見出し画像

人生100年時代を生き抜くための5つの備え


2019年5月、金融庁から衝撃的なメッセージが発せられました。「皆さん、100歳まで自分の力で生きていってくださいね!」という、まるで突き放されたような内容でした。この発表は、お金の不安、仕事の不安、健康の不安など、多くの人々の心に大きな波紋を投げかけました。

しかし、「助けてください」と訴えても、国が国民の老後を手厚くサポートしてくれる時代は、もう終わりを迎えようとしています。では、私たちはどのように100年という長い人生を生き抜いていけばよいのでしょうか。

本記事では、経済評論家の勝間和代氏、マーケティングの専門家である久保明彦氏、そしてコミュニケーションの専門家である和田裕美氏という、それぞれの分野のエキスパートたちの知見をもとに、これからの時代を生き抜くための具体的な指針をご紹介します。

第1章:最強の基盤「健康」

人生100年時代において、まず最優先で対策を立てるべきなのが「健康」です。勝間和代氏は「健康は人生全てのベースです。お金と仕事に恵まれていても、健康を失ってしまったら、私たちは一切の幸せを感じることができなくなります」と、その重要性を説きます。

健康管理の核となるのは、睡眠、運動、食事の3要素です。睡眠については、1日8時間はベッドの中にいることが推奨されています。最新の研究では「8時間でも足りない」というエビデンスも出てきているほどです。睡眠不足は脳疲労を慢性化させ、生活習慣病のリスクを高めることが分かっています。

運動に関しては、1日1万歩を目標にすることが推奨されています。ただし、これは必ずしもスポーツや運動として行う必要はありません。日常的な身体活動も重要な要素となります。実は、座り過ぎは喫煙習慣と同等の害があるという研究結果も出ているのです。

食事については、「高食物繊維・高微量栄養素・無糖」を基本とすることが勧められます。特に自炊を中心とした食生活が推奨されており、砂糖やアルコール、カフェインの摂取は控えめにすることが望ましいとされています。

「不健康というのはとにかくコストが掛かります」と勝間氏は警告します。それは単に病院にかかる費用だけではありません。回復にかかる時間、失われる仕事の機会、そして周囲の人々の時間まで奪うことになるのです。

久保明彦氏も「60歳になる前から運動習慣を身に付けて、筋肉をつける『貯筋』をしておくことが重要」と指摘します。これを続けていれば、年齢を重ねても急激な体力の低下を感じずに済むはずです。

健康管理において重要なのは、問題が起きてからの対処ではなく、予防の視点です。定期的な健康診断を受けることはもちろん、日々の生活の中で健康状態を管理していくことが大切です。近年では、スマートウォッチなどのガジェットを活用して、客観的に健康状態を管理する方法も一般的になってきています。

第2章:時代の変化を読む力

変化の激しい現代において、時代の流れを読む力は必須のスキルとなっています。久保明彦氏は「ゆでガエル理論」を例に挙げ、緩やかな変化に対する危機感の重要性を説きます。温かい鍋に入れられたカエルが、徐々に温度が上がっていることに気づかず、最後には命を落としてしまうように、私たちも気づかないうちに時代に取り残されてしまう危険性があるのです。

その最たる例が、終身雇用制度の崩壊です。終身雇用は今の時代に合わなくなってきています。実力主義の考え方が広がる中で、年功序列制度は適合しなくなってきました。また、副業・兼業の一般化やリモートワークの普及など、働き方も多様化しています。企業側も不採算部門のリストラや統廃合を進めており、もはや終身雇用を前提とした人生設計は難しくなってきているのです。

さらに深刻なのは、AI時代における職業の変化です。野村総合研究所とオックスフォード大学の共同研究によると、10年後、20年後には日本の労働人口の49%がAIやロボットなどで代替される可能性があるとされています。特に、データ分析業務や定型的な事務作業、単純作業を伴う職種は、その影響を強く受けると予測されています。

一方で、対人コミュニケーションを必要とする職種や、クリエイティブな職種、高度な判断を必要とする職種は、比較的代替されにくいと考えられています。このような変化を見据えて、自身のキャリアを考えていく必要があるでしょう。

久保氏は「次世代の仕事探しの情報ソースについては、日本国内だけではなく、海外にも目を向けるべき」と指摘します。実際、アメリカやイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどの多くの先進国では、既に定年制度が存在せず、働き方の選択肢も日本よりも豊富です。

このような状況下では、常に新しい情報にアンテナを張り、業界動向をウォッチし続けることが重要です。特に、新しい技術や働き方に関する情報は、自身のキャリアを左右する可能性があるため、積極的に収集していく必要があります。

第3章:新時代の「稼ぐ力」

新しい時代に求められる「稼ぐ力」は、これまでとは大きく異なります。和田裕美氏は、稼げる人間になるためには、健康管理、時間管理、金銭管理、感情管理という4つの要素が必要不可欠だと説きます。

特に時間管理については、「今その時間は将来稼げる自分への投資になっているか?」という意識を持つことが重要です。時間は全ての人に平等に与えられた資源であり、その使い方が稼ぐ人と稼げない人を分けることになります。

また、稼いだお金の四分の一は貯蓄すること、入ってくるお金と出るお金のバランスシートを確立することなど、金銭管理も重要な要素となります。さらに、常に前向きで穏やかな感情を維持することも、稼ぐ力を高める上で欠かせない要素です。ネガティブな感情は周囲にも影響し、結果として稼ぐ力を低下させてしまうからです。

勝間和代氏は、今後のAI時代について重要な指摘をしています。「言語の翻訳や記憶、計算など、いわゆる作業的な能力は、今後、全てテクノロジーの進化によって代替されていく」というのです。では、人間に求められる能力は何になるのでしょうか。

それは、得意分野における圧倒的な専門性と、「ここだけはものすごく優秀」という突出した能力です。加えて、人との関係構築力や共感力、感情知性(EQ)といったコミュニケーション能力、そして創造性や問題解決能力が重要になってきます。

久保明彦氏は、こうした時代だからこそ、会社のブランドに頼らない「個人ブランド」の確立が重要だと説きます。そのためには、自分の強みを明確にし、専門分野での発信を続けることが必要です。また、継続的な自己投資として、資格取得や新しいスキルの習得、人的ネットワークの構築にも力を入れるべきでしょう。

第4章:お金との付き合い方

お金は単なる数字ではありません。和田裕美氏は、お金を「誰かの役に立った自分に対する対価」として捉えることの重要性を説いています。

お金を得る方法は基本的に三つあります。一つ目は労働やサービスの対価として稼ぐこと、二つ目は節約すること、そして三つ目は資産運用することです。一方、お金が出ていく先としては、生活必需品などへの消費、無駄遣いなどの浪費、そして将来のための自己投資があります。

勝間和代氏は、収入の使い方について興味深い提案をしています。収入の7割を生活費に、残りの2-3割を投資・貯蓄に回すという考え方です。これは松下幸之助氏の「ダム式経営」の考え方を更に発展させたものといえます。

投資については、投資信託の活用、特にドルコスト平均法が推奨されています。これは、投資のタイミングを分散させることで、リスクを抑えながら長期的な資産形成を目指す方法です。また、日本国内の経済成長率が下がっている現状を考慮すると、グローバルな視点での資産配分が賢明とされています。

自己投資も重要な要素です。スキルアップのための支出や健康維持のための支出は、将来の自分への投資として積極的に行うべきでしょう。ただし、これらの支出は計画的に行い、定期的に収支のバランスをチェックすることを忘れてはいけません。

第5章:幸せな長寿のための心構え

人生100年時代において、単にお金を稼ぐだけでなく、いかに充実した人生を送るかという視点が重要になってきています。勝間和代氏は、この点について興味深い考察を示しています。人の幸せには「地位財」と「非地位財」という二つの要素があるというのです。

地位財とは、収入や貯蓄額、社会的地位、物質的な豊かさなど、他者との比較で評価されるものを指します。一方、非地位財は自由や愛情、健康、良質な環境など、他者との比較に関係なく、主観的に充足感を得られるものを意味します。

重要なのは、これら両方のバランスを取ることです。勝間氏は「地位財による生活の安定がなければ、非地位財を増やそうという気持ちになかなかなれない」と指摘します。つまり、ある程度の経済的な基盤があってこそ、精神的な豊かさも追求できるということです。

和田裕美氏は、NHKの特集番組から興味深い研究結果を紹介しています。100歳以上の「センテナリアン」と呼ばれる人々の特徴として、老化につながる慢性的な炎症が少ないことが判明したのですが、その要因の一つが「社会や人の役に立てているという心の満足感」だったというのです。

この研究結果は、社会との関わりの重要性を示唆しています。誰かの役に立つ実感や感謝される喜び、社会との繋がりは、単なる精神的な満足だけでなく、身体的な健康にも良い影響を与えるのです。趣味のグループやボランティア活動、地域活動への参加は、そうした機会を得る有効な手段となります。

久保明彦氏は、年齢を重ねることのポジティブな側面に注目します。長年培ってきた専門性や人生経験から得た知恵、人的ネットワークは、かけがえのない財産となります。さらに、学び直しの機会や新たな趣味、第二の人生設計など、新しいチャレンジの可能性も広がっています。

◆◆おわりに◆◆

自分らしく生きるために

人生100年時代を生き抜くためには、健康という基盤、時代を読む力、新時代の稼ぐ力、お金との付き合い方、そして幸せな長寿のための心構えという5つの要素が重要です。

私たちは、国や会社に依存せず、自立した個人として生きていく時代を迎えています。しかし、それは決してネガティブなことではありません。むしろ、自分らしく生きる可能性が広がっているとも言えるのです。

和田裕美氏の言葉を借りれば、「自分にとって心地よい状態」を目指して、必要な準備を進めていくことが大切です。そして、勝間和代氏が指摘するように、「自分らしく生きる」ことこそが、人生100年時代の幸せの鍵となるでしょう。

変化の激しい時代だからこそ、基本に立ち返り、着実に準備を進めていく。そんな姿勢が、これからの100年人生を豊かなものにしていくのです。日々の小さな積み重ねが、やがて大きな違いを生み出すことを忘れないでください。

このように、100年時代を生きるための指針は、決して特別なものではありません。むしろ、当たり前のことを当たり前に続けることの重要性を、改めて教えてくれているのかもしれません。


いいなと思ったら応援しよう!