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「里山はこれからの未来の最前線。環境人文学から捉え直す自然と人との関わり方」2024.8.21 持ち寄り勉強会@はまぐり堂 その⑥
2024年8月21日(水)
はまぐり堂にて開催した、
第3回目の持ち寄り勉強会の模様、最終回です。
環境人文学者・千葉一先生のお話
(※内容は前回までの記事①〜⑤参照)を伺ったあとに、
みんなで持ち寄り料理をいただきながら
出てきたエピソードをご紹介します✳︎
共食の大切さ
参加者(以下:参):都市と田舎…生きるものさしや立場の違う者同士が、どうやって対話をしつづけていけばいけばいいんだろうね?
千葉先生(以下:千葉):それがなかなか、難しいよね(苦笑)。
「何(なん)さしに来た?」って顔されるときもあるしね。
参:そういう時にさ、今日の持ち寄りみたいに、「これ畑で採ってきたもんだよ、食べてみてけらいん(食べてみてね)」とか、そういうことが、いい接点かもしれないよね。
言葉で納得させる、理解させる、じゃなくてね、「ちょっとこれ味見してけらいん(味見してみてください)。畑と海から持ってきたもんだよ」っていうようにね。
千葉:そうですね。
たとえば(東日本大震災の)復興の防潮堤の建設のときにも、どんなに「(防潮堤を造ると)こんなデメリットがありますよ」って、専門家が出したデータを持っていっても、全然ダメだったんです。
なんでかっていうと、お互いに信頼関係がないから…何を言ってもダメで。
参:あ〜、受け付けないんでしょ。最初っから。
千葉:そう。どんな科学的エビデンスがあっても、真実でも、信頼関係がないと、受け付けてくれない。
「話せば分かる」っていうのはちょっと違っていて。
それ以前の問題で、「こいつは信じられる奴だな」っていう感覚をお互いに共有しないと、どんなに立派な話をしてもダメなんです。
参:そうだね、ここがやっぱり大事なことだよね。中身以前のことが。
参:やっぱり「飲みニケーション」が大切なんじゃないかな。(笑)
参:意外と食べたり飲んだりしながら話すっていうのが、すごく心が開くよね。
千葉:やっぱり「一緒に食べる」っていうことで、擬似的な家族になる、っていうかね。
それを「共食」って言うんですよね。
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なきゃないで楽しく暮らせる
参:人間がこんなに環境に影響を与えて、年寄りもクーラーなしだと熱中症で亡くなったりするくらい夏もこんなに暑くなってしまって、っていう中で、じゃあ私たちはこれから、どんな風に生きていったらいいんでしょうか。
千葉:電気がなくても、原発がなくても、石油がなくても、楽しく暮らせる習慣をつくっていくことが、大切かもしれないですよね。
もうゴミを燃やしている時点で、私たちやる気がないんですよ。
そのゴミの中身も、ほとんどが石油製品で、木質のものなんかはほとんどない。
自然では何億年もかかってリサイクルされているものを掘り出して、一気に燃やしているわけです。
この間もお話したかもしれませんが、コンクリートの元になる石灰岩自体、半分が二酸化炭素でできているわけです。
だから、コンクリートの粉を作る時点で、100キロの石灰岩を使ったら、50キロは二酸化炭素として放出される。
そしてコンクリートを作る過程で1300℃〜1800℃くらいで加熱するんですが、そのときに石油とか石炭を使うわけです。だから、コンクリート産業って想像以上に二酸化炭素を出しているんです。
参:でも先生、だからと言って昔の生活に戻れないよねぇ..。
ほったて小屋でも作って、宮沢賢治のように森と仲良くして、って…。
千葉:インドに4年くらい暮らしていたことがあるんだけれども、私は、その生活に戻ってもいいかなって思ったりします。
参:そうなんだ!
参:それはそれで、面白そう。
千葉:それはそれでね、あんまり不便と思わなかったんですよね。
だいたい、電話が寮の事務室に一台だけあったんだけど、鳴ったこともなかったね(笑)。
参:だいぶのどかに暮らしてたんだ。
千葉:のどかに暮らしてたっていうか、なきゃないで、なんとかするんだよね(笑)。
参:そうだよね。震災のときにもね、いろんなものがストップしたじゃない。
参:んだね。
参:電気はない、寒いけど暖はとれない、料理もできない…。
だけどなんとなく、それがなきゃないで暮らして…楽しい暮らしだったね。
千葉:そうなんだよね、ロウソク一本のところにみんなで寄ってね。昔話なんかしながら。
参:そうそう。電気がないから暗い中で集まって、ひそひそと会話したりね。電気がつくようになったら、なんか明るい部屋でさ、一人ひとり個室に入っちゃってさ、バラバラになってるんだよねぇ。
千葉:そう。
そして、みんなで避難所で暮らしてたときは、いろいろ不便だなんだって言ってたけど、いざ仮設住宅ができてバラバラになったら、「おらは避難所に戻りてぇ」っていう年寄りがいっぱいいたからね。
参:うんうん。そうだった。
千葉:みんなで一緒にご飯作ったり食べたりしたのが楽しかった、って。
参:やっぱり寂しいんだよね。一人だとね。
参:最初は仮設住宅で、長屋みたいな感じでね。
隣の音が聞こえてどうのとか、プライバシーがどうのとかって騒いでたんだけど、それが一人ひとり復興住宅に入ったら、家のドアが頑丈で、開けるのも重くって、いざ入ったらまた(外に)出ようっていう気にならないんだって。
だから、「おら、復興住宅に帰りたくない」って言うの。
参:みんな「仮設がいい」って言ってたよ、この辺の人たちはね。
参:だからさ、便利なのはどんどんコンクリートで重くなって頑丈になってて…でも、気分も重くなってるみたいだよ。
千葉:やっぱり、仮設住宅を出て、復興住宅に入ってからの孤独死などは、けっこうあって…。
それは、阪神大震災のときもあったんです。
でも、その教訓があるにも関わらず、(東日本の)震災でも、その傾向はありましたね。
参:やっぱり人間一人では生きられないってことだよね。
千葉:だって、寂しいと、やっぱり元気は出ないですもんね。
参:あのね、近所を散歩してくるでしょ、そうすると、寒いときなんか、外に誰もいないのね。
そんなときに、セキレイなんかの小鳥が、ちょんちょんと歩いてくるわけ。
そうすると、「もし無人島にいるとしたら、こんなふうに鳥が来ただけですごい嬉しいべなぁ」って、すごい思うよ。
そういう動くもの、生命のあるものが近くに感じられると、やっぱり嬉しいよね。
参:そうだよね。やっぱり野山があると和むし、小鳥の声を聞くのもいいし…。
だから自然とか人間とかと一緒に生きるのって大事だよね。
人間を避けて生きる人もあるかもだけどさ(笑)。
多自然っていうところも、大事だよね。
水源確保の大切さ
千葉:東日本の震災のときも、今回の能登地震もそうですけれど、水道がだめならだめで、その地域の里山の水源の重要性を、もう一回見直すことが必要ですよね。
(東北の民俗学者の)結城先生もまさに言うように、水のゆくえをたどるようなことを、腰を据えてやっていくべきで…。
震災のような非常時こそ水源が重要で、東日本のときにも、僕らは「やっぱり井戸ってあったほうがよかったよね」って思ったわけです。
飲めなくても、”使い水”として使えるだけでも、すごく助かったんですよね。
参:そうだったよね、井戸えあってすごく助かったよね。
千葉:もしあの震災が夏だったとしたら…。
井戸水で手を洗ったり、皿を洗ったりすることができなかったら、もっと大変なことになったわけです。
まだ3月の寒い時期だったからよかったですけど…。
参:そうだよね、不衛生で、病気も発生したりしただろうね…。
千葉:だから、井戸をもう一回、地図上に点で印して落とし込んで、飲み水じゃなくて使い水としてでもいいから、再生させるようなことが重要ですよね。
そこに水があるわけだから、もったいないですよね。
それでもし井戸が枯れているとか、水位が低い、となった場合には、その水源の方の改良をどうしたらいいか?っていうことも考えていく、とかね。
参:そうだよねぇ、これだけ災害も多くなってきているしね。
「雨乞い信仰」は身近なものだった!?
参:この間、かわまち交流館で「雨展」っていうのやってたの。
国土交通省や北上川下流河川事務所とかが関係した展示でね。
「荒ぶる雨」と「恵みの雨」の展示だったんだよね。とっても小さいスペースの展示だったんだけど。
雨がどういうふうに人の役に立つか、とか、災いを及ぼすこととか、いろいろ展示してあったのよ。
で、その最後の方のところに、雨乞いに使った楽器が展示してあって。
その楽器が今は、クラシックとか民族楽器とかとして残っていて使われてるんだけどね。
その楽器、私たちが小さいときにもあったと思うの。だから展示見てびっくりしたのよ。
カエルの形した木の楽器なんだけどね。カエルの背中がギザギザになってて、棒でギザギザをなぞって音を出すのよ。
千葉:あれ、それタイかどこかで買ってきたことがあるなぁ。
参:棒でギザギザをなぞると、カタカタカタッて音が鳴って…そしてそれを雨乞いに使うのね。
それで、私、思い出したのが、昔の板塀って…見たことないかなぁ…板が交互に貼ってあったでしょ?
で、それをさ、小さい頃、棒切れを持って歩きながら、カタカタカタッて鳴らして歩いてたのよ(笑)。
そうしたっけ、その家のじいさんに「こらっ!雨降ってばやめろ!(降るからやめろ!)」って怒られたのよ(笑)。
一同:えぇ〜!!雨乞いと同じなんだ!?(笑)
そこの家、雨降ってほしくなかったんだね(笑)。
参:そうなの!
だから、雨乞い信仰が、70年前ごろまで残ってたんだよ。
千葉:それはすごい話を聞いたなぁ!
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参:あとはさ、アサリも。
アサリの殻あるでしょ?それをこすって鳴らすと、「雨降っからやめろ!」って言われたよ。
カエルの鳴き声に似てるから。アマガエルの鳴き声みたいな音するからね。
一同:へぇ〜!
アサリの音も雨乞いになっちゃうんだ!(笑)
参:そうなの、とにかくそんなふうに怒られるのね。
それが私7歳くらいの時だから、雨乞いの信仰って、70年くらい前まではあったんだよね。
そうだよね、先生?
千葉:いや僕も、その話、初めて聞きました(笑)。
板塀の話もすごいねぇ!
てっきり、「塀に傷がつくからやめろ」って怒られるのかと思ったら、「雨降っからやめろ」は、すごい!(笑)。
参:そうそう。そして私が住んでるのは渡波(石巻の港町)だから、漁師の町でしょ。
そうすると、雨風が困るんだよね、荒れてほしくないから。
だから雨乞いはしなかったんだろうな、たぶん。本当に日照りになったら、するかもしれないけど。
漁師の町だから、「雨降っからやめろ!」って怒られたんだと思うんだ。
参:農家さんの住むところだったら、感謝されることかもしれないよね(笑)。
千葉:このあたりで、昭和30年代まで雨乞い信仰がけっこう残っていた場所っていうのは、実は、北上川の穀倉地帯ではなくて、北上山地の中山間地の方なんです。
つまり、大河から水が供給されるような地域ではなく、雨水に供給を頼るような田んぼを持っていたところのほうが、雨乞いの風習が残っていたんです。
水と共同体
参:田んぼを見てるとさ、川とか側溝の水位が低くて、田んぼの方が高いところにあっても、ちゃんと田んぼに水が張られてるでしょ?
あの水を引いてくる仕掛けってすごいなぁ、って思うのよね。
千葉:上から順番に水を落としていくっていう方法もあるし、あとは足踏み水車でやっていたところもありますよね。
だいたい川の上流の方に、「堰の家」っていうのがあるんです。
うちの地元の方だと、屋号で「せきのえ」っていうのがあるんですが。
そういう、堰を管理する家っていうのがあって。
それぞれ水理(水の流れや水路、水脈)共同体みたいになっているから、水を引いてこの田んぼをいっぱいにしたら、次は下の田んぼ、っていう感じで順々にね。
あとは水を切る(抜く)時期と、いっぱい水を張らなくちゃいけない時期とあるから、それも管理して。
参:水のことって、昔はすごくうるさかったよね。
千葉:そうなんです。
取水口のところが大雨で壊れたりすると、役場に「直してくれ」と頼みに行ったりとかもして。
参:あと、井戸の清潔さとかも気をつけてたよね。
一年に一回、必ず「井戸掻き」って言ってさ、井戸の中に入って、全部洗うんだもんねぇ。
千葉:そうですね、稲作はやっぱり水理共同体だから、みんなで水のことを管理しなくちゃいけなくて。そうしないと大変なことになるからね。
参:だから、想像だけどさ、その時代の人たちが、現代の、今の水源の状況とか聞いたらさ、「とんでもねぇことになってしまったな」って言うと思うよ。
亀山(はまぐり堂代表):震災の時も、ここ(蛤浜)は沢水があったからみんな助かって。でもその沢すら、今は枯れてしまってるんです…この10年ほどで。
自分が小学生だった30年前くらいまでは、沢水を飲んでいたんです。
それで、年に一回、みんなで「水道掃除」っていうのをやってましたね。
山の上の方にコンクリートでタンクが作ってあって、そこには砂利とかを詰めて、簡易浄化装置にしてあって。
その浄化装置から、うちの曾祖父さんが各家に水道を引っ張ったそうで、それで家の蛇口をひねれば沢水が飲めるようになっていたんです。
だけど問題は、今の「沢が枯れている」という状況では、そもそも水源が確保できないわけです。
だからもう一回、沢を復元していくことが大事で…。
さっきの水道の話もですし、やっぱりなんでも今は「お金をかけなきゃできない」と思いがちですが、昔は共同体みんなで、お金をかけないでもできていたこともあるわけですよね。
なにかそういうことから、千葉先生がおっしゃるような、暮らしをダウンサイズする、自立分散型の暮らしのヒントを考えていく、っていうことが、蛤浜でもやれるんじゃないかな、と思っています。
千葉:そうなんですよね、自立分散型が大切で。
巨大ネットワークになっちゃうと、一つがダメになると全部がダメになるから。
亀山:あとやっぱりうちは、都会から来るお客さんも多いんですが…物価も高くなって、なかなか収入も上がらない昨今の現状の中、「どう工夫して豊かに生きるか」っていう知恵を、ここで暮らしてきた先人たちから受け継いでいくことが大切になってきていて、それが結果的に、環境のためにもなるかなと思っています。
参:そうだね。提案なんだけど…今日学んだ、”スモール・イズ・ビューティフル”を、なにか小さくてもいいから来年はみんなで蛤浜で、実践してみたいなあ。
参:それはいいね!ぜひやってみたいね。
<今回の持ち寄りメニュー>
夏真っ盛りの今回の食卓には、こんな品々が並びました♪
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〜 2024.8.21 の持ち寄り勉強会の様子は今回でおしまいです。千葉先生、ご参加くださった皆様、ありがとうございました!〜
《ここ掘れワッショイ!》 執筆:亀山理子 / イラスト:佐藤優花
「足元に眠る宝もの(みんなが当たり前に持っていた地域の暮らしの知恵や食文化、自然と共生する在り方など)」を掘り起こし、その豊かさを改めて見つめ直し、次世代へと繋いでいきたい。
そんな思いのもと、地域の方々と一緒に開催している「持ち寄り勉強会」の模様をお届けする連載マガジンです。
記事一覧:
【1】「地域のみんなの顔が見える冊子っていいね!」 2024.6.27 持ち寄り勉強会@はまぐり堂 その①
【2】「地域のみんなの顔が見える冊子っていいね!」 2024.6.27 持ち寄り勉強会@はまぐり堂 その②
【3】「豊かな海は、豊かな森から生まれる」2024.7.24 持ち寄り勉強会@はまぐり堂 その①
【4】「豊かな海は、豊かな森から生まれる」2024.7.24 持ち寄り勉強会@はまぐり堂 その②
【5】「豊かな海は、豊かな森から生まれる」2024.7.24 持ち寄り勉強会@はまぐり堂 その③
【6】「里山はこれからの未来の最前線。環境人文学から捉え直す自然と人との関わり方」2024.8.21 持ち寄り勉強会@はまぐり堂 その①
【7】「里山はこれからの未来の最前線。環境人文学から捉え直す自然と人との関わり方」2024.8.21 持ち寄り勉強会@はまぐり堂 その②
【8】「里山はこれからの未来の最前線。環境人文学から捉え直す自然と人との関わり方」2024.8.21 持ち寄り勉強会@はまぐり堂 その③
【9】「里山はこれからの未来の最前線。環境人文学から捉え直す自然と人との関わり方」2024.8.21 持ち寄り勉強会@はまぐり堂 その④
【10】「里山はこれからの未来の最前線。環境人文学から捉え直す自然と人との関わり方」2024.8.21 持ち寄り勉強会@はまぐり堂 その⑤
【11】「里山はこれからの未来の最前線。環境人文学から捉え直す自然と人との関わり方」2024.8.21 持ち寄り勉強会@はまぐり堂 その⑥