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異臭烈像 放屁にまつわるヘトセトラ
※今回のお題は『屁』です。
その手の話が苦手な方、お食事前後の方はおやめなせぇ。
転職当時のことを。つらつらと思い返しているうちに。
ふと。面接の想定質問を調べてその答えを一生懸命考えてたことがあったのを思い出したのは。ワタクシたらうた。
答えに窮する質問は山ほどあれど。
「習慣にしていることはありますか?」これも結構頭悩ませた質問で。
面接は大喜利力。何を振られても。
「だから、私を雇った方がいいですよ。是非私をお雇いなさい」に。繋げられれば良いのだが。
その当時のワタクシたらうた。日々の習慣はあれど。面接に有利な習慣はなく。
その中でも。最も面接に向かない、もとい。誰にも言わない方がいい習慣が。
『放屁は屋外で』
最初は。広い空間で放つ方が濃度が薄くなる=臭わないに違いないと考えただけだったが。いざ。実行してみると、これが。
実に利に適っており。鼻に臭いが届かないだけではなく。
屋外は静かなようで。実にいろいろの音がしている。
車の排気音。
子供たちのはしゃぐ声。
小鳥のさえずり。
ビルの間を駆け抜ける風。
木々の梢をざんざんと。激しく揺らす突風。
川のせせらぎ。
大海原のうねり。
ちっぽけな人間一匹、ワタクシたらうた。
渾身の爆音で。こいたところで偉大な大自然の手前、誰も気付く者はない。
ちっぽけなワタクシの、ちっぽけな屁。大自然の雄大さに比べてあまりにも無力な、ワタクシの屁。
無力なワタクシを屁ごと許容してくれる、優しい地球。温かい地球。みんなの地球。
そんなわけで、ワタクシは。母なる大自然に屁をお返しするつもりで。大空の下、解き放つのである。
だがしかし。
ワタクシたらうらなどは。所詮。日本の、しかも限られた居住地の付近でしかこいていない、云わば町内会規模の屁こきだ。
もっと規模のでかい話をしよう。
大海原を渡り、遙か米国。かの地でぶっ放した。規模のでかい男の話を。
彼の名前は『鼻汗』。
どこか悪いのかと思うくらい。いつも鼻のてっぺんに汗を書いていることから、その名がついた。
鼻汗は真面目な男だ。
彼は22歳の頃から一人の女性とお付き合いし、26歳で結婚。
公務員として。一生懸命に勤めていたが。何せ年若い。実入りは少なく。
お嫁さんには。苦労もかけよう、贅沢もさせてはあげられまい。
そう思った鼻汗。せめても。と。
新婚旅行は。自分の貯金をはたいた。みんな大好き、あの島へ。
鼻汗も、お嫁さんも。二人とも初の海外。
世の中に、こんなに澄んだ海があったのか!
こんなにも、心躍る瞬間があったのか!
おぉ花よ、何故に貴殿は美しいのか!?
旅先では空気だけでも。余程美味しいものだが。楽しい瞬間は食もはかどる。
分厚いステーキ。色とりどりのフルーツ。いつもならとても手の出ない高級酒も。今夜だけは飲んでしまおう。
楽しい時間ほどあっと言う間なのは。世の常。
そして本日最終日。今日はお嫁さんと共に某高級ブランドの路面店に行き。欲しがっていたバッグを買ってあげるつもり。
そんな時に。悲劇は襲った。
折からの暴飲・暴食。海に入って冷やしたことも原因か。
ついに。鼻汗の腹が壊れたのだ。キリキリとした腸の痛みと、時折絞り上げるような胃の激痛。
いつもの鼻汗に加え脂汗までかいている旦那を見て。これは尋常ではないと。心配するお嫁さんを引き連れ。
急ぎ某ブランド店に向かった鼻汗。
本日最終日。いつ収まるかわからない腹痛。黙って寝ているわけにもいくまい。
幸いにして。持参した薬を服用したところ。痛みは鈍くなり。
決して本調子ではないが、店に着いた頃には。お嫁さんのお買い物に付き合うくらいの余裕はできた、鼻汗。
お嫁さんの嬉しそうな顔を見て、鼻汗は。本当に嬉しかったそうな。
格式高い店内。スタッフの洗練された所作。そのスタッフたちはマネキンと見紛うばかりの美形揃い。
初めての海外、初めての超高級店。少しソワソワしながらも。
カタコトの英語で。マネキンモドキ店員に購入の意思を伝える。支払いはカード。
あぁ、カード一つ受け取るにも。高級店は流石だな、仕事を頑張っていたらいつの日か再びこの店を訪れることもあるのだろうか、と。
余計な感慨が頭をよぎる。
この油断がいけなかった。
「あっ!」と思った時にはすでに遅し。
覆水、盆にかへらず。屁、尻にかへらず。
「音が出なくて良かった」
「気体で良かった」など。
安心したのもつかの間。
ここは海外。日本の常識は通用しない。日本人店員ならば屁の如きでは眉一つ動かさないが。
海外の人はリアクションがでかいのか?想像を絶する臭いだったのか?
マネキンモドキ店員。「オンマイガッ」と小さく叫んで。
鼻汗のカードを預かったまま。マッハのスピードでその場を離れた。
自らが屁をこいたことを忘れ、鼻汗。
カードを持った瞬間にいきなり離れたマネキンモドキを見て。「盗られる!」と。思った、らしい。
「嗚呼!待ってくれ!!!」と叫び。
世界的ブランドの路面店。超絶ラグジュアリー&ファビュラス空間にて。突如。始めてしまった放屁からの、追い掛けっこ。
のちに我に返り。大切な、新婚旅行の。サプライズプレゼントの記念すべき日を。自らぶち壊してしまったことを悟った鼻汗。
あまりの恥ずかしさ、情けなさにうつむくいたが。
そんな鼻汗の顔を。覗き込んだのはお嫁さん。
怒っているでも。白けているでもなく。好奇心に満ち満ちた目で。目が合った鼻汗に嬉々としてこう告げた。
「海外の人って、ほんとに『オーマイゴット』っていうんだねーーーー!すごーい!!」
お嫁さんの嬉しそうな顔を見て、鼻汗は。本当に嬉しかったそうな。
失態を犯した自分を責めるでもなく、叱るでもなく。
カラっと。切り替えてくれたお嫁さんの優しさ・度量が。
鼻汗は。本当に嬉しかった。この人と結婚できて。自分はなんて幸せなんだろう!と。