超現場主義とわたくし
1976年のマンチェスター
24 hour party peopleという2003年日本公開の映画がある。公式サイトも消えてるようなのでwikipediaの引用で失礼。
1978年創立、1992年に破産したマンチェスターのインディーズ・レコード・レーベル、ファクトリー・レコードの社長であったトニー・ウィルソンの回顧録を基に、1980年代後半から1990年代初頭にかけて起きたマンチェスター・ムーヴメント(俗に「マッドチェスター」と呼ばれている)を描いた映画。監督はマイケル・ウィンターボトム。映画のタイトルはサントラにも収録されているハッピー・マンデーズのヒット曲に由来する。
わたくしはマッドチェスター直撃世代って訳でもないが(世代的にはありえるけど知ってたのマンデーズぐらい)映画自体は楽しく観た記憶がある。登場人物が大半ドラッグにやられていておおむねご機嫌な映画である(雑な要約)。冒頭,マンチェスターの小さなホールで行われたセックス・ピストルズの1976年のライブシーンがある。観客42人。その観客の中にこの物語の主人公であるトニー・ウィルソン,そしてイアン・カーティス(ジョイ・ディヴィジョン)やモリッシー(ザ・スミス)といった,後にマンチェスターの音楽シーンの重要人物となる面々が居たというのだ。
トレイラー映像でわかるとおりライブのシーンはだいぶヤバい感じに満ち溢れている。盛り上がりすぎてヤバいとかではなく普通にヤバい。閑散とした椅子席,憑かれたように縦ノリを繰り出す数人のオーディエンス。いたたまれない。しかしストーリー上,この場所に後のマッドチェスター・ムーヴメントの原点があったことは分かる。恐らくこのとき退屈そうに椅子席でステージを眺めていた人々が,ムーヴメントの原点をうっかり目撃してしまったのだ。わたくしならいたたまれないけどその場に居て後年いろんな人に自慢したい。自慢しないまでも「自分はシーンの始まりを目撃した」ということにひそやかに興奮して余生を過ごしたい。
2002年の下北沢シェルター
話は突然変わるのだけど(※この突然話が変わるヤツ,今後も多用していくのでお読みになる方は心しておいてほしい)最近読んだ本のご紹介である。
去年(2018)の夏に買って半年ぐらいあっためておいて正月休みに一気読みしたのだけど凄く面白かった。良質インディーレーベル「カクバリズム」の主宰である角張渉氏の自叙伝にしてレーベルの歴史ドキュメントである。
YOUR SONG IS GOOD、SAKEROCK、キセル、二階堂和美、イルリメ、MU-STARS、cero、(((さらうんど)))、片想い、VIDEOTAPEMUSIC、スカート、思い出野郎Aチーム、在日ファンク、mei ehara……
個性豊かなアーティストたちが所属し、“カクバリズムっぽさ"は形容詞としても用いられるほど、音楽シーンで圧倒的な存在感を示すインディペンデントレーベル、カクバリズム。
どうだろうこの錚々たる所属アーティスト群。一時期は星野源のマネジメントだってやってらしたのだ。ドキュメントはそんなきらびやかな経歴よりも「音楽を真っ当に愛する人が真っ当な手段で世に広めていく」ストーリーがインディミュージックを愛する人の心にどすんと突き刺さる作りになっている。あんま詳しいことは言わないしAmazonのレビューなどを参照してもらった方がいいのだけど本当に面白かったので買うといいですよ。(※この突然感想を放棄してイエーイ面白い楽しい最高~で投げるスタイルも今後頻出するので心しておいてほしい)
本題はここから。レーベルとしてのカクバリズムが生まれる直前の2002年3月,YOUR SONG IS GOOD(以下YSIG)の7インチEPのレコ発として「カクバリズム」という名前のライブイベントがあったと本書では書かれている。
あれ?それ確かわたくし行ってたんじゃね??
思い出した。思い出してしまったよ。その頃わたくしは仕事の関係で1年間ばかり千葉に住んで東京で働いており,2002年の4月から1年間ばかりロンドンで働いていた。東京勤務の1年間はまー手当たり次第にいろんなライブに足を運んでいた。当時日本のオーセンティックスカが大好きで(今も好き)平日だろうがオールナイトだろうが興味のあるバンドはなんとしてでも観に行っていた。オイスカルメイツもその頃アルバムをリリースしてライブも大盛況で勢いがあった頃で(今もある),渡英直前になんか企画でオイスカ出るらしいよと友達に聞かされて荷造りも残務整理もまだなのに気合で観に行ったのが前述のイベント「カクバリズム」だったのだ。思い出したぞいろいろと。ライブはとても楽しかったしオイスカはいつものあんな感じで盛り上がり,初めて観るYSIGのステージはオルガン主体のインストで当時好んで聴いてたジャンルとは少し違ったけどとてもかっこよかった。(あとこのへん記憶が曖昧なのだけど,オイスカのファンがYSIGのステージを冷淡に観てたということでお前ら分かってねえなとオイスカのメンバーが公式サイトのBBSで苦言を呈していた記憶がうっすらある。他のライブの出来事だったかもしれないな)
ここで話は前段に繋がるのだけど,憧れの「ムーヴメント(シーン)の原点に居合わせる」を実はわたくし既に達成していたということになる。1976年のマンチェスターで痙攣しながら縦ノリしてたイアン・カーティスみたいに,2002年3月のシェルターで何も知らずに踊っていた。別段わたくしがその後のカクバリズム(レーベル)の快進撃を支えたわけではない,ただのモブとしてしかし確かにその場に居合わせたというこれといって生産性のない事実に静かに興奮する。2001年度を東京で遊び倒し,2002年度は初めて住む海外の都市でこれもこれで遊び倒す(仕事は仕事でまあ頑張ってたよ)。おのぼり丸出しでロンドンの中心街であるソーホーをきょろきょろしながら歩き回って,映画館の大きなポスターで見かけたのが2002年に英国で公開されていた「24 HOUR PARTY PEOPLE」。あっ今繋がった,全部繋がった。大多数の人には果てしなくどうでもいい話だと思うけどわたくしの中では繋がったしこの事実に興奮して余生を過ごせるレベルの大事件になっている。
2019年の生き急ぐ中年ことわたくし
以下は自分語りである。自分大好き。
少し前に友人とも話したのだけどわたくしは90年代後半(自分自身は20代後半)ぐらいのメンタリティで今を生きているフシがあると思っている。別段かっこいいとは思っていない,単に結婚とか家庭を持つとか多くの同世代が経験してきたライフイベントをほぼスルーしてきたが故に遊び(ライブに行く,ライブの為に遠征する等。サッカーのアウェイ遠征もこれに含まれる)に対するモチベーションが20年ぐらい継続しているというだけの話である。
そんな自分でも長所があるとすれば,楽しそうな現場には絶対行くところだと考えている。その場に居ないとわからない空気感(今風に言うならバイブス)というのが楽しい現場には絶対あって,それを全身で体感してわーい楽しい嬉しい最高~と語彙力を放棄した感想を述べて帰ってくる。こういう経験を数十年(!)蓄積して今のわたくしがあるのだと。
わたくし自身はクリエイティブなことはからっきしで,誰かが生み出す音楽だったりアートだったりストーリーだったりを受け身で享受するのみ。なので絵が描けたり曲が作れたり,もっと広げるとビジネスで何か成果を得たり多くの人の心を動かしたりできる人すごいな自分にはできないな~などとぼんやり思っている。そこに生産性はないし別段人は生産性がなくても生きていて良いのでまあ問題はない。なのだけど,そういえばわたくしは長い文章を書くのが結構好きだったなということを思い出した。
90年代後半,インターネットが少しずつ市井の人々に広まり始めていた頃,御多分に漏れず個人サイトを立ち上げてHTMLと格闘しながら長い日記をしたためたり当時行ったライブや聴いていた音楽のことを書いたりしていた。2000年代に入って色々な切欠からサッカー観戦という楽しみを覚え,ブログという文化が新しく流入してきてサッカーのルールなにも分からないのにその周辺の文化含めて面白くて更に長文を書くようになり,「2万字ポエム」などと自称し完全に調子に乗っていた。個人サイトはinfowebの消滅と共に多分消えてると思うしサッカーブログは訳あって放置ののちログインパスワードも忘れてる(10年以上前の文章とか恥ずかしくて読めないですし)。
2010年代はSNS全盛期。様子見で始めたTwitter,2万字ポエマーことわたくしが140文字程度で我慢できるのかしら~などと思っていたが意外と性に合っていたようで常にその時その時の楽しい嬉しい最高~を語彙力ゼロで垂れ流している。SNSというのは今を撮って出しするものなのかなと考えてもいる。そこに思考はないがあとで振り返ると日記としても使えるのでこれはこれで悪くない。かくしてツイ廃が完成した。(Instagramは様子見で使ってるけどあれも基本的には「今!今!」っていうメディアよな)
なのだけど,それなりに長く生きて経験を積んでくると,切り取った今を積み重ねた時に何かしらの経験を繋いでストーリーを見出すこともできると思うのだ。現場に居たこととその現場で感じたエモーションは確実に残っていて,こうして年月が経っても点と点でしかなかった経験が自分の中でバチッと繋がる日がいつか来るのだ。47年(もうすぐ48年になります)も積み重ねたのだからそういう経験の活かし方もあっていいだろう。そうなると140字より少し長い文章が必要だ。よし今こそブログだ。2019年にこれからはブログだとか言ってる人まず居ないと思うけどな。
おわりに(相変わらず文章なげえなわたくし)
現場に行くのが好き。長い文章を書くのが好き。あと何か新しいことを始めたい。という訳で,現場で感じたエモーションを体系化して気が向いた時に長い文章を書く場所をつくりました。更新は不定期です。できるだけ独りよがりにならないように丁寧な文章を心がけます。ジャンルは全く定まっていません。読んで下さる方に全く興味のないカルチャーの事を書くこともありますが,あわよくば内容というよりわたくしの文章を好きになっていただけたら幸いです。飽きたらやめます(やめるんかい)。
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