ハリネズミの棘

1月7日
新年を迎えて始めたことがある。
それは、家計簿をつけることだ。

今まで貧乏だ貧乏だとわめいていたが、そういえば金をどこでどれくらい使っているか、ちゃんと把握しきれていない。
これが、浪費ないしは貧乏の要因なのでは?と、今更ながら気が付いた。
で、今月から支出を見直そうというわけだ。
4日も過ぎ、そろそろカード決済の引き落としも完了したな、とアプリで通帳を確認すると、そこには
『残高¥3*,***』
という文字があった。

一瞬、何かの間違いだろうとアプリを閉じ、もう一度アプリを起動して確認してみた。
『残高¥3*,***』
その文字は変わらず表示され続けている。

この間まで、確かもう1桁あったはず。
しかも、今月は特に出費を抑えていた。
こうなってしまった理由は2つほど思い当たる。
1つは、純粋に収入源が絶たれたことだ。傷病手当金の申請はしたが時間がかかるものだし、先月・先々月と働いた分は今月末に入るし。
もう1つは、そのバイト中にカード決済で建て替えまくったことだ。もちろん、建て替えから数日後にそのお金を精算してもらっていた。しかし、カードで見えない金で払っていたものが、目に見える現金で返ってくると、なんだか『もらった金』感が湧いてしまう。それに、すぐ銀行に戻さず、別の生活費にあててしまっていたため、当然マイナスを叩き出すわけだ。

うわお、冷静に分析したとて地獄ぅ。
イベントの方も、平日は人いないから出なくてもいいよってなっちゃったし、本格的にもっと単発バイトしなきゃなぁ……。
あ、あと実家にいた頃使っていた銀行口座の解約して、今の口座に入れてとりあえず今月をしのごう……。
心が落ち着かないまま、Pの手伝いに向かった。

今日は午前中だけ、Pのお仕事のサポートをした。
郵便を受け取りに行ったり、紙を切りまくったり、郵便を出しに行ったり。私のできることが限られているため、毎度申し訳ない気持ちになる。

「もちづきさん、イラレとかフォトショ使えるようになるといいんじゃない?そしたら、任せられることも増えるし、自分で本の装丁とかやったりさ。」
Pは私にそう提案した。私の今後のためのアドバイスでありつつ、きっと本音は、私のできることを増やして自分の多すぎる仕事の分業化のためであったと思う。
理由はなんでもいい。しかし。
「お仕事をいただけることは本当に嬉しいです。こんな私を信頼して任せてもらえることも。でも、できることが増える分、要求されることも多くなります。性格上、私は断れず全て引き受けると思います。そうなった時、私は本当に何者になりたいのか、自分を見失ってしまいそうで怖いんです。わがままで、すみません。」
はっきりとは言えなかったが、自分の正直な気持ちをPの目を見ながら語った。
『私は物書きになりたくて、今を生きているのだ。決してデザイナーや編集マンになりたいわけじゃない。』
目を見て話したから、私の涙で潤んだ目を見て、いつもは何事も拒否をしないイエスマン兼臆病者の私の、精一杯のプライドを理解してくれたのだろう。Pは、
「そうだよね。ううん、ごめんね。もちづきさんにはこれからも今まで通り、もちづきさんのできる範囲で手伝ってくれると嬉しいな。」
と優しく笑ってくれた。私が笑顔で応えたのは言うまでもない。

昼過ぎに手伝いが終わり、銀行の解約も済み、家に戻ってきた。
昨日は寝てしまって残念なことになったからな……。
それに、つい先ほど物書きとしての意地を通し、せっかくの提案を断ってきたばかりだ。何もしないわけにはいかないし、何かしなきゃいけないとも思っている。
その一心で、残っている公募用の文章を書き進めた。

夕食後、リアルタイムで観れなかった『M-1グランプリ アナザーストーリー』というドキュメントをTVerで視聴した。
約60分の映像の中に、色濃く映し出されていたのは、漫才師さんたちの情熱や執念、そして『笑い』に対するプライドだった。
1番面白くありたい。その一心で数分間のネタに魂を込める。その熱い舞台と、それに負けないくらい熱い気持ちで溢れている舞台裏に、感情が揺さぶられる。
気が付いた時には、涙が流れていた。
その時、私は間違いなく心から感動していたのだ。
そして、『私もこの人たちのように、強い気持ちで夢を追いかけたい』などと、身の程知らずながら思った。

そうと決まれば、すべきことはひとつしかない。
書く。とにかく書くのだ。
自分が自分に誇りを持つために、私は書かねばならない。
若輩者の小さな尖りでも、恥ずかしげもなく見せつけてやろうではないか。

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もちづきもちこ
物書き志願者です! 貴方のサポートが自信と希望につながります!