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' 20 ドナウよ、静かに流れよ
大崎善生氏の訃報に驚いた。闘病中だったとの事で、寡聞にして知らなかった。
コロナ以来図書館に通わなくなり、そのうち徒歩圏内だった県立図書館が郊外に移転してしまった。新県立図書館はあのマスコミによく登場するハリーポッターに出てきそうな円形の建築物である。
駐車場も無料券を発行してくれるし数キロしか離れてないが、ふらりと散歩の途中で立ち寄れる場所ではなくなり、まだ数回しか訪れていない。
そんな生活習慣の変化から、文芸誌やその他で知る作家の消息にも疎くなっていた。
彼の著書では「聖の青春」の知名度が高いだろう。
松山ケンイチ主演で映画化もされた。
しかし当方にとって彼の作品と言えばこの
「ドナウよ、静かに流れよ」である。
若い女性と年上の男性がドナウ川で心中した。
事件を追っていくと女性の母親と将棋を通じて既知である事が判明する…といったような出だしだった。読後数十年経ってるので曖昧だが、深く印象に残っている。
彼女の父親も業界では知らない人は居ない第一人者で、長く焼酎のCMのシリーズを手掛けているという。(あくまで噂程度なので間違いかも知れない)ただ、そのリリカルで芸術的な作品(CMというより録画を視聴して早送りしてても止めて見入る位の出来映え)を見るにつけ、繊細な感受性の遺伝子が最も望ましくない結果をもたらしたのかと嘆息せずにはいられない。
男性の方が大いに問題のある人物で、作品中の描写でしか知り得ないが、かなり正確なのではと感じられる。
一応(知人の娘が心中すれば個人的には相手が悪いと思うはずで 著者という立場なら極力そこから離れて客観性を重要視するだろう)ノンフィクションだからそんな生き方しか出来なかった面も丁寧に描くが、余り共感を呼ぶ人物ではない。
当たり前だ。
若い女性を見殺しにするような人間に共感なんてある訳ない。
反対に女性の心情は微に入り細に入り分析されている。最悪の結果もそこまでの心理が矛盾なく提示されており、道筋として不自然な所はない。
ネットで読後感想を見ていると「親への反抗」というキーワードが出て、著者にもそういう面があり、主人公に共感したのではないかと思えてきた。
訃報に際し改めて大崎善生を検索すると、医者一家に生まれたのに将棋や文学にのめり込んだ、典型的な反抗児だったとわかる。
「親の望む良い子」を演じておいて適度に自分のやりたい事をやれば良いのにと言ってあげたくなるが、そういう誤魔化しの出来なかった、不器用で正直な人柄なのだろう。
近々には喉頭癌の手術で声帯を喪失、それでも笑顔で藤井聡太棋士とのツーショットを残している。
彼の作家としてのスタートは「死者の声を聞く」という特異なスタイルから始まった。
当初「聖の青春」を出版予定だったのは別のノンフィクション作家の卵だったが、執筆途中に急逝してしまった為引き継いだという。
二人の死者の思いを届けねばならなかった困難は想像に難くない。
将棋という余り一般には馴染みのない題材だったが、その努力が実り、作品は評判を呼んだ。
「ドナウよ、静かに流れよ」も主題は二人の死である。
晩年にはフィクションが主な執筆舞台となったのも頷ける。自らがそちら側へと移動して行く日常ではとても描けるものではない。
素晴らしい作品の数々、ありがとうございました。
ゆっくりお休み下さい。
今頃は村山聖棋士をはじめ、会いたかった懐かしい面々と久しぶりの挨拶を交わしている事だろう。
「おや、ずいぶんと早いじゃないか」なんて。
(冒頭はドナウ川でなく犀川 羊頭狗肉で済みません)
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重い内容になり最後に夏の爽やかさを添えた