その女、家訓と貧乏根性につき

3月15日
気が済む程度に原稿を進めた後、バイトに向かうために家を出た。

今日はよく行く派遣先の料亭。
金曜日のここの仕事は割と好きだ。理由はただひとつ。週末の賄いは、普段の献立にプラスして提供していた料理の余り物も出されるからである。
今日の食事はウィンナーの乗ったカレーとサラダ、煮魚とマグロと鯛のお刺身。何の規則性もないメニューに『実家か』とツッコミたくもなったが、自分で買えないような刺身が食べれるのが有り難すぎる。一緒に働くスタッフさんも
「もちづきさん、いっぱい食べな!」
と大盛りのカレーを私の机に置いてくれた。ここにはお母さんがたくさんいるようだ。

満腹になったところで仕事スタート。今日は他の先輩方と一緒に20名程度の団体様のコース料理の提供だ。
ここで働くのも慣れてきて、次に何をすれば良いのか、言われたこと・頼まれたこともすぐ理解できるようになった。特にストレスなくこなしていたら、いつのまにかお開きになっていた。

片付けるために皿をまとめていると、あることに気がついた。
「すごい量残してったな……」
そう、料理を残しまくってるのである。あまりの多さに思わず声に出してしまった。
「ね、これはひどいね」
一緒に片付けてた先輩スタッフも悲しそうにこぼす。
確かに、その会はどこかの会社の集まりで、目上の方へのご挨拶とか、ご歓談とか、そんなことをしていたらろくに食べる暇もないのかもしれない。でもそれにしたって量がエグすぎる。デザートのフルーツ盛りなんて手付かずだ。
「どうせ捨てるだけだから、手付かずのフルーツとか食べちゃっていいよー」
1番経歴の長い先輩が軽々しくそう言った。この人も食べ物を捨てることに対する罪悪感が薄まっている気がする……。

私は複雑な心境を携えつつ、農家の方と盛り付けてくれた料理人に感謝をしながらフルーツを頬張っては皿を下げた。
フルーツは私の心を癒すかのような甘さがあった。

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もちづきもちこ
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