狐日和に九尾なぐ 第十話
■腹を殴られるのは、わらわだけ。
「いや~……なぐちゃん、大丈夫?」
この世を救う? 何を急にそんなことを。
突拍子もないことを言い出したなぐちゃん自身を、私は救いたいよ――。
「わかった。苦手な牡蠣を食べて気が動転しているんだね。かわいそうに」
その一心で私はなぐちゃんの腹に拳を突き立てる。
華奢なお腹まわりにも関わらず、もっちりとした感触を与えてくれることに驚きを覚えながら、
「何を言うか! わらわは至って正常で――うぐっ」
一呼吸を置いて一思いに一殴り。
「うぐううぅぅぅぅ……!!」
「なぐちゃん、なぐちゃん――!?」
何が起きたというのだろう。ただ腹を殴っただけなのに、床に倒れた挙げ句、のたうち回ってしまっているではないか。
「なんだかさっきの光景と似ているね。ビデオテープを巻き戻したみたい」
「ううぅ……おぬし、どうかしておる……」
なぐちゃんはこちらを睨みつけてから、今度は自分のお腹に手をかざして治癒をし始めた。便利な能力だな、これ。
「こんなことに使うために、この能力があるわけではないのじゃぞ……!」
私をマジマジと見ながら恨み節を口にするなぐちゃんは、どうやらお怒りの様子だった。
とはいえ、九尾が生えていること以外は見た目は完全に幼女のそれなので、キレていてもそこはかとなくかわいさがある。
キレかわいい女子とかどうですか? 結構流行ると思うのですが。
「それじゃあ、何のためにその能力があるの?」
私が思う当然の疑問である。なにか大義名分的なそれがあるのならば、聞かせてもらおうではないか。
「わらわじゃ!」
すぐに右手を挙げて呼応するなぐちゃんである。
「はい、九尾なぐさん早かった」
「よくぞ訊いてくれたの、おぬし。待ちわびておったぞ!」
得意げに胸を張るなぐちゃんは、なんだか勇ましい。
「わらわはの。この右手で、この能力で、人々を傷病から救ってきたのじゃ」
「――へぇ」
これはいいビジネスチャンスかもしれない。
私は九尾なぐをどう利用するか、真剣に考えてみることにした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?