【必要な力】 危険を避けるのではなく,危険を見極める力を養いましょう。
※全文を公開している「投げ銭」スタイルのnoteです。
危険なこと、危ないことがないように、遊具が撤去されたり、「○○禁止!!」などということが増えたなあと思っています。私の実家の近くにある近所の公園でも、ブランコがポールだけになっていたりと、「時代だなあ」と感じます。
「時代だなあ」で終わらせるのでは無く,この現状を立ち止まってみて考えてみましょう。という事が今回のメッセージです。
今回は、危険なことは全て避けさせるべきという教育ではなく、危険なことを通して「子どもが危険を見きわめる力をつけよう」という提案をしている『子どもが体験するべき50の危険なこと』という本を紹介します。
概要とオススメする理由
この本のタイトルからは「悪ガキ育成セミナーかな?」とか思った人がいると思いますが、そうではありません。
危険なことをやらせないのではなく、危険なことを最大限の注意をはらってやってみることで、安全管理や危機感覚を養おう
ということがこの本のテーマです。
私の実体験ですが、小学校の教員の頃に、木に登っている子どもがいました。もちろん危ないので、安全に気をつけながら、すぐに下ろしました。
安全を管理する身として、間違いではありませんが、もし自分の娘が木に登っているのを見たときには下ろさせないで見守りたいです。
できることとしたら、「細い枝に行くと折れてしまうよ」や「上まで行きすぎると怖くて動けなくなるかもよ」などを指摘しつつ、木登りを楽しんでほしいと思っています。
子どもの将来を考えたときには絶対後者の方が自立した大人になると思います。
ちなみに、危険なことの50項目のなかに、「28 木登りしよう」があります。是非参考にしてください。
また、この本の著者のゲイバーさんはTEDにも出演しており、この本と同じテーマを話しています。まずは下のTEDの動画を見て、共感できるかどうかを判断するといいと思います。(日本語字幕も選択できます)
この本の目的について
この本のタイトルからは危険なことをやろうという悪魔のささやきのような感じがしますが、決してそういう本ではありません。
「はじめに」の章で子ども達に向けて以下のように語っています。
安全を守るいちばんいい方法は、危険を見きわめる力をつけることだと私は信じています。だからこの本を書きました。個々に書いてある実験や工作を行うことで、本当に危ないものか、注意してあつかえば大丈夫なものかを、正しく見きわめる力を身に付けてください。
それでは安全第一で、そして楽しくね。
【はじめにー子どもたちへ p.Ⅸ】
このように、危険なこと無謀なことに挑戦しなさいと言っているのではなく、危険とされていることをしっかりと準備をして行うことで、危険かどうかを見極めていく力をつけてほしいといっています。
これが、本当の安全教育だと私は思います。
このような経験も無く、あれもダメこれもダメと育った子どもがいたとしましょう。もし自立して、そのダメなことの制限が無くなったときに、盲目的にその危険なことに取り組み、取り返しの付かないことになるのでは?と思っています。
これは、心理学でも言われています。例えば『影響力の武器』という本では、十代の恋愛で、両親に反対されればされるほどその恋愛に対して肯定的な反応を示したりするとされています。制限は積もり積もって莫大な逆の力となります。
一方で、危険ではあるけれども注意しながら行った経験があれば、同じような経験があるときにはどれほど危険なのか、どうすれば安全に行えるのかがしっかり理解しています。
そうすれば、よほどのことが無い限り大きな事故はないでしょう。
よほどのことというのは、その経験が過信につながってしまうことがないように見ていかなければいけません。
そうはいっても、危険なことを学教教育でやるのは難しい思っています。
もし、危険だとわかっていてやらせるのは、万人の賛同を得ることは無いでしょう。
あるいは、危険だとわかっていなくてやらせるのであれば信用問題に関わります。
危険だとわかっているんだけれどもやらせたくて黙っているのであれば、それはゲイバーさんが言っている「危険を見きわめる力」というものを育てることでなく、無謀なことに挑戦する危険な子どもを育てることになりかねません。
このことから、危険を見きわめる力を付けるためには、親などの危険なことに対しての責任を負える人が力になってあげる必要があります。そして、危険なことに対して責任を負ってくれる人がいることがどんなに心強いかと思います。
構成について(例:「36 友だちに毒を食べさせよう」)
この本は、取扱説明書みたいなデザインで50項目を紹介しています。なので、見ているだけでワクワクします。実際見てもらった方が魅力が伝わると思います。
例えば以下のようなものです。
36 友だちに毒を食べさせよう
危険なことの36番目は「友だちに毒を食べさせよう」というギョッとするタイトルです。もちろん毒では無く、塩の入ったおいしくないクッキーを食べさせるという内容です。
構成としてはまず、「イメージのイラスト」と「タイトル」と「サブタイトル」があります。
そしてその下にはこの危険なことの概要が書かれています。
左は「観点(挑戦・経験・技術・工作)」の分類、真ん中は「時間と難易度」、右は「これによって生じるかもしれない弊害」が書いています。
観点は経験、時間は2時間、難しさは中程度なので50項目の中では難しいとされています。
そして、右の「生じるかもしれない弊害」がよく考えているなあと思いました。この危険なことでは「やけど」「気持ち悪くなる」「きらわれる」という3点です。「きらわれる」という弊害の可能性まで考えつつ、慎重に行動するということが求められます。
次は2ページ以降です。
2ページ目以降には、やるために「必要なもの」「警告」「やってみよう」「もっとくわしく」「記録」があります。
「警告」が最初に書いてあることや、「もっとくわしく」ということがあるのが、一般的な理科などの実験テキストとは違うところかなと思います。「やってみよう」の備考として、下のようなことが書いてあります。
(一回食べさせた相手にもう一度食べさせることに関して)
友だちが引っかかるたびに、友だちは、あなたへの信頼を少しずつ失っていくので注意しよう。信頼を取り戻すためには、食べさせた塩クッキーの何倍もの数の、すごくおいしいクッキーが必要です。
塩クッキーを自分で食べてみる勇気はありますか?
p.108
食べさせて終わりにするのでは無く、失った信頼を取り戻すということがいかに大変なことか。
そして、自分で食べるという勇気がないのに、友だちに食べさせることはやめな、と暗に示しているところが興味深い点です。相手をだますとか相手が嫌なことをすることというのは、それほど相手を傷つけるということ、その責任をあなたは負えますか?ということをメッセージとして伝えています。
「もっとくわしく」では、詐欺の歴史について少し紹介しています。袋の中のネコというのは知りませんでしたが、格言になるほど横行していたのですね。
最後にメモ欄がすべての項目にあります。自分でやってみてそれをしっかりとまとめることが経験知となりますね。
そして、巻末には「なぜ」のページがあります。これはゲイバーさんの考える、これをやることの教育的な価値についてまとめています。例えば、「36 友だちに毒を食べさせよう」ではこんなことが書いてあります。
イタズラを仕掛けても大丈夫そうな友だちを選ぶことは、友だちとは何かを考える良い機会になります。また、ひとたび信用を失うと、それを取り戻すためにどれだけの誠意と、思いやりと、忍耐が必要であるかを学びます。
p.158
以上が、1つの項目に対する本の構成です。
ここまで見てきたように、「友だちを失う」ということの危険については一行も書いていません。友だちとは何か、信用とは何か、信用を回復させるにはどうすれば良いのか、ということを考えるキッカケとしてこの危険なことがあります。決して友だちを失ってみようということを推奨しているのではありません。
このように、やる前には、タイトルとやり方だけ見てやってみるのではなく、やる項目の部分をよく熟読して危険性をよく把握して行う必要があると思います。
「36 友だちに毒を食べさせよう」は軽はずみで行うことは絶対ダメです。ですが、子どものうちに人間関係についてよく考えるキッカケとしてオススメだと思います。
まとめると、1つの危険なことの構成は以下のようになっています。
イメージイラスト
4つの観点(挑戦・経験・技術・工作)のどれに該当するか
時間と難易度
この危険なことによって生じるかもしれない弊害
必要なもの
警告
やってみよう
もっとくわしく
記録
このように「やってみよう」の前段階として6つの前提があります。ここからも、無謀なことに挑戦する危険な子どもを育てるのではなく、危険を見きわめる力をつけるための本であるということがわかります。
気になる「危険なこと」を紹介
「36 友だちに毒を食べさせよう」の他にも面白いなあと思ったものを少し紹介します。
21 目かくしで1時間過ごそう
視界を無くした状態で1時間過ごすというシンプルなものです。そして、目かくしでやってみたい5つのことというものを紹介しています。
なにかを食べてみる
トイレに入ってみる
外を歩いてみる
ボールをキャッチしてみる
自分のまわりの地図をかいている
もっとほかに、なにが思いつくかな?
たぶんこの本を読まなければやらないだろうなあと思います。1時間というところがミソでしょう。
この危険なことについて「なぜ」のページでは、
目が見えない生活を体験します。私たちは目が見えるのが当たり前と思っていますが、視覚を失ってはじめて、そのありがたみがわかります。同時に、目の見えない人の日常生活がどれほど大変なものかが実感できます。
p.156
と書いてあります。制限されることで、そのことについて考えることができますね。
読んでワクワクしましたが、私はまだやっていません。ちなみに、裏表紙に【対象年齢:9才から99才まで】と書いているので、私がやっても大丈夫なようです。やったときには、追記しますね。
36 友だちに毒を食べさせよう
これは上で紹介したので省略します。
今は残念ながら、近しい人でこれをやって関係を修復できる人が私にはいません。小学生とかのときに、この本に出会っておいたらなあと思います。子どもなら許してもらえたかなと。
46 指を瞬間接着剤でくっつけよう
利き手の人差し指と親指をくっつけるというものです。
指がくっついている間に、親指と人差し指が使えない状態で普段の作業ができるよう、あなたの脳は手の使い方を切り替えます。その切り替えるという人間の柔軟性を実感するためにこの実験は効果的でしょう。
と書いてあります。とても気になりますので、これもやってみて追記します。
50個目はこれです。
50 なにかしよう
こういうところが面白いなあと思いました。私だったらなにするかなあ。クラゲに触ってみようとか?笑
まとめ:危険を見きわめる力をつけるために、この本で調査から考察までやってみよう。
安全教育は親が責任を負わないと絶対できないものです。広い心で自立のために取り組んでいきましょう。
ここから先は
¥ 100
2021年3月から長泉町にある個別指導の学習塾「濱塾」を経営している高濱と申します。教育に関する情報を発信していきます。