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目眩う・目眩えば・目眩うとき

同世代の最初の老化報告は27歳のとき。

「俺、M字に禿げてきた」という友人からの電話だった。

それから早15年、身の回りで様々な老化話を耳にするようになり、年を重ねる毎にその頻度は増すばかり。

・最近枕が臭うようになった
・腹回りに若いころにはなかった未知の肉がついた
・子供と縄跳びをしたら尿漏れする
・原因不明の頭痛と耳鳴りがする

などなど。本当に老化なのか?なんでも老化のせいになるお年頃なのか?

もちろん。ワタクシ自身も例外ではなく。近年では目眩を訴えてはやいのやいの言われているのだが。

老化を認めたくないというのもややあるが。ワタクシはこの目眩は加齢のせいではないのでは?、と疑惑の目を向ける。

なぜならこの目眩には始まった明さ確なタイミングが存在しているから。

忘れもしない。そう、2023年7月の事である。


 ワタクシたらうたはその日は休日で暇だったので。偶然休日が被った妹・さぶらうたと共に昼間から酒を飲んでいた。

TVでは大相撲中継が流れている。

一口に「力士」と言っても。太っている人ばかりではない。筋骨隆々とした人や小柄な人。本当に力士なのか?、疑いたくなるやせ型まで。

それらの人々が土俵上で死闘を繰り広げているのを。わしら姉妹はビールを飲みながらぼんやりと眺めていた。

「やはしさー、相撲は体格でかい方が有利なんかねー?」

「んー。。。小柄でそのかわりスピード早いのが強みって場合もあるでしょー?」

「どういうスタイルで闘うかは本人が決めるん?親方に『お前は角界のスピードスターを目指すんだ』とか決められんの?」

「自分判定と親方判定が正反対になるってことはないべ?身長2メートル・体重180㎏だったらオートでパワー系になるべよ?」

「その体躯でめちゃめちゃスピードに自信があるぜって場合どうすんね?」

話したところで。力士でも親方でもないわしら。わかる筈もないのだが。

とりとめもなく話は続く。そろそろ缶を捨てに立ち上がるのすら億劫だから。テーブル上が空き缶の密集地帯化してきている。

ふと目を転じると。背を丸め、首を前に突き出して。さぶらうたの姿勢が崩れている。

さぶらうたが。あの『クッパ』みたいな姿勢になったら。だいぶ酔いが回っている証拠だ。

呑んだくれの相撲トークはとどまるところを知らない。そのうち「自分が力士になるなら四股名をどうするか?」という。四十路姉妹にはこの上なく無意味なトークに。

「やはし四股名は地元を匂わせるものよな?わしら北海道を匂わせせなならんよな」

「『北』つく力士多いよな?『千代』はあれは北海道関係あるんか?」

「『千代』は千代の富士の部屋ってことで北海道出身関係ないんでね?しかし四股名である以上、何より強そうでなければの?」

「そしたらわし、『熊荒』にするわ。熊が札幌市街のゴミ荒らして、全国を震撼させてたからな」

「そうか、わしは『北雪舟』にしようかな。なんのことか知らんが『雪舟』って言葉が好きなんじゃ」

さぶらうたのこの発言を受けて。呑んでいたレモンサワーが逆流、恐ろしく鼻の奥がイタイ。痛みと笑いで噎せながら。

「おい!『雪舟』は水墨画書いてた僧侶のじいさんじゃい!強さ無関係じゃ!」

笑って応じると思ったのだが。さぶらうた、むすっとふくれて応えない。これはめんどくさいことになりそうじゃ、サラッと流そう。

「ま、ひねんなや。どの道、四股名はわしらに必要ないんだし。」

「…相撲、実際に取ることはない、と?」

「ないだろ。いつ、どこでそんな機会が訪れると?」

「…」

「…」

「…とろう?」

「…ん?」

「今、ここで取ろうじゃないか!」

「…お前は、何を言っている?」

「船越は言っていた。『取る男か
?取らない男か?』」

「どちらかというと『取る男』でありたいな?」

「いつ取るの?」

「…今でしょ!!!」

そういうことになった。


そして。テーブルに右耳を強打した、ワタクシたらうた。翌朝には立ち上がれないひどい回転性目眩に襲われ病院に駆け込む羽目になった次第。もちろん。耳鼻科では「相撲を取った」事実は告げなかったが、今は一応目眩の症状はおさまっていますよ。

みなさん、『取る』際には耳をぶつけるものがないか、くれぐれもお気をつけあれ!





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