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【盤評】SPARKLEHORSE - It's A Wonderful Life (2001)
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朽ちた納屋の、微かに光の入るホコリにまみれた屋根裏部屋。そこで見つけた箱を開けると聞こえてくる様な、暗く光る音。黄金の日。
スパークルホースの3番目のレコードであり、わたしはこれが彼らの作った中でもっとも美しいレコードだと思っている。陰影に富んだ、ダークで柔らかく、アンビエントなアメリカンゴシックの真髄。友人のPJハーヴェイや敬愛するトム・ウェイツもここへ招かれて、花束を一房置いて行っている。
私は2001年の暮れに何も知らぬまま中古のレコード屋でこのCDを見つけ、すっかりそのぼんやりとした影みたいな雰囲気に魅せられてしまった。あまりにも聴きすぎてCDは2回買い替え、しまいにはLPを結構なお金を払って買って、今も眺めている。
"僕は死んだ蜜蜂でいっぱいの海 毒ガエルの沼 誕生日ケーキを食べた犬"
"なんて素晴らしい人生なんだろう"
そう歌っていたマーク・リンカスは、2010年に47歳で自ら命を絶った。
だから「あいつも生きてりゃよかったのに」と思う。 生きていて、バカをやって、アル中になって、醜く老いていって、それでも「まんざらでもない」瞬間を額に入れてときどき眺めたりして、そうやって生きていればよかったのに、と思う。