インバウンド商談を加速する「日程調整」と「Web接客」|セールステックアドベント2024
株式会社immedio 代表の浜田です。株式会社マツリカ 中谷さんの著書「SalesTech大全」出版に寄せて、セールステックアドベント2024に寄稿させて頂きます。
同書で取り上げられた各カテゴリを解説する本企画ですが、私は「日程調整」と「Web接客」を取り上げたいと思います。
前提となる市場の変化(インバウンド商談の復権)
日本ではまだ黎明期と言えるこのカテゴリですが、グローバルではCalendlyやDriftといったユニコーンも生まれ、勢いのある領域です。日本に先行してグローバルでこの領域が伸びている背景から考察します。
実はアウトバウンド中心だったグローバルのB2B営業
日本ではB2B営業の教科書と言えば福田康隆さんの「The Model」ですが、海外だとそれに相当するのがAaron Rossの"Predictable Revenue"(日本語著名「セールスフォース式 売れる組織に変える9の方法」です。
SalesforceでBDR組織を立ち上げた著者がこの本で解説しているのは、簡単に言うとEメールも織り交ぜた効率的なアウトバウンド営業の方法です。
効率が良くなさそうなアウトバウンド営業がなぜアメリカで盛んなのか。背景としては、①アウトバウンドであればターゲット企業のみにアプローチできる、②アメリカではターゲット企業の担当者のメールアドレスや電話番号をデータベンダーから購入できる、といったものがあります。
効率化しすぎたアウトバウンドの低迷と、インバウンドの復権
このアウトバウンド営業を更に効率化するために生まれたのが、OutreachやSales Loftといったセールスエンゲージメントツールです。架電やEメールを半自動化するツールで、インサイドセールスの1日の行動量は大幅に向上しました。上記の2社ともユニコーンになっており、アメリカのインサイドセールスの間では標準的なツールです。
インサイドセールスの行動量が増えた結果何が起きたのか。実は、インサイドセールスがお客さんと話せる機会は逆に減ったと言われています。営業を受けるCIOやCOOの立場からすると、知らない人からのメールや知らない番号からの電話が加速度的に増え、それらに対応している暇は無いというのが現状です。
この結果として、全く興味がない人にアウトバウンドするのではなく、少しでも興味を持ってウェブサイトに訪問してくれる人をとりきろうというインバウンド商談強化の動きがアメリカでも強まっています。
インバウンド商談を支える商談獲得自動化ツール
インバウンド商談の取りこぼしをいかに防ぐか
アウトバウンドが厳しいのでインバウンド商談を増やそうとしても、一朝一夕でWebサイト訪問者やリード数は増えません。そこでいかにインバウンドリードからの商談化率を上げ、取りこぼしを防ぐかが論点になります。その点で業界に衝撃を与えたのが、Zoominfo CEO Henry Schuckのブログです。
同氏は、Zoominfoが月10,000件のインバウンドリード全てを90秒以内で対応し、そこから6,500件の商談を獲得していると述べました。確かに統計を見るとインバウンドリードに対して折り返した際の通電率は90秒を超えると急速に落ちていき、1回で接続できなかったリードの商談化率は低くなる傾向があるので、Zoominfoの対応は合理的です。
しかしほとんどの企業において、全リードに90秒で対応するリソースやIT基盤は準備できません。そこで活用されるようになったのが、インバウンドリードに対して自動で商談を獲得しに行く日程調整やWeb接客のツールです。
見込み客との最適な商談を設定する「日程調整」ツール
日程調整ツールの雄といえばCalendlyです。前回調達の評価額は30億ドルを超え、日程調整ツールとしては世界で最もユーザーが多いはずです。しかしB2Bのインサイドセールス、特にインバウンド商談獲得の場面においてCalendlyを使っている企業は必ずしも多くありません。
それはなぜか。簡単に言うと、日程調整ツールだけだと質の悪い商談が量産される可能性があるからです。問合せ後のThanksメールに日程調整ツールのリンクを貼り付ければ、アポは簡単に取れますが、その中の一定割合は非ターゲット顧客になります。茂野さんの「インサイドセールス」に記された4つのカテゴリのうちC商談(パスしたらダメ)が増えてしまうということです。
この問題を解決するために登場したのが、Chili Piperなどの進化版日程調整ツールです。Chili Piperは問合せフォームの入力内容を同期し、CVしたリードがターゲット顧客であると判定された場合にのみ日程調整のカレンダーを表示するという機能を備えており、上述のC商談問題を解決しています。
コンバージョン前の訪問者から商談を獲得する「Web接客」ツール
インバウンドリードから商談の商談取りこぼしを解決できると、次に解決したくなるのがWeb訪問からの商談取りこぼしです。Webサイトには頻繁に来てくれているが、問合せや資料請求まではしてくれない。そんな見込み客と動やったら話せるのか。それを解決しているのがDriftやQualifiedといったWeb接客ツールです。
いわゆるチャットボットの一種ではあるのですが、グローバルのWeb接客ツールは①CookieやIPアドレスから顧客を判定して適切なアクションが打てる、②そのまま通話やビデオ通話が可能、③カレンダーとリンクして日程調整まで可能、など高度な機能を備えているのが特徴です。ちなみにこの分野で最大手だったDriftはセールスエンゲージメントのSales Loftと合併し、インバウンドもアウトバウンドもカバーできるツールに進化しています。
インバウンド商談の課題がより大きい日本市場
インバウンド商談の取りこぼし防止が重要なのは、グローバルでも日本でも変わりません。むしろ、日本の方がこの課題や伸びしろは大きいのでは、と考えています。
統計では、日本のインバウンド商談化率はグローバルより低くなっています。背景としては色々考えられるのですが、①資料ダウンロードのような潜在層向けのコンバージョンポイントが多い、②営業組織がインバウンド対応に最適化されていない、などが大きいかと考えています。
当社が提供するimmedioは日本版Chili Piperとも呼べるインバウンド商談SaaSで、ウェブフォームと連動しながらターゲット顧客との商談だけを自動で獲得できるツールです。2022年9月のリリース以降導入企業は100社を超え、Sansan、MoneyForward、freeeといったリーダー企業に活用いただいています。
今後に注目しているカテゴリ(AIの活用)
他の業界同様、セールステック最大の論点はどこにAIを活用すべきかだと考えています。インバウンド商談を増加させるうえで注目したいのは、AIがインサイドセールスをまるっと代行するAI SDRの分野です。直近では11xという企業が$24mnの調達を発表しました。
SalesforceもEinstein SDR Agentという機能を出しており、メールや電話といった行為のAIによる代替がどこまで進むかが論点になります。その際の懸念点として考えられるのが、冒頭に述べたメールや電話の乱発によって更にアウトバウンドの成果が下がるという悪循環です。筆者自身としては、この観点からインバウンド商談の重要性は変わらない、または更に上がっていくと考えています。
最後に、筆者が出演しているPIVOTでインバウンド商談の重要性や海外との比較について語っていますので、宜しければぜひご覧下さい!