「脱落」の法則:リスニング&スピーキング精度が格段にアップするコツ③
英語を聞くとき、音が消えてきこえたりつながって聞こえたりすることありますよね。実際に、ネイティブスピーカーが発話する時、しばしば音をほぼ消したり連結したりしています。消音の法則と連結の法則でもご説明しました。さて、もう一つ、消音とはまた別の「完全に音を発話しない場合」もあります。消音は口の中で舌を発話状態にしておいてほとんど口から音を発しない状態です。しかし、今回ご紹介するのは、「音を完全に脱落させて話す」です。名付けて「脱落の法則」についてお話します。
早速ですが、以下の短文を発話してみてください。
I want to go.
さて、あなたは
①[ái wɑ'nt tə góu]
と発話しましたか?
それとも
②[ái wɑ'n-tə góu]
と発話しましたか?
①はwant[wɑ'nt]の/t/を発話していますが、②は発話していません。
①も②も後続の単語to[tə]の/t/は発話していますね。
筆者のクラスでは、多くの方が無意識のうちに②で話しています。
どちらで発話しても正しいのですが、ネイティブスピーカーが普通のスピード(いわゆるネイティブスピード)で話すとき、②のように、音を敢えて落として発話することがしばしばあります。
どういう時に音を敢えて落として発話するかというと、「語尾の子音と語頭の子音が連続して同じ音素の時」です。
「音素」というのは音声上の最小単位¹のことを言います。
例えば、上記のtoの発音[tə]ですが、音素は/t/と/ə/の2つです。英語の音素は、母音音素23個、子音音素24個あります¹。
さて、先ほどのwant to [wɑ'nt tə]は[wɑ'nt]の/t/と[tə]の同じ音素/t/という同じ音素が連続していますね。1つ目は落として2つ目だけを発音します。これが「脱落の法則」です。
二つ目だけを発話することで英語を発話するときに必須となる「息」をセーブすることができます。発話速度も上がります。
以下にいくつか例を挙げます。発音記号の( )の1つ目の音は発音せずに2つ目だけを発話してみてください。
次の二つの例は、音素自体は違うのですが、発音するときの舌と口の形が全く同じものです。筆者はツインズ(双子ちゃん)と呼んでいます。
ツインズが続く場合も同じ音素とみなして二つ目だけを発話します。
いかがでしたか?
最後のGet down!はよく聞きますよね。
カタカナで書くと、ゲット・ダウンではなく、ゲッダウンという感じでしょうか。完全に一つ目の/t/を落としています。すぐに2つ目/d/だけを発音するので、まるでワンワードのように聞こえますね。
そして一つ目/t/で息も使わなくてすみますので、その息を後の発話に使え、妙なところで息絶えることもありません。
「語尾の子音と語頭の子音が連続して同じ音素の時は二つ目だけを発話する」でした。
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(参考文献)
¹ 竹林滋・斎藤弘子(2010)『新装版 英語音声学入門』東京:大修書館