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妊娠って、こんなに大変だったんだ
貝となり ひそかに耐えて 過ごす日々
言葉にできぬ 想いを抱いて
妊娠した。
「おめでとう!」
みんなが笑顔で言う。
いやいや、待ってくれ。
私はついに気づいてしまった。
妊娠って、こんなに大変だったんだ。
つわりという名の地獄
ある日突然、猛烈な船酔い症状と吐き気が襲ってきた。
食べる。吐く。食べるのが怖い。でも食べなきゃいけない。でも食べるとまた吐く。
食べると吐く。吐くと疲れる。職場で吐いてしまったらどうしよう。そんなことを考えていたら、もう食べたくなくなった。
お小水は見たこともない色となり、背中が痛い。
仕事中、「二週間我慢したけど、もう限界だ。」と思い、病院に電話をかけた。
助産師さんが落ち着いた声で言う。
「いまは、仕事より、健康が大事。」
その瞬間、涙があふれた。
点滴を受けるつもりで病院に行ったら、医者が冷静に告げる。
「ケトン体が多すぎて、赤ちゃんに影響あるレベル。入院しましょう。」
入院?
有無を言わさず、そのまま入院へ。
思わず聞き返したけれど、点滴の準備はすでに始まっていた。
ベッドに寝かされ、腕に針を刺されながら、子供のように泣いてしまった。
看護師さんが優しく声をかける。
「辛かったね。赤ちゃん、いつ産まれるの? 生まれたら可愛いよ。」
(T . T)
「私は赤ちゃんに吸い上げられている。」
よく「お腹の中の赤ちゃんはママの栄養をもらって大きくなる」と言うけれど、これはもう「もらう」とかいう優しい話ではない。
もはや、エイリアンだ。
私はただのエネルギー供給装置。
「赤ちゃんなんてもはやどーでもいい。私の体調が心配。」
立っているのもギリギリ。
頭に毒が回ったような恐怖と憔悴感で、天井を見上げていたら、また涙が出てきた。
入院明け、そして転倒
入院しても、つわりが終わるわけではない。
まだ、まともに食べられないのに、「仕事がありますので……」と出勤した。
「めちゃくちゃ。つかれた。」
そのまま時短勤務に変更するも、翌週から通常勤務へ。
そして月曜日の朝、事件が起こる。
出勤途中、ゴミ捨て場の前を通りかかった瞬間、視界がぐらついた。
バタン!
直立のまま、真っすぐ倒れた。
「……えっ?」
自分でも何が起きたかわからない。
膝がジンジンする。広範囲の点状出血と内出血。
「痛いよ。」
「うわぁ、これ、完全にアウトなやつじゃん……。」
ゴミ捨て場の縁石に捕まりながら、小さくつぶやく。
「痛い。痛い。(もうやすみたい)」
そこに、一台の赤いスポーツカーがピタッと止まる。
ドアが開き、50代くらいの男性が降りてくる。
😎 「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。ただ転んだだけです。」
いや、大丈夫じゃない!!!
と言いたかったけれど、涙目で出社した。
「この街には素敵な人がいるんだな……」
職場で貝になる
職場では、どう頑張っても0.6人前しか働けない。
もう、喋るのもつらい。
貝のように口を閉ざし、じっとパソコンを見つめる。
上司が怖い。受付が怖い。同僚が怖い。パソコンさえも重い。
ストレス耐性がゼロになり、ちょっとしたことで涙が込み上げる。
職場で迷惑をかけている気がする。でも、どうしたらいいのかわからない。
そんな中、上司が話しかけてくる。
「うちの子もさ〜」
「皆さんのお陰です。感謝してます。」
そう答えながら、心の中で「少し良くなったなんて、言わなきゃよかった」と思う。
上司に悪気がないのはわかる。
仕事は進めなければならない。
でも……。
すみません。今の私には、その話、まったく頭に入ってきません。泣きたくなるんです。
心の中で「誰か、助けて🆘」と叫びながら、ただただ耐える。
毎日、ギリギリの戦い。
妊婦健診、そして涙
そんな中、妊婦健診の日がやってきた。
エコーの画面に映る、小さな命。
先生が淡々と告げる。
「90gね。」
「大きくなりましたね。」
「お母さんが大変でも、赤ちゃんは大きくなるから。」
まずは、生きててよかった。
今回は、淡白な先生で良かった。
あれこれ「元気ですね😄」なんて言われたら、精神崩壊しそうだったから。
でも、安堵も束の間、不安が次々に襲ってくる。
「赤ちゃんに障害があったらどうしよう。」
「私に育てていけるのか?」
「お金、大丈夫なの?」
40歳、初めての妊娠。しかも自然妊娠。
不妊治療を頑張って頑張っても授からない人もいることを考えれば、感謝しなければ「ありがたいことだよ」と言われる状況だろうが私はただこの現実を生き抜かなければならない。
そんな私を救ってくれたのは、助産師さんの言葉だった。
「40歳なんてまだ若いよ。」
「メンタル不調の妊婦さん、けっこういるよ。」
「初めての経験だから、つらいの当たり前だよね。」
「大丈夫よ。誰もが通る道。産まれるとすっかり良くなるわ。」
涙腺、崩壊。
妊婦健診が終わったら連絡して、なんて言っていた義母は、私のズタボロメンタルをわかっているのだろうか。
実父は「ホルモンの影響で、これから幸せを感じる時期」とさらっと要約してくれたけど、そんなわけないでしょ。
実母は、電話で散々批判した上、「見て安心した。」と勝手なコメント。
結局、今後20年赤ちゃんを守れるのは、わたししかいないと悟った。
世の中には、身勝手な野次馬家族もいれば、看護師さんや助産師さん。赤いスポーツカーの優しい男性もいる。
この先どうなるかわからない。
でも、もう考えても仕方ない。
無理に頑張らなくていい。
自分を責めなくていい。
流れに任せて生きてみよう