクションにも採用されている

ブランディングの確立

チームにとって、今後の課題が製品化へのブランディング。
最高級シルク生地の洋服として、その価値をどの層にへどのように伝えていくか。
デザインの担い手の福川さんは、トレンドを意識しつつ、さまざまなターゲットを想定してのデザイン提案や課題を投げかけ、チームで検討していきます。
レディースアイテムの検討を進めていたなかで、福川さんが最終候補として提案したのが「ユニセックスのブルゾン」。
型のバリエーションをあまり増やさず、生地の素材や色、柄で展開。機屋として生地を作り続けてきた吉正織物の価値を最大限に引き出していくのがねらいです。
だからこそ品質や機能を重視する傾向のある男性に照準を当てたい」と福川さんは説明します。
世界のトップブランドに登場する個性的なブルゾンを引き合いに出し、「ブルゾンといえば吉正織物」の位置付けをしてみようというもの。

画像13

(写真)自身もブランドをもつ福川さん(左)の視点は鋭い

シャツでもきっとかっこいいですよね、そんな声もあるなかで、軽量、保温性、吸放湿性、紫外線カットなどの機能面においてはブルゾンが優位と判断。
「和柄をうまく取り入れて型染めもできたらおもしろいですね」
とどんどん盛り上がります。


製品としてお披露目するのは2月の東京ギフトショー
広幅での生地を完成させて福川さんに送り、仕立てるーー。
染めの工程も加わったことからスケジュール的にはかなりタイトながら、着地点が定まったチームは、各々の役割に向かって意気揚々と走り出しました。



南久ちりめん×岡田倫子(滋賀東北部工業技術研究所)の歩み②

シルク、ラミー、ウールを使ったデニム生地の試作に取り組んでいた長谷さん。
とりあえずの形が仕上がったのはギフトショーの直前。

画像7

(写真)広幅の交織デニム生地を披露する南久ちりめんの長谷健次さん

織り直しが発生
実は、こちらでも不具合がわかり、織り直しの作業が発生していたのでした。理由のひとつは、経(たて)糸の密度が高すぎたため、緯(よこ)糸が縮む余裕がなく、生地の風合いともなるシボが生まれなかったこと。そしてもうひとつが、精練工程でウールが変色してしまったこと。

繊維の研究者でもある岡田さんによると、ウールは硫黄を含んでいるため精錬で用いる薬剤と化学反応をおこしてしまうからだそうです。
長谷さんにとっても、精練を手がける浜縮緬工業協同組合にとっても、複数の繊維で精練をするのは初めての試み

試行錯誤のなかで、繊維の組み合わせを再考したのがこちら。
①シルク100% ②経糸シルク×緯糸ウール ③経糸シルク×緯糸ラミー ④経糸シルク×緯糸シルク+ラミー

繊維を変えるだけではなく、糸の撚りも強い撚りや弱い撚りを混じえ、また織組織(経糸と緯糸が上下で組み合わさって平面を形成するときの規則)も、デニムの代表的な「1/3綾組織」の他に、南久ちりめんならではのテクニックを応用した組織も取り入れるなどして、10数パターン試作

画像12

(写真)試作の数々


ここからさらに8パターンに絞り、今度は工業技術センターの織機を使って、今度は広幅で織っていきます。

画像14

(写真)東北部工業技術センターに備わる広幅用の織機


展示会での反応

2つの展示会では生地見本としてディスプレイ。
そのなかで「デニムは愛好家やリピーターが値段を問わず愛する世界観がある。浜ちりめんの愛され方と共通点があるという意見もいただけた」と長谷さんは振り返ります。

画像6

(写真)求評会。デニム生地の説明をする長谷さん


アイデア募集

さらに長谷さんの試作は続きます。
経糸シルク×緯糸ラミーのバージョンで、シボの強弱の異なる生地を4パターン製作。

画像14


全チームが集まる浜シルク活用プロジェクトの定例ミーティングで、これらを紹介し「この生地で何を作るとおもしろいでしょう?」と皆にアイデアを募りました。

画像14

(写真)期待を込め、さまざまな提案があった


シボとは?

浜ちりめんの大きな特徴ともいえるのが八丁撚糸。緯糸に水をかけながら強い撚りをかけ、その糸で生地を織ります。
精練で、糸のタンパク質が除去されることによって糸が収縮します。これで緯糸の撚りがもどり、生地全面に細かい凸凹が生まれます。これがシボです。
シボの強弱は撚糸の回数や織り方などで調整しますが、精練を経て初めてその具合がわかります。
生地に生じた凹凸は、光の反射によって風合いとなり、肌に接する部分が少ないことから爽やかさを感じられ、また空気を含むことから暖かさにもつながります。
今回のデニム化では、これをウールやラミーで試みているわけなのです。

画像15


今回持参したパターン以外の繊維組み合わせでも、シボの強弱で生地を比較していく予定とのこと。
さまざまな生地を展開するなかで、デニムアイテムの選定、デザインなど製品化を決定するのも目前です。どのような形が誕生するのでしょう。


次回へ続く