偽りの天使

貴方様との出会い。

天使が降りてきた。


僕の頭が可笑しくなったと思われそうな、アニメや漫画でしか有り得ない状況が、今まさに僕の目の前で起きている。


「初めまして、私夢宙ハマルと申します。」
「おひつじ座α星 ハマルという星で生まれ、アレス様の命により神のお声を届けるべく地球に派遣されました、神の使いです!」


背中に生えた翼。頭には羊の角。
何処からどう見ても、人間では有り得ない造形をした一人の女性が、天から降りてきたのだ。

何故か、僕の目の前で。


「偶然降りてきた場所で人間さんにお会い出来るなんて!きっとこれも神のお導きなのですね。」

「いや、いやいやいや!何、夢……?」

「神と謁見出来るのは夢の中だけとはよく言いますが、私は違います。よって夢ではありません!」


突然の事態に気が動転しているものの、恐る恐る頬を抓ってみた。我ながらなんて古典的な手法なのだろうと思うけれど、しっかり痛覚を感じる。

夢では、ない。


「それより、ここは地球の何という場所なのでしょうか。初めて降りてきたので、あまり良く分かっていませんが……」

「あー、えーと……日本っていう国。国って分かる?」

「えぇ、分かりますとも!ふむふむ……ここは日本という国なのですね。ギリシャとはどのくらい離れていますか?」

「ええっと……何、ギリシャは分かる訳?」

「勿論!私の生まれた星のある牡羊座は、ギリシャ神話で有名な金羊毛の羊が元となっておりますから!」

「そ、そうなんだ……だいたいここの真裏、かな。地球の真裏が、だいたいギリシャのある辺り。」

「ふむぅ……つまりギリシャで伝えられていた神話はあまりここでは伝わってなさそうですね?」

「学問として勉強する人もいるし、伝わってない事はないと思うけど……」

「そうでしたか!遠く離れた国にも、私達は広まっているのですね!」


当たり障りなく話しているけれど、この天使(?)は何故日本語を話せているんだ……?


「そうだ!私、色んな方に神のお声を届けなくちゃならないんですけど……手始めに貴方様から、お伝えさせて頂いてもよろしいでしょうか。」

「神のお声って?」

「福音とか預言とか、色んな呼ばれ方はしますけど、私は人間さんにおける人生へのアドバイスみたいな物だと思っています!」

「いや、別にそういう怪しいの要らないんだけど。」

「怪しくなんてありません!ちゃんと貴方様を見て、お星様を通じて神のお声を聞いて、それを伝えるだけです。」

「そこが怪し過ぎるんだよな……」

「私は神の使いです。貴方様の様な人間さんをお守りし、アドバイスを告げる以外に、他に何が出来ると言うのでしょう。」


そう言って目の前の天使は、僕の喉仏に指を添わせる。
突然の事に身体を硬直させてしまう。


「あぁ……貴方様のお声、全て私の守護下に置いてしまいたい程愛おしいです。」
「未来永劫、貴方様の命が潰える時まで、お守りすると誓います。ですから、私の告げる言葉に耳を傾けてください。」


天使は、目尻を下げ、微笑みながら。
僕の喉元へと口吻を落とした。

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