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風とカメラとぷかぷかと。−第2回−

風とカメラとぷかぷかと。
─NPO法人ぷかぷかで生きる人たちとの交流記─


ー第2回ー 

2019/08/21② 「まなざし」

知人が厨房から出てきて僕を次々と紹介していく。
驚いたことに理事長さんまでその場にいた。

かいつまんでアートイベントのことを説明して、
ポートレートを撮りたい旨を告げる。
理事長さん、僕の話を最後まで聞くか聞かないかのうちに、
「よし、やろう。誰から撮る?撮られたい人~?」
え? 
いや、著作権の話とか作品の使用方法のこととかがまだ・・・。
そもそも、僕は障がいのある人たちと接するのはほぼ初めてで慣れてないし、
どうしたらいいのか分からないんですけど。
「ほら、カッコよく撮られたい人〜?」
え?え?もう男の人が外でポーズ撮ってるし。
慌ててカメラを持ってあとを追う。
撮影の主旨も説明できないままファインダーを覗く。

っていうか何かしゃべりまくってるけど?
これは無視していいの?なんなの?
失礼な話だけど、どこまでコミュニケーションがとれるか分からない相手と
ファインダー越しに向き合うというのは、こちらの気持ちも整理がつかない。
なんだ?ゆっくり話したら通じるのか?
いきなり怒り出したりしないかとか、早く撮らないとどこかに走っていってしまうのではないか、などと余計なことが頭をよぎる。
構図が、光質が、などと言っている暇はない。
怖がられないうちに撮らないと。
直感を頼りに笑顔でいてくれているうちにとにかくシャッターを切る。
今回の作品のためのポーズとして「指を差す」というのを全てのモデルに
お願いしているのだけれど、それを伝えるので精一杯。
(作品の詳細は省きます。写真用のホームページをご覧下さい。
http://hamaryunosuke-official.com/ )
その間にもこちらの気持ちなどお構いなしに理事長さんは
モデルさんをどんどん連れてくる。
はい次は彼、はい次は彼女、はい次は・・・、いや、待て待て待て待て。

それぞれのお店で仕事中なのに手を休め、わざわざモデルを務めてくれる障がい者の人たち。
恥ずかしがりながらも真摯に被写体になってくれているのがよく分かる。
それにしてもモデルさんたち、どうしたことか僕を警戒する気配がまったく無い。
大抵の人は知らない人間にカメラを向けられれば警戒するものだ。
これは初対面がファインダー越しだったことで気づけたのかもしれないが、
彼らのまなざしはまっすぐなのだ、ズバッと来る。
街中でスナップポートレートを撮ると一人につき20枚くらいは撮るのだけど、
彼らの中には1枚で決まる人もいた。
それぐらい常にリラックスしているってことかな。

僕が初対面のモデルの目を照れずにまっすぐ見ることができるのは、
カメラというフィルターがあるからだ。
それは裏を返せばカメラがないと相手の目を見つめられないということになる。
それは僕だけじゃないはずだ。
でも彼らはどうだ。
よく障がい者の人たちのことを純粋というがこういうことなのか?

それからもお店の中からどんどん人が出てくる。
っていうか近い近い近い近い。
なにか聞かれてるけど聞き取れない。
え?って言ってる間に手を握られる。
おう?これはどうしたらいいんだ?おう?
握手?でもない。
「・・・・・・すか?」
は?
「・・・・・・ますか?」
え?
「フェイスブックやってますか?」
え?なぜいま?

理事長さんに助けを求めようとしてもモデルを探しに行ったきり。
小パニック。どうすりゃいいんだ、この状況。放置です。

そうは言いつつもモデルさんたちの醸し出す優しい空気、笑顔に引き込まれ、
僕は途中からはものすごい集中して撮影していたと思う。
夢中でシャッターを切り撮影はあっという間に終わった。
十五人のモデルさんをおそらく三十分かからないで撮り終える。
あとで見ると、写っていたのはたくさんの素敵な笑顔。
僕が撮ったというよりも彼らが撮らせてくれたのだ。

そしてデータチェックをしながらふと気づく。
壁を作り、相手を訝しんでいたのは僕のほうだったようだ。
構えていたのは僕のほうだった。
心の中ですまなく思う。
でもなぜ謝る?
初対面の人に対して構えるのは普通だろう?
みんなそうしてる。
普通って?
僕と彼らとどっちが普通なんだ?
どっち?
もうその時点で区別してないか?
差別でなくて区別。
僕は差別はしていないと思う。
でも区別は・・・してるかもしれない。
いや、「かも」ではなくて、してるな・・・。

撮影に集中して心の構えが解けたとき、本当に楽しくシャッターを切れた。
会話をしながら撮ることはあっても、大声で笑いながら撮ったことはなかなか記憶にない。
カメラと一体になったような不思議なあの感覚。
自分とモデルの間にカメラがないようなあの感覚。
彼らの持つ空気がそうさせたのだと思うと、僕の中になんとも言えない感情が湧いてきた。

誤解を恐れずに言うと、僕はどこかで彼らのことを劣った存在だと思ってた。
そう思ってはいけません、そう口に出してはいけません、と言われてきたから
そう思わないようにしてきたし、そう口に出さないようにしてきたのだ。
もちろんバカにするなんて気持ちはないけど、
税金を使って保護してあげなければいけないなどと傲慢にも思っていた。
福祉に興味がある人たちが支援施設?事業所?を運営していけばそれでいいんだと。

少なくとも僕には彼らのような常に優しい、柔らかい雰囲気はない。
僕の優しさは、優しくしたい相手に優しくしたいときだけ出る、一点集中単発型だ。
それに引き換え彼らのそれは、全方位型年中無休の優しさなのだ・・・多分ね。

ひととおり撮影が終わった後で理事長さん、施設長さんと話をする機会を得た。
ぷかぷかがどのような経緯を経てきたか、活動内容、存在意義、などを話はあちこちに飛びながらも
ぷかぷか初心者の僕に丁寧に、穏やかに話をしてくれた。
そしてここでは障がい者の人たちが「ぷかぷかさん」と呼ばれていることを知った。

ぷかぷかさん。
ぷかぷかさん。
ぷかぷかさん。
・・・うん、いいじゃないか。
また行ってみよう。


続く。

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