医師が教える 食べすぎないことの新常識
「腹八分目に医者いらず」―私たちの祖先は、この言葉の本当の意味を知っていました。現代科学が明らかにした研究結果は、この古い言い伝えの正しさを裏付けています。今、私たちの食生活は大きく変化し、その影響は健康に深刻な影響を与えています。でも、解決策は意外にもシンプル。それは、「食べすぎない」という基本に立ち返ることかもしれません。
第1章:健康長寿の秘訣は「食べすぎない」にあった
「珍しいものや、おいしいものに出合っても、八、九分でやめるのがよい。腹一杯食べるのはあとで禍がある」
江戸時代の儒学者・漢方医である貝原益軒は、著書『養生訓』でこのように説いています。当時から、食べすぎることの危険性は認識されていたのです。しかし、現代を生きる私たちは、この古くからの知恵をどこかに置き忘れてしまったようです。
◆なぜ今、食べすぎが問題なのか
日本人の食生活は、この50年で大きく様変わりしました。かつての日本人の食事といえば、朝はご飯と味噌汁が基本で、脂っこい食事はほとんど摂取しない生活でした。しかし、食の欧米化とともに、生活習慣病の発症率は増加の一途をたどっています。
特に深刻なのは、現代の20代~30代の食習慣です。このまま西洋化された食生活が続けば、長寿大国・日本の未来は危うくなるかもしれません。
◆科学が証明する「食べすぎない」効果
科学的研究によると、寿命を延ばす効果が確認されている要因として、以下の6つが挙げられています:
1. 食事のカロリー制限を行うこと
2. 果物、野菜、全粒穀物などの植物ベースの食事をすること
3. 1日15分の運動をすること
4. 社会とのかかわりを持ちコミュニティに属すること
5. 毎日7~8時間の睡眠をとること
6. マインドフルネス(瞑想など)を実践すること
注目すべきは、これらの中でも「食事のカロリー制限」が筆頭に挙げられていることです。
◆世界の長寿地域から学ぶ
世界には「ブルーゾーン」と呼ばれる長寿地域が5つあります。イタリア・サルデーニャ島、米カリフォルニア州のロマリンダ、コスタリカのニコヤ半島、ギリシャのイカリア島、そして日本の沖縄です。
これらの地域に共通するのは、「節度ある食事」です。特に注目したいのは、沖縄の100歳以上のお年寄り(センテナリアン)たちの食生活です。彼らの食事からは、日常的に抗酸化物質を摂取することの重要性が明らかになっています。
第2章:体内時計と食事の関係
◆3食の習慣はいつから?
意外かもしれませんが、日本人が1日3食を始めたのは江戸時代からだと言われています。それまでは、太陽とともに起きて仕事をし、その後に食事を取り、日暮れ頃に夕食を食べて就寝するという生活でした。
古代ローマ人は、通常16時頃に1日1食だけ食べ、1日に2回以上食べることは不健康だと考えていました。
◆なぜ食事時間が重要なのか
私たちの体には、食べる時間と食べない時間のリズムがあります。このリズムを整えることは、健康維持に重要な役割を果たしています。
研究によると、食事をしていない時間を意識的に長くすることには、以下のようなメリットがあります:
- 腸内環境の改善
- 体重コントロール
- 炎症の抑制
- 心臓病や動脈硬化のリスク低下
◆間欠的ファスティングという選択肢
「間欠的ファスティング」または「時間制限摂食」と呼ばれる食事法が注目を集めています。これは、食事時間を1日のうち3~12時間の間に限定し、12~20時間程度は食事をしない時間を作る方法です。
特に重要なのは、食事の「食べ終わりのタイミング」を一定に保つことです。夕食を食べる場合は、食後2~3時間は就寝までの時間を取る必要があります。
第3章:腸内環境を整えることの重要性
◆なぜ腸が重要なのか
私たちの体の中で最大のデトックス(解毒)器官は肝臓ですが、腸の健康状態は全身に大きな影響を与えます。腸からは、添加物や保存料、酸化した脂質など、食品由来の炎症誘発物質や未消化の食事成分が体内に入ってきます。
◆便秘が引き起こす健康への影響
便秘の定義は医学的にも決まってはいませんが、一般に週3回以下の排便回数の人を便秘と定義しています。しかし、実は排便は毎日あることが基本です。2日に1回、3日に1回の時点で、すでに便秘の状態といえます。
なぜ毎日の排便が重要なのでしょうか。それは、便秘の状態では腸の中が炎症状態になるからです。炎症が続くと腸の粘液が減少し、さらに多くの毒素が体内に入りやすくなってしまいます。
◆食物繊維の重要性
日本人は元来、レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)を積極的に摂取してきた民族です。その代表例が「おにぎり」です。米は温度を下げると時間とともにレジスタントスターチになっていきます。
第4章:現代食の罠
◆超加工食品の危険性
食品の加工度は4つのグループに分類されます:
グループ1:自然のままの食材
グループ2:加工された料理用成分
グループ3:加工食品
グループ4:超加工食品
特に注意が必要なのが「超加工食品」です。これには、以下のようなものが含まれます:
- 炭酸飲料
- スナック菓子
- チョコレート
- キャンディー
- アイスクリーム
- 大量生産されたパン
- クッキー
- 朝食用シリアル
- 冷凍ピザ
- 鶏肉と魚のナゲット
- ソーセージ
- ハンバーガー
- ホットドッグ
- インスタントスープ
- インスタント麺
これらの食品は、心血管疾患、がん、肥満のリスクを高めることが科学的に証明されています。
◆グルテンと腸の関係
グルテンは、腸の細胞に働きかけて「リーキーガット」(腸漏れ)を引き起こします。これは、腸の細胞同士の密着が緩み、隙間が形成される状態です。
この状態になると、腸内の毒素だけでなく、細菌や食物が体内に侵入してしまいます。これは自己免疫疾患(1型糖尿病、クローン病、多発性硬化症など)との関連が指摘されています。
◆添加物の影響
特に注意が必要なのは乳化剤です。これは水と油のように混じり合わないものを混ざりやすくする添加物ですが、腸内細菌叢を混乱させることが報告されています。
第5章:実践的なアドバイス
◆5つの基本ルール
健康的な食生活を送るための5つの基本ルールをご紹介します:
1. 腹八分目で食べる
2. 加工食品を避ける
3. 食物繊維・抗酸化物質をとる(野菜・果物)
4. 動物性たんぱく質・乳製品は嗜好品だと考える
5. 水をこまめに飲む
◆習慣化のコツ
「40歳を超えた人の99%は、その後の人生を変えることなく惰性で生きていく」という言葉があります。しかし、これは避けられない運命ではありません。
新しい習慣を身につけるためには、以下の点に注意しましょう:
1. 小さな行動から始める
2. 毎日同じ時間に実践する
3. 環境を整える
4. 進捗を記録する
5. 仲間を作る
◆笑顔で健康に
最後に忘れてはいけないのが、心の健康です。研究によると、笑わない人は心臓病と脳卒中のリスクが明らかに高くなることが分かっています。
笑うことで:
- 不眠症の改善
- 免疫機能の向上
- 糖尿病の改善
などの効果が報告されています。
◆◆おわりに◆◆
私たちの祖先は、経験則から「腹八分目」の知恵を見出し、それを伝えてきました。現代科学は、その知恵の正しさを裏付けています。
健康的な食生活は、決して難しいものではありません。むしろ、シンプルな原則に従うことで実現できます。今日から、あなたも「食べすぎない」という基本に立ち返ってみませんか。
体は一生使い続けるものです。今この瞬間から、より良い習慣を始めることができます。その第一歩として、食事の量と質を見直してみましょう。きっと、新しい発見があるはずです。