【食べられなかった、クレープ】
「ねえ、喜入に帰って何がしたい?」
大きな病院にずっと入院を続けていた、喜入のAちゃん。
難しい病気を抱えているが、家に帰りたいという話を連携室より連絡があった。
ー何か自分にも役に立てるかもしれない。
すぐに、病院に行った。
病院に行って、直接病棟で面会した時、少し足がすくんだ。
首からは3本の点滴の管があり、持続点滴ポンプが数台繋がっている。
他にも管が体から出ているのが痛々しかった。
病室の雰囲気からも、その状況が決して良くない、そして家に帰ることがかなり困難であることは一目瞭然であった。
しばらくその子と話をしたのち、
「ねえ、喜入に帰って何がしたいの?」
と聞いた。
しばらく沈黙があってから、
Aちゃんはゆっくり、
「喜入の、クレープやさんのクレープがたべたい。」
そう言って、見せた笑顔はかなりやつれていた。
「クレープね、わかった。食べに行こうね。」
”クレープを食べたい”
そんな些細な夢。
そんな夢も叶えることができなかった。
困難であったとはいえ、受け入れる態勢を整えられない自分に腹ただしかった。
・家に帰る予定ならもっと早く言ってくれればよかった
・点滴をもっと減らしてくれれば受け入れ早かったのに
・主治医がもっとACPを取り入れた話し合いをしてくれれば
言い訳はいくらでもできる。
結果として、本当にささやかな夢を叶えてあげることが出来なかった。
私は何をしたら良いだろう。
と考えたときに、どんな状態であっても「喜入で過ごしたい」と思う方を
すぐに受け入れることができることができるシステムを作らないといけない、と思った。
今年になり、訪問看護ステーションを立ち上げた。
地域の訪問看護ステーションと連携しながら、
「依頼があれば絶対に断らない地域」へ向けて動き出した。
先日、お客さんでいっぱいのクレープやさんに行って
潮風を浴びながら、桜島を眺めてクレープを食べた。
Aちゃんが食べたかったけど、食べれなかったクレープ。
それは、テイクアウトすればいいものではなく、
その潮風の空気感まで含めたクレープで、ここにしか、ない。
選ぶことが出来ない地域から、選ぶことができる地域へ変わらなくては。
地域でできることを、これからも前へ向いていく。
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