狐日和に九尾なぐ 第四話
■脱がされるのは、わらわだけ。
コスプレというには質感があまりにリアルで、なんなら彼女の身体よりもしっぽのほうが熱量を持っているほどだ。狐のような恒温動物は身体の熱を耳や尾から逃がすという話を聞いたことがある。あるいはこの女の子も本物の狐の一種なのだろうか?
「いや、さすがにそれはないわ……」
いくら精巧にできているとはいえ、それは考えすぎだと首を振った。ただ、そうした間にもそのしっぽはまるで生き物のように私の肌へ熱を与えてくるので、頭が混乱してしまいそうになる。
「もうちょっとの辛抱だよ」
体勢はそのままに、右肘でドアノブを捻り押し込み、なんとか家に入る。
意識を失ってからは辛そうな面持ちが続いているので、彼女の可愛らしい人間の方の耳(この表現が正しいのかは触れないでおきたい)に囁くと、驚きの単語が返ってきた。
「ぷゅ……ぐる……なび……」
予想外の返答につまずきそうになるが、ようやくリビングまで連れこみ、そっとカーペットに寝かしつけることができた。
それよりも、ぐるなびである。この子、ぐるなびって言わなかったか?
普段からそんなにぐるなびを利用しているのだろうか。ここ厚岸でぐるなび加盟店はそうそうなさそうなものだが。
「ね、ねぇ、お腹空いてるの?」
また耳元に話しかけてみると、「ぐる……なび……」と返ってきた。意図は理解しがたいが、後で冷凍うどんでも湯がいて出してあげよう。
「うわー……結構、血が出てるなぁ」
食事の話はまずこの応急手当をしてからだ。びしょびしょになった袴をずりさげ、真っ白な太ももを顕にすると、出血の原因となった怪我が目の前に現れた。
左の太ももの側面がやや抉られるように傷をつくっていた。自転車などで転んだにしては深いようにも見えるし、やはり何か事故に巻き込まれたのだろうか。
「ちょっと染みるよ、我慢してね」
消毒液を傷にかけると、「ぷゅ……っ」と狐少女は苦痛に顔を歪ませた。ごめんねとつぶやきながら、今度は大きめのキズパワーパッドを貼って、応急処置はおしまいだ。これで治るといいのだけれど。
「袴とかの巫女さん衣装は濡れちゃってるし……スウェットでいいよね」
同性とはいえ、同意もなしに脱がせてしまうのには抵抗があったものの、このままでは身体が冷えてしまうというもっともな理由をつけて、装束をそっと脱がす。
抱きかかえたときの軽さから想像はしていたが、栄養が足りているのか心配になるぐらいの痩身だった。せめて後で出すご飯を食べて元気になってほしいと願いつつ、彼女のサイズに比べてぶかぶかのスウェットを着させようとするが、ここで問題が生じた。
「えっ、このしっぽ、本当に生えてる……?」
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