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南久ちりめん×滋賀県東北部工業技術センター岡田倫子チームの歩み①

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(デニム生地の試作を織る長谷健次さん)

                長谷健次さんについてはこちら
                岡田倫子さんについてはこちら

デニム生地へのチャレンジ

机の上に並ぶ3種の巻き糸。紺色に染まっているのがシルク、そしてラミーとウールです。
「経糸(たていと)にシルク、緯糸(よこいと)は3種すべてを使い、その配合割合を変えながら試作となる生地を織ります」
南久ちりめんの長谷健次さんが説明します。

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(左からシルク、ラミー、ウール)

作ろうとしている生地は、デニム。
これが、南久ちりめんと滋賀県東北部工業技術センター職員である岡田倫子さんチームの取り組み。この生地を使ってウェアを仕立てようと考えています。
めざすのは、シルクとほかの繊維を組み合わせて織る「交織」での生地確立です。


カジュアルさの象徴として

南久ちりめんではこれまでにも交織生地を手がけていたことはあります。リネンを5%用いた、夏用着物生地でした。
「今の時代にみなさんが描く着物のイメージってどんな感じでしょう。嗜好品、フォーマルなシチュエーションで着用するもの…、ふだん使いの日常とは異なるシーンでの着用が多いですよね。浜ちりめんで仕立てた着物なら値段は決して安くはないし、なおさら気軽さからかけ離れてしまう。だったらその対極にあるものを作ってみようと思ったんです。それがデニムだったんです。僕の勝手な思い込みではあるんですが」と長谷さんは笑います。

繊維のなかでも絹は高価で、100%絹を使った生地は正絹という名称がつきます。浜ちりめんブランドを名乗るには正絹を用いることが条件です。ここから外れて交織にするのは単にカジュアル化のみならず、すべて天然繊維を用いながらもストレッチのある生地作りへの挑戦も含まれています。

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(生糸を撚り合わせて緯糸を作る。糸2本分ほどの細さから、太いものなら500デニール以上を作ることが可能)


ストレッチ性を高める

ところで、浜ちりめんの大きな特徴のひとつと言えるのが、「八丁撚糸」と呼ばれる糸を撚る技法(水撚り)。そもそも生糸(原料となる糸)から経糸と緯糸を作るのは、まったく工程が異なります。
八丁撚糸は、緯糸にかかる工程。簡単に説明すると、水をかけながら複数本合わせた生糸に撚りをかける(ねじり合わせる)ことで、ねじれの強度を高めるというもの。この糸で織ることで、シボといわれる細やかな凹凸を生地に出すことができるのです。

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(八丁撚糸をかける際に用いるおもし。これで糸の引っ張り具合を調整する)

今回、この技法をウールとラミーにも取り入れてみることに!
ねじれの強い糸を使うことで、ストレッチ性を高める効果を狙います。
ちなみにどんな繊維でも布の用途や風合いを変えるために、撚る回数を変えた糸を使って生地を作ります。とはいっても、比較的糸としての強度のあるシルクに比べて、ラミーやウールの繊維の構造上、撚りが強いとすぐに切れてしまいます。 撚りの強度をかなり高めるために行う水撚りならなおさら。そのため糸の引張り具合や撚りをかけていくスピードを微調整していかないといけません。織るときも同様です。


試作の日々

南久ちりめんとタッグを組む岡田さんは、繊維工学を専攻した研究者でもあり、現在は、繊維の織りや加工について事業者からの技術相談に乗る立場。
この交織デニムでも、都度長谷さんからの相談に乗ります。

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(浜シルク活用プロジェクト第2回会議にて。左端が岡田さん、右端が長谷さん)

ウールは国内から、ラミーは県内から取り寄せたもの。そして絹糸は、絹紡糸という種類を使用。ツヤ感が少なくふんわりとした肌触りが特徴で、これもツヤツヤスベスベしているというシルクのイメージを脱しようというもの。
生地の表面にシルクが、裏側にウールが出るように織り込んでいきます。

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(「肌に触れる方がウールだとあったかいかなあと思って」と長谷さん)


試作予定としては8種。反物幅で50㎝ずつ織っていき、9月から11月にかけての各種出展で生地見本として出品。客観的な評価をふまえ、決定した生地を幅広で織ろうと考えています。

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(デニム生地用のシルクは、厚みを出すため生糸14〜26本をよったものを使用している)

触らせてもらった試作生地の、しっかりした肌触り、質感、厚み。これがシルクかと思わず驚きの声が漏れました。

                (ギフトショーでの反応は? ②へ続く)