音楽とデザイン Vol.0 〜はじめに〜
メディアの変化
レコードから始まり、カセットテープ、CD、MD、ipod、SpotifyやApple Music等のサブスク(サブスクリプション)等、音楽を視聴するメディアが様々と変わってきました。またSoundCloudやYou Tubeなどのネットでの音楽配信で、プロモーションの形も変わり、YOUTUBEライブなどのストリーム配信で会場にいなくてもライブに近い体験ができるようになりました。CDという物質的なメディアの売上は下がり、データ配信という販売方法は流通までを変えてしまいました。この10年間で目まぐるしく音楽体験が変わりました。
音楽とデザインを語る上で、最初に頭に浮かぶのがCDやLPジャケットのデザインだと思います。音源の顔とも言えるように、音楽をビジュアルで表現するものであり、その音楽の世界観を作り上げるのに重要な役割を果たします。
レコードジャケットは約310×310mmというサイズで、さながら小さな絵画とも言えるようなサイズ。CDジャケットはサイズが三分の一になり120×120mmと文庫本と同じように小さな鞄にも入るサイズ。データ配信になるとスマートフォンの画面でも表示されるようなサイズまでジャケットはだんだんと小さくなりました。
レコードの時代にはジャケットは壁に飾るような絵画的なものであったものが、今となってはスマートフォン上で楽曲を識別するためのアイコンという扱いになってしまっています。アートであったものが、サムネイル画像のような安っぽいものに格下げしてしまったような印象を受けます。
レコードショップで偶然見かけたジャケットデザインにインスピレーションを受け、音楽を聞かずとも音源を購入する意味を表す「ジャケ買い」という言葉があります。今の世代では、いつでもどこでもスマートフォンで音楽が試聴でき、サブスクでのサービスでは、アルバムや曲単体を購入するという行為自体が無くなっています。「ジャケ買い」という言葉は死語になるでしょう。
私の音楽遍歴
話が飛びますが、普段はWEBデザイナーをしている、現在40代前半の男性です。音楽を聴くメディアといえば、カセットテープやCDでした。レコードは親戚や祖母の家で見かけるよう少し珍しいものでした。
中学生の時はバンドブームで、ブルーハーツやユニコーン、JUN SKY WALKER(S)、THE BOOM、友達の姉の影響でBOOWYやRCサクセションなどに熱狂しました。少ない小遣いで手に入れたCDのジャケットの中面の歌詞を何度も何度も覚えるまで口ずさみ眺めていました。当時はCDジャケットとは言わず、歌詞カードと呼んでいました。バクチクやXなどビジュアル系が登場した頃で、バクチクの今井寿というギタリストに憧れ、中学の卒業式でモヒカン刈りのような変な髪型をして周りを驚かせたりしました。
高校生のときは、フリッパーズギターやピチカートファイブなどを代表する渋谷系が流行り、信藤三雄氏率いるコンテンポラリープロダクションというデザイン事務所が多くの渋谷系アーティストのCDジャケットデザインを手がけていました。海外の古い映画のポスターなどのテイストを引用したデザインはとても洒落ていて、紙や印刷技法などに工夫を凝らしたデザインは所有欲を掻き立てるものでした。最初にデザインというものを意識したのがこの頃でした。洋楽では、ニルバーナを代表するオルタナティブロックを聞き、ミスチルやB'zなどのミュージックチャートの上位に入るようなJ-Rockを小馬鹿にしていました。ちょうどサブカル(サブカルチャー)という言葉をよく耳にする頃で、音楽に限らず映画や漫画、アニメーションに至るまで、メインストリームのものとは違うマニアックな価値観をもったカルチャーがでてきました。
デザイン専門学校生のときは、トランス、テクノ、ドラムンベースなどのクラブ・ミュージックを聞き、たまに夜中にクラブに出入りするようになりました。TOMATOやMeCompany、DesignersRepublicなどのイギリスのデザイン集団がCGやAdobeのIllustrator、photoshopなどのコンピューターソフトをを駆使し制作された近未来的なジャケットデザインに憧れました。
友人の影響で70年代のソウルやロックなど時代もジャンルも関係なく聞きました。友人とCDの貸し借りをして勧め合い、まわりと競って音楽を聞いていた時代でもあります。
20代になってからは様々な音楽を聞き、フジロックやサマーソニックなどのフェスを体験。20台後半からitunesに音楽が取り込めるようになり、それからは、何千曲という音楽をipodに入れ持ち歩けるようになりました。ただ、まだ当時はデータではなく、CDを購入するという習慣はあり、正確な枚数は覚えていませんが、当時のべ500枚くらいのCDは所有していたと思います。20代で東京に上京したときに、お金に困ったらCDを中古ショップに売り急場をしのいでいました。ただ、やっぱりまた聞きたからまた買い直すという事を繰り返していて、フランスのAIRというデュオの「MOONSAFARI」というアルバムを3度買ったのを覚えています。ちなみにこのジャケットのデザインは、ビースティ・ボーイズやソニック・ユースのジャケットを手がけたマイク・ミルズというデザイナーによるものです。
最近はケンドリック・ラマー、日本ではKohhなどのヒップホップを中心に聞いています。主にAppleStoreで購入するかYouTubeで視聴、もしくはApple Musicなどのサブスクで音楽を聞くようになり、新たにCDを購入することがこの数年なくなりました。
物を所有する意味
CDジャケットは音源とセットで存在し、世界感を作り上げるものです。現在デザイナーという職業をしている私に多大な影響をもたらしました。
冒頭に述べたように全てがデジタル化し、物質として音楽を所有するということが無くなってきました。今やCDジャケットの存在は、一部の愛好家か、握手券などの付加価値を手に入れる為にあるようなものです。
昔は普通であったことが、CDジャケットを所有することが、今は別の意味を持つような感じを受けます。
昔が良かったと現状を否定するつもりは全くなく、そのかわりいつでもどこでもスマートフォンから音楽が取り出せるという便利な時代になりました。このようなメディアの変換期なので、その存在を忘れないように、あえてCDジャケットに関して書こうとおもいました。
次回以降、具体的にジャケットのデザインやデザイナーについて、またアーティストのロゴやバンドTのデザインなどにも話を広げて紹介したいと思います。(ハ)