狐日和に九尾なぐ 第八話
■苦手な魚介類を食べさせられるのは、わらわだけ。
「えっ、なんで脱いでるの……?」
おそらく彼女としてはカッコつけた感じで決まっていたみたいなのだが、下半身丸出しでドヤ顔をされてもこちらとしては反応に困る。
「わらわがわらわであるという証を見せつけておるのじゃ」
ふわふわもふもふ九本のしっぽはいいけど、半裸で見せつけるな。
「はぁ……」
身体から一気に力が抜けて、思わずため息をついてしまう。この九尾なぐという狐少女は世で言うところの一般常識に疎いことがすぐに理解できた。厚岸がヤバいのではなく、この子がヤバいのだ。
「なんじゃ、そんなへたりこんで。わらわでよければ話聞くぞ」
「どうした、俺で良ければ話聞くよ? みたいなノリで言うなよ……。あととりあえず、なぐちゃんの着てたものはずぶ濡れになって洗ってるから、スウェットをちゃんと着てね」
尻のあたりに熱がこもるから嫌なんじゃがとぶつくさ言いながらも、彼女はちゃんとスウェットをずり上げてくれた。言うことを聞いてくれてありがとうございます。
「なぐちゃん、お腹空いてるでしょ」
「はっ!? お主、もしや思考盗聴を――!?」
「はいはい、さっきお腹鳴ってたの聞いてるからね。なぐちゃんがどういう存在か知らないし、必要以上に詮索すると面倒になりそうだから深堀りはしないけど、ひとまずは食事でもしながらお話しようか」
ちょっと待っててねと言って、キッチンでガスコンロの火をつける。用意していたお出汁を温めつつ、冷凍うどんを湯がくためにお湯を沸騰させる。
「ふむふむ、良い香りがするのう」
出汁の芳香に誘われて、なぐちゃんがこちらへやってきた。ぴょこんぴょこんと飛び跳ねながら鍋の様子を見ようとしていたので、「あんまり落ち着きがないと、なぐちゃんのことも捌いて煮物にして食べちゃうよ」とやんわり注意したら、そそくさとリビングに帰っていったのが面白かった。
「料理はあまり上手くないから、ありあわせのものしかないけど、召し上がれ」
かけうどんに小口ねぎを散らして、小皿には厚岸名物の牡蠣のしぐれ煮を。さっきまで倒れてた子に出すのだから、これぐらい質素でもいいだろう。
「食べていいのか? いっただきま~す! ぐ、ぐふっ!」
即落ちでむせるのやめろ。がっつきすぎて早速苦しみだしたなぐちゃんに水を渡す。
「はぁはぁ……生き返った……。料理が上手ではないと言っておったが、お主のうどん、なかなか上等なものじゃて」
「いいからゆっくり食べてね(ありがとう)」
「ん……この小皿の茶色い物体はなんじゃ?」
「ああこれは厚岸の道の駅で買った牡蠣の――」
「んぎゃあああああああああ!!」
牡蠣のしぐれ煮を食べたなぐちゃんが発狂した。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?