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「なりたいわたし」

洋服を選ぶあいだに、あれこれ考える。
こういうスタイルがいいな、と思い描いたものをよくイラストにしていた。
実際の自分はそういう体格じゃないんだけど――でも、こんな服をこういうふうに着られたらいいな、と思うものを簡単に。
そこから、急に想像が広がって、ちいさな小説などを書き始めたこともあった。

「なりたいわたし」

そういうの、あるよね。

「なりたいわたし」

いま、ここにいる自分をバージョンアップさせていくのも一つ。
でも、ここではないどこかに存在させるのも一つ。


小説を書くのが楽しかったのは、別の「わたし」がそこにいるからかも。
自分で違う人生を描ける。描き出せる楽しみがあるんだろう。
わたしであって、わたしでない。
誰かに代わりに生きてもらっている世界。
代わりに見てもらい、話してもらい、傷ついたり喜んだりしてもらう、もうひとつの世界なんだ。

演劇部が楽しかったのも、「何者かになれる」からだろうね。
必ずしも「なりたい」ものばかりじゃないだろうけど、でも、ふつうなら一つしかない人生を、お芝居の中ではいくつも生きられる。
――そんな感じのこと、どこかで出てこなかったか?
「ガラスの仮面」?
いや、もっとも、役者さんならだれもがそう思うようなものかも?

「なりたいわたし」

どこかで自分はよくばりにそれを思い描いている。
洋服を選びながら。

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