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雨の日に

突然降ってくる雨の音に、心が落ち着かなくなる。

パタパタパタパタパタ……

こきざみにとぎれない足音みたいな降り方をする雨は、
ちょっと苦手みたいだと気づいた。

雨は好きなのに。
雨がアスファルトにつくる波紋には、
心をなだめてもらえるくらいなのに。
なぜか、「音」によっては、ときどき心を乱される。

空から落ちてくる水――上から下へ。
ただそれだけ。
ただそれだけのことなんだけど、上から下へ落ちてくるその水が、
鳴りやまない音を立てるときは、地上のすみずみにいきわたるのだと、
妙に実感する。

パタパタパタパタパタ…………

屋根にあたる音。

じっと膝を抱えて、上がるのを待ちたくなるのは、なぜなんだろう。

明けない夜はない、というのと同じ気持ちになる。
「やまない雨はない」。

朝になれば、上がる。
音がやむ。
それを待つ自分の姿を、客観的に思い浮かべてしまう。

パタパタパタパタパタパタ……

パタパタパタパタパタパタパタ……

パタパタパタパタパタパタパタパタ……


日が過ぎて、きょうの雨は霧吹き雨だった。
実体はよく見えないのに、いつしかしっとりさせられる。
窓の内側で見ているより、表で感じたい種類の雨だ。

細かい粒が、葉っぱや花びら、枝に集まって、
すこしの時間をかけて、しずくになる。

曇天の下、あざやかに咲くバラを見つけた。
そのしずくをたたえたバラを。

雨の音は、しない――。
朝早いガーデンの中、わたしが湿った歩道を踏みしめる足音だけが、かすかに聞こえる。

雨の日に。
雨の日に、雨を想ったひとときだった。
バラの前で。


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