人的補償廃止論について
オフシーズンの目玉と言えばFA宣言選手の動向だが、毎年FAで補強している巨人の原監督が人的補償廃止について言及した。
言及した内容をまとめると、
・FA宣言は本来選手が行きたい球団に行ける喜ばしいことなのに、一方で人的補償という名のもとに、本人の意思と無関係に移籍しなければならない選手がいる
・人的補償を無くすことで、他の球団もFA選手獲得に参戦して活性化する
・人的補償撤廃が無理なら、プロテクト枠の拡大(投手20・野手20)
・人的補償に代えて金銭補償金額を増やすことも賛成
各紙に載っているコメントを抜粋すると、こういった内容だ。原監督としてはFA補強を毎年やっている巨人の監督という立場から、FA市場の活性化を望んでいると言えるだろう。この件については原監督という立場からの発言なので、他球団からすれば反発が強くなっているが、「人的補償廃止」という案自体は考慮する余地があると考える。
元々プロテクト枠の28名の基準の曖昧さや、近年の各球団のプロテクト逃れのグレーな動きなどを考えると、現状のFA補強制度に問題が無いとは言い切れず、そろそろ再考しなければならない段階と言える。
プロ野球選手会の方でもFAの人的補償撤廃は長年求めてきたことだ。選手の立場としても現役ドラフトの提案などから考えるに、選手の移籍の活性化を求めており、FA市場活性化の足枷となりそうな人的補償については撤廃したい考えがあるのは当然だろう。このように選手の立場や巨人らFA補強に積極的に参加している球団は人的補償の撤廃を望んでいる。
対して、FA補強にそこまで積極的に参加していない球団や、そのファンからするとこうした動きは戦力流出のリスクを更に高めるため、反対の声が強い。これに関しても納得できる部分は大きく、具体例を挙げれば近年のFA市場は巨人のほぼ独壇場と言えるからだ。
これは2013~2018年までにFA権を行使して国内他球団へ移籍した選手の人数を、球団ごとにそれぞれカウントした一覧だが、これを見ればFA権取得選手による恩恵を受けている球団とそうでない球団がはっきりと分かる。具体的には巨人がダントツでFA選手を獲得しており、大きな恩恵を受けていると言えるだろう。2番手が楽天でこちらもFA流出0人、獲得3人とFA権の恩恵を受けていると言えそうだ。
オリックス・阪神・ヤクルトら3番手以降からはFA権で選手を獲得しているが、同時に流出もそれなりの数になっていて、FAの利害がせめぎ合っている状態になっている。完全に流出が多いのが広島・西武・日本ハムで、こちらはFAによる損失の方が大きな球団と言えるだろう。
近年のFA市場がこういった状態であることを考えれば、仮に人的補償を撤廃して選手がFA宣言しやすくFA市場が活発化するとなると、恩恵を受ける球団はより恩恵を受け、損失を被る球団はより損失を被る形になる可能性が出てくる。FA市場だけが選手獲得の手段では無いにせよ、ここのハードルを下げることはそれだけ補強の優先度が高くなることになり、無視できない市場になってくるだろう。それでは補強の選択肢を却って縮小化しかねない。
近年リーグ優勝や日本一になっている広島や西武やソフトバンクが、このFA補強を見るとそこまで積極的に動いておらず、FA補強に頼らないチーム作りを目指して実を結んでいるとも言える。一昔前のように金払いの良い球団や補強に積極的な球団が1番になる時代から変わりつつあるのも、近年のプロ野球界の特徴と言えるだろう。無論、金払いの良い球団になること自体は選手にとってもメリットになるので悪いこととは言わないが、多種多様な球団運営を行うチームが優勝を争うことも楽しさの1つとして考えて、切磋琢磨しながら丁度良いパワーバランスで競い合えるのが良いだろう。
人的補償制度の撤廃については今後も議論していく余地はありそうだが、制度の是非のみに囚われず、球界として発展していける方向へ進めていけると良いだろう。
ややまとまりのない結論になってしまったが、個人的には今回の人的補償撤廃については現行のFA制度の在り方も含めて1つの考えるきっかけになって欲しいと思う。