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No.9434『迷鳥』

ランダム単語ガチャエッセイチャレンジ8日目。

No.9434『迷鳥』

今から10年近く前、父が迷子のインコを拾ってきたことがある。

なんでも、ある日の退勤途中、家まであと少しというところでフラフラと弱々しく飛んでいるインコを見つけ、とりあえず手のひらで包んで帰宅したという。その後すぐに警察に届けたものの、捜索届は出されていないらしく、「もしも数日後も飼い主が現れなかったら保健所行きだろう」と言われたそうな。
幼少期にカナリアを飼っていた経験から愛鳥家である父は「もし現れなかったら俺が育てる!」となり、その期日を過ぎるか過ぎないかという頃、鳥かごやらなんやらを買い揃え、コバルトブルーの羽根が美しいそのインコを『ラムネ』と名付けて可愛がった。

ラムネは5年くらい生きていたから、たぶんインコ界では大往生だと思う。父はというとラムネを可愛がるあまり、存命のうちから2羽目をペットショップでお迎えしたり、毎晩会社から帰ると真っ先に鳥かごのある部屋に向かっていた。頭の上に乗っかられても、お気に入りのジャージにフンを落とされても、目を細めて彼らを眺める父から、なんだか父性を感じた。いや、私の父なのだからそりゃそうなのかもしれないのだが。

10年経った今、父はまだ新しいインコをお迎えして溺愛している。
あの時、父の目の前に現れたラムネは、羽根の色の通り『幸せの青い鳥』だったのかもしれない。

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