愛知県のサウナ② 名東温泉 花しょうぶ 2/2
その後、ゆったりとサウナを2回ほど繰り返したところで、そろそろお昼だなって思い、みんなも到着するころだろうと私は休憩室へと向かった。
ここの2階、浴室から出てすぐのところには、休憩室として、大きなリクライニングチェアが数多く並べられている大部屋があり、テレビも2台、手前と奥に設置してある。
その奥の方の前の方に私は座り、みんなからの連絡が来てないか確認する。
すると10分ほど前に、1階の食事処前にすでみんなが集まっている様子だったので、ゆっくりとする間もなく、リクライニングチェアから立ち上がり、私は階段を降りた。
「あ、一ノ瀬さん。今日もお早いですね」
最初に私に気がついたのは浦口さん。
「こんにちは〜」
みんなとも目が合う。
「浦口さんは、もう…?」
「あ、はい、私もサウナ行ってきました」
「僕はちょっと前に、藤さんはさっき合流した感じです」
と、千種くん。
「あ、みなさん、すみません、今回、なんか私の都合で何度かリスケしてもらっちゃって」
「ううん、問題ないよ」
藤さんのきっとみんなに向けたその言葉に、なんだか私が代表して答えたみたいな雰囲気になって、気恥ずかしかった。
でも、私が最後に合流したタイミングだったし…なんて、きっとみんなわかっているであろう言い訳を、自分の中でして落ち着かせてみる。
「看護師って職業は、なかなかカレンダー通りの休日でお休み取るの難しそうねぇ。職場のみなさんとの兼ね合いもあるでしょうし」
浦口さんは、確かカレンダー通りの休日。ちなみに私は祝日はなくて、その代わりに連休が長いパターン。千種くんは…、どうなんだろ、そういえば。
「まあ、はい、そうなんですけど、今月はなにかといろいろと…タイミングが合わなくって」
確かに、何となく今月は休みを決める?のかな、それが長引いていたようだった。
「まあ、でも、僕が言うのもあれですけど、こうして都合があってよかったですよね」
「そうね」
「じゃあ、ご飯食べましょう。あ、食事処の注文、このくつ箱のバーコードでできるみたいですね、ここは。やっぱりこういうの、便利ですよね」
千種くんもそう感じるんだなって思った。
「うん、そうだよね。お金持ち歩くの、ちょっと気が引けるもんね」
なんとなく私は、自分だけの感覚は、あまり信用しないようにしている。信用…というか、なんだろう、あくまで私の勝手な好みの問題で、私にとってだけのそれだよ、みたいな。
だから、みんなにとっても、支払いを最後にまとめてやれるシステムは、利便性良く感じるものなんだな、って新鮮に思った。
「じゃあ、行こっか」
そう言って私たちは昼食へと向かった。
「そういえばつい先週かな、私の女の子の友達、結婚しました」
みんなが食べ終わった頃、藤さんが少し唐突なタイミングで、その話を始めた。
「それは、おめでとうだ」
「はい、おめでとう、です。でもちょっと、私、ネガティブな感情もあって」
なにか、あるのだろうな…って。
藤さんは目線を、食べ終わったおろしそばの汁の中の大根おろしの流れに合わせながらに話を進める。
「思うんですよね。自分よりも幸せじゃなきゃいけない人、自分がその人よりも幸せであっちゃいけないなって思う人、そう思える人。…結婚って、そういう人とするものだって。合コンで出会う人もいれば、マッチングアプリで出会う人も、ナンパで出会う人もいて。よく知らないままに結婚したっていいんです。でも、生活していく中で、そう思える人、そう思いたいって思える人。…結婚相手って、そういう人であるべきなんだって思うんですよね」
あるべき人、って藤さんは、そう言った。
少し、乾いて聞こえる。
きっと、その感情や言葉の裏に何かを見ているのだろうなって思った。
…前に言ってた。
入院患者のお見舞いにろくに来ないのに、私は頑張って看病しているって思えてる人もいる、って。
お見舞いに来ている人の中に、自分は被害者だって、入院患者を責める気持ちや言葉を、本心から言えてしまう人もいる、って。
自分の幸せを優先して、何かの選択をされる人も、確かにいる、って。
それだけじゃ、私には何も見えやしないけれど…、わからないけれど、でも、うん、やっぱりわからない。でも。
「私の友達にとってその人は、そういう人なのかなって…」
藤さんは、友達夫婦、どちらのことを言っているのだろう。
そう思ってすぐ、多分、どちらもなんだろうなって、そう思い直した。
「藤ちゃんは、その彼のことは知っているの?」
「ううん、知らないです」
「そっか。でもその友達のことはよく知ってる」
「うん、はい」
「藤ちゃんが言う、そういう人と結婚する人?」
浦口さんの言葉はなんだか優しい。
「うーん、どうなんですかね…。結婚したことのない友達だから、よくわかんないです」
そりゃそうだ。でも、そうだよな、って思った。
「そっか。うん、わからないよね。でもね、だからね、近くにいたらいいんじゃないかな、何もない時にも、藤ちゃんが。結婚すると関係が続かない人って多いから。そうなりかけることがもしあるのなら、近くに居続けることを選んだらいいのよ、きっと」
そこで、ああ、って思った。身に覚えがあることなんだろうな、浦口さんも。
「私もよくわかんないんだけどね」
私たちは、藤さんとその友達の関係性なんて、何も知らない。でも、藤さんがこうして、私たちにその友達のことで何か話そうとするくらいには、きっと特別な思い入れがある関係性なんだろうなってことは、伝わってくる。自信はないけど、藤さんはそういう人なんだろうなって思っている。
きっと、裏口さんもそう感じたんだろうな。そういう言葉の並べ方だった。
「うん…。うん、そうします」
なんだか覇気の乗った返事だなって思った。
ここには岩盤浴もある。
食事処の目の前に、とても目をひく、コールドルームなる、岩盤浴における水風呂みたいなところが象徴的だ。
そんな岩盤浴に、藤さんは行くようだ。私含め後の3人は行かないみたい。
大体、岩盤浴がある施設では、藤さんが気分によって岩盤浴もする、他の人たちは基本的には行かない、となっていた。なんとなく、今日もそういった別れ方になっていて、それに何だか落ち着きを感じた。
私たちは夕食に、近くにある愛知県のご当地フードとして有名な、台湾料理の味山に寄って帰ることにしたので、夜の集合時間だけ決めて、また各々、自分のペースで時間を過ごすこととなった。
サウナの後の、辛い台湾ラーメンと、青菜炒め、ニンニクの効いたチャーハンなんて、美味しいに決まってるじゃないか。
お昼を食べた後なのにそんなことを考えながら、私は千種くんとサウナへと向かった。
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名東温泉 花しょうぶ
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