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【プロジェクト紹介】ティントラボ『伝わらない記憶のプロセス 』②~

福島県浜通り地域の12市町村を舞台にした「ハマカルアートプロジェクト」は、経済産業省が支援する地域経済政策推進事業の一環です。
このプロジェクトでは、全国や世界、地元から集まった芸術家が福島で滞在制作を行います。今回は、その中の一つ、三塚新司さん(ティントラボ)に焦点を当て、彼のプロジェクト「伝わらない記憶のプロセス」について紹介します。

「知らなかった」がプロジェクトのきっかけに
三塚さんは普段、千葉県で作品制作をしながら、主に東京での展示活動をしています。
昨年、2023年11月にハマカルアートプロジェクトへの参加を決めたそうですが、しかしハマカルアートプロジェクトを知るまで、福島県浜通り地域の避難指示が一部解除され始めたことを知らなかったそうです。
三塚さんは、この「知らなかった」ということに衝撃を受け、東京の友人たちにも避難指示の一部解除について聞いて回ったそうです。しかし多くの友人も彼と同様に、この情報を知りませんでした。なぜこのような重要な情報が伝わらなかったのか、この体験がプロジェクトの動機となりました。

「知らなかった」を作品にする為の、1つの前提と1つの疑問。
メディアの構造変化という前提


三塚さんはまず、新しいメディアの台頭によって、人々の情報に接する際の態度が変化し、社会的有用性の高い重要な報道の伝達を阻害するようになったのではないか、との仮説を立てました。

現在、多くの人々はスマートフォンなどの携帯デバイスで情報を見る時間が増えています。そこでは「利用者が自由にデバイスの画面を見ていられる時間」を巡って、あらゆるメディア企業が利用者の時間を奪い合う「可処分時間の奪い合い」が起きています。
以前は「情報の飽和化」が問題になりましたが、もはやYouTubeやFacebook、Instagramなどの新たなメディアも、新聞やテレビといった従来のメディアも、飽和化の先で「自社のコンテンツを見てもらう時間をどう獲得するか」の争いを避けることはできません。
このメディアの構造変化の為に、タレントの浮気。などの、大多数の人が興味を持ちやすい情報は、デバイスの画面に表示されやすくなる一方で、福島県浜通り地域の変化などの、社会的有用性に基づいた報道については、より目に付きにくくなっていると三塚さんは考えました。



コミニュケーションの疑問
三塚さんは上記の前提を掲げた上で、日頃から気になっていたコミュニケーションの疑問について改めて考えます。
私達のコミュニケーションは、「送り手」から「受け手」へ、イメージを言語に変換して伝えることが多い筈ですが、受け手は言語をイメージに再変換する必要がある為に、それぞれの受け手ごとに違うイメージが伝わります。しかしそのこと意識しないままコミュニケーションを進める為の「誤認を前提とした暗黙の了解」が存在しているのではないか、と三塚さんは以前から疑問を持っていたそうです。

「白い犬」を伝えようとしても、それが白いスピッツとしてイメージされるのか、白っぽい秋田犬としてイメージされるのかは、それぞれである。


「伝わらない記憶のプロセス」という作品へ、
1つの前提と1つの疑問に基づき、三塚さんは「伝わらない記憶のプロセス」というプロジェクトを、浜通り地域の12市町村で行うことにしました。
このプロジェクトでは、12市町村の住民から、震災前の記憶に残る風景とそれにまつわる話をインタビューします。三塚さんはこれらの話をもとに記憶の風景を想像で描き、完成した絵を持って再び住民に会い、描かれた絵を見せて、実際の記憶との違いを確認します。
この過程を通じて、「送り手」と「受け手」の間に存在する「誤認」を可視化し、さらにその絵を東京で展示することで、メディアの構造変化とコミュニケーションの疑問を作品化したいと三塚さんは考えています。

次回は、このプロジェクトにおける具体的なインタビュー過程と、そこから生まれるアートワークについて詳しく紹介します。ご期待ください。