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Á Ⅿotive for Ⅿurder.

「殺人の動機」
 いや、殺してはいない。現在、私は殺人未遂の容疑で代々木警察署に追われている。
 なんだかなあ。
 1881年の冬、私は初めてシャーロックホームズに出会った。ロンドンで、寒かったがよく晴れた日のことだった。ちょうどアフガニスタンでの戦争から帰ったばかりで、セントジェームズにある私のクラブに泊っていた。
 そういう話ではない。
 ある人物から盗聴を受ける事件を受けていて、その解決のために警察に電話を掛けたのだが、「だったら、盗聴されているという証拠を集めてから、また電話をしてね」と言われれて、ガシャリと電話が切られてしまった。
 千葉県警にはずいぶん相談をしたのだが、そのたびに「今忙しいから」と応対してもらえない。一度、110番通報して、「どうです、証拠を集めました」と成果を披露したのだが、「凶悪犯を追っているので忙しいんだよ!」と背の低い、若い制服警察官は怒って帰ってしまった。
 すると、盗聴犯は警察に向かって「ご苦労さん、さようならー」とPCのディスプレイに文字列を並べている。バカにするのもいい加減にしろ。
 どこにいる人物かは知っているので、代々木警察の、実名を出すが菊池さんという婦警に「Áを殺すぞ!」と怒りに任せて怒鳴ったら、私は被害者の立場から加害者の立場に変わってしまった。
「殺すぞ、は穏やかじゃないよ、ワトソン君」
「しかしホームズ、私はもう追い詰められて、自分のほうが死にそうなほどの立場なんだよ」
「それでも殺すぞ! はどんなものかねえ。それでワトソン君。その後どうなったんだい?」
「それから毎月、代々木警察から電話がかかってくるようになったんだ。私が犯行に及ばないか警戒しているらしい」
「日本の警察は、科学的捜査にかけてはかなりの実力があるものと聞いていたが、最近はどうもそう言った技術維持にも疑問点があるらしい。ワトソン君、警察からはただ毎月、そば屋の出前のように電話が来るだけなんだろうね?」
「その通りだ」
「だったら、毎月その電話に付き合っていたらどうなんだい? それとも君は本当に犯行に及ぶって言うのかい?」
「私がまさか殺人を犯すなんて、そう言った正義に反することをするって言うのかい?」
「まあ、それはその通りだ。しかし、君がアフガンへ行って戦争をしていたのも事実なんだがねえ」
「私は軍医だよ? 人を殺すのではなく、助けるために戦地へ行ったんだ」
「そう、その通りだった。僕も判断を誤ることがあるんだね。それでどうしたいって言うんだね?」
「まず第一に、盗聴を止めることと、第二に、警察からの電話を止めることだ。このままではストレスで本当に死んでしまいそうだ」
「まあ、確かにその通りだ。警察は犯罪などやらないと言っても、そうは簡単に信用はしないからね。その菊池という婦警には連絡は取ったのかい?」
「もちろん取ったさ。問題は解決した。あとはなにもないと言っておいた」
「それはいい解決じゃないよ。警察は信じるどころか、ますます疑うじゃないか。君が私刑という選択を選んだと判断するさ」
「じゃあ、どうすればいいんだい?」
「もう少し、詳しく内情を説明したほうがいいんじゃないかね。なぜ盗聴されているのかが、まずよく分からない問題だ。そこについては警察のほうは捜査しているのかね」
「それが、全く捜査していないらしいんだ」
「そこなんだがねえ。警察もポイントの当て方を完全に誤っている。いったい何が問題なのか、目先のアクションに目を奪われて、本質を見失っているとしか言いようがない。はっきり言って警察の失態なんだがね」
 ホームズは紙巻き煙草に手を伸ばし、ソファから立ち上がった。
「どうやら事件のようだね。ワトソン君。君も午後の患者がいないのだったら捜査の協力をしたまえ。まずは代々木警察に出向くとしよう。ハドソンさんには今夜の食事は必要ないと言っときたまえ。東京へ出る時はずいぶんといろいろなレストランがあるからね。こういうものが僕には最近の楽しみでもあるんだ。魚の料理などがどうかな。では時間がない。急ぐとしよう」

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