「消音」の法則:リスニング&スピーキング精度が格段にアップするコツ①
アメリカ東部の州立の総合大学の学部に留学していました。
最初のセメスターは、キャンパス敷地内のdormitory (学生寮)に住んでいました。一つの部屋に学生が二人の相部屋です。私のRoomy(ルームメイトの呼称)は、Jenaという金髪青い目の背がすらっとしたキレイなお嬢さんでした。
ある日、Jenaから頼まれ事をしました。
「友達の所にいるから、もし、○○から連絡あったらここに電話してくれる?」と友達の電話番号を置いていきました。
その日の夕刻、一人で部屋にいたところ電話が鳴りました。
でてみると、どうやら、その○○さん。
“She is not here right now.”
(彼女は今いません)
たどたどしい英語で言うと、相手は何事か言ってきましたが、速くて聴き取れず、相手も会話にならないと思ったのか、電話は切れました。
どきどきしながらJenaのおいていった番号に電話をすると、リラックスした感じの気の良さそうな男性が出ました。Jenaがいるかときくと、なにやら色々と話し出すのですが、全くかわからない。とりあえず、いるのかいないのかだけいってくれればいいのに。困っていたら、別の女性にかわりました。
彼女:“She went to get some food in a cafeteria.”
Sheとcafeteriaと、フー何とかというのは聴き取れたのですが、あとは全く解らず。
私:”Who? ”とか”How?”
と何度か聞き返していたら、
彼女:“Well, bread, soup, orange, spaghetti……”
(えっと、パンでしょ、スープでしょ、オレンジ、スパゲティ…..)
と延々、思いつく食べ物の名前を言い始めました。
隣にいるらしき先ほどの男性が、「キミ、なにいってんの?」という感じで、電話のむこうで、声をだして笑い始めたのが聞こえました。
その女性もついに笑いだし….
そこで、はっとして、
私:“Food?”
(食べ物?)
彼女:“Yes! It’s food!”
(正解!食べ物よ!)
なんと、私はこの時、“food”が聞き取れなかったのです。
中学1年生で習う、いえ、小学生でも知っているだろうカタカナ英語「フード」です。「食べ物」です!
「Jenaは、キャンパス内のカフェに夕食を取りに行っていて今いません」
と言われていたのでした。
子供相手のクイズのようで、電話口で三人で大笑い。
最初はWhoに聞こえ、あとは私の知らない言葉だろうかと何度も聞き返していたのです。
今思うと,なぜfoodが聴きとれなかったのか理解できます。
【fúːd】の最後の【d】が殆ど聞こえなかったからです。
皆さんが良く使っている
Good by! は [ɡʊ(d)ˈbaɪ] となります。
グッドバイではなく、グッバイ!とドを消して発話していますよね?
ゆっくり話すときや、その単語を強調して話す時は、あえて消音することはあまりありませんが、少し早く発話する時は、しばしば語尾の破裂音の子音が消えます。
このように「語尾が消える破裂子音」は全部で6つあります。
注意していただきたい点は、消音といっても口の中ではその音を出す舌や口の形がほぼできています。声を発さないだけです。したがって、ほんの一瞬ですが、「間」ができます。その間をネイティブは聞き取ります。あるとないとでは全く違う音になりますので、口の中は破裂子音の形にしておいてください。
この消音のルールは知っているだけでは意味がありません。必ずご自分で発話練習を行い、実践できるようにしてください。
ご自分が実践できるようになると、スピーキングの際に無駄な息を使わずその分の息を次の単語に使えます。日本人で英語の発話練習をあまりしていない方は、英語を話すときに、すぐに息切れしてしまい、変なところで区切って発話してしまいます。そうすると、相手にとって聞きにくい英語となってしまいます。
ご自分が発話できるということは、脳内に長期記憶としてその音が保存されていますので、ネイティブが語尾の破裂音の子音を消音して発話してきても脳の中の記憶とマッチングし聞き取れるようになります。
こうした発音の法則など、中高では全く教わってなかったのですから仕方ありません。ただ、これらは、英語を学ぶ初期段階で教えるべきことだと思っています。
それにしても、foodという、こんな簡単な英単語でさえ、あの当時の私には聴き取れなかったのです。
笑ってはいたものの、留学開始早々にして、この先ここで生活していけるのだろうか?と不安になったものでした。
次の学期には、Jenaとこの時電話に出た女性Kerenらとともに、大学近くの一軒家を借り一緒に住むことになるのですが、Kerenには
「初めて話したとき、foodの意味を延々説明させられたよね〜」
とからかわれるのでした。