驕主悉縲∝商蛯キ

過去、古傷

地球に降り立ってから歌に触れる機会が多くなり、同じ仲間として鯨、白虎、狐の子たちと一緒にいる事で、自分も歌を人間さんに届けてみようかな、と思えるようになりました。

お歌歌うの楽しいな、と思うのと同時に、
中等部の頃のお友達を少し思い出しました。


その子はとても歌が上手で、音楽が好きで、私以上に美的センスの高い子でした。
小さい頃から一緒に歌を歌ったり、神前で披露する舞の練習をしたりしたものでした。

ある冬の日、湖畔で歌を歌っていた時の事でした。
そのお友達は私がそれとなく口ずさんでいたお歌を知っていたようで、


「ねぇ、半音キーがずれてるよ?」


と、教えてくれました。

人前で歌うのなんて授業の合唱くらいでしかした事がありませんでしたから、自分が正確な音を拾えているかなんてあまりよく分かっていませんでした。
その子はあまりピンと来ていない様子の私を見て、手本を歌ってくれました。

その子は、歌手を目指していました。
湖畔で奏でられた歌声が、水面を震わせ、木々の間を抜け、遠い遠い宙へ届けられそうな程、高らかに響き渡りました。

人の心を掴む、素晴らしい歌声だと率直に思いました。
歌声に魅了された私は、すっかり同い年のお友達に怖気付いてしまいました。

こんな子の前で、私の拙い歌を聞かせてしまった事。
耳の肥えた人間にとって、私の声は不協和音になってしまう事。
そんな私が、この歌姫の原石であるお友達の傍で、一緒にいて良いのだろうか。


「そ、そっかあ……!ごめんね、ありがとう。私そろそろ帰らなくちゃ」


気がつけば、当たり障りの無い空虚な言葉でお友達だったその子に謝罪をして、走り出していました。

私は、出来損ないだ。
人前で何かを披露するのなんて、私には向いていない。

初めて、挫折という物を味わいました。
それ以降、私は音楽に触れることを辞めました。


それでも尚、この地球で音楽に触れ、皆様に声をお届けしているのは、多種多様な音楽を聴く沢山の機会に恵まれている事と、私の声を好きだと言ってくれる方がいるから。

私が歌って、それを褒めてくださる星友達が、黄道での旅の途中でいた事を思い出します。
まだまだ未熟で、力不足で、凡人の域を出ない落ちこぼれの神の子でも、好いてくれる人のために、私は声を届けましょう。


私の声は、あのお友達の元まで、届くのでしょうか。

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