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おちょやんの着物 折り目正しい毎日の暮らし

「おちょやん」終わってしまいましたね。毎朝楽しみに見ていました。たくさんの着物姿を見ることが楽しかった。働く女の人、奥様、女優さん、今では分かりにくい職業別の着物の選び方があったのでしょう。着付けを習いに行くようになって、着物姿が多いドラマが楽しみになりました。日常が着物、という世界は特に惹かれます。

おちょやんがお茶屋さんの下働きだった時の黄色い紬の帯。こういう色はどんな紬にも合ってかわいいな、と思っていましたが下働きさん達が制服のようにお揃いで締めていたので、そういう貸与品的なポジションなのかな、と。必ずしも歴史的背景にのっとって装う必要はないかも知れませんが、知らずに乙に澄まして着ていると着物の世界では恥ずかしいのかもしれません。

お茶屋のお内儀の篠原涼子さん、落ち着いた色の紬に帯を少しずらして、粋な女将さんの着こなしでした。旦那さんの生き別れのお母さんを京都に尋ね当てていったシーンのお母さんはさらにあだっぽいずらし方でした。帯を巻くのが下手だったころ、うっかりズレてしまうと「お好みでしたらいいけれど、粋な感じですね」と指摘されてました。もちろん狙ってのことではないです……。

おちょやんの結婚後の赤っぽい無地の紬も甲斐甲斐しいフレッシュさがあって可愛かった。ラジオドラマの人気女優さんになってからは家を出る時から華やかな訪問着で収録に向かう。はるちゃんとおうちで過ごしている時は庶民らしく裸足の時も。劇中の、娘時代に駆け落ちしそびれた相手の男を訪ねていく奥様の衣装は立派な大島紬の龍郷柄。

着物が好きだから、今は勉強したりして得た知識でドラマの背景にあるものを「読み取る」のが面白い。しかし、もう一世代前の方々(あるいは現代でも着物が日常の方たち)は考える前に、この着物の感じは粋筋の人物、というようなことを「感じ取れて」いたのだと思います。今、意識して伝えていかないと、この「文化」が失われてしまうのではないか。もったいないな、と思うのです。

毎日着物を着ていた時代。もっと崩して着ていたのではないか、という意見もあるかと思います。しかし毎朝、きっちりきれいに着物を着ているおちょやんを見るのは楽しかった。着付けを習い始めたころは、どうして左右の襟が揃わないのか、帯の上に残ったシワが取れない、と悪戦苦闘の連続でした。お手本のようにすっきりきれいに着ているおちょやんは目に気持ちよかったのです。貧しくても、舞台が思うように行かなくても、もっと辛い目に合った時も、キチンと襟を合わせて着ているおちょやんの一生懸命さがかわいい。

折り目正しい、という言葉がありますよね。着物を着る時きちんと折る、まっすぐに生地の地の目を通す、ということが大事だとだんだん分かってきました。地の目は生地の縦糸の方向です。まっすぐに織ってある生地の本来の向きに沿っていれば生地は変に動かないのです。着物はしまう時、地の目に沿ってきちんと折りたたむことが大切です。次に着る時の準備はそこから始まっているのです。着物を着ることで、脱いだ後きちんと畳む楽しさが身につきました。(それまでは洋服をポイッと脱いでざっくりハンガーにかけていたのでした)

もちろん後始末には時間がかかります。仕事をやめて時間が出来たことで、初めて可能になったといえます。昔の人は大変でしたね。忙しい毎日、思わぬようにならない毎日でもきっちりと襟を合わせて、シワがないように、前を向いて一日一日を生きるおちょやんの姿勢がその着姿にあらわれている。と勝手に解釈していました。その清々しさを毎朝見るのが、楽しかったことの本当の意味だったと感じます。

最終回の朝、朝イチの華丸さんが「半年続いたおちょやんがついに最終回」と言いました。半年前、私は会社員でしたので、同僚と「杉咲花ちゃん、かわいいよね〜」とのんきに噂していたのでした。ゆっくり毎日見ることが出来た後半の話に偏っているのはそういう事情です。

さて、次の朝ドラは現代が舞台。着物姿が見られないな、と思っていたら夏木マリさんの能舞台での袴姿、痺れるくらいカッコ良かった。これからも楽しみです。

ウツノミヤハルコ
この世界の片隅で、テキスタイルへの愛を語ります。布好き、着物好き、お茶に興味のある方と繋がりたい。趣味は茶道(裏千家)とサッカー鑑賞。どちらかというと民藝好き。柔らか物の着物より紬が好きだが、お茶の世界との矛盾が悩ましい。コロナリストラで求職中。お茶や着物の世界をお仕事にしたい!

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